ようこそTSギャルが暴走する教室へ   作:饅頭屋ちゃん

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第3話

 入学式が終わり、昼前に解散となった。

 そんでわたしは波瑠加と二人でその辺を当てもなく徘徊している。

 

「あ、コンビニ。ねえ麻耶、ちょっと寄っていい?」

「いいよ、色々買うものもあるし。お昼も買う?」

「んー、お昼はカフェとか色々あるらしいしそっちにしない?」

「そうしよっか」

 

 来月、わたし達Dクラスはクラスポイントがすっからかんになってしまうため収入が無くなっちゃう。なので無駄な浪費は避けるべきだけど、このくらいは許容範囲だろう。初日だしね。

 

 コンビニに入ると、二人揃って必要なものを籠に突っ込んでいく。

 わたしはできる限り安い物ばかりを選んでいるけど、波瑠加は無駄に高いものも籠に入れていたので少し口を出すことにした。

 

「波瑠加、あんまり無駄遣いしないほうがいいよ」

「麻耶って見た目に反して真面目だったりそうじゃなかったりよくわかんないよね。そこが面白いんだけど。でも毎月10万も貰えるなら余裕じゃない?」

「ポイントが毎月振り込まれるとは聞いたけど、毎月10万貰えるとは言ってなかったよ」

「え? そうだっけ?」

「ていうか貰えないと思う。多分。ほら、あれ見て」

 

 わたしが指さした先を見る波瑠加。

 そこには無料の商品ばかりが並べられている。

 

「無料……一ヶ月三点まで……?」

「ポイントが足りなくなる人がそれだけいるってことだよ、きっと」

「ただの使いすぎじゃない?」

「そうかもしれないね」

 

 ポイントがなくなっても生活できなくなるわけでもないし、別にいいか。

 けどそのまま安物ばかりを選び続けるわたしを見ていた波瑠加は何を思ったのか高いものを棚に戻し、安い物へと替えていく。

 

「なんだか麻耶の言うとおりになる気がしてきたから。冷静に考えたら毎月10万も貰えるのっておかしいかなって。それに安いのもそこまで変わらないしね」

「……節約しろとまでは言わないけど、無駄遣いするのは来月ちゃんと振り込まれるのを確認してからにしたほうがいいと思う」

「そうする」

 

 よかった、浪費に付き合わされるのも面倒だったし。

 まあこんなこと言っておきながらなんだけど、わたしはちょっと高いものを買う予定があったりするんだけどね。

 

 わたしが買うものはカメラ。

 それもできるだけ小っちゃいやつが欲しい。

 何万掛かるかわかんないけど、わたしがこの先生きのこるにはこれだけは絶対に手に入れなければならない。計画が上手くいけば元は取れるはずだし。携帯のカメラだけじゃ不十分だ。盗撮難しいし。

 無人島にも隠し持って行けるくらいのミニサイズが理想だけど、さすがに難しいかなぁ。デブに頼んだら改造とかしてくれるかも。

 

 つまり何がしたいのかというと、わたしはこの学校に遊びに来てるわけじゃないんだよね。

 とはいえAクラスで卒業したいと思っているほど本気ってわけでもない。

 Aクラスは希望する進路がほぼ100%って言うけど、他のクラスだって高卒の資格を取れることに違いはないわけだし。

 そういうわけでとりあえず卒業だけできれば良いんだけど、快適な生活を送るためにプライベートポイントは多い方が良いに決まっている。テストの点数だってポイントで買えるわけだし、退学を防ぐという意味でも重要になる。

 あわよくば2000万ポイント稼いで最後の最後でAクラスに上がりたいところだけど、これは流石に難しいか。

 もしかしたら綾小路くんがこのクラスをAにまで引き上げてくれる可能性もワンチャンあるけど、彼の場合軽井沢さんだけを引き連れてしれっと自分たちだけAクラスに上がるなんてこともやりかねないし、そこまでの期待はしないでおく。

 

 結論、わたしの方針。クラスの勝ち負けはどうでもいいから自分のプライベートポイントを…………うわっ!?

 

 ふと横を見ると、妙に近いところに立っていた綾小路くんがわたしを見ていた。

 綾小路くんはわたしと目が合った瞬間、おまえのことなんか見ていませんでしたよみたいな感じで自然と目を逸らして適当な商品を手に取った。

 わたし達の話を聞いていたんじゃないだろうか。多分そうだ。ていうか近い。

 

「麻耶、どうしたの? って、なんで顔真っ赤……ん?」

 

 波瑠加は隣で商品を見ている綾小路くんとそれを見て固まっているわたしを交互に見回す。綾小路くんはこちらを一瞬たりとも見ることもなく離れていき、角を曲がって見えなくなった。

 

「今のって同じクラスの人だよね。なんだっけ、名前」

「綾小路くん」

「ふーん。知り合い?」

「違う、喋ったことない。今日初めて見た」

「ってことは一目惚れ? マジ?」

「なっ、ち、違う! 惚れてないし!」

 

 なぜだ。なぜバレた。わからん。

 波瑠加ってそんな洞察力高いキャラだっけ?

