ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです!悠がティアの過去を知ります。それではどうぞ!


選択

ティアちゃんが演習場を破壊してから少し時間が経ち、僕たちはその後始末をしていた。

 

今は保健室で休んでいるため、目覚めるまで時間がかかる。目を覚ました後は悠がティアちゃんを説得するだろう。人間として生きるか、ドラゴンとして生きるか。

 

僕は原作を知っているため、心配はしていない。必ずティアちゃんは人間として生きることを選ぶはずだ。

 

僕は杖で瓦礫を宙に浮かせ、一箇所に集めた。他のみんなも空気変換をして瓦礫を集めている。

 

「オオシマ、もうすぐ終わるね」

 

僕の近くにイリスさんが空気変換で瓦礫を集めている。

 

「そうだな。あとは演習場を元通りにするだけだけど、上位元素(ダークマター)を使うのか?」

 

「そうだね。時間はかかるけどこれが一番早い方法だからね」

 

"D"は上位元素を使って物資変換を行えるので、こういったことには便利だ。

 

僕なら杖で元に戻せるが、そんなことをすればみんなに怪しまれるため、力を隠しているが、これだとやりづらい。

 

やはり正体を明かすのが良いと思うが、それだと混乱を招くため、やめておく。

 

「ティアちゃん、大丈夫かな?」

 

イリスさんがティアちゃんのことを心配している。

 

この先、悠を巡って彼女と低レベルな争いをすることは知っている。そう考えると悠をからかうネタが増えるだろう。

 

ちなみにこんなことを考えてしまうようになったのは全て一部の"世界神"のせいである。

 

ブリュンヒルデ教室のクラスメイト以上に濃い性格のため、感染ってしまった。

 

「大丈夫だ。悠なら何とかしてくれる」

 

僕は悠を信じている。あいつのことはよく知っているので、信頼はある。

 

「そうだね、モノノベなら心配ないね」

 

イリスさんも悠のことを信頼している。いや、恋をしている。彼女は悠が学園に転入してから徐々に好意を抱いている。この後も彼女は悠を意識してしまうだろう。

 

「これで最後だな。じゃあ運ぶか」

 

「そうだね」

 

最後に残った瓦礫を浮かせ、僕たちは隅に集めた瓦礫のあるところに向かう。

 

そこには深月さんもいた。どうやら彼女も瓦礫を集め終わったようだ。

 

「亮さん、イリスさん、ありがとうございます。もうすぐ終わりますね」

 

深月さんは僕たちにお礼を言った。

 

「ああ、後は演習場を修復するだけだな」

 

僕は宙に浮かせた瓦礫を静かに置いた。みんなも瓦礫を浮かせて集まってきた。

 

「これで最後ですわ」

 

「そうだね……」

 

リーザさんとフィリルさんが一箇所に集めた瓦礫を置いた。

 

「ふう〜、何とか早く集まったね」

 

「ん」

 

アリエラさんとレンちゃんも集めた瓦礫を地面に置き、空気変換を解除した。

 

「皆さん、お疲れ様です。後は演習場を修復するだけです」

 

深月さんの言う通り、演習場を元通りにしないと明後日の授業には使えない。他の演習場を使うことはできるが、他のクラスも使うため、そのままにはできない。

 

「上位元素(ダークマター)で壁や床を修復すればいいだけたな」

 

「はい、では亮さん。後はお願いします」

 

「え?」

 

深月さんは演習場の修復を僕に頼んできた。

 

「深月さん?何で僕だけなの?」

 

僕は深月さんに聞いてみた。彼女は僕の正体を知っているため、他の生徒には隠している。もしここで力を使えば神であることがバレてしまう。

 

「亮さんなら一瞬で修復できますからお願いをしているんです」

 

深月さんは当然のように言ってきた。たしかに僕なら杖を使えば一瞬で修復できるが、そんなことをすれば怪しまれる。

 

「たしかにこれを使えば一瞬で修復できるけど、上位元素と体力の消費は激しいんだけど……」

 

僕は嘘を吐いた。上位元素と体力は一切使わないが、そうでも言わないとみんなに怪しまれるため、出鱈目なことを言う。

 

「あなたなら大丈夫です。皆さんにこれ以上手を煩わせるわけにはいきません」

 

「そのみんなの中に僕も含んでるんだけど……」

 

僕は深月さんにつっこんだ。

 

「亮さん?私はあなたの弱みを握っているんですよ?」

 

