ファフニール VS 神   作:サラザール

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 どうも、サラザールです。新章に突入です。投稿が遅れて申し訳ございません。


ドラゴンズ・エデン
ミッドガル


 かつて、世界は36存在していた。一つの世界を管理している神のことを世界神と呼ばれる。

 

世界神は全員で12人いて、下には自然を司る神達がおり、会社でいう部下である。世界神より上に立つのが神官、さらに上には神官王、そしてその全ての頂点に君臨する存在は絶対神ゴッドである。

 

絶対神ゴッドは世界を創り出すことができ、逆に全てを消すことができる想像と破壊を司る最高位の神である。

 

最初は神官たちが世界を管理していたが、ゴッドは人間にやらせれば面白くなると思い、死んでいった人間の中から選び出し、神として知恵と力を与え、世界を管理させた。

 

すると世界は大きく変わり、今まで同じ文明と同じ景色だったのが五年も立たないうちに変化したのである。

 

ゴッドは喜び、自分のやってきたことは正しかったと思った。

 

だが、ある世界の世界神は欲があった。いつかゴッドを超える神となって全ての世界を支配しようと企み、自分の管理している世界を滅ぼした。

 

ゴッドは事態に気付き、世界神を含め、24の世界を消してしまい、結果12の世界だけが残った。

 

ゴッドは自分の行いに後悔した。しかし彼は第1世界のある村を見た。彼は無邪気な少年で、人のためなら無茶をする人間であった。

 

ゴッドはこのような人間もいるのだと気付き、1からやり直すことにした。

 

それから月日は流れたある日、第12世界の世界神が引退した。ゴッドは新たな神を見つけるため、第1世界にいた。

 

服装を変え、町を歩いていると横からトラックがやってきた。轢かれると思い、片手で止めようとした。すると前から小学生くらいの少年に庇われ、力を使うことなく済んだが、少年は死んでしまった。

 

ゴッドは自分のせいだと後悔し、庇ってくれた少年を蘇生させようとした。

 

ゴッドは少年の顔を見ると驚いた。

 

彼は何億年も前に下界に居た少年にそっくりだった。ゴッドはあの時の人間の生まれ変わりだと気づいた。

 

ゴッドは自分のせいで死なせる訳にはいかないと思い、両手に気を集め、彼を蘇生させようとした。

 

すると頭にある考えが浮かんだ。

 

このまま蘇生させるより、彼には世界神としてこの世界を管理させればいいと思った。

 

ゴッドは彼の魂を神界に連れて行き、神として育てた。

 

それから神界では2000年以上経った。下界では約6年である。

 

ゴッドは水晶でその少年の仕事ぶりを見て、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

25年前、何の前触れもなく日本上空に出現した正体不明の巨大生物。

 

 上位元素(ダークマター)生成能力を持つ、一体目のドラゴン。

 

 常識外の怪物は、ただ移動するだけで甚大な被害をまき散らし、現れた時と同じく唐突に姿を消した。

 

 後に設立される竜対策専門の国際機関・アスガルは、その巨大生物が古代インドの聖典に登場する 宙を覆う者(ヴリトラ)と同種である可能性が非常に高いと発表した。

 

 その根拠は機密事項であるという理由で公開されなかったが、以降その一体目はブラック・ドラゴン―――黒のヴリトラと呼称されることになる。

 

 そして以降、人間の中にヴリトラと同様の力―――上位元素生成能力―――を持つ者が生まれ始めた。 D もしくはタイプ・ドラゴンと呼ばれるこの異能の子供たちは、現在一ヶ所に集められて管理・保護されている。

 

 それが今、俺のいる場所―――ミッドガル。

 

 日本の遥か南に位置する直径数キロ程度の小さな孤島。かつては無人だった島を徹底的に改造し、作り変えた教育機関だ。

 

 周辺には環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)という自動迎撃システムが設置されており、許可のない船舶・航空機は容赦なく排除される。

 

 そんな場所に俺は招かれた。たった一枚の指令書によって。

 

 「なあ、深月。いい加減答えてくれよ。いったい……何がどうなっているんだ?」

 

 俺は前を歩く深月に問いかける。

 

 「会話は然るベき時に、然るベき場所でお願いします。誰が聞いているかも分からない道端で、軽率に話をすることはできません」

 

 だが深月は振り向きもせず、俺の要求を却下する。もう何度も話しかけているのだが、全て同じ返答だ。録音した音声を再生しているのではないかとさえ思えてくる。

 

 俺は諦めて、然るベき場所とやらに着くのを待つことにした。

 

 今、歩いているのは先ほどの砂浜に沿って続く海岸の道だ。周囲を見回しても人の姿はないのだが、それでも深月は壁に耳あり障子に目ありを気にしているらしい。

 

 ちなみにイリスはいない。堤防の上に置いてあった自分の荷物を持って、逃げるように走り去ってしまった。しかも結局、俺のシャツを着たままで。よほど俺に自分が着た服を返したくなかったらしい。

 

