ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。今回で第二章最終回です。お楽しみください。


石頭

目を開けると、真っ白な天井が瞳に映った。鼻孔を消毒液の香りが撫でる。

 

(ここは?)

 

体を起こそうとするが、左肩に激痛が走って動きを止めた。いったん痛みを意識すると左肩だけでなく、右の手のひらや右肩からも鈍痛が伝わってくる。

 

痛みを感じる箇所には包帯が巻かれているらしく、力を入れると抵抗を感じた。近くから、すーすーという寝息が聞こえる。

 

顔だけを動かして周囲を見回す。

 

どうやらここは病室で、俺はベッドに寝かされているらしい。ベッドの両脇にはイリスとティアの姿があった。パイプ椅子に座る二人は、ベッドのシーツに顔を伏せて眠っている。

 

すると病室の扉が開かれる音がした。

 

「よう、目覚めたか」

 

顔だけを動かして入り口を見ると、亮が入ってきた。

 

「ああ、ついさっきな」

 

俺は答えると、亮は杖を取り出して先端の丸い球体を見た。

 

「……なるほど、全治二週間くらいかな。完全に治るまでそのくらいかかるそうだ」

 

亮は杖を使って俺の容態を調べてくれた。

 

「そうか……ありがとな」

 

「なあに、気にするな」

 

亮の持っている杖は神様専用の道具のようで、"世界神"だけが使うことを許された"神器"と本人は言う。

 

機能はなんでもできるようで、映像を写し出すだけではないようだ。

 

「なんなら僕が直してあげようか? 数秒あれば完全に治るぞ?」

 

「いや、遠慮しておく。そんなことをすればお前の正体がバレるぞ」

 

亮は俺を治そうとしてくれたが、そうすれば周りから怪しまれると思い、断った。

 

「それもそうだな。二人はまだ目覚めてないから大丈夫みたいだ」

 

亮はイリスとティアの方を向いて様子を見た。

 

すると、ティアがぴくりと肩を揺らし、目を擦りながら起き上がった。

 

「ユウっ! 起きたの!?」

 

ティアは俺に覆いかぶさるようにベッドの上へ身を乗り出す。

 

「あ、ああ、少し前にな」

 

俺が多少面食らいながら答えると、ティアの瞳に涙が浮かぶ。

 

「よかったぁ……ユウがもし起きなかったら、どうしようって思ったの……」

 

「ティアちゃん、イリスさんと一緒に看病してたみたいだぞ?悠が目覚めるまでここで待ってるって言ってたもんな?」

 

ティアは亮の言葉をこくりと頷き、俺は苦笑しながら浮かべる。

 

本当は涙を拭ってやりたかったが、両腕とも包帯を巻かれているので、そんな細かな動きはできない。

 

「ユウ…………ありがとうなの」

 

すると何故か、ティアに礼を言われてしまう。

 

「え? なんだ、いきなり?」

 

話の流れが分からず、戸惑いながら俺は問いかける。

 

「だって、ティアのために戦ってくれたから。リーザたちには、もう言ったの。他の人にも、ミツキの通信機を借りて、ありがとうって伝えたの。だけど、ユウには……まだ言えてなかったの」

 

「……そういうことか。でも礼を言うのは少し早いぞ? これから、バジリスクとの戦いがあるかもしれないんだからな」

 

バジリスクが海を越えられないと楽観する見方もあるが、そう上手くは行かないだろう。キーリも"D"とバジリスクの戦いを避けるために、ティアを連れて行こうとしていた。たとえ海に阻まれようと、バジリスクはミッドガルへ向かってくるに違いない。

 

「うん……でも、だから余計にお礼を言わなくちゃって思うの」

 

俺たちと同じ生き方を選んだからこそ、ティアはどれだけの人々が尽力してくれたかを理解し、彼らの仲間(・・)として感謝を伝えたかったのだろう。

 

俺はごそごそと身じろぎをする。左腕は無理そうだが、右腕なら何とか動かすことはできそうだ。

 

