「待たせたな悠」
僕は悠達の前に現れた。悠の近くには義妹の深月とリヴァイアサンのつがいになった少女、イリス・フレイアがいた。
「本当にごめんな。修行に夢中で気付かなかった」
「気にするな。まだリヴァイアサンは来てない。それに俺の方こそ急に連絡をしてすまなかった」
「僕は大丈夫だよ。さてと、奴を倒すか」
僕は拳をポキポキと鳴らした。奴とまた戦えると思うとワクワクしてきた。
すると深月は俺に話掛けてきた。
「あなたは一体……」
「ああ、僕?僕は大島亮。悠の親友で世界を旅する者さ」
僕は自己紹介をした。未だに深月とイリスは驚きを隠せなかった。
すると深月は何か思い当たる節を浮かべた様子で言ってきた。
「もしかして、この五年間でヘカトンケイルやクラーケン、そして一週間以上前にリヴァイアサンと戦っている方ですか?」
「ああ、その通りだよ。ヘカトンケイルを二回倒して、クラーケンとリヴァイアサンを倒す寸前に追い詰めたのは間違いなく僕だよ」
僕は事実を言った。五年間、仕事をしながらドラゴンを四体戦っているからはっきりと覚えている。
深月は僕に質問をしてきた。
「なるほど……貴方がですか。ですが何故ここに?」
「もちろん"白"のリヴァイアサンを倒すためだよ。これも仕事だからね」
「仕事ですか……ですがこれは私たちの問題です。余計な手出しはしないでください」
もちろんここでの件はミッドガルの問題であり、無関係な僕は手を出すべきではない。しかし、今回は少しは関わっている。
「悪いけど、関わらせてもらうよ。今回は僕の責任でもあるからね」
「責任ですか?」
「ああ、もし僕を取り逃したらリヴァイアサンを倒したとしてもミッドガルの失態になるんじゃないか?」
「っ……」
深月は黙り込んだ。僕はアスガルにも知られた存在であり、他の団体も知っている。ここで逃げられたら、狙われる可能性がある。そうなってはマズイと考える深月。
「もし僕をリヴァイアサン討伐に手を貸すことを許可してくれたら、ここで捕まってやらんでもないよ。どうする?」
「深月、ここは亮の力を借りるべきだ。俺たちでも倒せるか分からんぞ」
悠も僕が戦うことに賛成のようだ。
「兄さんは彼のことを知っているのですね」
「まあな、俺もあいつの力を少しは知っている。それにあいつは悪い奴じゃないから敵になることはない」
深月を説得する悠。僕のことを知っているからこそここまで言ってくれる。
深月は少し考え、僕に言ってきた。
「分かりました。共に戦うことは許可しますが、終わった後はミッドガルの保護を受けてもらいます。よろしいですか?」
「いいだろう、交渉成立だ。さてとどうやって奴を倒そうかな」
深月に許可をもらって僕は闘志を燃やす。
「それでそっちにいるのがリヴァイアサンのつがいになった"D"か」
僕はイリスの方を見た。彼女はわたわたと戸惑っていた。
「えっと……」
「そんなに怖がらないでくれ。僕は君に対して何もしないから。それに悠の親友だから心配しなくていいよ」
「モノノベの親友?」
「ああ、半年前にあいつと会ってからの親友だ。それより竜紋はどうだ?」
僕は竜紋の状態を聞いた。イリスは脇腹にある竜紋を確認した。服の上からでも光り輝いていることが分かる。
「さっきより強くなってる。もうすぐ来る」
「そうか……なら準備をしなくちゃな」
僕は海の方を見て声を上げた。
「来たか」
悠と深月とイリスは僕の視線を辿る。
壊れたレーザーユニットの向こうに揺らめく水平線。そこに蜃気楼のごとく巨大な影が浮いていた。
その周囲で光が煌めき、小さな爆発が起こってる。
「リヴァイアサン……ついにここまで———」
深月が険しい表情で呻く。
かなりの速度で侵攻しているのか、その姿は見る間に大きくなった。
あまりに巨大で距離感が掴めない。真っ白だった外殻は、赤く斑に染まっている。環状多重防衛機構(ミドガルズオルム)や竜伐隊が与えた傷による出血だろう。
『ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン———!』
低く、大きな鳴き声が響き渡る。イリスが脇腹を押さえる。服の上からでも分かるほど、竜紋がさっきより強く輝いていた。
「あたしを呼んでる……あたしが欲しいって叫んでる———」
リヴァイアサンの意思と共鳴しているのか、イリスはうわ言のように呟いた。
