ようこそTSギャルが暴走する教室へ   作:饅頭屋ちゃん

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第4話

「せんせー、ポイントが振り込まれてないんですけどー」

「今月分のポイントは既に振り込まれている」

 

 入学してから一ヶ月が経ち、最初のポイントの支給日。

 わたし達Dクラスは過酷な現実を突きつけられている真っ只中である。

 

「はあ? 10万どころか1ポイントすら入ってないんですけど?」

「それが貴様達の価値だ。このカス共が」

「あり得なくない?」

「貴様らのオツムがな」

「せめてポイント増減の詳細を教えていただけませんか? このままじゃ納得できません。納得できないんですよ、僕たちは」

「そのくらい自分で考えろ雑魚が」

 

 アホ共を一頻り罵り終えた茶柱は教室から出て行った。

 教室中が騒然となる中、前の席の波瑠加が振り返り、声を潜めて言う。

 

「一応覚悟はしてたつもりけど、ホントにポイントなしとはね。麻耶の予想通りっていうか、もっと酷い……」

「うん。ゼロは流石にキツいよね」

「ポイント使い切った人とか何人かいたけどどうするつもりなんだろ。ていうかこのクラスどうなるの? 他のクラスと比べて酷すぎない? 三年間ポイントなしってわけ?」

 

 この一ヶ月間、他の女子達が服とかバッグなんかを買いまくる中、わたしと波瑠加はあまりポイントを使わなかった(小型カメラはこっそり買ったけどね)。たまにカフェに行ったりはしてたけど他に大した出費もなく、食事なんて二人で自炊したりしていたのだ。波瑠加と一緒に料理をするのは楽しかったし、特に節約を意識してたわけじゃないんだけど。

 

「ポイント入手の機会は多分あると思う。わたし達は余裕あるし大丈夫。今まで通り過ごしていればいいだけだよ」

「そう? 麻耶が言うならその通りになるような気がする。なんとなくだけどね」

 

 うむ。その調子で今後もわたしを信用したまえ。

 悪いようにはしないよ。うへへ。

 

「クソが、ふざけやがって、茶柱の野郎! なあ、これからどうするよ、佐藤」

 

 馴れ馴れしく近づいてきた須藤とかいうヤンキーに波瑠加は眉をひそめた。

 いつもの光景である。

 

 実はこの一ヶ月、須藤が馴れ馴れしくてちょっとウザい。

 初日にコンビニ前で須藤を蹴ったことが切っ掛けなんだろうけど、一日一回は用事もないのに話しかけてくるようになったんだよね、このクソ野郎。

 そのせいで須藤くんって佐藤さんのことが好きなんじゃないの? みたいな噂が立ったりもしたけど、それはないと断言できる。須藤はわたしの胸とか足ばかりに視線を向けてきて、ぶっちゃけ性的な目で見ているに過ぎないのだ。波瑠加もそう言ってたし。

 しかもコイツ、蹴ってやったら満足してどっか行く。口では文句を言いながらね。ほんとキモい。

 

 そういえばある日須藤はマゾなんじゃないかって噂が立って、篠原さんがわたしの真似をして須藤を蹴ったんだよね。そしたら須藤のやつマジギレしやがった。流石に暴力は振るわなかったんだけど、篠原さん泣いちゃったりして。そしたら可愛い女の子じゃないとダメなんじゃね? っていう篠原さんに失礼な説が男子の中(具体的に言うと池と山内)から出たりもしたんだけど、これは正解なんじゃないかと密かに思ってる。櫛田とか波瑠加とかが蹴ったら普通に喜びそうな気がするんだよね、あの変態。まあ実践する人はいなかったんだけど。篠原さんにトドメを刺すような酷い美少女はいなかったのだ。

 

「うるさいどっか行け」

「ケッ、おっかねえ女だぜ」

 

 椅子に座ったまま須藤を軽く蹴ってやると、須藤はニヤけつつ中腰になりながら自分の席に戻っていった。

 須藤の後ろ姿を見る波瑠加の目は完全に性犯罪者とかに対するものだった。

 