「———ティアは、いい子だな」

 

俺は包帯が巻かれた右手で、ぎこちなくティアの頭を撫でる。

 

右手に負ったのは軽い火傷だったので、ティアに触れてもそれほど痛みはない。

 

「あははっ、くすぐったいの」

 

「んぅ……ユウの手、おっきい……」

 

まるで猫のように喉を鳴らして甘えた後、ティアは俺に顔を寄せてくる。

 

「ねえ、ユウ……ティア、ユウのこと大好き。だから、ティアとケッコンしよ?」

 

突然のプロポーズに俺は慌てる。

 

「いきなりじゃないの。ティアはずっと、ユウのお嫁さんになるって言ってたの。あれはドラゴンとしてだったけど……今度は人間として、ケッコンしたいの。ユウは、嫌?」

 

「い、嫌とか、そういう問題じゃなくて———」

 

動揺する俺にそれまで黙って見ていた亮が口を開ける。

 

「ティアちゃん、結婚の条件は国によって違うけど、基本的にはまだ無理だよ」

 

亮はティアに説得をする。ティアの国籍が分からないので、結婚する年齢は国によって違う。さらに亮は言葉を続けた。

 

「だから今は婚約者でいれはいいと思うよ?」

 

「え?」

 

俺は亮の言葉に固まった。

 

「そっか! コンヤクがあったの!」

 

ティアは納得すると俺の頬にちゅっ、と柔らかな唇が吸い付き、すぐに離れる。

 

「これでユウとティアはコンヤクシャなの」

 

嬉しそうに表情を緩ませる。

 

俺は呆然と頬に手を当てる。

 

突然のことに驚いただけではない。どうしてだろうか……俺は婚約者という響きに、懐かしさのようなものを感じ、深月の顔を思い出す。

 

硬直したまま、どう返事をしようか考えるが……ふとベッドからガタガタと振動していることに気が付いた。

 

嫌な予感を覚えつつベッドの反対側に顔を向けると、引きつった笑みを浮かべているイリスと目が合った。いつの間にか、目を覚ましていたらしい。

 

「ちょっ、ちょっとティアちゃん、い、今、何したの!?」

 

裏返った声でイリスが問う。

 

「何って、コンヤクのキスなの。コンヤクだから、ほっぺ。それで、いつかケッコンしたら、お口にするの」

 

「な、ななななななっ———そ、そんなのダメ!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶイリス。

 

「ダメじゃないの。キスしちゃったから、もう手遅れなの」

 

「き、キスなら、あたしだってしたもん!」

 

「ええっ!?」

 

イリスの言葉にティアは愕然とした表情を浮かべる。突然の宣言に俺も焦り、二人の会話に口を挟んだ。

 

「お、おい、イリス!それはこんなところで言うことじゃ———」

 

「だって……言わないとモノノベがティアちゃんの婚約者になっちゃうじゃない」

 

涙目で睨まれて、俺は慌てる。

 

「いや、ティアはまだ婚約とか結婚とか、よく分かってないだけだって。っていうか、その……ど、どうしてそんなに張り合うんだ?」

 

落ち着かない気分で、躊躇いがちに問いかける。

 

「え? そ、それはその…………」

 

イリスは頬を染め、もじもじしながら顔を伏せた。気恥ずかしい空気が俺とイリスの間に満ちる。

 

「むぅーっ! ユウ、こっち向いて!」

 

だがティアに顔を掴まれ、ぐいっとティアの方を向かれる。

 

「あっ、無理やりモノノベを動かしちゃダメだよ! 怪我人なんだから!」

 

そう言ってイリスは、俺の頭を元の位置に戻す。

 

「ちょっ、く、苦しいって!」

 

イリスの柔らかな胸が顔に近く、視線がそっちに行ってしまう。

 

「悠、モテモテだな」

 

亮は笑いながら面白がってきた。

 

「亮、なんとかしてくれ」

 

