幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
いよいよテスト期間が始まった。
俺は一昨日取り決めた協定により、石黒のやつに勉強を教えることになっている。ちなみにそのことは(俺は)誰にも言ってない。別に言う必要も無いし聞かれないし。コバ辺りに言ったら殺されそうだし。
とは言っても毎日教えるわけじゃない。俺だって自分の勉強時間が欲しいからね。今日……つまり水曜、金曜、土曜、そして月曜日。この四日間教えることになってる。まあ増えたり減ったりするかもしれんが。
という訳で放課後、俺は待ち合わせ場所の食堂入口で石黒を待っていた。本日は日本史を教えることになっている。日本史とか教えることあるか?覚えるだけだろ。
「お待たせ。ごめんね、教えてもらう側の方が遅くて」
「気にすんな。適当に空いてる席でやるか」
「よろしくお願いします、センセー」
白い歯を見せて笑う石黒。別に待つのは慣れてるから全く問題ない。詩織とか遊びに行く約束しててもたまに三十分位遅刻することあるし。あいつは朝弱すぎ。
〜〜〜
「お前、全部無理矢理暗記しようとしてるだろ」
「え?だって日本史って暗記じゃん」
いや、まあそうなんだけど……そう言って無理矢理暗記出来るやつは記憶力お化けだぞ。
うーん、どうやって説明したらいいかな……?
「でもそのやり方で赤点ギリギリなんだろ?」
「……恥ずかしながら」
「んじゃそのやり方はお前には合ってないんだよ」
石黒の日本史の勉強の仕方は至極単純。問題集の単語をひたすら覚える、というものだった。それ小テストみたいな一夜漬けバトルには使えるけどさ。というかそれなら俺教える必要無かったじゃん?
「これ、俺のやり方だから石黒に合うかどうかは解んねえけど。日本史……というか歴史は世界を広げると覚えやすい」
「世界を広げる??どういうこと?」
俺は日本史の資料集と自分のノートを広げた。
俺は定期テスト前は、歴史に限っては教科書や問題集よりも資料集を使うことが多い。いや、勿論教科書や問題集も使うが。
「ただ覚えようとするより、ストーリーがあった方が面白いだろ?……例えば今回のテスト範囲にもある元寇ってあるじゃん。元っていう国を作ったのは?」
「えーと……チンギス・ハン?」
「フビライ・ハンな。ここごっちゃになるから注意しとけよ」
「そっちかー」
そっちかー、って二択クイズみたいなノリだな。でも確かにここはごっちゃになる。中国に侵攻したのはチンギス・ハン。元を作ったのはフビライ・ハン。
「じゃあ、チンギス・ハンはどんな奴だったと思う?」
「え?えーっと……」
石黒は問題集をペラペラと捲りながら大きな瞳をキョロキョロと動かす。多分それ、問題集には載ってないぞ。
「チンギス・ハンは元々は遊牧民族だったんだよ。先祖代々、馬に乗って、羊を追い掛けて生きてたんだ。で、物資が足りなくなったら他の国を襲って確保する」
まあ正確にはちょっと違うんだが、別にそこまでテストに出る訳じゃないと思うので些細な問題である。
「盗賊みたいだね」
「そんな感じだな。でも所詮盗賊だったんだよ。野蛮な民族だったけど大して大きな勢力じゃなかったんだ」
実はこの辺りの話、俺は割と好きだったりする。だから今回の日本史のテスト範囲は割と俺にとっては楽しい範囲だ。まあ一番好きなのは戦国時代なんだけどね。
「けど、盗賊のチームはモンゴルに沢山あったんだ。チンギス・ハンはそのチームを全て統合して、超デカイ盗賊チームを作り上げた。元々馬の扱いが上手な盗賊共だし、当時の馬は今で言う戦車みたいなもんだ。盗賊チームは国と戦争出来るレベルまで強くなった」
「皆で協力して国を盗もう!ってこと?」
「国を盗む……そうだな、そんな感じ」
成程。その発想は無かったな。国を盗むってかっけえな。
「チンギス・ハンが作った盗賊チームはめちゃくちゃ強かった。当時の国のうち四十はこのチンギス・ハン盗賊団に滅ぼされたらしい」
「四十!?強っ」
「馬の扱いが上手かったのもあるが、遊牧民族の馬は頑丈だったらしい。チンギス・ハンはとうとう中国も自分の手に収めた」
石黒は問題集から完全に目を離して聞いている。
「だけどそんなチンギス・ハンにも勝てないものがあった。寿命な。チンギス・ハンが死んでその後を継いだのがフビライ・ハン」