「つがいを求めてるって話は本当だったんだな」
「うん……そうみたい」
体を震わせて頷くイリス。
「で、どうするんだ?」
「え?」
悠はイリスに問いかけた。
「男ってのは馬鹿だからな。大人しくしていると、勘違いして付けあがるぞ」
どこか上の空だったイリスの瞳に光が戻る。
「……あたしは、ドラゴンを許さない。大切な人をみんな奪っていったあいつに、あたし自身まで奪われるなんて我慢できないっ!」
イリスは叫び、右手に架空武装———双翼の杖(ケリュケイオン)を作り出す。
「ここから狙えるか?」
「かなり遠いけど、やってみる!最大生成量でぶつけてやるんだから!」
杖の先をリヴァイアサンに向け、集中しながらいつもの呪文を唱えるイリス。
「深月、念のため周囲の竜伐隊に距離を取るよう連絡してくれないか?」
悠は深月に呼びかける。ここからでは点にしか見えないが、大勢の"D"たちがリヴァイアサンの周囲を飛び回って攻撃を加えていた。下手をすれば巻き込む可能性があると判断したからだ。
深月は何か言いたそうな顔をしながらも頷き、首に装着していた通信機のボタンを押した。
「———こちらB3、総員A級衝爆を想定した距離を取れ。遠距離より攻撃は続行」
深月が命じると、遠方の竜伐隊は動きを変えてリヴァイアサンから離れる。
「いいぞ、イリス。やってやれ!」
「うん!聖銀よ、弾けろっ!!」
遠く離れた空を泳ぐ巨体の付近で、白銀色の爆発が起こる。
その勢いに圧されたリヴァイアサンは、わずかに体を傾けた。
「効果は?」
深月が、通信機の向こうへ問いかける。
『———対象の左側面に広範囲のダメージ。しかし深部まで傷は到達していない模様』
応答の声が漏れ聞こえてきた。
深月は息を吐き、通信を切る。
「やはり……こうなりましたか。リヴァイアサンは体の内側にも斥力場を発生させます。表皮ぎりぎりで爆発を起こしても、ダメージは重要臓器に届きません。あの能力は……あまりに万能過ぎます」
「だが、少しは効いてるハズだ。僕も攻撃するかな」
「待ってください。そんなことをすれば斥力場で跳ね返されるだけです」
「心配ないよ、僕は強いからね。あんなの突き破ることぐらい簡単さ。それに———」
僕は悠の方を見て言った。
「悠、アレは出来るか?三年前、"青"のヘカトンケイルを一撃で倒した兵器は?」
「ああ、他の"D"からも上位元素(ダークマター)を借りれば出来る」
「やはり、それが条件でしたか……三年前は私が傍にいあからあんなに巨大な物質変換ができたんですね」
「ああ、俺一人が取り出せる上位元素(ダークマター)じゃ足りないんだよ」
「悠、そのことだがちょっといいか?」
僕は悠に近づいていき、小さな声で話した。
(どうするつもりだ?ヘカトンケイルを倒した兵器は通用しない筈だ。まさか……取引をするのか?)
(そのつもりだ。前に使った兵器はリヴァイアサンに跳ね返される。だから奴に効く兵器を作り出す)
悠は"緑"のユグドラシルと取引をして、新たな兵器を使うつもりだ。しかし、これには大きな問題がある。
(そんなことをすればお前の記憶はまた失うぞ!ここは前に倒した兵器を使え。僕は奴の後方に回り込んで特大のエネルギーで攻撃する)
僕はユグドラシルとの取引に反対した。
(だが、効かないかもしれない。俺はイリスを守るためならなんだってやる)
悠は真剣な眼差しで言ってきた。原作を知っているからこいつが無茶をすることは分かっていた。こうなればやるまで主張は曲げない。
(……分かった。記憶についてはなんとも出来ないが、体にかかる負担を抑えてやる)
(悪いな)
悠は謝り、悠から僕は離れた。
「亮さんでしたね。兄さんと何を話してたんですか?」
深月は会話の内容を聞いてきた。
「ちょっとね。三年前、僕もヘカトンケイルを倒すところを見たからアレは体への負担が大きいって話してたんだ」
悠は取引については深月には内緒にしているため、知られてもいいことを言った。
「じゃあ悠、体力を回復させるよ。上位元素(ダークマター)も補給しとくからじっとしな」
「ありがとう、そんなこともできるんだな」
「まあね、僕を誰だと思ってる?」
「……そうだな、たしかにお前なら出来るな」
「だろ?それと悠。アイツはどうだ?」
僕は悠を回復させ、イリスの方を指差した。
「同じだと思わないか?三年前と」
「確かにそうだな」
