幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
石黒に教える時間も必要だから今回のテスト期間はちょっとハードかな、とか思ってたけど、いざテスト期間に入ってしまえば思った以上にそうでも無かった。
ある程度自分の勉強時間も確保されてるし、石黒は思った以上に教えたことはすんなり吸収する。本日金曜の教える予定だった数学もある程度やり方さえ教えてしまえば、応用問題以外は時間さえかけたら自分で解けるようになっていた。
「やり方が解ってくるとちょっと出来る気になるよね」
「基本数学のテストは基本のA問題だけ出来たら五十点は取れるようになってる。応用問題も途中式だけでも合ってたら加点されたりするからもうちょい詰めたら六十点位は狙えると思うぞ」
「ホント!?私高校入ってから六十点とか取ったことないや」
時刻はもう七時前だ。もう梅雨も明けかけているし本格的な夏だ、この時間でもまだ夕日が空を明るく照らしてくれている。
石黒が電車に乗る駅までの道と、俺の家に帰るまでの道は途中まで同じなので、こうして一緒に帰っている。
「得意科目位あるだろ、それでも六十乗らないのか?」
「私の得意科目は体育なのです。リフティングテストとかなら百点満点貰える自信あるよ」
「俺としてはそっちの方が羨ましい」
「え、なんで?」
なんで?って言われたらなんだろうなー。体育の授業でサッカーとかバレーとかやると、やっぱ経験者がカッコよくリフティングしたりスパイク決めたりするじゃん?あれ、やっぱ普通に憧れるんだよな。
「勉強出来るよりスポーツ出来る方がモテるだろ?男は」
「あー、玲音とか?」
何の気なしに口から零れた言葉から、高見の話が来るとは思わなかった。
でも確かにイケメンで高身長で、バスケ上手かったらそりゃモテるわなぁ……。てか下の名前呼びかよ。
「まあ確かに玲音位イケメンでスポーツ出来たらモテるんだろうね、実際彼女いる訳だし……あ、ごめん。振られたんだっけ」
「振られてねーよ」
こいつはマジで無邪気で言ってる。付き合いめちゃくちゃ浅いけど解ってきた。イラッとはするけど怒るに怒れない。だって悪気無いことが解ってるから。
「でも意外だったんだよね。私、玲音とは去年同じクラスだったんだけどさ、バスケしてる時は司令塔!って感じでバチバチしてるけどそれ以外の時はなんかふにゃふにゃしてる?感じだからさ。まさか詩織ちゃんに告白するとは思いもしなかった」
へぇ、高見から告白したのか。
なんとなく情景が浮かぶ。多分今みたいな夕日が綺麗な日で、部活が終わってから詩織を呼び出す。部活終わりだから汗をかいてて、それを拭くことで緊張を解して、何回か深呼吸。詩織の目を真っ直ぐ見て、告白する……みたいな。
「まあ、でもあんまり心配はしなくていいと思うよ。玲音、ふにゃふにゃしてるけど良い奴だし、超優しいし」
「別に心配はしてないっての」
「そうなの?結構気にかけてるんだろうな、って勝手に思ってた」
「何で」
「え、だって神崎君超優しいじゃん」
「は?」
あまりにも予想外な答えが返ってきた。どっかに俺が優しい要素あったか?
「私図書室で初めて会った時、正直めちゃくちゃ失礼かましたじゃん?そんな失礼な子の暇潰し付き合ってくれる人中々居ないよ。……まあ、だから今回も勉強教えてー!って頼んだんだけどね」
あー、確かに石黒の第一印象は「紅だァァァァァ!!」だった。いや意味わかんねえわ。……どっちにしろ、開口一番かなり失礼なことは確かに言われたな。
まあでも、あの時俺ただ単に暇だっただけだし。俺にとっても暇潰しだった訳で。
「……あ、私こっちだから。また明日も宜しくね」
「おう。また場所と時間はラインしてくれ」
「はーい。今日はありがとね」
分かれ道。右に曲がれば駅。左に曲がれば俺の家。一緒に帰るのはここまでで、ここからは互いに一人で帰る。
明日は土曜日なので放課後に食堂で!という戦法が使えない。別に学校は開放されてるから食堂だか図書室で勉強は出来るんだが、「休みの日まで学校で勉強したくないー!」という石黒のワガママでまだ何処で勉強するか決まっていないのだ。……まあ、気持ちは解らないでもないけどさ。
今日も喉を酷使したなぁ。先週のカラオケから喉の調子がおかしい気がしないでもない。
〜〜〜
「ただいま」
「おかえり」
「おかえりー」
なんか返ってくる声が一つ多い。
足元を見た。なんか靴の数が多い。
「……聞いてないんだけど、俺」
