ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。タイトルにあるように、ティアは亮たちと同じクラスになります。お楽しみください。


同じクラス

「———ティア・ライトニングが物部悠と引き離されることを強く拒んだため、彼女はこのブリュンヒルデ教室で引き受けることとなった。皆、仲良くするように」

 

全校集会が終わった後のホームルームで、篠宮先生は事務的にそう告げる。

 

悠はティアと一緒に教壇の上に立っていた。ティアがどうしても悠から離れようとしないためだ。今もティアは悠の腕にしがみ付いて、幸せそうに目を細めている。

 

(やっぱりこうなったか)

 

ティアは二年前、ある組織に攫われ、宝石を作り続けていたとき、ロキ少佐率いる特殊部隊"スレイプニル"が彼女とその家族を救い出した。

 

その時にティアを助けたのが"スレイプニル"の隊長、悠だった。

 

それ以降、ティアは悠に好意を抱いている。

 

しかし悠は昔助けた"D"なのか確かめたいが今はできない。

 

もし皆の前で問いかければ、過去に"D"を見逃したことが公になれば、悠だけではなく、深月さんの立場まで悪くなってしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!ティアさんは初等教育を受ける年齢ではないんですの?わたくしたちの授業について来れるとは思いませんわ」

 

リーザさんが困惑した様子で篠宮先生に問いかける。

 

「そうではあるのだが……彼女の発言と容姿、攻撃的な態度に、生徒の多くが怯えてしまった。無理に同年代の"D"と一緒にしても上手くはいかないだろう。それならば唯一心を開いている物部悠に任せた方が確実だ。

 

どうやらティアの指導は悠に任せるつもりだろう。

 

「物部悠、彼女の教育は君に任せる。基本的な勉強と常識、ミッドガルで生活するためのルールを、君が教えてやってくれ」

 

「な……お、俺がですか?まだ俺、ミッドガルに来て一ヶ月くらいしか経っていないんですよ?」

 

焦って抗弁するが、篠宮先生は有無を言わせぬ口調で言う。

 

「困ったことがあれば、他の者に聞け。これは対バジリスク戦に関連した任務の一つだと考えてもらって構わない。もしも彼女がミッドガルで大きな問題を起こせば、ニブルに引き渡すしかなくなる。その意味が……君なら分かるはずだ」

 

"D"はミッドガルに所属し、適切な管理を受け入れることで、正式に人権を認められている。そのミッドガルから追放されるということは、災害指定とほぼ同義だ。ニブルは彼女を容赦なく処分して、今回の事態を収拾するだろう。

 

リヴァイアサン侵攻の際、竜紋が変色したイリスさんを殺そうとしたように。

 

「…………分かりました。自信はないですが、できるだけのことはやってみます」

 

新人の悠には責任が大きすぎる任務だ。

 

けれど、幼いティアを見殺しにはできない。

 

彼女は、悠に強い好意を向けているからだ。そんな子をどうでもいいと思えるほど、奴の心は冷え切っていない。

 

「んー?お話、終わったの?」

 

ティアが悠に向かって上目遣いで問いかけてくる。自分に関する話だというのに、ほとんど聞いていなかったらしい。

 

「ああ、今日からティアは俺たちのクラスメイトだ」

 

「そうなの?じゃあここでもずっと一緒にいられるんだ!ねえ、ユウの席はどこ?」

 

「え?一番後ろの列の真ん中だけど———」

 

悠は3×3で並べられている席の後列———深月さんとイリスさんに挟まれた席を指差した。

 

というか先ほどから二人の視線は悠を向いていた。深月さんは咎めるような眼差しで、イリスさんは不満げに頬をふくらませて、悠を睨んでいる。

 

「じゃあティアも、そこにするのっ」

 

そう言うとティアは悠の腕を引っ張る。

 

「そこって……どうしても後ろがよければ、俺が変わるが」

 

「違うの、ユウもここでいいの。ほら、座って」

 

「……?」

 

ティアに促され、悠は自分の席に腰を下ろす。

 

「ふふ、それじゃあティアも着席っ」

 

ぽふんと、ティアが悠の膝に座る。

 

「お、おい」

 

「いい座り心地なのー」

 

戸惑う悠に構わず、ティアは背中を預けてくる。

 

そこでついに堪忍袋の緒が切れたのだろう。イリスが勢いよく席から立ち上がり、ティアに向かって言う。

 