「弱みだと?」

 

深月さんは僕の弱みを握っていると言うが、まさか神であることをみんなに言いふらすとか言い出すかもしれない。

 

「あなたの正体を皆さんにバラしますよ?」

 

やっぱりそうなったか。しかし、よく考えると、バレても問題は無いと思う。バレたとしても、生活に支障は無い。みんなは驚くだろうが、ドラゴンを倒して信頼を得れば心配はない。

 

「別にいいよ?僕はバレても問題は無いから」

 

僕は堂々として深月に言った。

 

「本当にいいんですか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

深月さんはもう一度聞いてきたが、僕は余裕に返事をした。

 

「……仕方ありません」

 

深月さんは僕の態度を見て、ポケットから紙を取り出した。

 

「ん?何その紙は?」

 

僕は深月さんが取り出した紙について聞く。

 

「実は今朝、全王さんという方から連絡がありました」

 

「え!?」

 

僕は深月の言葉から全王様の名前を聞いて驚いた。

 

「ぜぜぜぜ全王様から!?」

 

僕は焦って聞き返した。

 

「え、ええ、お知り合いのようですね。亮さんのことが心配で連絡してきたそうです」

 

深月さんは少し驚いた様子だった。たぶん全王様が世界一偉い神様であることを知らないだろうが、名前を知っているということは本当に今朝、深月さんと連絡を取ったのだろう。

 

深月さんから、全王様の名前が出るとは思っていなかった。顔から大量の汗が出ていることに気付いていなかった。

 

「ぜんおうさま?何それ?」

 

「わたくしも初めて聞く名前ですわ」

 

「私も。だけど……」

 

「あの大島クンがあんなに怯えてるなんて……」

 

「ん」

 

イリスさんたちは僕が動揺している姿に状況を呆然と立ち尽くしていた。

 

「何故全王様があんたに?」

 

僕は驚きながら聞いた。

 

「ですから、亮さんが心配で連絡してきたそうです。もし言うことを聞かない時はあなたの弱みを言えば大丈夫だとおっしゃっていました。それでも言うことを聞かないならその方に報告すればいいとのことです」

 

「そっ……そんな、ぜっ……全王様が……」

 

僕は動揺した。まさか全王様がそんなことを言ってくるとは思いもしなかった。もし全王様のご機嫌を損ねれば、十二の世界全てを消すだろう。

 

それにあの紙は僕の弱みが書かれているのだろう。字を見ると神の言語で書かれているため、深月さんも内容は知らない筈だ。

 

しかしよく見ると、神の言語には出鱈目な文章のため、もしかしたら自分の名前を出せば、僕が言うことを聞くと考えたのだろう。

 

「わっ、分かった!演習場はすぐに修復するから。頼むから全王様にだけは報告しないでくれ!この通りだ!」

 

僕は頭を下げてお願いした。全王様が関わっていれば、動揺するのも仕方ない。……ビルスとシャンパの気持ちがよく分かる。

 

「で、ではすぐにお願いします」

 

深月さんはこんなに動揺するとは思っていなかったような表情で僕に指示を出した。

 

「りょ、理解!」

 

僕は杖の先端を演習場に向け、青く小さい光を大量に撒き散らした。

 

すると演習場は一瞬で元通りになった。抉られた部分も何事もなく修復していた。

 

「「「「「「おお〜」」」」」」

 

みんなは僕の力を見て驚いた。一瞬で元通りにしたのだから、驚くのは無理もない。

 

「ふぅ〜終わった……。これで大丈夫だ」

 

僕は杖をしまい、一気に力が抜ける。

 

「お疲れ様です。瓦礫はこちらでなんとかします。それで、全王さんとは?」

 

深月さんは全王様のことを聞いてきた。

 

「全王さんではない。全王様だ」

 

僕は様付けをするように警告する。

 

「いいか?全王様には絶対に粗相がないように。あの方の機嫌を損ねればまずいことが起きる。たとえアスガルやニブルを敵に回すことがあっても、全王様だけは絶対に刃向かうなよ」

 

「わっ、分かりました」

 

僕は深月に詰め寄り忠告すると、深月さんもたじろいた。

 

イリスさんたちも僕の焦った状態を見て呆然としていた。

 

「……いろんな意味で疲れたよ。もう授業はないんだっけ?」

 

「はい、もう解散しても大丈夫だそうです」

 

ティアちゃんが暴走して、午後の授業が無くなったのでこれで宿舎に帰れる。今日はすぐに帰って寝ようと思った。

 

プルルルルルルルル———!

