ようこそTSギャルが暴走する教室へ   作:饅頭屋ちゃん

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第7話

 携帯電話の画面の向こう側ではエッチなビデオの序盤に行われるような、あまり健全とは言えない光景が繰り広げられていた。

 桔梗ちゃんが綾小路くんに自らのおっぱいを触らせているのだ、制服越しで。

 

「……」

 

 桔梗ちゃんの本性を偶然見てしまった綾小路くんに対し、桔梗ちゃんはもし口外したらレイプされそうになったと言いふらすと言って彼を脅迫している。

 わたしの隣で食い入るように画面を見ている軽井沢は絶句していた。

 

「何なの、櫛田さんって……」

「見たままだよ。普段は猫被ってるだけ」

 

 わたしも綾小路くんにおっぱい触って欲しいんだけど、どうすればいいんだろう。とか考えながら動画をコピーしたSDカードを軽井沢に差し出すと、軽井沢はそれをおずおずと受け取った。

 

「あげる。保管方法は任せるけど、人に見つからないように持ってて」

「なんであたしに?」

「無くしたりしたときの保険。もし軽井沢があいつに何かされたら、それ使っていいから」

「……ありがと」

 

 お互いにメリットのある話だけど、恩を感じてくれるのならそれに超したことはない。

 わたしが軽井沢のことを守ると約束したこと。それを有言実行しているように感じていることだろう。

 

 ちなみにこの動画についてだけど、屋上の手前にある火災報知器の中に仕込んでいたカメラで撮れたものだ。これはあくまでも桔梗ちゃんに対する反撃手段であって保険のようなものだけど、カメラの動作テストついでにやってみたら上手くいった。

 

 わたしは原作のことを隅々まで記憶なんてしてないけど、重要なポイントだけはしっかりと復習してきた。

 その中の一つが、今日。勉強会の日。

 この動画の一件は勉強会が終わった直後の話。堀北の態度にストレスをためた桔梗ちゃんが屋上手前で一人ぶちまけるところから始まった。

 

 ちなみにわたしは勉強会には参加してない。時間の無駄だし、堀北いるし。

 須藤を誘うという約束だけは果たしたからこれで問題は無い。

 

「ていうか、なんでカメラなんて仕込んでんのよ……」

「そのくらいしないと生き残れないんだよ、この学校」

「いやいや、こんなことしてんのアンタくらいでしょ。他の誰がやるってのよ」

 

 綾小路くんとかね。

 二年生で退学者を大量に出したっていう南雲副会長なんかもこれくらいはやっていてもおかしくはないと思うし。

 

「軽井沢、コーヒーか紅茶飲みたい」

「あんたのパシリじゃないんだけど、あたし」

「じゃあ買ってくる。軽井沢は何がいい?」

「……紅茶ならいれたげる。ティーバッグでいいでしょ」

「うん。ありがと」

 

 電気ケトルでお湯を沸かしながらカップを二つ用意する軽井沢。それをじっと見ているわたし。

 

「アンタといい櫛田さんといい、なんでこんなヤバいのばっかいんのよ、このクラス」

「もっとヤバいのいるかもよ?」

「冗談でしょ」

 

 冗談じゃないんだよなー。

 綾小路くんはわたしや桔梗ちゃんなんて比較にならないレベルでヤバすぎだし、高円寺くんもヤバいし、他クラスにもヤバいのいるし。

 

「はい、出来たわよ」

「ありがと。……熱い。軽井沢、冷まして。あと砂糖入れて」

「……アンタやっぱりあたしのことパシリにしようとしてない?」

「あのさー軽井沢。今のは佐藤が砂糖入れてって言ったとこに突っ込まないとだめじゃん」

「うざ」

 

 軽井沢が冷ましてくれなかったので勝手に砂糖を入れてちびちびと飲んだ。

 空になったカップを置いて立ち上がる。

 

「ごちそうさま。ちょっと出てくる」

「ん、帰るんじゃないの?」

「うん。何時になるかちょっとわかんないから先に寝てていいよ」

「言われなくても勝手に寝るし、つーかアンタの帰る場所ここじゃないから。……またなんかヤバいことするわけ?」

「うん」

 