「成程……チンギス・ハンが国盗り盗賊団を作って、フビライ・ハンは後継者ってこと?」
「大体はな」
「何か、面白いね。私、歴史が面白いって思ったの初めてかも」
白い歯を見せて笑う。そしてノートにすらすらと何かメモを始めた。
個人的なやり方なんだが、暗記系の科目はただ言葉を覚えるよりも、こうやってストーリーや何かを覚えた方が印象に残る気がする。その方が興味が湧いたり楽しくなったりするから。興味があったり楽しいものはすぐ覚えられるし。徳川将軍より斬魄刀の始解の解号の方が覚えられたりするのはそういう事だと思う。
そういったストーリーやエピソードは意外と資料集の方が載ってたりする。俺は資料集の端とかに書いてる「豆知識エピソード」みたいなやつが割と好きだ。
「続きは無いの?モンゴル国盗り物語」
「名前付けたのかよ……そうだな、フビライ・ハンが後を継いだ時、そろそろ盗賊をやめよう!もっとビッグになろう!って思ったんだよ。という訳でフビライ・ハンは中国の王様になって、新しく「元」っていう国を作った」
「盗賊団が国になった!」
「そう、国になったんだ。だけどフビライ・ハンも元々は盗賊団の一員。まだ盗み足りなかったんだ。だから元は今度は日本に狙いを定めた。当時、日本は黄金が沢山ある凄い国だって思われてたんだ」
「ワンピースの空島みたいだね」
「そうだな。本当に、そんな位の金があると他の国からは思われていたんだ」
片や黄金で出来た大鐘楼。当時の日本はなんだっけ、死ぬ前には真珠を飲むとか、金よりも鉄の方が少ないとか、金のレンガで家を作るとか思われてたんだっけ。空島より余程尾びれついてるな、これ。
「フビライ・ハンはそれが欲しかった、そんなもん無いのにな。元は日本に侵攻して来た。これが元寇のうちの一つ、文永の役」
「これ、確か日本は勝ったんだよね?」
「勝った……とは言えないんだなこれが」
これ、ホントに運が良かっただけな気がする。
「元は戦争するつもりで日本に来た。日本は決闘するつもりで立ち向かったんだよ。どうなると思う?」
「え?それ、どっちも同じじゃない?」
「同じじゃないんだよ、これ。そうだな……元はサッカーの試合をするつもりで、グラウンドに十一人立ってて、ベンチにも控え選手がちゃんと座ってたんだ。日本は1on1するつもりで、グラウンドに一人しか立ってなかった。どうなると思う?」
「……元のワンサイドゲームになるね」
「そういう事。しかも元の弓は日本のより高性能で、更にてつはうっていう爆弾みたいなものまで持っていた。日本は為す術もなく元の軍隊にボッコボコにされたんだ。博多湾まで攻め込まれた」
「勝ち目ないじゃん」
「ホントにな。元の軍隊も絶対に負けない、急がずにゆっくり戦っていけばいい、と思って夜になったら船に戻って休んでいたんだ。日本には夜中に奇襲するほどのパワーも残ってなかったしな」
「うわー、なんかそれムカつくね」
なんというか、石黒の反応が面白い。成程、相手がこうも一々反応してくれると教えてる(話してる?)立場もだんだん面白くなってくるな。
「だけど、ここで船に戻ったのが元軍最大のミスだったんだ」
「おっ?日本軍反撃?」
「夜中に物凄い嵐が船を襲ったんだよ。船は沢山沈み、一万人以上の元の軍隊が一夜で死んだ。なんとか生き残った奴らもヘトヘトだ。朝になったら日本軍に殺された」
「えっ、じゃあたまたま嵐が来たから勝てたの?」
「そういう事になるな。これが文永の役」
「えー!日本頑張れよー」
まるでスポーツの国際試合で不甲斐ない試合をした日本代表に愚痴を言うようなノリで当時の日本軍に文句を言う石黒。思わず笑ってしまった。
「まさか負けるとは思ってなかったフビライ・ハンは日本侵攻軍が負けた、と聞いてびっくり仰天。ならもっと多くの軍で日本を攻めようと再度軍隊を日本に進軍させた。これが元寇のうちのもう一つ、弘安の役」
「え、でもたまたま嵐が来たから勝てたけどさ、文永の役で日本はボロ負けしてたんでしょ?勝ち目無くない?」
「そう思うだろ。元の軍隊さん、なんと今度は日本に上陸する前に大嵐に見舞われたんだ。十万人いた軍隊のうち、八万人がここで死んだ」
「えー!また!?」
「そう。所謂神風ってのはここから来てるらしいが……まあ上陸出来た船もあったんだが前みたいに博多湾まで行けずに対馬止まり。これが弘安の役」
