ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。深月の宿舎で悠と深月がティアと過ごす内容です。それではどうぞ。


ドラゴン信奉者団体

宿舎へ帰り着くと、俺は早速ティアの授業を始めることにした。

 

ティアの学習進度に合わせた教材は、既に篠宮先生から受け取っている。俺はティアを部屋に通し、教科書とノートを机に広げた。

 

初等教育過程では手で書くということを覚えさせるため、紙の教材を使っているらしい。普段ノート型の端末一つで授業を受けている俺には、紙と鉛筆の感触が懐かしかった。

 

「……で、やっぱりティアはここに座るんだな」

 

当然のように膝へと座ったティアを見て、俺は溜息を吐く。

 

「うんっ、だってティアはお嫁さんだから」

 

ティアは身を捻って俺を見上げ、笑顔で頷いた。

 

「……たとえ夫婦でも、こんなに四六時中くっついてはいないぞ、普通」

 

「ヨソはヨソ、ウチはウチなの。それにティアたちは新婚さんだし」

 

「いや、そもそも結婚した覚えはないんだが」

 

俺は根本的な部分を指摘する。

 

「え———?」

 

するとティアは呆気に取られた表情を浮かべる。

 

軽はずみな発言だったかと俺は焦るが、彼女はすぐに笑顔を見せた。

 

「そういえば、まだティアたち……結婚式を挙げてなかったの!ねえ、いつにする?」

 

「い、いつって……第一、ティアも俺もまだ結婚できる歳じゃないだろ?」

 

「人間の決まりなんて関係ないの。ティアたちはドラゴンだから」

 

思わぬ台詞で反論され、言葉を失う。

 

ダメだ。ティアには人間の理屈が通じない。自分を人間ではなく、ドラゴンと思い混んでいるため、何を言っても効かない。

 

明日はきちんと授業を受けさせなければならないのだが、いったいどうすればいいのだろう。

 

「…………ティア、この問題については、また後で話し合おう。今は勉強の時間だ。ほら、教科書開いて」

 

しばらく考えたが、結局問題を先送りすることしかできなかった。

 

「えー……約束だよ?ちゃんと結婚式の日取り、決めようね?」

 

「できれば、もう少し前の段階から議論をしたいんだが……」

 

説得するどころか、俺の方がどんどん追い詰められている気がする。

 

何とか逆転の秘策はないものかと考えながら、俺はティアの授業を開始した。

 

一度勉強に集中すると、ティアは優秀な生徒だった。テキストを読み、分からないところがあれば質問し、あっという間に知識を吸収していく。

 

語学に関しては日本語を含む三ヶ国語を、日常会話レベルで高いこなせるようだった。

 

(誰か、良い教師がいたんだろうか)

 

ティアの姿から考えて、普通の学校に行っていたとは考えにくい。だがティアは同年代の子に負けない教養を備えていた。

 

日本語での喋り方が子供っぽいので内面も幼いのだろうと考えていたが、むしろ逆なのかもしれない。

 

授業はとてもスムーズに進み、夕食前には今日のノルマを終えてしまった。

 

七時になると帰宅した深月が俺たちを呼びに来た。亮も"神界"の仕事を終わらせて戻ってきており、一緒に食堂で夕食を食べる。

 

「……ティアさんの教育は、不調なようですね」

 

俺の膝を指定席にしてしまってきるティアを見た深月は、落胆した様子で言う。

 

「でも、勉強に関しては順調のようだぞ。テキストを見たけどほとんど正解してるし」

 

亮はティアが解き終わった問題集を見て言った。

 

「そうだけど……ルールを教えるのは難しくて」

 

頭を掻きながら答えると、深月は溜息を吐いた。

 

「分かりました。では、ルール教育に関しては私が引き受けましょう。生徒会長として、ティアさんの勝手気ままな行動を放っておけませんから」

 

そうして夕食後は、俺の部屋で深月による教育が始まった。

 

だが———。

 

「……ですから、ティアさん。規律に従ってミッドガルで生活することにより、私たちは世界から存在を認められ———」

 

「そんなの人間が勝手に決めたことなの。ティアはドラゴンだし関係ないの」

 

「…………」

 

もう何度目かも分からないティアのドラゴン理論の前に、深月はがっくりと肩を落とした。

 