 桔梗ちゃんのおっぱい冤罪事件なんてオマケに過ぎない。

 これからが本番だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 正確な時間なんてわからず、ただ夜ということだけが分かっていた。

 下手をすると四時間とか五時間とか待たなければならない可能性もあったけど、念のため少し早めに待機していた。その結果、暗闇の中で待っていた時間は三時間半だった。

 

 寮から堀北が出てくるところで一気に目が覚めた。

 疲労が気にならなくなる程の緊張感が襲ってくる。

 堀北の少し後、寮から出てきたのは綾小路くん。彼は堀北の後を追うようにして寮の裏手へと消えていく。彼は特に理由もなく平気でストーカーみたいなことをするから恐ろしい。

 全身黒の服、それに加えて僅かでも物音を遮断するために靴すら履いてないわたしはその後を追いかける。

 

 綾小路くんが止まった。

 わたしも停止する。

 その先には堀北、そして一人の男。生徒会長である堀北の兄だ。

 

 若干距離はあるけど問題ない。

 携帯電話のカメラを起動し、それに加えてもう一つ、隠し持っているカメラを起動。校内監視用とは別の、腕に装着した腕時計型のカメラだ。

 ちなみにケヤキモールにこんなものは流石に売ってなかったけど、小型カメラと腕時計を持ってデブにお願いして作ってもらった。報酬としてその場で脱ぎたての靴下をあげたら凄く喜んで引き受けてくれた。……あのデブ、わたしの靴下使ったんだろうか。綾小路くんにあげたら彼は使ってくれるのだろうか。そんな事考えている場合じゃなかった。

 

 生徒会長が堀北の手首を掴み、壁に押しつける。

 二人は僅かに言葉を交わすが、その声は聞き取れない。そして堀北の体が宙に浮く。その瞬間、綾小路くんが飛び出した。そっとわたしも距離を詰める。綾小路くんが生徒会長の右腕をつかみ取った。

 

 彼らは言葉を交わす。今回は会話がなんとか聞き取れる。

 綾小路くんが生徒会長の腕を解放した瞬間、生徒会長は綾小路くんに殴りかかった。それを回避する綾小路くんの急所に向けて放たれる蹴り。

 

 撮れた。

 携帯電話の動画を確認すると問題なく撮れている。

 わたしはこの場を立ち去った。

 

 

 

 寮、堀北の部屋の前。

 わたしは壁に背を預けて彼女の帰りをじっと待っている。

 しばらくすると彼女は戻ってきた。

 

 堀北はわたしを見ると怪訝な表情を浮かべた。

 一応自分の部屋に戻って靴を履いてきたからそこまでおかしなところはないはずだけど、わたしがこの場所にいること自体がイレギュラーであることに変わりは無いのだろう。

 

「そんな場所にいられると迷惑なのだけれど」

 

 返事の代わりに携帯電話の画面を堀北に向け、例の動画を再生する。

 息を呑む堀北。生徒会長が堀北に襲いかかるところから綾小路くんに殴りかかるところまでを一気に流した。

 

「……何のつもり?」

「生徒会長が一年生に暴行。広まったらどうなるだろうね?」

 

 堀北の眼光が鋭いものへと変わった。

 

「佐藤さん、あなた何を考えているの? 脅迫、するつもりなの?」

「最低でも停学は免れない。退学の可能性だってフツーにあるよね」

「馬鹿馬鹿しい。私は彼の身内だし、被害を訴えるつもりもない。綾小路くんだってこのことについては何とも思ってないわ。こんなことで学校側が相手にするわけがない」

「ひとつ面白いことを教えてあげる。生徒会の副会長は南雲って人なんだけどさ、あんたのお兄さん、生徒会長の堀北学を狙ってるんだよね」

 

 堀北は言葉に詰まった。

 知らない情報が出てきたからだろう。

 そして見下していたわたしみたいなヤツがどうしてそんなことを知っているのか。情報の真偽以前にわたしなんかが口にするはずがないような次元の会話。

 