「無理言うなよ。僕にそんなことできるわけないだろ?」

 

助けを求めたが、断られた。

 

ティアとイリスは俺の頭を掴んだまま、ベッドを挟んで睨み合う。

 

「イリスがティアより早くユウとコンヤクしてたって、ティアは絶対負けないの!」

 

「ええっ? あたしも婚約してることになったの? そ、その……あたし、まだ心の準備が……」

 

イリスはティアの言葉にどぎまぎし、俺にチラチラと窺うような視線を向けてくる。事態は次第に収拾がつかなくなってくるが、その時———病室の扉からリーザが入ってきた。

 

「何を騒いでいるんですの? 他の病室には患者さんがいるのですから、もう少し静かにしてください」

 

ぴしゃりと厳しい一声に、ティアとイリスは口を噤む。

 

リーザの後ろには深月、フィリル、レン、アリエラの姿も見える。

 

「あ、リーザ……ごめんなさい、なの」

 

急にしおらしくなったティアは、俺から離れてリーザに謝る。

 

「あたしも、ごめんね」

 

申し訳なさそうにイリスも頭を下げた。

 

「分かればいいんですわ。まあ彼が目覚めたからだろうと、予想は付いていましたが。で———調子はどうですの、モノノベ・ユウ」

 

リーザは金色の髪を掻き上げ、ぶっきら棒な口調で俺に問いかける。

 

「……左腕はしばらく動かせそうにないが、あとはまあ、たぶん大丈夫だ」

 

「そうですか……では不都合なことも多いでしょう。今後、何か困ったことがあればいつでも言うといいですわ。できるだけ力になりますから」

 

「え……?」

 

俺はリーザのあまりに優しい言葉を聞いて、思わず間の抜けた声を上げてしまう。

 

「何ですの? わたくし、何か変なことを言いましたか?」

 

「いや……別に。その、ありがとう」

 

「構いませんわ。仲間が困っている時は助け合うのが当然ですから」

 

そうか、リーザは単にこういう奴だった。仲間のためには体を張るし、怪我人や困っている人には世話を焼く。それが当たり前のようにできる人間なのだろう。

 

「本当に、助かる。リーザはやっぱり"いい女"だよ」

 

「なっ……そ、それはどういう意味ですの? セクハラでしたら許しませんわよ?」

 

頬を赤くし、怒った顔でリーザは俺を睨みつける。

 

「ん、 ああ、単純に人間性を褒めたつもりだったんだが……尊敬できるって意味でさ。けど……まあ、美人って意味でも、いい女だとは思うぞ?」

 

性格だけを褒めるのも失礼かと思い、俺は正直な感想を付け足した。

 

「〜〜〜〜っ!?」

 

リーザの顔にみるみる血が昇っていく。怒鳴られるかと思ったが、リーザはそのままくるんと背を向けて早足に病室を出て行ってしまった。

 

「……ナイス」

 

何故かフィリルは俺にぐっと親指を立ててから、リーザを追いかけていく。

 

「物部クン……自分の発言には責任を取りなよ?」

 

「んっ!」

 

呆れた顔でアリエラは言い、その隣でコクコクとレンも頷く。

 

二人もフィリルに続いて部屋を出て行った。

 

「……じゃあ僕も帰るか。それじゃ」

 

それまで黙って状況を見ていた亮はそう言って病室を後にすると、深月、イリス、ティアの三人が残された。

 

「モノノベは……リーザちゃんみたいなタイプが好きなんだ……」

 

「うぅ……リーザにはきっと勝てないの」

 

イリスとティアはとうしてか落ち込んだ様子で、ぶつぶつと独り言を口にしていた。深月はジド目で俺を見つめていたが、こほんと咳払いをしてイリスとティアの二人に言う。

 

「———申し訳ありませんが、私はこれから兄さんと重要なお話があります。軍機に触れる内容もありますので、お二人はしばらく席を外していただけませんか?」

 

「はぁい……」

 