 

すると深月さんのポケットから個人端末が鳴り出した。

 

「兄さんですか?……はい……え?……分かりました。伝えておきます。では」

 

深月さんは通信を切った。どうやら悠から連絡があったようだ。多分原作でのあのことだろう。

 

「皆さん、ティアさんが目を覚ましました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とティアは一旦教室に戻り、制服に着替えてから、鞄を持って学園を出る。

 

他の皆はまだ演習場の後始末に追われているのか、教室に姿は見えなかった。

 

午後の実習も演習場の破損で中止になったため、今日の授業はもうない。俺たちは昨日と同じように宿舎への道を歩き、砂浜へと降りて靴を脱ぐ。

 

「わぁー、昨日より海の中がよく見える気がするの!」

 

波打ち際でティアは海を覗き込み、笑みを浮かべてはしゃぐ。昨日訪れたのは夕方だったので、昼の海とはまた印象が違うのだろう。

 

白い飛沫を上げて寄せるさざ波が、俺たちの足首を撫でていく。

 

足の裏で波を叩くティアを見ながら、俺は静かに問いかけた。

 

「なあ、ティア。昨日よりも、リーザたちのことは好きになれたか?」

 

「う……うん、いい人たちだっていうのは、分かったかも」

 

少し照れ臭そうに答えるティア。フィリルの漫画がきっかになり、皆と言葉を交わしたことで、昨日まであった警戒心は多少薄れているようだ。

 

「でもな、さっきティアは……リーザに怪我をさせてしまうところだったんだぞ?」

 

「……え?」

 

ティアは目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。

 

「架空武装を作ろうとしたティアは、ドラゴンの姿になって暴れ回ったんだ。暴風と雷撃で演習場は滅茶苦茶になった」

 

「そ、そんな……ティア、そんなこと———」

 

震える声で首を横に振るティア。

 

「わざとじゃないのは分かってる。あの時のティアは、正気を失くしていた。でも、リーザたちを危ない目に遭わせた事実は変わらない。だからティアには皆に謝って、もう二度と同じことはしないと約束して欲しいんだ」

 

俺は身を屈め、ティアと視線を合わせて言う。

 

「わ、分かった!ティア、謝るの!早くみんなのところに行こっ!」

 

焦った様子で、ティアは俺の腕を引っ張る。先ほど、保健室で会った穂乃花と同じように、ティアは失敗を悔やんでいるようだった。

 

「……やっぱり、ティアは良い子だな。でも、今のままだとティアはその約束を守れない。たぶん同じ失敗をまた繰り返す。自分を———ドラゴンだと思い込んでいる限り」

 

「え……思い込むって、何?ティアは、本当にドラゴンなの。ユウたちも、ドラゴンなんだよ?」

 

きょとんとした顔で問い返すが、その瞳はわずかに揺れていた。

 

「いや、俺たちは人間だ」

 

「どうして……ユウまでそんな意地悪を言うの?ティアたちはドラゴンなの!こんな力を持っているのが、証拠なのっ!」

 

ティアの周囲に上位元素が生成され、電気へと変換される。バチッと目の前で火花が散った。しかし俺は怯まず、ティアの瞳を正面から見つめる。

 

「確かに、そういう見方もあるかもしれない。だったら言い方を変えよう。少なくともミッドガルで暮らす"D"たちは皆、人間として生きているんだ」

 

「人間……として?」

 

「ああ、だからティアが"ドラゴン"として生きる限り、共存はできない」

 

ティアの目が大きく見開かれる。

 

「それって……一緒に、いられないってこと?」

 

「そうだ。だから俺はティアに……人間になって欲しい」

 

俺はティアがブリュンヒルデ教室の家族となるために必要な、唯一の条件を口にする。

 

「無理なの……だってティア、ドラゴンなの……こんな角だって、あるんだもん。絶対に、もう、人間じゃないの……」

 

赤い角に手をやり、俺の言葉を拒絶するティア。

 

「角があっても関係ない。俺にとって、ティアは可愛い女の子だ。たぶんリーザたちにとっても、同じだと思うぞ」

 

「でも、でもっ……」

 

優しく語りかけるが、ティアは何度もかぶりを振る。

 

「ティアはどうしてそんなに、ドラゴンでいたいんだ?あの戦場で別れてから、何があったのか教えてくれ。一緒にいた両親はどこへ行ったんだ?」

 