「あいつほんとキモ……」

「ね」

 

 あの変態、他のクラスメイトみんながポイントのことで大混乱中なのに何やってんだか。

 須藤だってポイントほとんど使い切ってるらしいし、困ってないわけがないと思うんだけど。今はそれよりも一時的に性欲が勝っているような状態なのかな。

 

「はぁ……どうせなら綾小路くんのオカズになりたい……」

「麻耶、その台詞はヤバい」

 

 おっと……うん、波瑠加の他には誰も聞いてない。聞こえる距離には誰もいない。オーケー。

 

「みんな、ちょっと真剣に聞いて欲しい。これからについて話し合いたいんだ。特に須藤くん」

「いま俺はそれどころじゃねえんだよ。わかったら俺を巻き込むな。殺すぞ」

「あ、いや須藤くん、ちょっと待って……」

 

 爽やかイケメンの平田くんが教壇に立って呼びかけると、須藤はいきなり教室を出て行った。前屈みで。

 

 平田くんがやろうとしたことは授業態度をクラス全体で改善していこうという話し合いなんだろう。けど最も改善の必要がある須藤がいなくなったのでは、その話し合いにはあまり意味がなくなってしまう。

 女子達が一斉に須藤の陰口を叩き始めた。

 

「須藤くんってほんっと空気読めないよね。キモいし。なんなのアイツ」

「このクラスのポイントがないのって全部須藤くんのせいでしょ」

「須藤がトイレから戻ってきたときイカ臭くない?」

「須藤くんっていつかレイプとかして捕まりそう」

「佐藤さんが最初に襲われそうだよねー。かわいそー」

 

 うーん……。

 キモいのはともかく、須藤がいなくてもポイントが残ったかどうかはわかんない程度には全体的に酷かったと思うんだけどね。アイツが1番酷いのは間違いないけど。

 

 あと最後の人、聞こえてるからね。

 マジでやめて。

 

 須藤に対する不満や中傷が飛び交う中、なんでか平田くんがわたし達の前までやってきた。

 

「佐藤さん、それから長谷部さんも。ちょっといいかな?」

「いいよ。なに?」

「放課後にクラスのみんなで話し合いたいんだ。それで二人には……というより佐藤さんには須藤くんを連れてきてもらいたいんだ」

「やだ」

 

 何を言い出すかと思えば、ふざけんなよこのイケメン。

 波瑠加がわたしを庇うように応対する。

 

「ねえ、どうして麻耶なわけ?」

「須藤くんが一番話を聞いてくれそうだからだよ。彼は多分、佐藤さんには心を開いていると思うんだ」

「平田くんさ、さっき麻耶がなんて噂されてたか知ってる? 須藤にレイプされそう、だって。あのさ、麻耶のこともっとちゃんと考えてくんない? 麻耶がアイツにレイプされたら平田くんは責任取れるの?」

 

 波瑠加……。

 

「ご、ごめん。彼がそんなことをするような人だなんて想像もしてなかったんだ。でも確かにそんな噂をされているようなら怖いよね。僕が軽率だった。佐藤さん、ごめん」

 

 平田くんは深く頭を下げた。

 ていうか正直別に怖がってはいないんだけどね。キモいけど。

 波瑠加も平田くんも優しいな。

 

「いいよ。あの変態にはわたしから言っとく」

「麻耶、いいの?」

「うん。教室ならみんなもいるし大丈夫だから」

「佐藤さん、ありがとう! もし彼に何かされそうだったらいつでも僕を頼って欲しい。必ず駆けつけるから」

 

 平田くんはイケメンだなー、こりゃ女子に人気なわけだ。

 彼女持ちの台詞じゃないと思うけど。

 

 須藤が教室に戻ってきた。

 あいつの席に向かう。

 

「須藤。今日の放課後にクラスで話し合いするから残って」

「おう、いいぜ」

 

 簡単なミッションだった。

 席に戻ると波瑠加と平田くんは微妙な顔をしていた。

 