「分かったの……」

 

イリスとティアは元気のない声で答え、素直に病室を出て行く。二人きりになると、深月はイリスの座っていた椅子に腰を下ろし、じっと俺の顔を覗き込んだ。

 

「……兄さん? 先ほどの発言はやはりセクハラですよ?」

 

「う……リーザには後で謝るから、反省文は勘弁してくれないか?」

 

「———仕方ありませんね。今日は大目に見てあげます」

 

なんとか許してもらい、深月は真剣な表情にある。

 

「基本的には事後報告と簡単な聴取です。まず、ヘカトンケイルですが、ミッドガルに現れた時刻にらそれまで位置を捕捉していたシベリアから姿を消していたことが確認されました」

 

澱みない口調で説明する深月に、俺は訊ねる。

 

「それって、シベリアからここにワープしたってことか?」

 

「……分かりません。そんな能力があるとは、今まで一度も報告されてないですから。まだヘカトンケイルの復活も確認されていませんし、これは調査待ちですね。それより問題は———兄さんのことです」

 

深月は俺を見つめ、真面目な顔で言う。

 

「俺のこと?」

 

「ええ———一時的に重力を打ち消した……まるでリヴァイアサンみたいな(・・・・・・・・・・・)力は何だったんですか? 私には、兄さんが反重力物質を作り出したかのように見えましたが……」

 

深月が聴取したかったのは、俺がヘカトンケイルを重力干渉させたことについてだったのだろう。だが正直、何故俺にもあんなことができたのかは分からない。ユグドラシルに促されるまま、万有斥力(アンチグラビティ)と呟いただけなのだ。

 

「いや、何となく……できるかなって思ったら、ホントに作れただけで……」

 

だから曖昧に答えるしかない。

 

「あんなもの、何となくで作れたら困ります。……さすがに、隠し事が多すぎませんか?」

 

深月は語気を荒くして俺に詰め寄る。

 

「……悪い、深月。確かに隠していることはあるけど、反重力物質のことはよく分からないんだ」

 

「そうですか……あくまでも、秘密にするんですね」

 

怒った表情で深月は俺を至近距離から睨みつける。

 

「いや、だからホントに———」

 

「だったら、次の質問には絶対に答えてください!」

 

「え?」

 

深月は今まで以上に真剣な光を瞳に宿し、口を開く。

 

「兄さん……イリスさんとキスをしたというのは、本当ですか?」

 

「なっ、き、聞いていたのか?」

 

思わず声が上擦った。

 

「……私、扉の外にずっといましたよ」

 

「じゃ、じゃあ……まさか、リーザたちも?」

 

「いえ、リーザさんたちがやってきたのは、私が中に入るタイミングを失くして外に立ち尽くしていた時だったので……キスのくだりを聞いていたのは私だけです」

 

その返事に少しだけ安堵するが、深月に聞かれていたという最悪の状況は変わらない。

 

(あれ、俺はどうしてこんなに動揺してるんだ?)

 

反省文が嫌だというものもあるが、それだけでは説明が付かないほど俺は焦っていた。

 

「いや、あれはその……リヴァイアサンと戦った時のお礼というか、そんな感じで……」

 

「つまり、本当にしたんですね?」

 

「う……は、はい」

 

観念して俺は頷く。すると深月はふうっと息を吐いた。

 

「……そうですか」

 

怒ることもなく、深月は俺から顔を離す。どこか疲れた様子で椅子に背を預ける深月は、普段以上に小さく見えた。

 

「深月?」

 

俺は心配になって声を掛ける。すると深月はどこか無理をしているような笑みを見せて言った。

 

「ティアさんには頬に婚約のキスを貰っていたようですが、そちらは子供のしたことですから不問にします。けれど、イリスさんのキスに関しては誠実に対応してくださいね?そうでないと、不純だと見なして反省文です」

 

口調は明るいが、声は微かに揺れている。

 

「ああ……分かった」

 

戸惑いながらも俺は頷く。

 