「パパとママは、いないの。あの人たちは……偽物だったの」

 

ティアは表情を固くして俯く。

 

「だったら、偽物のパパとママのことを聞かせて欲しい」

 

俺はティアの頬に手を当て、ゆっくりと上を向かせた。至近距離で視線が交わる。

 

しばらく沈黙が続き、波の音だけが規則的に響く。

 

ティアの赤い瞳が潤み、頬に朱が差す。

 

「……ユウは、そんなにティアのこと、知りたいの?」

 

「ああ、これからも一緒にいたいから、知りたいんだ」

 

俺がそう答えると、ティアはごくりと唾を呑み込み、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「……ユウに助けられた後、ティアはあの人たちと一緒に、別の国で暮らしてたの」

 

あの人たちというのは、両親のことなのだろう。決してパパとママとは呼ばずに、ティアは瞳に涙を浮かべながら言葉を続ける。

 

「あの人たちは前より優しくなって、ティアが力を使わなくても笑ってくれるようになったの。外で畑仕事をするのはしんどかったけど、ちょっとだけ楽しかった。だけど全部……家も、畑も、あの人たちも……ある日突然、燃えて消えちゃったの」

 

「燃えてって……火事に遭ったのか?」

 

「ううん、違うの。ティアが会ったのは———キーリ」

 

「……っ」

 

その名を聞いて表情が強張る。

 

(ここでも、キーリの名を聞くなんて)

 

ティアは"ムスペルの子ら"に囚われていた。組織のリーダーであるキーリと接点があってもおかしくないが、まさかティアから家と両親を奪った相手だったとは。

 

「キーリは、ティアに言ったの。あの人たちは本物じゃない。だからては何も失くしてないんだって。ティアはドラゴンで、本当のママ———"黒"のヴリトラがいて、世界中にたくさんの"D"が……姉妹がいるんだって教えてくれたの」

 

それを聞き、俺はやっとティアが"何から逃げているのか"を理解した。

 

ティアは両親の死から目を背けるため、キーリの言葉にすがってしまったのだろう。

 

自分を人間だと認めれば、両親を失った現実を受け入れなければならない。そんな状況のティアに、普通の説得が通じるはずがない。理屈で諭せるわけもない。もしかしたら最初から自分はドラゴンだと疑問に思っていたのかもしれない。

 

「———聞かせてくれてありがとう、ティア」

 

俺は礼を言って、ティアの頭を撫でる。

 

「ユウはティアのこと……分かってくれた?」

 

「ああ……よく分かったよ。ティアの考えが間違っているとは、もう言わない」

 

「よかったの……」

 

ほっとした顔をするティアだが、俺はさらに言葉を続けた。

 

「でも、キーリが口にした言葉は訂正させてくれ。ティアがドラゴンとして生きる限り、人間として生きる"D"とは姉妹になれない。俺やリーザたちと家族にはなれないんだ」

 

「え———?」

 

涙を拭ごうとしていたティアの表情が一瞬で凍りつく。

 

「ズルい言い方かもしれないけど、今のままじゃ手に入らないものがあることを、分かってくれ。俺は、ティアに人間であることを選んで欲しいんだよ」

 

ティアの考えを否定するのことはできない。無理に現実を突き付けても、受け入れる覚悟がなければ心は壊れてしまう。だから得る物、失う物を提示した上でティア自身に選んでもらうしかなかった。

 

「選ぶ……?ユウの言っていること……よく、分からないの」

 

「……そうだな、確かに言葉だけじゃ上手く伝えられないな。だったら、見せてやる。ティアが人間になれることで、手に入れるものを」

 

俺はそう言うと、鞄から個人端末を取り出す。

 

「何するの?」

 

不安そうに問いかけてくるティアに、俺は笑みを返した。

 

「まだ日も高いからな。もう授業もないし、これから皆で遊ぼう。たぶんティアのためだって言えば、クラスメイト全員集まってくれるだろ」

 

「どうして……?ティア、みんなにひどいことしたんじゃないの?リーザ、怒ってないの?」

 

「たとえ怒っていたとしても、来てくれるさ。皆、ティアと家族になりたがってるからな」

 

俺の返事を聞いたティアは、微かに目を見開いき、しばらく呆然と立ち尽くしていた。




いかがですか?次はみんなとビーチで遊びます。お楽しみください。

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