ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。久しぶりにリーザとイリスが出てきます。今回もお楽しみください。


迎撃準備

翌日、俺は宿舎からの地下通路を通って学園へと登校した。

 

イリスの竜紋が変色し、リヴァイアサンに見染められて今シェルターで隔離されている。そのため深月に頼んで護衛役を任された。

 

とは言え、緊急事態の今、もちろん授業は行われていない。誰もいない静かな廊下を抜けてエレベーターに乗り、一番下のボタンを押した。

 

長い下降感の後、第三演習場よりも深くに位置するシェルターに辿り着く。狭い廊下の先にある扉の前には、金髪の少女が立っていた。

 

「あなたがイリスさんの監視役になったというのは本当でしたのね」

 

少女———リーザが不満げな顔で俺を見る。

 

「監視役じゃなくて護衛役だ。リーザは昨日からずっとイリスに付いていたのか?」

 

訊ねると、リーザは胸を張って頷いた。

 

「クラスメイトですから。困った時、力になるのは当然ですわ」

 

「そっか、リーザはやっぱり仲間思いだったんだな」

 

「や、やっぱりって何ですの!あなたにわたくしの何が分かるというんですか?」

 

顔を赤くしてリーザは俺を睨む。

 

「何度も話してれば、それなりに分かるさ。今だってイリスのことが心配だから傍にいたんだろ?」

 

「……親元から離れて暮らすわたくしたちにとって、同じ教室の仲間は家族同然。心配しないはずがないでしょう?」

 

視線を逸らし、ぼそぼそと小さな声で答えるリーザ。

 

「そんなに気にかけてたのなら、普段からもう少し優しくしてやればいいのに……。イリスは落ちこぼれとか言われたこと、結構気にしてたぞ」

 

リーザは「う……」と呻くが、気を取り直すように首をぶんぶんと振って俺を再び睨んだ。

 

「あ、姉というのは、得てして妹には厳しいものですわ。思ったことを遠慮なく伝えるのも家族ではなくて?」

 

そう指摘され、俺は考える。

 

確かに優しくするだけが愛情というわけではない。自分の欠点を容赦なく指摘する相手がいたからこそ、イリスもあれだけ頑張れたのだろう。

 

「……かもな。リーザは今のままでいいのかもしれない。そう考えると、なかなかできた姉だな」

 

「ほ、褒めたって何も出ませんわよ!」

 

照れているのか、声を上擦らせてリーザは言う。

 

「別に何か貰おうとかは思ってないさ」

 

俺は苦笑して首を横に振る。

 

「だったらいいですわ。あ、言っておきますが、あなたのことはまだクラスの一員と認めたわけではないですから、家族愛は適用されていません。そこのところお忘れなきよう」

 

「———了解。まあとにかく、今は交代だ。昨日から寝てないんだろ?戦いに備えて、ゆっくり休んだ方がいい」

 

俺の言葉に、リーザはむっとした顔をする。

 

「言われなくてもそうしますわ。正直不安ではありますが、一番仲のいいあなたが傍にいた方がイリスさんも落ち着くでしょう」

 

そう言ってリーザは扉の前から離れ、エレベーターに向かう。

 

だがふと思い出したことがあり、俺はリーザを呼び止めた。

 

「———リーザは二年前の、クラーケン戦のことは知っているのか?」

 

「もちろんですわ。わたくしは最前線で戦っていましたもの」

 

エレベーターの前で足を止めたリーザは、振り返らずに答える。

 

「クラーケンを倒したのは……深月なんだよな?」

 

「ええ、その通りですわ。深月さんは二体のクラーケンを仕留め、その功績により今の地位まで上り詰めました」

 

二年前、"紫"のクラーケンがミッドガルに侵攻し、生徒の一人がつがいとなって同種のドラゴンになった。それを仕留めたのが深月だ。

 

リーザの声が硬くなったのを俺は感じた。

 

「納得がいってない口ぶりだな」

 

「———納得はしていますわ。あの時は、他に選択肢などありませんでしたから。けれど感情は別の問題です。わたくしは、家族を殺した深月さんを許すことはできません」

 

「家族……?」

 

「あら、そこまでは知らなかったんですのね。二年前、ドラゴン化したのはブリュンヒルデ教室、出席番号四番、篠宮都。篠宮先生の妹さんですわ」

 

リーザは平坦な声音で言うと、エレベーターに乗り込む。こちらに表情は見せないまま。

 

「それではイリスさんのこと、お任せいたします」

 

エレベーターの扉が閉まる。俺が呆然としていると、プシュッと音を立てて背後の扉が開いた。

 

「モノノベ……」

 

ネグリジェ姿のイリスに心臓が跳ねる。

 

「い、イリス、聞こえたのか?」

 

「うん……リーザさんにお礼を言おうと思って待ってたの。昨日はすごく親切にしてくれたから。でも、出て行くタイミングがなくて———」

 

苦笑いを浮かべ、イリスは頭を掻く。

 