「兄さんの苦労が、よく分かりました」

 

深月はティアの椅子となっている俺に、疲れた顔を向ける。

 

「だろ?いくらルールを納得させようとしても無理なんだよ」

 

ようやく仲間を得られた気分で、俺は苦笑を返した。

 

「少し休憩したらどうだい?アイス作ってきたから食べなよ。ティアちゃんはイチゴとチョコとバニラ、何にする?」

 

亮は扉を開け、アイスを四つ持ってきた。

 

「ティアはイチゴがいいの」

 

ティアは鉛筆を机に置いて、アイスに興味を示した。

 

「はいよ。悠と深月さんも休憩にしたら」

 

亮はティアにアイスを差し出すと俺たちに顔を向けて言った。

 

「……そうですね。少し休憩しましょう。亮さん、チョコ味をお願いします」

 

「はいよ、悠はバニラでいいか?」

 

「ああ、ありがとな」

 

亮からアイスを受け取り、食べながら休憩した。

 

「美味しいです。亮さん、料理もできるんですか?」

 

「趣味で作ってるだけだよ。材料は前から買ってあったからすぐにできたよ」

 

亮は頭を掻いて照れていた。

 

「ホントに美味いな。深月と同じくらいだ」

 

「うん、美味しいの。リョウ、ありがとうなの」

 

ティアの口にも合っていたようで、亮に礼を言う。どうやら亮には心を開いてくれたようだ。

 

「どういたしまして……いつの間にか九時過ぎてるな。そろそろ風呂に入るか」

 

亮はアイスを食べ終え、自分の部屋に向かおうと立った。だがその直後にティアが口にした言葉を聞いて、動きを止めた。

 

「じゃあティア、ユウと一緒にお風呂入るの!」

 

「やっぱりそう来ましたか……」

 

深月は自分の額に手を当て、低い声で呟く。

 

「ティア、頼むから風呂は一人で入ってくれないか?トイレのときみたいに、ちゃんと外で待ってるからさ」

 

俺はできるだけ優しい口調で頼んでみるが、ティアはぶんぶんと首を横に振る。

 

「や!ユウと入るの!旦那さまはいつも一緒じゃないとダメなの!」

 

「……どうしてティアは、俺と離れることをそんなに嫌がるんだ?俺は別にいなくなったりしないぞ?」

 

思い切って、踏み込んだ質問をしてみる。するとティアは表情を曇らせた。

 

「ダメなの……ティアが傍にいないと、きっと、消えちゃうの」

 

「消える?」

 

「…………」

 

俺は言葉の意味がよく分からずに問い返すが、ティアは口を引き結んで答えてくれない。

 

無言で俺の服をぎゅっと掴み、テコでも動かぬ姿勢だ。

 

「分かりました。仕方ありませんね……」

 

深月が漏らした言葉を聞いて、俺は驚く。

 

「え?まさか、許可するのか?」

 

生徒会長である深月が、混浴を認めるなど信じられない。以前、イリスに背中を流してもらったことが露見した際は、大量の反省文を書かされたのだ。

 

「はい、ただし条件付きですが。こうなることは半ば予想していました。なので、対策は用意してあります。少し待っていてください」

 

そう言って深月は部屋を出て行き、すぐに荷物を抱えて戻ってきた。

 

「それは……?」

 

俺は深月が持ってきた物を指差して訊ねる。

 

「水着とパジャマです」

 

真剣で答える深月。今まで黙っていた亮が口を開く。

 

「…………水着なら、いいのか?」

 

深月にしてはずいぶんな譲歩だと思い、確認してみる。

 

「水着は学園指定のものです。温水プールに入るのだと思えば、風紀上の問題はないと思います。た、ただし、監視役として私も同行しますが」

 

頬を赤くし、深月はさらに予想外のことを告げた。

 

「な……深月も入るのか?」

 

「———何か問題が?兄さんはティアさんと二人っきりで、いちゃいちゃとお風呂を満喫したいのですか?」

 

「そ、そんなわけないだろ」

 

慌てて否定する。ただ———深月と風呂に入るのだと考えた時、何故だかとても落ち着かない気分になったのだ。深月は妹で、意識する必要もないはずなのに。

 

「だったら構いませんよね?私も兄さんと入ります」

 

(……兄さんと?)