 

 

  ◇

 

 

 

 放課後。

 平田くんの努力の成果か、性格の悪い堀北を除くクラスメイトの全員が残っている。

 話し合いはまだ始まっておらず、それぞれがポイントに対する不満や不安を零している。ポイント以外の話をしている人は多分一人もいない。

 綾小路くんは帰りたそうに見えたけど、わたしがチラチラみてたら出て行きづらそうにしてて面白かった。

 

 ポイントについての話し合いだけど、授業を真面目に受けましょう、の一言で殆ど終わりそうなものだけど、わたしも気づいていないような減点ポイントがあるかもしれないし、一応真面目に聞くつもりだったりする。

 

 いつものように波瑠加と話していると、櫛田が声をかけてきた。

 

「ポイント使い切っちゃった人たちは大変そうだね。私も半分くらい使っちゃったけど」

「キョーちゃんは友達多いからね。私はとりあえずは大丈夫な感じ」

 

 波瑠加は櫛田を妙なあだ名で呼ぶようになった。

 完全に信用しちゃってるみたいだけど、残念ながらこれは放置するしかない。下手に忠告でもして波瑠加の態度に僅かにでも変化があれば、櫛田は必ず気づく。

 とはいえ無意味に波瑠加を攻撃するようなことはしないだろうし、櫛田に関してはしばらくは問題ないはず。

 

「あのさ、櫛田さんと長谷部さん、それに佐藤さんもちょっといい?」

「軽井沢さん、どうしたの?」

 

 珍しく軽井沢さんが話しかけてきた。

 櫛田が応対する。

 

「あたしちょっとポイント使い過ぎちゃってマジ金欠なんだよね。今クラスの女子からポイント貸して貰ってんだけど、三人も助けてくんない? あたしたち友達だよね? 一人2000ポイントでいいからさ。三人ともあんまり使ってなかったみたいだし、結構ポイント残ってるっしょ?」

 

 なに抜かしてんの、こいつ。

 貸してって、返すあては?

 Dクラスは収入ゼロなんだけど。

 

「いいよっ」

 

 櫛田は即答で了承。

 二人は番号を交換してポイントの受け渡しを完了した。

 

「さんきゅ、やっぱ持つべきものは友達だよね~。あ、次、長谷部さんよろしく~」

「……はぁ。まぁ、いいけど」

 

 あんた、誰の友達にカツアゲしてんの?

 衝動的に手と口が出そうになるのを堪える。

 学校の空気というのは厄介なもので、わたし一人が勢いに任せてみたところで逆に波瑠加の迷惑になってしまう恐れがある。

 

 波瑠加は凄まじく嫌そうな態度を隠そうとせず、それでも了承した。

 これは仕方の無いことだ。

 櫛田や他の女子は軽井沢にポイントを渡しているのに、多くのポイントを残していると思われている波瑠加が断ってしまえば何を言われるかわかったものではない。かつて酷いいじめを受けていた軽井沢は自分を強く見せるために平気で人を傷つける。これを拒否することで嫌がらせやいじめに発展する恐れもあるのだ。その可能性を危惧しているから波瑠加は大人しく了承したのだろう。

 

「さんきゅ。はい次、佐藤さんね~」

「勿論いいよ。はいどうぞ」

 

 表情には出さない。

 笑顔で。

 

 

 

「……麻耶?」

 

 波瑠加が心配そうな顔でわたしを見ている。

 櫛田は何を考えているのかわからない表情でじっとわたしを見ている。

 わたしは今笑顔を浮かべているはずなんだけど。

 ま、いいか。

 

 

 

 

 

 

 ポイントについての話し合いは全く頭に入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 特別試験で軽井沢を退学させる方法なんてのを五分くらい考えてみたけど特に何も思いつかなかった。

 そもそも退学者は出したくない。原作から乖離して未来が読めなくなってしまうからだ。

 ていうか、そんなに待つの無理。

 

 軽井沢。お前、今夜待ってろ。

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