RECODE:Falsify_Become Human 作:宇宮 祐樹
ねこあつめ
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「本日付けで所属する、UMP9です。よろしくね、指揮官」
「お、同じく本日付け所属のC96ですっ! よろしくお願いします!」
立て続けにかけられたその声に、書類から目を離す。
一人は茶髪をツインテールにした少女だった。型名はUMP9。汎用性の高いSMGを依代としており、本部直属の部隊である404小隊にも採用されている優秀な人形だと聞いている。
もう一人は銀髪を後ろに二つに下げた、背格好の小さな少女。型名は
以上、配属前に届いた書類より。
「……了解した。諸君らの入隊を嬉しく思う。心より歓迎しよう」
「もっと感情を込めんか感情を」
やれやれと口を挟んでくるナガンはこの際無視しておくとして。
「まあ、正直どんな人形でも来てくれたのならありがたい。これからどんどんコキ使っていくからそれなりに覚悟しておくように」
「はーい」
「了解です!」
にっこりと笑う
さて、新人の歓迎もこれくらいに済ませておくとして。
「それで、入隊直後だがさっそく任務だ。そもそも配属されている時点で聞いていると思うが、この部隊がどういった目的で組織されたかは?」
「……ゴミ処理?」
「お手伝い、って聞きました」
「良い様に言われとるのう。ま、間違いではないが」
どちらかといえばそれよりももっと下級のクズみたいな仕事であるが、それでも来てくれた彼女らのために、誠実に紹介しておくべきだろう。
「……我々に秩序はない」
ぽつりと呟いたその言葉に、二人の視線が向けられるのを感じる。
「命令であれば昨日の味方へ銃口を突きつけ、明日の敵と友情を分かち合う。そこに無駄な感情は発露しない。どれだけ貶されようが、どれだけ情を踏みにじろうが、我々はただ標的を殺すだけの必要悪である」
本当に、面倒な役職だと思う。ただ上司から言われた標的を撃ち殺すだけの、言いようであれば簡単な仕事。こんなクソみたいな役職に配属されるのはそれなりに訳のある者たちだけで、つまりは目の前の二人もそういうことで。
「そこには正義も、悪も、何もない。何も信じるな。我々はただ、下された命令を遂行するだけの存在――N部隊ということを、忘れるなよ」
静寂。言葉の一つも、消え失せた。
感じられる視線はすべて冷たいもので、そこにある何かを別に言及するわけではない。ただ、自分達がそういう場所へと配属されたこと、それだけは何としてでも心に刻み込んでほしかった。
恨まれるだろう。非難されても、おかしくはない。
けれど、そういった役割には慣れ切っていた。
「……今回の任務内容だ」
そう言いながら取り出すのは小さなボイスレコーダーで、それと執務机へと投げると、三人の視線がそこへ集中する。その横に付いているスイッチを入れると、軽い音と共に、そこからノイズが流れ始めた。
『あー…………あー……? 聞こえてるのかな、これ。まあいいや』
響くのは、間延びした女性の声であった。
『私は16LABの研究員のペルシカね。ヘリアンから都合のいい部隊があるって聞いたから、こうしてあなた達に任務を与えようと思うの』
その名前には、聞き覚えがあった。
グリフィンに技術提供をしている16LAB、その首席研究員であるペルシカ。その功績は人形のネットワーク構築技術であり、今の彼女がいるからこそ、人形は銃を依代とした人形たりうるのだ。
その名前には聞き覚えがあるのか、二人から声が漏れるのが分かった。
『一応、外部に漏れるとマズイから任務を伝え終わったらこのテープは消滅するの。一度しか言わないから、よく聞いて頂戴ね。あなたたちの任務は――』
ごくり、と誰かが息をのむ音が聞こえて、
『その……『ねこ』をね、探してほしいの』
それだけ残した後に、じゅぅ、とテープが焼き切れた。
□
輸送VTOLの中でボケっとされるがままに揺れていると、隣のUMP9がふと問いかけてくる。
「…………ねえ、指揮官。私、ペット探すためにこの部隊に配属されたの?」
「知らん」
「指揮官指揮官、猫ってどんなのでしょうね? 黒猫かな? それとも三毛猫かなっ?」
「知らん」
「猫は猫でもペルシカのネコかもしれんがな! はっはっは!!」
「お前は二度と口を開くな」
募る苛立ちに、たまらず口が悪くなった。