「だろ?なら、イリスさんと協力したらどうだ?これは主に彼女の戦いだからな」
悠は少し考え、返事をした。
「分かった、やってみるか」
「よし、じゃあ僕はリヴァイアサンの後方に回り込むから準備ができたら通信機で言ってくれ」
「ああ、頼む」
僕はそう言って舞空術で空を飛び、リヴァイアサンの後ろに向かった。
「———深月、俺はどんなことがあってもお前の兄貴だからな」
悠はその言葉を、自分自身へ刻み込むように告げた。
「いったい何を……何をそんな当たり前のことを言ってるんですか?」
「そうだな、当たり前だ。当たり前だから……きっと忘れない」
悠は既に恐怖などないはずなのに、体が震える。
彼は深月に一度笑いかけてから、イリスの元へ歩み寄った。
「……モノノベ?」
イリスは必死に繰り返していた攻撃の手を止め、瞳を俺に向けた。
「イリス、お前の力を貸してくれないか?」
「あたしの?」
「ああ、やれるだけのことをやりたい。アイツを倒すぞ!」
悠はイリスの右手を左手で強く握る。
そして、最終防衛ライン上空に至ったリヴァイアサンを睨んだ。
僕は奴の後ろに回りこんで気を上げ、超サイヤ人になった。奴はパワーアップしているため、一週間前だったら超サイヤ人2に変身するが、僕も特訓して強くなっているため、超サイヤ人で大丈夫だ。
すると悠の方から巨大な兵器が出てきた。三年前の兵器とは違っていた。砲身は途中で二股に分かれ、内側にはレンズ状の機器が埋め込まれている。
マルドゥーク、主砲———天を閉ざす塔(バベル)。
広範囲に超重力の断層を作り出し、射線上にあるあらゆるものを押し潰す重力兵器だ。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン———……!
自らに向けられた旧文明の兵器を見てか、リヴァイアサンは低く咆える。
「準備は出来たようだな。こっちもやるか」
僕は悟空の技"かめはめ波"の構えをした。
「か〜め〜は〜め〜———」
「発射(ファイア)っ!!」
「波ー!!」
僕は空色の光を放ち、悠のマルドゥークは黒い光をリヴァイアサンの体を包み込む。
ウォォォォォォォォォォォォオォォォォオォォォォオォォォォン———……。
リヴァイアサンが鳴いている。
斥力場で僕たちの攻撃に対抗しているようだが、悠と僕の力の前では無意味だった。
「あと少しだ、イリス!!」
「うんっ!」
イリスはさらなる上位元素(ダークマター)を送り込んでいる。
膨らんでいたリヴァイアサンの巨体が今度は逆に収縮する。
周囲の超重力に押しつぶされ、爆発ごと小さく折りたたまれていく。
ヴォォォォオォォォォオォォォォオォォォォオォォォォオォォォォン!!
響く断末魔の咆哮も、空間の断層と僕の気功波に引き摺りこまれ、小さくなる。
巨竜の爆発を呑み込んで、空間が閉じた。僕も気を解除した。
天を閉ざす塔(バベル)は、小規模な爆発を起こしながら崩壊する。
空を覆い尽くさんとしていた巨体は消え、僕たちの頭上には広い青空が戻っていた。
リヴァイアサンの気を探るが気配すらない。僕たちは勝ったのだ。
超サイヤ人を解除して、悠の元へ向かう。
悠たちは倒したのか分からずにいた。僕は彼らの近くに行った。
「奴の気が消えた。僕たちの勝利だ」
「本当か?」
「ああ、本当だ。イリスさん、竜紋はどうなってる?」
イリスさんは脇腹を見る。さっきまで輝いていた竜紋は消えていた。
「やった!あたしたち勝ったんだね」
「そうだな」
イリスは勝利に喜ぶ。
「ありがとう亮、お前のおかげだ」
「気にするな。俺とお前の仲じゃないか」
悠は僕にお礼を言ってきた。
「これで仕事は終わったな。あとは———」
僕は固まってる深月の方にいく。彼女はまだ勝利したことに驚いてたままだ。
「深月さん?」
「っ!?りょ、亮さん」
深月は僕の声に驚いた。
「リヴァイアサンは倒したよ。これでもう安心していいよ」
「そ、そうですか……亮さん、ありがとうございます」
「いいよ。それより約束通り僕を保護するんだったよね」
僕は深月と交わした約束を口にする。
「はい、ですが少し待ってください。学園に向かう前に準備がありますので」
「分かった。じゃあ僕はここで待ってるよ」
こうしてリヴァイアサンとの戦いは幕を閉じた。
いかがでしたか?次回はミッドガルの長が登場します。お楽しみに!