「ラインはしたんだけどね」
金曜日で、月末で。
親父さんは仕事が忙しいらしく帰りが遅いそうで。お母さんは会社の飲み会に参加することになったらしくて。
詩織が俺の家に来ていた。
「何時までいるの」
「お母さんが帰ってくるまで」
詩織のお母さんは結構突発的に飲み会とかに参加するらしく、参加してから「あ!詩織のご飯作ってない!」ということに気が付くらしい。で、大体そういう時は姉ちゃんに連絡して「ごめーん!詩織に夜ご飯食べさせといて貰っていい?」って言う。今回もその例らしい。
「悪い晴人、ご飯できるのもうちょいかかる」
「いやそれはいいんだけど」
……いや、何も言うまい。詩織のお母さんに文句を言う訳にもいかんし、ラインを見てなかった俺が悪い。
「……取り敢えず部屋来るか?」
片付けといて良かった。
「うん、私も勉強したいし」
「あ、でも先着替えたいからちょい待って貰っていい?」
「りょうかーい。着替え終わったら呼んで」
〜〜〜
適当な部屋着に着替えて、俺の部屋で二人で勉強する。とは言っても俺は自分の勉強机で、詩織は誰か来たとき用の小さなテーブルでだが。CDから流れているのはAAA。所謂作業用BGM。
幼馴染だから、別に一緒の部屋に居ても特に干渉しない。中学生位からそうだ。各々勝手にやりたいことをやる。話しかけられたら話すし、互いに話すことも無かったら無理して話すことも無い。二人で同じことして遊ぶこともあれば、隣に居るのに全然別のことしてる時もある。
多分、幼馴染だからそれが許される。
「ねえ、ハル」
「んあ?」
「サボった時、どんな感じだった?」
「……めちゃくちゃ優越感。楽しかった」
思えば、俺が詩織と高見が付き合ってる事を知ってから、詩織が俺の家に来たのは初めてな気がする。もう少し自分の中で感情が渦巻くかと思ったけど、思った以上にそうでも無かった。
多分、幼馴染だから許されてる。
「いいなー。サボって何してたの?」
「姉ちゃんと八時間カラオケで歌ってた。おかげで喉カッスカス」
「もうすぐテスト前だってのにサボりとか余裕じゃん。点数勝負しようよ、負けた方罰ゲームで」
「お前それで俺に勝ったことないだろ」
「むー。サボってるハルには勝つからね」
「喋りながら手を動かしてる俺と、むーって言って手が止まってるお前。勝つのはどっちだろうな」
「うわムカつく!絶対勝つから」
しかもちょっと声真似似てるし、って悔しそうに呟く詩織。そりゃそうだ、お前のそのむー、っていう唸り癖何回聴いてると思ってんの。
「……高見ってどんな奴なの」
気が付いたら聞いていた。自分でも意識してなかった。帰りに、石黒とその話をしていたからかもしれない。
「え?……うーん、優しいかな」
いつの間にか俺の手も止まっていた。
「なんかね、ハルにちょっと似てるかもしれない。ハルもさ、変なとこ優しいじゃん」
また言われた。俺が優しいってどういうことだよ。
「私の好きなおかずをしれっと一つだけ残してくれてたりとか、別にハルが気を遣う必要ないのに玲音君と私の事に気を遣ってくれたりとか」
あー、確かに詩織とご飯を食べる時は詩織の好きなおかずは何気に譲ってるかもしれない。でもそれ、俺の好物とお前の好物が違うだけだからな。高見のことに関しては別に気を遣ってる訳じゃない。
「私一年の時同じクラスだったんだよね、玲音君と」
「てことは石黒も同じか」
「あ、知ってたんだ。そう、リンちゃんも同じクラスだった。その時からちょっと仲良かったんだけど、二年になってから告白されて、玲音君ならいいかな、って思ってオッケーした」
石黒。お前自分と高見が同じクラスだった、ってバラすならついでに詩織とも同じクラスだったこと教えとけよ。全然知らなかったわ。
「ちょっと普段は頼りないけどね、優しいよ」
勉強机に向かってるから詩織の顔は見えないが、きっと楽しそうな顔をしてるんだろう。声色で何となくわかる。
なんというか、なぁ。
これは勝てない。勝ち負けじゃないけど。
「勝てんわ」
「え、何?もしかして今回テストヤバい感じ?私勝てちゃう?」
何勘違いしてんだこいつ。例え授業をサボろうが石黒に勉強を教えてて俺の勉強時間が削られようがお前にゃ負けねえよ。
これ以上詩織に負けたくないんだよ。高見にはどう頑張ったって勝てそうに無いんだから、お前には負けたくないんだ。
「……全教科の総合点数で勝敗決めるからな」
「オッケー。今回私自信あるんだよねー。罰ゲームは?」
「高見に好き!って告白する」
「え?」
「高見に好き!って告白する」