与えられた任務は、確かに特定の対象――『ねこ』の回収だった。同時に届けられた書類には暗号化された文書で捜索地点の座標や情報が記されており、あのボイスレコーダーの内容が変な冗談ではないことが確認できた。
というか本当にこれ俺達がやる任務なんだろうか。
「受ける任務は問わないって言ったけど、まさかペット探しなんてね」
「もっと大変かと思ってましたー……いきなり最前線に飛ばされたりとか、未確認の鉄血人形と戦闘する、とか」
交わされる二人の言葉に、ますます肩が落ちていくのが分かる。
何よりも一番駄目なのは、あんなにイキがって説明した直後にこんな任務なのだ。最早漫才とかギャグとかそこらへんの領域である。できることなら今すぐここから空中投下して森で即身仏になりたい。誰にも見つからない場所でひっそりと生涯を終えたいくらいの恥ずかしさではあった。
けれど、任務を与えられたからには遂行しなければいけないわけで。
「そろそろ着くぞ、中継ぎの場所とか回収地点は頭に入れたな?」
「おっけー、ダイジョウブだよ」
「えーと、A地点とB地点に分かれてから『ねこ』を見つけてα地点で合流、そのまま回収地点βで撤退……?」
「それでいい。人形は物覚えが早くて助かるな」
こういところは人間よりも優秀なのだろう。正直、何度も説明しなくてもいいから助かる。
「武装、必要なんですかね?」
「……一応持っておけ。何があるか分からんしな。重かったら最低限でいいから」
問いかけるC96にそう答えたのち、ARX-160を二つとって、一つをナガンへと投げ渡す。それを受け取ったナガンは慣れた手つきでセーフティーを外して、弾倉を確認すると、ふと後ろから覗いてくる、驚いたようなまなざしに気が付いた。
「なんじゃ、そんな目をしおって。珍しいもんでも見つけたか?」
「いや、だって……ナガンちゃん、HGの戦術人形なのに」
「特例だ。珍しいとか言うなよ、その足の代わりだ」
義足になった左足を指差しながら、UMP9へと諭す。
「まあ、何か必要なものがあったらいつでも言え。まだ部隊の規模は少ないからな、やれるもんは全部お前等にやる。その分、キビキビ働けよ」
「はーい」
「分かりました」
気は抜けているが、まあ従ってくれるだけ良しとしよう。
「で、でも指揮官? このA地点っていうの、もうそろそろ……」
「到着だな。じゃあそろそろ行くか」
「行く、ってもしかして」
そのC96言葉を遮るように壁のスイッチを上へと弾くと、後方から重たいハッチの開く音がした。そうして入り込んできた風を背中から受けながら、後ろの方で風圧にのけぞっている二人へ届くよう、大きく声をかける。
「いいか、最終目的は『ねこ』の回収! 捜索対象が対象なぶん、今回は二手に分かれる! A班はナガンとC96! B班は俺とUMP9!」
「うむ、了解じゃ!」
そう呼ばれたナガンが強く頷いて、大きく開いた機体の後部へ歩み出す。地表との距離はおおよそ三十メートル、人形なら余裕で落下の衝撃に耐えられるだろう。
なんてことを頭の中で考えていると、ふとC96がナガンの隣に並んでいないことに気が付いた。
「おい、C96! 何やってるんだ、早く降下準備しろ!」
「こ、ここっ、ここから降りるんですか!?」
「当たり前だろ! もう時間ないぞ! ナガン、連れてけ!」
「任された!」
何時の間にかC96の後ろに立っていた彼女が、がし、と両脇へ腕を回す。
「な、ナガンさん!? 待って、待って下さいっ!」
「なに、心配いらんぞ。わしがちゃんと守ってやるからの! ここは年長者に任せるのじゃ!」
「いや年長者とか、そういうの関係ない……ちょ、ちょっと! 本当にっ! UMPちゃん!? た、たすけ――」
「ではお主! 行ってくる!」
「うわああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」
バックドロップにも似た体勢でナガンが飛び降りて、姿が消えると共にC96の悲鳴が聞こえてくる。開いたハッチから覗いてみると飛び降りた人影はだんだんと小さくなって、やがて豆粒になって消えていくのが見えた。
うむ、成功である。ちゃんと座標バッチリ。
「……ねえ指揮官、私たちもアレやるの?」
「何言ってんだ、やるわけねえだろ。俺が死ぬ」
「そ、そうだよね……」
どうしてか残念そうな顔をするUMP9に、肩をすくめて見せる。
B地点への到達時刻は、もうすぐだった。
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ノリは割とユルめに。拙い知識ではありますが頑張ります。