 おかげで俺は最初に暑くて脱いだ長袖の上着を再び着る羽目になった。坊刃性のある分厚い生地は熱気を内側に押し込め、汗がどんどん出てくる。

 

しばらくすると大きな建物が見えてきた。近代的でありながら、どこか中世の城を連想させるデザイン。深月はその前で足を止め、扉の脇にあるパネルに手を翳す。するとほとんど音もなく扉が自動的に開いた。

 

深月に続いて中に入る。涼しい風が全身の熱気を拭い、一気に汗が引いた。

 

エントランスは広いホールになっており、家事全般をこなす円筒のロボ———全自動召使い(オートメイド)が隅の方で埃を集めていた。

 

「すごいな……ここが学園なのか?」

 

俺が呟くと、くすっという小さな笑い声が聞こえた。

 

視線を前にある深月へ向けると、彼女はコホンと咳払いして俺の方を向く。

 

「———違います。ここは学園じゃありません。私個人の宿舎です」

 

「へ?」

 

深月の言葉に俺は呆然とする。

 

「……こ、個人の宿舎?この馬鹿でかい建物が全部?」

 

「はい。全て私が使用しています。ですからこうして会話にも応じているんです」

 

つまりここが深月の言っていた然るべき場所らしい。俺は信じられずに建物の中を見回す。ホールは三階まで吹き抜けになっていて天井が高い。一体何部屋あるのか、想像も付かなかった。

 

「深月はどうしてこんな建物に———いや、そもそも何でミッドガルにいるんだ?今度こそ、答えてくれるよな?」

 

「それは私が特別なDだからです。今の私はブリュンヒルデ教室、出席番号三番。ミッドガル学園の生徒会長であり、竜伐隊の隊長。階級は中佐。兄さんよりも———偉くなってしまいましたね」

 

「な……」

 

言葉を失くした俺に深月は言葉を続ける。

 

「ミッドガルへの移動は私の権限で行いました。兄さんには明日から生徒として学園に通ってもらいます。部屋はこの宿舎の一室を兄さん用に改造済みです。制服も置いてあるので一度きてみてください。万が一寸法が間違っていた場合はすぐに直させますので」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺が明日から学園に通う?本気で言ってるのか?異動って沿岸警備隊とかそういう部署じゃないのか?」

 

「もちろん本気です。生徒会長が嘘を吐いては示しが付きませんので。警備は環状多重防衛気構(ミドガルズアルム)で間に合っていますから、特に必要ありません」

 

「いや……だって俺は男だぞ!」

 

俺は最も重要な点を指摘する。

 

理由は分からないがDとして生まれるのは女性のばかり。すると必然、ミッドガルにいる生徒も女性のみとなる。つまり完全な女学校だ。俺が通っていい場所ではない。

 

「ミッドガルで教育を受ける資格はただ一つ———Dであること。兄さんはその条件を満たしています。男とか女とか、そういったことは関係ありません」

 

そう、俺はたった一人の例外だった。

 

発見と同時に存在を秘匿された———男のD。

 

「そりゃあ理屈ではそうかもしれないが……俺のことを公にしてもいいのか?アスガルは俺みたいな奴がいることを隠したかったから、ニブルに送ったんじゃ……」

 

国境を越えて発生するドラゴン関連の諸問題に対処するため、二十年前に設立された国際機関アスガル。その傘下には現在、二つの組織がある。

 

一つは対ドラゴン戦を想定した武装・戦術の研究開発や、日常的に起こる竜災害への対応を行っている軍事組織ニブル。

 

もう一つがDたちの自治教育機関であるミッドガル。

 

少し前までミッドガルはニブルの管理下にあったらしいが、現在は完全に対等な立場となっていると聞く。

 

非常時はアスガル指示の下で合同作戦を行うことが想定されているため、深月やイリスため学園生にもニブルと共通した軍階級が与えられているのだ。

 

そういう組織構造であるからして、いくら深月が中佐でもアスガルの決定には逆らえないと思うのだが……。

 

「いいえ、兄さんの存在を隠したのはアスガルではなく———ニブル。現地で兄さんを確保したのをいいことに、アスガルへ情報を上げず、勝手に処遇を決めたんです。そのせいで……兄さんを見つけ出すのに、とても長い時間が掛かってしまいました」

 

悔しげに奥歯を噛み締める深月。

 

「深月は……俺を探してきたんだな」

 

「はい。私がミッドガルに来て最初に驚いたのは、兄さんの姿がないことでした。私より先に身柄を拘束された兄さんがいないのはおかしいと思い、それ以来ずっと探していたんです」

 

深月はそう言うが、俺は少し心配になる。

 

「かなり強引な手段を使ったんじゃないのか?深月の立場が悪くなるんじゃあ———」

 

「平気です。勝手なことをしたのはニブルの方ですから。何も言ってくる心配はないので兄さんは安心して学園生活を送ってください」

 

全く問題はないという顔をする深月だが、俺はまだ素直に頷く気持ちにはなれなかった。

 

「いや、状況は一応分かったし、深月の気持ちは嬉しいけど……現実問題、やっぱりいろいろまずいだろ」

 