「今の話、知ってたか?」

 

「一応、噂だけはね。あたしがミッドガルに来たのは一年前だから……その頃にはもうミツキちゃんは生徒会長だったし」

 

「そうなのか……ただ、それはともかく寝起きだったなら着替えてきてくれ。目のやり場に困る」

 

イリスのネグリジェは生地が薄く、体のラインは薄らと透けて見える。

 

「……少し恥ずかしいけど、モノノベならいいよ。気にしないで入って」

 

「気にしないって———おい、ちょっ!?」

 

イリスは俺の腕を掴んで部屋に引っ張っり込んだ。中は思ったよりも広い。シェルターというからもっと簡素な場所を想像していたが、宿舎の部屋とそう雰囲気は変わらない。

 

部屋には寝心地の良さそうなベッドと、朝食のトレイが置かれた机、大きなクローゼットがあり、トイレやバスルームらしき扉もあった。

 

さすがに窓はないが、その代わり壁には大型のモニターが取り付けられている。画面にはミッドガル周辺の様子がいくつもの画面に分割されて表示されていた。

 

「ささ、モノノベ、座ってよ」

 

ぽすんとベッドに腰を下ろしたイリスは、自分の隣をポンポン叩く。

 

「……そこにか?」

 

「うん」

 

真面目な顔で頷くイリス。緊張しながら俺はイリスの隣にすわる。

 

するとイリスは俺の方に体重を預け、腕を絡ませてきた。

 

柔らかな感触を腕に感じる。

 

「お、おい」

 

「———ごめん、しばらくこのままでいさせて。お昼から、また検査なの。だからそれまで……」

 

イリスの必死な声を聞き、俺は息を吐く。深月はイリスが取り乱さず検査に協力していると言っていたが、やはり怖いし心細いのだろう。

 

こんなことで少しでも支えになれるのなら、今はじっとしていよう。

 

邪なことを考えてしまわぬように、モニターに映し出される島の景色に意識を向ける。

 

衛星からと思われる画面もあり、そこには小さな島を四重に取り囲む環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)がはっきりと映し出されていた。第一防衛ラインの外側に多数の船影が見える。あれは恐らくニブルの軍艦や空母だろう。

 

他の映像には、島の上空を哨戒している竜伐隊の少女たちが映っていた。その中にはフィリル、レン、アリエラの姿もある。

 

「あ」

 

ちらっと見てはいけないものを目にしてしまい、俺は声を上げる。

 

「フィリルちゃんのパンツ……見えたね」

 

俺の視線を追っていたのか、イリスは小声で呟く。

 

「い、いや、画面に映ったんだから仕方ないだろ。というかスカートで空飛ぶ方がおかしいって」

 

「男の人ってやっぱりパンツが見えると嬉しいの?」

 

上目遣いで問いかけてくるイリス。

 

「は?……そんなわけ……ないだろ」

 

「あっ、目を逸らした!やっぱり嬉しいんだ」

 

体をさらに密着させ、イリスは無理やり視線を合わせてくる。

 

「そういう言い方されると俺が変態みたいだろ!嬉しいとかじゃなくて、少し得した気分になるだけだ」

 

「それって……喜んでるよね」

 

「う……」

 

半眼で見つめられ、俺は言葉に詰まる。

 

イリスはそんな俺をじーっと見つめた後、消え入りそうな声で問いかけてきた。

 

「……ねえ、モノノベはあたしのパンツでも嬉しくなるの?」

 

「な、何をいきなり———」

 

慌てる俺に構わず、イリスは顔を赤くしながら言葉を続ける。

 

「モノノベが喜ぶなら、見せてあげてもいいよ?ずっと……何かお礼をしたいなって思ってたの」

 

イリスはそう言ってネグリジェの裾を指で摘む。

 

否応なく俺の視線はそこに吸い寄せられた。

 

(え?おい、ちょっと待て———。)

 

息を呑む。鼓動が速くなる。無意識に唾をごくりと呑み込んだ。

 

裾が少しずつめくられる。露わになっていく白い肌から目が離せない。

 

イリスの指は微かに震えていた。真っ赤な顔で、イリスはネグリジェの裾を上げていく。

 

柔らかそうな太ももが俺の理性をぐらぐらと揺らす。ネグリジェはとうとう足の付け根あたりまでめくり上げられた。

 

(これ以上めくると本当に見え———。)

 

「そんなお礼はしなくていいって!」

 

ギリギリで我に返った俺はイリスの手を押しとどめた。

 

「モノノベ……あたしのは、見たくないの?」

 

不満げな表情でイリスは問う。

 

「俺が見たいとか見たくないとか、そういう問題じゃない。軽々しくそういうことをするなって言ってるんだ。男っていうのはイリスが思ってる以上に危険な生き物なんだよ」

 

「……軽々しくじゃないもん。すっごく勇気を出して言ってる問題」

 

「だったら余計にダメだ。もっと自分を大切にしろ」

 