 

話の中心はティアのはずだったので、言い回しに少し違和感を覚える。だが深月の眼光に気圧され、俺はそれを指摘することなく頷いた。

 

「わ、分かった……」

 

「よろしい、では———お風呂タイムです」

 

声を弾ませ、そう宣言する深月。何だか、妙に楽しそうだ。

 

子供の頃を思い出しているのかもしれない。

 

(あれ、でも……俺は深月と、風呂に入ったことがあったか?)

 

兄弟ならば、幼い頃は一緒に入るのが普通だろう。

 

だがいくら考えてみても、そんな記憶はどこにも見つからなかった———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに、三人で入ると狭いですね……」

 

スクール水着に着替えた深月が、バスルームを見回して言う。白い肌に貼りつく紺色の水着は、深月のスレンダーな体型をぴっちりと際立たせていた。

 

「これがミズギ……?なんかピチピチで変な感じなの」

 

ティアはこれまで水着を着たことがないらしく、物珍しげに肩ひもを手で伸ばしている。

 

目を引くのは、ティアの太ももに浮かび上がる赤い竜紋だ。

 

(バジリスクに見初められると、赤く変色するのか)

 

イリスのときは白だった。ドラゴンによって"D"の反応も異なるらしい。

 

「……兄さん、視線が怪しいですよ」

 

じっとティアの竜紋を見ていると、深月に耳を引っ張られてしまった。

 

俺も当然ながら男子用の水着を身に着けている。こうして水着で風呂場にいると、何だか妙に場違いな感じがした。女の子が二人もいるせいか、空気はどことなく甘い香りがする。

 

ここは一人部屋のバスルームなので、当然ながら多人数で入ることは想定されていない。三人も入ると、体を洗うスペースはなくなってしまう。深月も同じことを思ったらしく、困った顔で窮屈な洗い場を眺める。

 

「三人同時に洗うのは難しそうですね。兄さんは先に湯船へ浸かっていてください。途中で交代しましょう」

 

「分かった」

 

俺はお湯を体に掛けて軽く汗を流してから、湯船へと足を入れる。そのまま肩まで体を沈めると、お湯が縁ギリギリまで迫り上がった。

 

「あ、ティアも入るの!」

 

だがせっかくスペースを作ったというのに、ティアが湯船へ飛び込んでくる。水しぶきが高く上がり、お湯が大きく零れ落ちた。

 

「ちょっとティアさん、何をやってるんですか!まずは私と体を洗いましょう」

 

深月が咎めると、ティアは頬を膨らませる。

 

「や。ティアは、ユウと一緒なの」

 

そう言うと、ティアは湯船の中で俺に体を寄せてくる。

 

「ティ、ティア———そんなにくっつかないでくれ」

 

水着越しに伝わる柔肌の感触に動揺する。

 

取り残された深月は、しばらく立ち尽くした後、意を決した様子で口を開いた。

 

「だったら……私も入ります」

 

「へ?お、おい?」

 

強引に湯船の中へと入ってくる深月。もちろんこちらも三人用ではないため、非常に窮屈な状況になる。全員の体が密着し、ザァーッとお湯が流れ出た。

 

肘に柔らかな感触が触れ、俺は慌てて体勢を変えようとするが、今度は膝が深月の内腿に入り込む。

 

「やっ……に、兄さん……そこは、いけません」

 

「わ、悪い」

 

体をねじると、肌と水着が擦れ合う。

 

「ん……」

 

熱っぽい吐息を漏らす深月。

 

「えへへー、旦那さまー」

 

ティアはむしろ嬉しそうに、ぴとりと体をくっつけてきた。

 

身動きが取れなくなった俺は、二人に訴える。

 

「やっぱ三人は無理だって。どっちか外へ出てくれないか?」

 

「や。ティアはユウから離れないの」

 

細い両腕を俺の体に絡めるティア。

 

「……ティアさんが出ないのなら、私も動きません。監視役ですから。というか二人とも密着しすぎです」

 

深月はそんなティアと俺の間へと割り込むように、ぐいぐいと体を寄せてくる。

 

水着が少しずれ、小さいが形がいい胸の谷間が覗く。

 