「ちょっとティアちゃん!そんなところに座ったらモノノベの邪魔になるじゃない。ちゃんと空いてる席に座らなきゃダメだよ!」

 

「む……お姉ちゃん、誰?」

 

「あたしはイリス・フレイア。モノノベの……友達だよ!」

 

イリスは少し誇らしげにそう名乗る。だがティアは怯んだ様子もなく、言い返す。

 

「友達なら、そっちこそエンリョして欲しいの。夫婦の問題に口を出すのは、ヤボなんだよ?」

 

「ふ、夫婦って……ティアちゃんとモノノベはさっき会ったばかりじゃない!あたしの方がずっとモノノベと仲がいいんだから!」

 

「違うの。ティアとユウは、ずっと前から、運命の赤い糸で結ばれてるの。誰もティアたちを引き離せないの」

 

そう言うと、ティアは体勢を変えて悠の首に手を回し、ぎゅっと強く抱き付く。

 

(悠をからかうネタが増えたな。どうやってイジり倒そうかな)

 

僕の心がゲスに染まり始めていた。こうなったのも他の"世界神"たちのせいである。

 

「ティ、ティア、ちょっ……苦しいって」

 

それまでは子供相手だからと鷹揚に構えていた悠だが、あそこまで密着されるとさすがに動揺するだろう。華奢で小さな体の軽さと、肌の柔らかさを感じているだろう。この年でも既に女の子であることを意識しているはずだ。

 

「———ティアさん、自分の席で授業を受けるというのは学園のルールです。従ってください」

 

そこに深月さんは不機嫌に頬を膨らませ、ティアは深月さんに視線を向ける。

 

「また……ティアにイジワル言うの?」

 

どうやらティアは、全校集会での一件を根に持っているらしい。

 

「意地悪ではありません。そういう決まりだと言ってるんです。兄さんのことを、あまり困らせないでください」

 

「兄さん?もしかしてあなたは、ユウの家族なの?」

 

びっくりした顔でティアは目をぱちくりさせる。

 

「ええ、私は物部深月。兄さんの妹です」

 

「そっか……だったら、仲良くしないとだね。旦那さまの妹なら、ティアの妹なの」

 

ティアは気勢を弱め、深月さんに微笑みかける。

 

「……私は、自分より年下の姉を持った覚えはありません」

 

「んー、じゃあお姉さんでもいいの。それともお姑さんになる?」

 

「おままごとじゃないんですから、配役を適当に変えないでください。まったく……先生からも、何か言ってもらえませんか?」

 

深月さんは呆れた顔で溜息を吐き、篠宮先生に助けを求めた。

 

正直、このやり取りは原作通りで笑いが込み上げてきており、堪えるのに必死だ。

 

「そうだな……君の言う通り、決まりは守らなければならない。しかし、現時点で彼女にそれを理解させるのは難しい。ゆえに、今は授業の邪魔をしないという条件付きで、彼女の行動を容認しよう」

 

「そんな……」

 

深月さんとイリスさんは唖然とした表情を浮かべるが、ティアは両手を挙げて喜ぶ。

 

「やったっ!じゃあティア、静かにしてるね。いいお嫁さんは、旦那さまに迷惑をかけないの」

 

今ので吹きそうになった。竜伐隊の実力は原作と違うが、話す内容は同じみたいで体をぷるぷる震えながらも手で口を押さえた。

 

「亮さんも何か言ってください」

 

深月さんは今度は僕に助けを求めてきた。

 

「いいんじゃない篠宮先生も許可してるんだし。それに悠も満更でもないみたいだし」

 

「そっ!?そんなこと……」

 

悠は慌てて否定しそうになるが、ここで言えばティアを傷つけてしまうことになるので口を濁らす。

 

「兄さん?」

 

深月さんは悠を睨んだ。

 

「待ってくれ深月。そんな目で見るなよ。……ってかイリスもそんなに睨むなよ」

 

イリスさんも羨ましいのか悠を睨んでいる。

 

「物部悠、言っておくが彼女の特別扱いは今日だけだ。この件は、君が明日までに解決するように」

 

篠宮先生は、悠に鋭い視線を向けていった。

 

「ええっ!?」

 

つまり、今日中にティアを学園のルールに従うよう教育しろということだ。

 

「えへへー」

 

楽しそうに表情を緩ませ、両足をぱたぱたさせているティア。

 