色々かいつまんだから事実に齟齬はあるが、ここまで追いかけたらなんとなく解るだろう。
「なるほど、当たり前だけど昔の人も生きてたんだもんね、こうやってストーリーがあると覚えやすいかも」
「だろ。こういうので関連付けて覚えていくと歴史系はわかりやすくなるぞ」
「神崎君、勉強も楽しんでやってそうだね」
「も?」
「うん。ティックトックも全力でやってくれたじゃん?全部全力!って感じする」
全部全力。
全然そんな事ない。
確かにやるなら全力で楽しむのが俺のやり方だ。だけど多分本気でやってることなんてひとつも無い。
それこそ石黒のサッカーみたいな。そういうものが無い。
「石黒だってサッカー全力だろ?スタメンなんだろ」
「あれ、私スタメンって言ったっけ?」
「赤点取ったら練習試合レギュラーから外されるんだろ?別に普段からレギュラーじゃなかったら焦らないだろ」
「あ、そっか……はい。私実はスタメンなんです。凄いでしょ」
まだ三年生が引退してないのにスタメンっていうのは素直に凄いと思う。だからこそ赤点取りたくないんだろうな。ドヤ顔で白い歯を見せて笑う姿は少し俺には眩しかった。こんな奴、周りにいなかった。良くも悪くも、俺も姉ちゃんも詩織も。ここまで何かに熱中するタイプじゃない。
「赤点回避したら練習試合見に来る?」
「そういうのは回避してから言うもんだぞ。てか、練習試合って見れるもんなのか?」
「見れるよー。会場うちのグラウンドだし」
うちの高校の女サカはそれなりに強いらしい。いつも県大会でベスト8とか、いい所までは行ってる……らしい。まあ、予定が空いていたら石黒の出てる試合を観に行くのも悪くは無いかもしれないな。
「お前の必殺技、見れる?ファイアトルネードとか」
「そんなの出来るわけないじゃん。小学生の頃は憧れてツインブーストとか友達と練習したけどね」
女子でもサッカーやってたらやっぱ一回はやるんだ、イナイレの必殺技特訓。サッカーやってない俺でもノーザンインパクトとか真似しようとしたからな。やっぱ皆一回は通る道なのか。
「神崎君、ここは元寇でいいのかな?」
「んあ?……そうだな、「二回にわたって」みたいに書いてて年号とかも無かったら元寇でいい。年号とかが書いてたら文永の役か弘安の役を疑った方がいいな」
「おっけー。……お、ほんとだ。合ってた。えっと、博多湾まで攻め込んだのが文永の役、対馬までしか行けなかったのが弘安の役……どっちが先だっけ」
「さーてどっちだったかな」
「意地悪ー!教えてくれたっていいじゃん」
「もうちょい自分で悩め。ジュース買ってくる」
喋り過ぎて喉カラカラだ。
「あ、私ナタデココ入のぶどうジュースがいい!はいお金」
「しれっとパシリにしたな、俺を」
まあ別についでだからいいけどさ。ナタデココ入のやつ、購買で割と売れてるけど俺飲んだことないな。あれ美味いのか?折角だし俺もそれにしようかな。
購買は食堂を出てすぐの所にある。食堂と購買専用の地下一階。テスト前に食堂で勉強する奴は意外と多いので、昼休み程ではないにしろ購買もそれなりに混んでいた。取り敢えず目当てのジュースを二つ買い、食堂へ戻る。
「ほら、これだろ」
「それ!ありがとね」
「進んだ?」
「三問くらいは解けた。今は教科書とノート見ながら流れの確認中」
石黒のノートは小綺麗な字で整頓されていた。端の方になんかよくわからん猫の落書きをしてるのはなんだ。俺もたまにやるけどね、ノートに落書き。
「元寇、勝ったはいいけどやっぱり日本も大損害だったんだね。御家人が生活出来ない位に大変になったって書いてた」
「そう。そういう弱みにつけ込んで商人が借金を進めてくる。それが高利貸し」
「うわー、いつの時代も人の弱みにつけ込んでお金稼ぎする奴がいるんだね」
単語丸覚え戦法よりもストーリーや流れで覚える戦法の方が石黒には合っていたらしい。この感覚でやれば日本史は赤点を取ることは無いだろう。
「折角ジュース買ってきたしちょっと休憩するか」
「やったー!お喋りしようよ」
「俺、さっきまで喋りっぱなしだったんだが」
俺の喉と舌はもう少し酷使されることになりそうだ。
なんだかんだで毎日ちゃんと投稿できてるの凄くない?(自画自賛)
こんな好き嫌いはっきり分かれそうな作品だけど色んな方に読んでもらえてるみたいで……ありがとうございますm(_ _)m
感想とか評価とか、楽しんで読ませて頂いています。