 

「わかりやす。でも綾小路くんねぇ……顔は悪くないと思うけど、なんか影薄くない?」

「だから違うから!」

「はいはい、応援してあげる」

「いらない!」

 

 うるさい波瑠加と並んで会計を済ませて店を出ると、クラスメイトが三人ほど店の前にいた。堀北と須藤が何やら言い合いをしており、綾小路くんはそれを見てるだけのようだ。

 

「綾小路くんいるじゃん。交ざる?」

「交ざらないから。早く行こ」

 

 生ゴミvsウンコの口喧嘩なんて興味がない。

 波瑠加の手を引いて三人の横を素通りしようとすると……堀北は振り返り、わたしの顔を見たかと思うと、

 

「はぁ。そこの男とかあなたみたいなのが同じクラスだと思うとため息が出るわね」

 

 言葉の通りため息をついた堀北はどこかへ去って行った。

 ……。

 

「なにアイツ、感じ悪くない?」

 

 波瑠加は堀北の後ろ姿を睨んでいる。

 

「…………つく……」

「あー! ムカつくぜクソが!」

 

 須藤はコンビニの窓ガラスを蹴りつけた。

 

「何なんだよあの女は! クソが!」

「ホントだよ! マジムカつくんだけど!」

 

 わたしも須藤のように窓ガラスを蹴ろうとしたけどカメラあるしヤバそうだから代わりに須藤を蹴った。

 

「ちょ、麻耶!?」

「痛ぇ! 何しやがる!」

「ムカつくんだよ堀北! なんであんな偉そうなわけ!?」

「ああマジで偉そうだよなアイツ! 調子こきやがって!」

「ウザいウザいウザいムカつく!」

 

 わたしはもう一度須藤を蹴った。

 

「痛ぇ! 蹴るんじゃねえ!」

「堀北ウザい!」

「ああ、うぜーよな!」

「別に大したやつでもないくせに! どうせ勉強くらいしかできないくせに! なんでそんなに上から目線なのよ! 死ね堀北!」

 

 わたしはもう一度須藤を蹴った。

 

「あーすっきりした。波瑠加、行こ」

「あんたはそれでいいのか……」

 

 ドン引きしている波瑠加の手を引いてわたし達はコンビニから離れた。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 須藤を何度か蹴りつけた佐藤はオレを見ると我に返ったかのように顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうに俯きながら長谷部の手を引いて逃げるように去って行った。

 

「……おい、綾小路。何なんだよあの女は」

 

 それはオレも知りたいところだ。

 佐藤麻耶。

 現時点でオレが最も注目している人物。

 初めて佐藤を見たのはバスの中だったが、あのときの彼女の行動は悪意に満ちていた。

 しかし先ほどコンビニ店内で長谷部を諭す彼女からは思いやりと高い知性を感じた。

 

 佐藤はどういうわけかやたらとオレを見てくることが多く、教室にいたとき逆に観察させてもらったが、彼女は教室内の監視カメラの位置を確認していたのがわかった。それにさっき須藤を蹴っていたとき、彼女は最初コンビニの窓ガラスを蹴ろうとしていた。しかしカメラの位置を確認してからターゲットを須藤に変更していた。

 

 監視カメラの存在は堀北ですら気づいていない。

 ポイントの懸念だってそうだ。来月も10万ポイントが支給されると思っている生徒がほとんどだろう。漠然と警戒している堀北よりも思慮深いと言わざるを得ない。

 

 しかし先ほどの暴行、というより奇行は……。

 

「さあ、よくわからん。……ところで須藤、なぜ顔がニヤけているんだ?」

 

 須藤は佐藤たちの去って行った方角を見つめながら、幸せそうな気持ち悪い顔をしている。

 

「なあ、綾小路。おまえは女に蹴られたことがあるか?」

「いや、ないが」

 

 質問の意図が読めない。

 

「口では痛いっつったけどよ、あんま痛くねえんだ。いや、男に蹴られたら痛くなくてもブチギレするところだけどよ、あいつ男じゃねえし、その、顔も悪くねえし。だからなんつーか、許せるっつーか、もっと蹴ってくれてもいいっつーか」

 

 こいつはいきなり何を言っているんだ?

 

「蹴られると良い匂いがすんだよ。柑橘系みたいな感じの」

 

 ……。

 

「それにな、その……見えるんだ、パンツが。……白だったぜ」

 

 ……白、か。

 

「あんなギャルみてえなナリで白だぜ? やべーよ」

 

 ……ヤバい、か。

 

「クソ、思い出したら我慢出来なくなってきたぜ。ちと便所借りてくるわ」

 

 須藤は前屈みになりながらコンビニに入っていった。

 ……白、か。

 

「気になるな……」

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