こうして悠はティアの指導係となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからもティアは、片時も俺から離れようとしなかった。

 

ホームルームではリーザたちも自己紹介を行ったのだが、ティアは興味なさげに俺の顔ばかり見上げていた。

 

「も、モノノベ・ユウ……わたくし、負けませんわよ!」

 

おかげでリーザには対抗心を抱かれ———。

 

「……ロリコン?」

 

フィリルからは不名誉な疑惑を掛けられてしまう。

 

「物部クンばかり、ずるいな」

 

「ん」

 

アリエラとレンには不満そうな視線を向けられた。特に年の近いレンは、授業が始まってからもチラチラとティアを気にしていた。

 

「奥さんができてよかったな」

 

亮は俺をからかってくる。

 

「ティア、皆と少し話してみたらどうだ?」

 

俺はそう促すが、ティアは首を横に振る。

 

「いい。お話しするなら、ユウがいいの」

 

彼女の赤い瞳には、今のところ俺しか映っていないようだった。とりあえずティア自身のことを知らなければ、どのように説得すればいいのかも分からない。なので特別扱いされている今日だけは、ティアの好きなようにさせてみることにした。

 

「ふわぁ……」

 

授業中のティアは言われた通り、俺の膝の上で大人しくしていた。退屈そうに何度も欠伸をし、四時限目にはぐっすり眠ってしまったが、決して聞き分けのない子ではないらしい。

 

昼休みには、クラス全員でカフェテリアに行き、以前と同じように一つのテーブルを囲んだ。

 

「はい、旦那さま。あーん」

 

しかし———教室と同じく俺の膝に座り、スプーンで掬った野菜カレーを差し出されたのには困った。クラスメイトだけでなく、周囲にいる女子生徒たちからも居心地の悪い視線を向けられてしまう。

 

「……ユウ?」

 

ティアが不安そうな表情を浮かべたため、俺は仕方なく野菜カレーを頬張る。すると今度は、ひそひそとした囁き声が辺りから聞こえてきた。周りの視線が気になって、カレーの辛さもほとんど分からない。

 

「ふふ、ティアたち、新婚さんだね」

 

ティアは嬉しそうに微笑み、自分も野菜カレーを口に運ぶ。

 

この分だと、明日にはロリコンのレッテルを貼られているかもしれない。

 

亮を見ると口を押さえて笑いを堪えていた。

 

(あいつ、面白がってるな)

 

亮はこの状況を面白がっており、笑いを堪えていたために目には涙が一粒付いていた。

 

俺としては、単に子供のおままごとに付き合ってるような気分だった。

 

本人は嫁だと主張しているが、ひどく甘えん坊な妹と言った方がしっくり来る。

 

「ほら、ティア。口元が汚れてるぞ」

 

そう考えると変に意識をしなくて済むようになってきて、俺は自然にティアの口元を紙ナプキンで拭った。

 

「あう……ありがと」

 

少し恥ずかしそうに礼を言うティアも、兄目線で見ると素直に可愛いと思えた。

 

もしこうやって膝に乗り、甘えてくる相手がイリスだったなら、とても平静ではいられなかっただろう。

 

そんなことを考えて正面に視線を向けると、膨れっ面のイリスが俺を睨んでいた。

 

「ティアちゃんだけ……ずるい」

 

トマトソースのパスタに突き立てたフォークを握りしめ、低い声で呟くイリス。

 

「ず、ずるいって、何がだ?」

 

「あたし、モノノベの友達なのに……ティアちゃんより仲良しのはずなのに……あーん、なんてしたことない。だから、あたしもやる!」

 

そう言うとイリスはパスタを巻き付けたフォークを、俺の前に差し出す。

 

「あ、あーん……」

 

イリスは頬を染め、震える声で言う。

 

心臓が跳ね、鼓動が速くなるのを自覚する。

 

「お、おい、イリス……」

 

「……モノノベ、早く。恥ずかしいよぉ」

 

涙目で訴えられ、俺は躊躇いつつも口を開く。だが———。

 

キィンと金属音が響き、イリスのフォークがティアのスプーンによって弾き上げられた。

 

「ユウはティアの旦那さまなんだから、そういうこと、しちゃダメ」

 

「していいもん。モノノベはあたしの友達なんだもん!」

 

イリスは視線を鋭くし、まるでフェンシングでもするかのように、パスタ付きフォークを構えた。

 