「もうっ、邪魔しないで欲しいの」

 

ティアは抵抗し、より強くしがみ付いてくる。狭い湯船の中は、まるでおしくらまんじゅうをしているかのような様相を呈してきた。

 

「ふ、二人が出ないなら、俺が出る」

 

俺にとってまだ子供にしか見えないティアと、妹の深月。

 

この二人ならばイリスのときのように、妙な意識はしないで済むと思っていたのだが……もう耐えられそうにない。まだお湯に浸かって間もないのに、顔がどうしようもなく熱くなってきた。

 

「ダメーっ!旦那さまがお嫁さんを置いていったらいけないのっ」

 

しかしティアが覆いかぶさるようにして、俺を逃すまいとする。

 

「ティアさんは兄さんについていくんですから、外へ出ても同じです。湯船を出るのは、もう少し温まってからにしましょう。兄さんたちに風邪を引かれては、管理責任を問われてしまいます」

 

深月もそう言って、俺の手を掴んで引き留める。

 

既に体は十分熱いのだが、深月の言葉と眼差しには抗い難い力があり、俺はしばしば湯船の底に腰を落とす。

 

そしてそれから約十分———はしゃいでいたティアがのぼせかけるまで、俺は変なことを考えてしまわぬよう、頭を空っぽにして耐え続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ちよさそうに眠っていますね」

 

俺のベッドで寝息を立てているパジャマ姿のティアを眺め、深月が頬を緩める。

 

「……これでやっと解放される」

 

大きく息を吐いた俺は、勉強机の椅子に深々と腰をかけた。

 

「二人とも、お疲れ様」

 

亮は苦笑を浮かべながら俺たちを労う。風呂から上がった後、俺たちはそれぞれ寝間着に着替え、冷たい飲み物でのどを潤していたのだが……気が付くとティアはうつらうつらと舟を漕いでいた。

 

それでとりあえず俺のベッドに寝かせたところ、あっという間に眠ってしまったのだ。

 

「けど、任務は失敗だ。結局、今日中にティアを説得できなかった」

 

恐らく明日もティアは、俺の膝で授業を受けようとするはずだ。

 

「ティアさんにルールを教えられなかったのは、私も同じです。明日は私からも篠宮先生に説明して、期限を延ばしてもらいます」

 

「ありがとう深月、助かる。ただ……ティアの"自分はドラゴン"だって思い込みを何とかしないことには、いくら時間を掛けて言い聞かせても無駄だろうな」

 

ドラゴンには人間が決めたルールなんて関係ない———その一言であらゆる説得が無意味になってしまう。

 

「……正直、こんなにも頑固な子だったのは予想外でした。彼女はニブルに保護されたときも、ミッドガルへ移送されて検査を受けたときも、全く抵抗しなかったと聞いていましたから。ずっと無表情で、大人しく言うことに従っていたそうです」

 

「今とは、ずいぶん印象が違うな」

 

ころころと目まぐるしく表情を変えるティアに振り回された直後の俺は、すぐには信じられない。

 

「はい、全校集会の前に会ったときとは、まるで別人です。最初は、無口で従順な子に思えたのですが……」

 

「つまり性格が豹変して見えるほど、"D"が人間だって発言は、ティアにとって聞き逃せないものだったわけか。なあ、ティアがどんなどんな環境で生活していたのかは分からないのか?」

 

俺がそう訊ねると、深月はちらりとティアの様子を窺う。

 

「———下校前に、篠宮先生からできるだけ詳しく教えてもらいました。ティアさんは、よく眠っているようですし、今なら話しても大丈夫でしょう。彼女には、あまり聞かせたくない話ですから」

 

その言葉に俺は眉を寄せる。

 

「まさか、ティアはひどい目に遭っていたのか?」

 

ティアの思想は、"D"の排斥団体と似通っている部分があった。まさかそういった組織に捕らえられていたのかと心配になる。

 

だが深月は、ゆっくりと首を横に振った。

 

「———いいえ、その逆です。ティアさんは崇められていました」

 

「崇められていた?」

 

「ニブルの部隊がティアさんを発見したのは、ドラゴン信奉者団体"ムスペルの子ら"の武装車両内だったそうです」

 

その名を聞いた俺は息を呑む。

 