不安要素が少し減っても、俺が男であるということは変わっていない。

 

「———はい、もちろん男性が混じることで様々な問題が生じることは想定しています。だからこそ、私が責任を持って兄さんの管理をいたします」

 

しかし深月は、俺の懸念など分かっているという表情で鷹揚に頷いた。

 

「か、管理?」

 

「兄さんが学園内の風紀を乱さぬよう、きちんと監視し、問題が起こらぬよう努めます。先ほどのような破廉恥な真似はもう許しませんから」

 

にこりと初めて笑みを浮かべる深月。だがその笑顔は底冷えのするものだった。

 

「もしかして……深月、怒ってるのか?」

 

Tシャツ一枚のイリスと一緒だったことについて、深月は全く触れようとしなかった。最悪の場面———裸のイリスを押し倒しているところは見られなかったようなので安心していたが、深月の方は切り出すタイミングを計っていたらしい。

 

「当たり前です。兄さんの不始末は私の責任になるんです。だというのに着いて早々女子生徒を口説くなんて……先が思いやられます」

 

「く、口説いてなんていないぞ!」

 

「本当でしょうか?会ったばかりだというのに、ずいぶん仲良く痴話喧嘩をなされていましたが」

 

ぷいと顔を背けた深月は、すたすた歩き始める。

 

「深月、どこに行くんだよ?」

 

「……お部屋に案内します。付いてきてください」

 

不機嫌なオーラを放ちながら深月は俺を一階廊下右奥の部屋へと導いた。

 

各扉に部屋番号などは記されていないが、その部屋にだけ丸っこい字で"兄さん"と書かれたプレートが付けられていた。

 

「…………」

 

せめて名前にして欲しいなと無言で見る。だが成長した妹は俺の意思を汲み取ってくれることなく、無愛想に鍵を差し出した。

 

「部屋の鍵です。これで施錠はできますが、私がマスターキーを持っていることは予め理解しておいてください」

 

「いや、それって鍵を掛ける意味があるのか?」

 

「気分の問題だと考えていただければ。まあ私もよほどのことがなければ勝手に扉は開けませんので、無意味ではないかと思います」

 

「そういうことなら、一応受け取っておくけど……」

 

何だかすっきりしない気持ちで俺は鍵を手に取る。

 

「私が主に使っているのはちょうど真上にある二階の角部屋です。何かあればノックを。この宿舎内での行動は自由ですが、夜八時以降は外出を禁じます。朝食、夕食は朝夜の七時にオートメイドが三階の食堂に用意してくれます。洗濯物は籠に入れて部屋の前に出しておいてください。バス、トイレは部屋にあります。以上、何か質問は?」

 

「えーと……今のところは特に———」

 

一気に言われたせいでまだ頭が把握しきれておらず、疑問を見つかる暇もなかった。

 

「気になることはないのですか?例えばニブルでの三年間……父さんや母さん、学校のご友人とも連絡は取れなかったのでしょう?」

 

「———ああ、そっか。父さんと母さんは元気にしてるか?」

 

俺は顔を曖昧にしか思い出せない両親の現状を義務的に訊ねる。

 

「はい、元気です。時々、電話で話しています。外部への通信は許可が必要ですが、禁止されているわけではありません。今度、兄さんからも連絡してあげてください」

 

「……そうだな」

 

頷くが、俺は両親に連絡するつもりはなかった。話せばきっとボロが出る。

 

(不用意に取引だけはするな)

 

亮の言葉を思い出した。

 

三年間に俺が失ったものを———深月には悟られたくない。

 

「ご友人にも連絡はできますが、通話内容は記録されますのであまり余計なことは喋らないよう気をつけてください。もし電話番号が分からなければ私が調べます」

 

「分かった。色々ありがとう」

 

———友人。そんな相手がいただろうかと考えながら、俺は礼を言った。

 

「それでは、私はこれで」

 

ぺこりとお辞儀をし、立ち去ろうとする深月。そこで俺は、どうしても訪ねておかねばならないことがあったことを思い出した。

 

「あ———やっぱりあと一つだけ、聞いていいか?」

 

「何でしょう?」

 

深月は足を止め、顔だけで振り向く。俺は唾を飲み込んでから、思い切って訪ねる。

 

「俺が三年前にしたことは……無駄だったのか?所詮、子供の浅知恵だったのか?」

 

三年前、俺は戦った。そして深月をミッドガルへ送らせないために俺は全部を引き受けた。

 

あの巨人と戦ったのは俺だけだったということにしたのだ。

 

けれど今、深月はここにいる。

 

ならば俺の行動は無駄に終わったということ。

 

しかし深月はゆっくりと首を横に振った。

 

「いいえ、兄さんがしたことは決して無駄ではありません。三年前の時点では、私が"D"であることは公になりませんでした。ただ……」

 

「ただ?」

 

「あの時の私は、間違えていたんです———どうしようもないほどに」

 

そう言って深月は、とても悲しそうに微笑んだのだった。




いかがでしょう?次は亮を出します。お楽しみに!

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