「ちょっ、何する気だ?」

 

危険を感じた俺は声を上げるが、イリスはそのままフォークを突き出す。

 

「てやっ!」

 

「させないの!」

 

ティアが再びスプーンで防ごうとするが、イリスの初撃はフェイントだった。途中でフォークを止めてティアのタイミングを外したイリスは、スプーンのガードをすり抜けて俺の口へパスタをねじ込む。

 

「むぐっ」

 

トマトソースの味が広がり、フォークが引き抜かれると同時に、パスタが口内で解放された。

 

「やったあっ!」

 

歓声を上げ、ガッツポーズを取るイリス。

 

「あーっ旦那さまが浮気したぁ!」

 

ティアは愕然とした表情で叫ぶ。その声はカフェテリア全体に響き渡り、そこにいた全ての生徒が俺たちに視線を向けた。

 

「……お二人とも、いい加減にしてください。公共の場ではお静かに」

 

深月が怒りを滲ませた声で告げる。

 

びくっとイリスが体を竦ませ、申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「あ、ご、ごめんねミツキちゃん……少し熱くなっちゃった」

 

「ティアは悪くないのに……」

 

ぶつぶつと不満を漏らしつつも、ティアも大人しくなる。俺の妹だということで、深月の評価には気を使っているのだろう。

 

「亮さんも、この状況のどこが面白いのですか?」

 

深月は笑いを堪え続けている亮にも言った。

 

「わ、悪い……このやり取りを見てると……どうも笑いが……込み上げてきて……ぷっ」

 

「面白いわけないでしょう、亮も兄さんと同じでティアさんの教育係ですからね」

 

深月は当然のことのように言った。

 

「ちょっ!?なんで?僕そういうのは苦手なんだけど?」

 

「兄さんのサポートをしていただいて構いませんのでお願いします」

 

「そんな……」

 

亮は落ち込んで、再び料理に手をつけた。

 

「ふう……深月、助かっ———」

 

俺は礼を言おうとするが、深月の最大級に不機嫌そうな表情を見て、台詞が途中で途切れる。

 

「———兄さんの、バカ」

 

ぼそりと小さな声で呟くと、深月はそっぽを向いてしまう

 

リーザたちも呆れた顔をしており、結局ランチタイムは微妙な空気のまま終了した。

 

そしてその後もトラブルは頻発。

 

昼休みの残り時間で学園を案内したのだが、時計塔で俺がちょっとトイレに行こうとしたとき、ティアが一緒についてこようとして揉めに揉めたのだ。

 

深月が何とか説得し、ティアは俺の手を放したくれたのだが、外からずっと「ユウ、いるの?」と何度も呼びかけられ、落ち着かない気分で用を足す羽目になった。

 

———ちなみにミッドガル内で俺と亮が使えるトイレは、二ヶ所だけ。ミッドガルの中枢分である時計塔には外部の人間も時たま訪れるため、ゲスト用の男性トイレが設置されている。あとは宿舎の自室に備えて付けのトイレだ。

 

さらに午後の授業中、今度ティアがトイレに行きたいと訴え、俺を女子トイレまで引っ張って行こうとした。

 

その時も何とか根気強く言い聞かせ、外で呼びかけに応え続けるという形に落ち着いた。

 

こうして、普段の何倍も長く感じた一日の授業が終わる。

 

だが俺の任務は、ここからが本番だ。

 

「———物部悠、ティア・ライトニングは君と同じく、物部深月の宿舎で生活させる。きちんと面倒を見るように」

 

帰りのホームルームで篠宮先生はそう言った。俺はティアの教育係として、放課後に勉強を見る必要がある。それにティアは俺から離れようとしないので、妥当な処置だろう。

 

深月は不服そうな表情をしていたが、渋々といった感じで了承した。

 

亮は神界で会議があるらしく、神界に行ってしまった。急に召集がかかったようで七時までは帰ってこないようだ。

 

「では兄さん、私は生徒会の仕事があるので、先に帰っていてください。ティアさんとしばらく二人きりになりますが……くれぐれも風紀を乱すような行動は慎むように」

 

「……分かってるよ。もうちょっと自分の兄貴を信用しろ」

 

俺は苦笑交じりに頷き、ティアと一緒に教室を出た。




いかがでしょう。次は久しぶりに他の神々が登場します。お楽しみください。
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