大事なことなので二回言いました。
「……それ、ハルが負けたらどうするの?」
「え、ちゃんと高見に好きです!って言うよ?」
「……バカかな?しかもそれ、私あんまり罰ゲームにならなくない?」
「いやちゃんと罰を遂行したか確認できないとダメだから」
「えー!?恥っず!別のにしようよー!」
「じゃあ晩飯奢りな」
俺だって冗談で言ってたよ?もし負けて高見に好きです!って言う羽目になったら嫌だし。幼馴染が彼氏に好きです!って言ってるところを確認するの色々としんどいし。
「晴人!詩織ちゃん!ご飯出来たー! 」
下から姉ちゃんの叫び声が聞こえてきた。そっか、そろそろそんな時間か。
「んじゃ、負けた方晩飯奢りな」
「絶対勝つからね」
負けらんねぇ。何か、ここで負けたくねえ。
〜〜〜
「あ、そうだ。お姉ちゃん夏休み期間いつ空いてる?皆で花火しようよ」
飯食ってる時にいきなり詩織が言い出した。あー、そういえば皆で遊びたいって言ってたな。お前が予定組むなら乗るぞ、って言ったんだった。
「花火なー、確かにやりたいね。あたしもう七月はシフト出てるし予定入れちゃってるから、やるとしたら八月かなー。早めに詩織ちゃんが「この日がいい!」って言ってくれたらその日は休みで申請するけど」
「え、マジ!?じゃあ早めに希望日出すね!ハルもその日は空けといてね」
「へいへい」
夏休みの予定がまたひとつ増えた。遊ぶ予定はまあ、多いに越したことは無いんだけどね。
こういうことが出来るのも、ある意味幼馴染の特権なのかもしれない。どうだ、高見。お前の彼女は預かった。返して欲しくば……返して欲しくば……思いつかない。別に預かっても無いしね。
「ごちそうさま」
唯一の男子であることもあり、三人で飯食ってると一番最初に食べ終わるのは決まって俺だ。先に自分の皿を流しに片付けて、一足先に自分の部屋へ戻る。勉強しなきゃだしね。
「勉強?」
「俺等、テスト期間だし」
「私も食べ終わったらそっち行くー」
「そうだった。じゃああたしは下でドラクエでもやってるわ。お母さんから連絡来たらまた呼ぶ」
「ありがとね、お姉ちゃん」
こういう時に家族がゲームやってると気になって見に行きたくなっちゃうんだよなー。姉ちゃんのプレイング上手くないから見てるとイライラするんだけども。
一足先に自分の部屋に戻り、やりかけていた問題集とノートを開く。さて、始めるか……と、思ったところでスマホがなった。電話だ。
「もしもし」
『あ、もしもし?凛花でーす』
相手は石黒だった。
『ラインで文字打つのめんどくさいから電話しました』
「気持ちは解らんでもない」
『だよね。めんどくさいよねー。明日、どうしよっか』
「どうするって、学校嫌なんだろ」
となると適当なファーストフード店か安いファミレス、カラオケ辺りが安牌だと思うんだが。あ、カラオケだと多分勉強せずに歌い散らかすからダメだわ。俺が。
『うん、やだ。制服着ないといけないし』
我が学校は登校日じゃなくても学校に来る時は絶対に制服を着なくてはいけない。いや、どこも同じかもしれないけどね。
「んじゃあ適当にサイゼとかでいいんじゃねえの?」
「さて私も勉強するぞー!……って、ハル電話中?ごめん」
『今詩織ちゃんの声が聞こえた気がした』
「あー、悪い。雑音が入った」
「ちょっとハル、私の声が雑音ってどういうことよ」
『やっぱ詩織ちゃんの声だ!やっほー!』
いや電話越しに叫ばないでくれ石黒。耳が痛いわ。
通話環境をハンズフリーに切り替える。
「誰と電話してるの?」
「石黒」
『やっほー詩織ちゃん!浮気?』
「そんなんじゃなくって!」
石黒いきなりとんでもない爆弾落としやがったな。それ俺も返答に困るぞ。
「今日こいつの飯が無かったから俺ん家で食べただけ。取り敢えず明日どうすんだよ」
『え、じゃあ明日私も神崎君の家行きたい』
「なんでだよ」
『楽しそうだから』
こいつ勉強のし過ぎで頭おかしくなったんじゃねえのか。
「ハル明日遊ぶの?」
「ちげーよ、今回石黒に勉強教えてるんだよ」
「むー、余裕じゃん。絶対夜ご飯奢らせてやる」
「ばーか、ハンデだよ」
『え、なになに!?修羅場!?』
「ちげーよ!!……ぁあもう収拾がつかん!一回切るぞ!」
石黒はアホだということが解った。それも相当なレベルの。
「……勉強すっか」
「そだね」
そしてこれが賢者タイムである。
ふと思ったけどこれ、私のよく聴くアーティストとか履修済みの漫画アニメモロバレじゃない?歳とかバレるじゃん(今更)