「"ムスペルの子ら"……世界最悪のテロ組織じゃないか」

 

ドラゴン信奉者団体というのは、"D"の排斥団体とは全く考え方が逆の人々だ。人智を超えた怪物であるドラゴンを神と崇め、敬う。ドラゴンの脅威に晒された世界で、そういった新興宗教が生まれたのは、ある意味必然だった。

 

崇めるというのは、絶対的な恐怖なら逃れる方法の一つ。自分はドラゴンの使徒だと信じることで、心の安定を保つのだ。

 

そんなドラゴン信奉者団体の中でも、"ムスペルの子ら"は非常に過激な思想を有している最大派閥。ドラゴンを倒そうとしている国や組織にテロを仕掛け、活動を妨害し続けている。当然ながらアスガルやニブルもその対象だ。

 

「あいつらは竜災にあった国に入り込んで信徒を増やそうとすると聞いているよ。確かリーダーが災害指定された"D"だったな」

 

それまで黙っていた亮が口を開く。やはり神というだけあって詳しい。

 

「え……?リーダーが"D"?」

 

深月が目を丸くするのを見て、俺は説明する。

 

「公にはなっていないが、"ムスペルの子ら"のリーダーの名はキーリ・スルト・ムスペルヘイム———ニブルでは"ドラゴンよりも多くの人間を殺した魔女"として恐れられていたよ。俺は結局、出くわすことがなかっけどな」

 

もしも出会っていたら、それまで殺すか殺されるかの状況になっていただろう。俺が手を汚さずにいられたのは、彼女と巡り合わなかったからでもある。

 

「そんな……"D"がテロ組織を率いているだなんて」

 

深月はショックを受けた様子で声を震わせた。

 

「表沙汰になれば"D"の社会的地位は、一気に危うくなるだろうな。だから、ミッドガルやその恩恵を受けている国々が情報統制しているのさ。深月が知らなかったのも当然だ」

 

「もしかしたら、奴らは"D"のドラゴン化は知っているのかもしれない。武装車両にティアちゃんを乗せてバジリスクに捧げればドラゴンが増えると思ったのだろう」

 

「もしそうでしたら理解不能です」

 

「テロリストの考えなんて分からんさ。でもキーリはそれを知っているとすれば、ヤバイな。ミッドガルも危なくなってくるだろう」

 

亮は言葉を続けた後、グラスにある飲み物を飲むと机に置く。

 

「ドラゴン信奉者たちがドラゴンを増やすためにティアちゃんにそう言い聞かせていれば辻褄が合うな。だが、ティアちゃんが言われたことを疑問もなく受け入れる子には思えないな」

 

亮の言う通り、今日、勉強を見ていて分かったが、ティアは頭のいい子だ。分からない部分はきちんと質問し、理解しようと試みる。知識に根拠を求めるティアが、ドラゴン信奉者たちの出鱈目な教義を素直に信じ込むだろうか。

 

「そうですね……ティアさんは自分をドラゴンだと心から信じているのではなく、無理やり自身に言い聞かせているような印象を受けます」

 

(言い聞かせている、か)

 

確かに、指摘されてムキになるのは、揺らぎがある証拠だ。

 

人間は時に恐怖から逃れるため、ドラゴンのような怪物すら神と崇める。有り得ないものを信じようとする。もしティアが心の安定を保つために、自分をドラゴンだと信じているのなら……それは何から"逃れるため"なのだろう。

 

「なあ———ティアを保護したとき、傍に両親はいなかったのか?」

 

「分かりません。少なくとも、私の聞いた限りではティアさんの両親に関する情報はあまりありませんでした」

 

「そっか……これに関しては直接聞くしかないか」

 

すやすやと眠るティアの寝顔を見ながら呟く。

 

「今日は眠ってしまったから、明日聞くしかないな。僕も寝るね」

 

そう言うと亮は立ち上がり、部屋を出ようとした。

 

「ああ、おやすみ」

 

「はい、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

亮は返答に応じて部屋を出た。

 

「私たちもそろそろ寝ましょう」

 

「そうだな」

 

俺たちはグラスを片付けてから眠りについた。




いかがですか?次はブリュンヒルデ教室と打ち解けるかもしれません。お楽しみください。
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