「南雲副会長は二年生で大量の退学者を出してる。その数は十人以上。逆らう者には容赦しない人。そんなヤツがあんたのお兄さんを潰そうとしてる」

「それは本当なの?」

「お兄さんにでも聞いたら? 電話でもしてみなよ、今すぐに」

 

 またしても黙る堀北。

 兄の連絡先を知っているのかどうかは知らないけど、易々と連絡を取れるような仲ではないことは知っている。仮に連絡が取れたところで事実なんだから何の問題もない。

 

「佐藤さん、あなたの目的は何?」

「今あんたの持ってるプライベートポイントの全部をわたしにくれたら今すぐこの動画を消してあげる。勿論他の誰にも口外しないと約束する」

「論外ね。私がどれだけのポイントを残していると思っているの? いくらなんでも高すぎる」

「バカじゃないの? 論外なのはそっちだよ。あんたの持ってるポイントなんてせいぜい八万か九万くらいでしょ? わたし達Dクラスの感覚だと高いかもしれないけど、他のクラスの生徒なら普通に払える金額なんだよね。上級生に至っては百万以上のポイントを持ってる生徒なんていくらでもいる。副会長にこの動画を持って行けば百万以上出してもおかしくはない話。コレにはそれだけの価値があるの」

 

 これは本当に格安だとわたしは思ってる。わたしが思ってるだけに過ぎないんだけど。

 わたしが自分で言ったとおり、副会長に持って行けば百万くらい出してくれるかもしれないし、然程の価値も認めてもらえないかもしれない。殴りかかる前の会話の内容は聞こえてるから堀北兄が一方的に襲いかかっていることは確認できるし、わたしは価値があるものだと思っている。

 

「ならどうして私に……」

「あんたの普段の態度が招いたことだと思えばいいよ。要はただの嫌がらせってわけ。あんたはお兄さんが助かる。わたしはあんたの不幸で飯が美味い。どっちも幸せだね」

 

 つまりわたしが堀北を選んだ理由は、まあ、堀北だからだ。

 金額を控えめにしていることについては、この件で借金を作らせるような真似まですると、下手をすると他人を巻き込んでどう拗れるか想像もつかないから。この場だけで片がつくのなら孤高の堀北が他人を巻き込むことなどないだろう。

 

「お兄さんを助ける手段が目の前にある。あんたがこの取引に興味がないというのなら、わたしは今すぐ南雲にこれを持って行く。選ぶのはあんた自身」

 

 再び黙る堀北の目の前に携帯電話を掲げてみる。

 堀北が手を伸ばせば届く距離。

 もしコレを力尽くで奪うようならそれをネタに更に脅してやる。

 この場所は監視カメラがあるから堀北の部屋に連れ込まれるかもしれない。そのときはもう一つのカメラで証拠を押さえる。

 が、流石にそんなバカなことはしないらしい。

 

「あなたは、何なの?」

「Dクラスの佐藤麻耶。あんたのクラスメイト。よろしくね」

「……いくつか条件があるのだけど」

「聞くよ」

「先ほどあなたが言ってたことに嘘があった場合、ポイントは全て返してもらう。動画についてだけど、携帯電話以外でも撮影していた場合、それも全て消してもらう。例えばその腕時計とか」

 

 ……鋭い。少し侮ってたかもしれない。

 

「誰にも口外しないこと。もし既に誰かに話していたり動画を送っていたりするのならこの話は無し」

「いいよそれで。誰にも話してないけど一応送受信の履歴なんかも見せてあげるし、口約束じゃなくて契約書も作るから。わたしとしてはこの件についてはこれっきりで済ますつもりだし」

「……この件については、ね」

「言葉の綾的なやつだよ。あ、さっきの条件だけどもう少し詰めていいかな。南雲副会長が堀北生徒会長を潰そうとしてるっていう部分に対してだけど、これは見る人によって表現や解釈が変わってくるから――」

 

 取引は成立した。

 堀北のプライベートポイントはゼロになった。




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