「けど———私も、謝らなくてはいけませんね。兄さんと、イリスさんに」

 

けれど深月が自嘲(じちょう)を込めた声音で呟くのを聞き、俺は眉を寄せた。

 

「どうしてだ?」

 

「だって……きっとイリスさんは初めてだったのに、兄さんの初めては———私と……だったんですから」

 

「え———」

 

その言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。俺の中に、そんな思い出などなかったから。恐らくユグドラシルとの取引———兵器のデータのダウンロードによる影響で消えてしまったのだろう。胸が(きし)む……心の空隙(くうげき)を強く意識する。

 

「……ティアさんと同じく、所詮子供のしたことです。あの時のキスも、いつかの約束も、全部なかったことにしてくれると助かります。もう、忘れてください」

 

寂しそうな顔でそう言われても、その記憶自体が既に存在しない。だが———。

 

無意識のうちに、俺は右手を伸ばして深月の腕を強く掴んた。

 

「兄さん……?」

 

「……忘れない」

 

「戸惑う深月を胸元に引き寄せ、喉から声を絞り出す。

 

「っ……」

 

「忘れないから」

 

既に失われた記憶だが———だからこそ、この事実を忘れない。忘れたことを忘れない。

 

深月に悲しい顔をさせないためなら、俺はどんなことだってする。

 

ないものだって、あると言い張る。

 

「思い出をなかったことにしろだなんて、嘘でも言うな」

 

俺は右腕で深月の体を抱き締め、強い口調で言葉を続けた。

 

「俺は深月のおかげてこうしてミッドガルに来れたんだ。だから深月も我儘を言ってくれていいんだぞ?」

 

「……いいえ、私は生徒会長であり、竜伐隊の隊長です。我儘まんて……」

 

そう言って深月は顔を上げた。瞳は潤んでいたが、涙は(こぼ)れていない。俺と深月は、息が掛かる距離で見つめ合う。

 

「それに私の立場は、償いようのない罪を犯して得た力。決して誇れるものではありません」

 

償いようのない罪———それはたぶん、二年前のクラーケン戦でドラゴン化した親友を討ったことを指しているのだろう。

 

「……無理に誇れとは言わないが、悔やむ必要はないんだ」

 

「兄さんは……いつだって優しいんですね。けれど、私はそこまで自分に甘くなれません」

 

深月は俺の胸をそっと押して、体を離した。

 

「私は自分の罪を(あがな)うため、戦い続けます。これ以上、満たされることは望みませゆ。幼い頃の願いなんて……叶わなくてもいいんです」

 

感情を抑えた口調で深月は言い、悲しげに笑う。

 

それを見て、心の底から激しい衝動が湧き上がった。

 

「———いいわけ、ないだろ」

 

「え?」

 

きょとんとする深月。俺は衝動に従って、無理やり体を起こす。左肩を中心に激痛が走ったが、奥歯を噛み締めて悲鳴を堪えた。

 

「に、兄さん!? まだ起きてはダメです!」

 

慌てて深月を押し留めようとする。けれど俺は逆に深月の肩を掴み、自分の想いを絞り出す。

 

「深月が戦いに身を置くことでしか、自分を許せないっていうのなら……俺はその戦いを終わらせるために、全てを懸ける」

 

「兄、さん……?」

 

「いいか、深月。俺は絶対に———お前の幸せを諦めてやらないからな」

 

深月と目を合わせ、俺は断言した。小さく息を呑んだ深月の目に涙が滲む。しかし(まぶた)から(こぼ)れ落ちる前に、深月は手で涙を拭った。

 

「全く……もう、ホントに———」

 

深月はぼやきながら俺に顔を寄せ、額同士をコツンと触れ合わせる。

 

そして淡く微笑み、優しい声で言葉を続けた。

 

「———兄さんは、石頭なんですから」




いかがでしょうか?第三章投稿まで、一週間くらい休みます。気長に待ってください。ありがとうございました。

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