イリスは単に見せるだけのつもりかもしれないが、それにより大きな欲望を喚起してしまう。欲望に負ければ査問会議へ直行だし、我慢し続けるのも辛い苦行だ。どちらに進んでも地獄なら、回れ右して引き返すのが正解だろう。

 

「うぅー、モノノベのイジワル」

 

「別に意地悪を言ってるつもりはないんだけどな……」

 

どうしたものかと俺は頭を掻く。現在でもかなりの自制心を投入しており、これ以上刺激に耐えられる自信はなかった。

 

モニターに意識を戻すが、またイケナイ物を見てしまうとまずいので、海しか映っていない画面へ視線を固定した。

 

「あたし、モノノベにお礼をしたいのに……」

 

ぶつぶつと呟きながら、俺に寄りかかってくるイリス。薄い布越しにイリスの体温がより鮮明に伝わってきた。

 

俺は何とか会話の流れを変えようと話題を探す。

 

「い、イリス、あの海しか映っていない画面はいったい何なんだ?映像は動いているみたいだから、定点カメラじゃないんだろうけど———」

 

イリスに早口で問いかけると、途端にイリスの表情が曇った。

 

「ああ……あれはリヴァイアサンを監視している映像みたいだよ。深いところにいるから見えないけど、海水の下には———あいつがいるの」

 

俺は一番良くない方に話題を逸らしてしまったことに気付く。

 

「……悪い、気分を暗くさせたな」

 

「ううん、いいよ。こうしていれば、またすぐ元気になれるから」

 

イリスは微笑み、俺の腕により強くしがみ付いた———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、カリブ海にあるセントマーティン島ニブル基地では基地長ホープ准将がリヴァイアサンの資料を見ていた。

 

ホープはミッドガルの竜伐隊とリヴァイアサンの交戦を見るため、画面にミッドガルの映像を写し出していた。

 

しかし、ホープは竜伐隊のことは気にしていなかった。彼が興味あるのは二年前、この近くで"紫"のクラーケンを徹底まで追い詰めた存在が必ず現れると確信している。

 

ホープはコーヒーを飲みながら、五日前に起こった"白"のリヴァイアサンとの戦闘を見ていた。

 

(久しぶりに見たな……さて、どうなるものか)

 

ホープはコップを置いてミッドガルが映る画面を見た。

 

「ホープ准将、ロキ少佐から通信です」

 

「分かった」

 

アラン大尉はホープにロキから通信が入っていると伝えると、ホープは返事をしてパソコンに通信を繋げた。

 

「お久しぶりです。ホープ准将」

 

画面には悠の元上官、ロキ・ヨツンハイム少佐が映った。

 

「久しぶりだなロキ少佐……一体何のようだ?」

 

「聞きたいことがありまして」

 

「聞きたいこと?」

 

ホープは首を傾げた。何のことか彼には分からなかった。

 

「ドラゴンを圧倒する少年についてです。ホープ准将は実際に彼の戦う姿を見ている筈です」

 

「ああ、そのことか……私も驚いたよ。空中に浮いていたし、手からレーザーのようなものを出していたな。そして何より急に金色の光が出したと思えば、髪の毛が金色に変色していてたよ。しかも攻撃の威力は数段に上がっていたな」

 

「ええ、私もびっくりしました。最初は何のことか分かりませんでしたが、映像を見て理解しました」

 

「そうだろうな。我々の常識を遥かに超えている。ドラゴン以上に脅威となりうる存在だ。何をしでかすか分からない」

 

「そうですか。我々も彼の捜索をしていますが足取りを全く掴めずにいます。現れるのはドラゴンとの戦闘の時だけで、その後は光となって空に向かって行くのを見る限りです」

 

ロキ少佐は三年間、亮の情報を調べていたが、全く掴めないでいる。目撃するのは必ずドラゴンと交戦している時だけで他は何も分からなかった。

 

「それより君の部下がミッドガルに異動になったのは本当か?」

 

「ええ。最強の悪竜(ファフニール)にするはずでしたがとても残念です」

 

「ファフニール計画……楽しみにしているよ」

 

「はい、それではまた」

 

ロキは通信を切って画面はプツンと消えた。

 

「宜しかったんですか?あの事を伝えなくても」

 

アランはホープに問いかけた。

 

「……ああ、あれか。確証が無ければ誰も信じる者はいないだろう」

 

「しかし、昔の資料には載っていたのでは?」

 

「ああ、そうだ。あの少年の服装は古代エジプト文明の壁画に描かれていたのとそっくりだ。何でも探検家の話では神と呼ばれていたそうだが、それを誰が信じる?」

 

「確かにそうですが……それ以外に何があるのでしょう?」

 

「確証がないのだ。たとえ本当だとしても誰が信じる?私は神など信じてはいない」

 

謎が深まるばかり。ホープたちは彼の正体が神であることを突き止めていた。本人たちは信じようとはしなかったが。




いかがでしたか?次は竜伐隊が白のリヴァイアサンと戦います。お楽しみに!
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