ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。遂にバジリスクが海を渡り始めました。さて、どうなるでしょう。


口論

「———既にメディアを通じてご存じの方も多いかとは思いますが、バジリスクがついに海を渡り始めました」

 

朝礼台に立って重々しく告げるのは、悠の妹でありミッドガル学園の生徒会長でもある物部(もののべ)深月(みつき)。体は小柄だが頼りない雰囲気は一切なく、きりりと引き締められた表情からは威厳が感じられる。

 

「肉体構造的に泳ぐことは困難だと考えられていたバジリスクは海を塩化させ、ユーラシア大陸を経由さずに最短距離でミッドガルへの進撃を続けています。インド洋を横断し、インドネシア諸島を抜け、この場所に到達するのはおよそ一ヶ月後になるでしょう」

 

微かなざわめきが、深月さんの話を聞く生徒たちの間から漏れる。

 

悠の学園復帰一日目は、授業予定が変更されて臨時の全校集会が開かれていた。しかも場所はいつもの体育館ではなく、グラウンドだ。

 

五日前、ヘカトンケイルによって時計塔が破壊された時、その瓦礫(がれき)が体育館の屋根に直撃したらしい。それでしばらく体育館は使用禁止になった。

 

「けれどこうした事態も想定済みです。ミッドガルとニブルはそれぞれバジリスクに決定打を与えうる作戦を立案し、準備を整えてきました。十分に勝算はあります」

 

深月さんは皆を鼓舞するためか、そうはっきりと言い切った。生徒たちの何人かは、決然とした表情で頷き返す。

 

バジリスク戦を前提とした訓練は授業でも行っているので、ある程度の覚悟と自信を持っているが、僕は不安だ。

 

バジリスクの能力は原作で知っているため、ニブルの作戦と竜伐隊の実力では討伐は無理だ。

 

それに奴には奥の手(・・・)がある。どんな物でも破壊する力を持っているため、全滅もあり得る。

 

しかし、僕の破壊のエネルギーがあれば話は変わる。

 

ドラゴンボール超に出てくる"破壊神"だけが持つ力で存在そのものを破壊できる。奴の能力も消滅させられる。

 

それに原作ではニブルが使用したあの兵器(・・・・)も役に立つ。バジリスクの攻撃にも耐えることができる。

 

つまりこの戦いにはミッドガルとニブルの両方の力が必要なのだ。

 

「詳細な説明は今作戦における竜伐隊(りゅうばつたい)の選考を行った後、対象者を集めて行う予定です。各自、心構えをしておくように」

 

簡潔に、必要なことだけを述べ、深月さんは台から降りる。

 

続いて登壇した教師がいくつか連絡事項を述べた後、全校集会は解散となる。

 

「ミツキちゃんが言うと、本当に大丈夫って気がしてくるね」

 

イリスさんが悠のと並んで歩きながら言う。

 

「ミツキはカッコいいの。さすがユウの妹なの」

 

悠を挟んで反対側にいたティアちゃんも深月さんを褒める。

 

「……そうだな」

 

悠は頷くが、どこか不安そうだ。先ほど皆に心構えを促していたが、深月さんは心構えし過ぎている(・・・・・・)と気付いたのだろう。

 

彼女はこの戦いにおいて余裕がないのだ。

 

二年前、深月さんはドラゴン化した親友を自らの手で討っている。

 

出席番号四番、篠宮 都。 篠宮先生の妹である。彼女は"紫"のクラーケンのつがいとなり、ドラゴン化したのだ。

 

深月さんはその手で二体(・・)のドラゴンを討伐し、罪を背負っている。

 

ゆえに悠は、原作と同じで戦いを終わらせるために全てを懸けると誓っていた。

 

多分悠は深月さんが無茶をしたら自分が止めないといけないと思っている。

 

そう思いながら僕たちのクラス———ブリュンヒルデ教室へと戻る。僕が座るのは3×3に並んだ席の一番前の、リーザさんとフィリルさんに挟まれた真ん中の席だ。

 

後ろではレンちゃんとアリエラさんがティアちゃんを囲んで自然に雑談を始めていた。

 

ティアちゃんもブリュンヒルデ教室の一員として、馴染んでいるようだ。

 

教室の扉が開き、担任の篠宮先生と深月さんが一緒に入ってくる。

 

「———皆さん、お静かに。まだホームルームの時間は残っていますから、少しお話をさせてください」

 

教壇に立った深月さんは、僕たちを回して言う。皆、雑談を止めて深月を向けた。

 

篠宮先生は教壇の横にある椅子に腰掛け、手にした出席簿で顔を(あお)いでいる。

 

「今作戦の竜伐隊は、このブリュンヒルデ教室が中心になる予定です。ほぼ全員が選抜されることでしょう。なので一足早く、作戦の概要を説明しておきます」

 

ほぼ全員……。ということは悠はミッドガルに残るということだ。悠はヘカトンケイル戦の最中にティアちゃんを連れ去ろうとしたキーリと戦い、両腕を負傷した。右腕は火傷なのでもう大丈夫だが、左腕はまだ治っていない。そんな状況で連れていくのは足を引っ張ると考えたのだろう。

 

深月さんはそのまま話を続けた。

 

「バジリスクは瞳から放つ赤い閃光で、見つめた(・・・・)対象を石や(ちり)、塩へと変えてしまいます。射程は五千メートル近くあり、直接相対することなどできません。視線を遮るものが必要です。けれど海上で遮蔽物は皆無。なのでミッドガルはバジリスクを近海の無人島に誘導し、その島ごとバジリスクを吹き飛ばす作戦が有効と判断しました」

 

そこまで聞いたところで、アリエラさんが手を挙げて質問する。

 

「バジリスクを誘導するって、どうやるんだい?」

 

「ティアさんをその島へ一時的に移送します。バジリスクはティアさんを狙っていますから、確実に向かってきてくれるでしょう。もちろんバジリスクが到達する前に、ティアさんは退避させます」

 

「ふうん、それなら何とかなりそうだね」

 

アリエラさんは納得した様子で手を下ろす。続いてフィリルさんが挙手し、深月さんに問いかけた。

 

「……島がバジリスクの視界に入った時点で、消し飛ばされる可能性はないの?」

 

「これまでのデータによると、バジリスクは進撃の邪魔になる木々を塵にすることはあっても、地形を変えたりはしていません。というより、赤い閃光を浴びても大地はあまり変化しなかった(・・・・・・・・・・・・・)と表現すべきかもしれませんが」

 

「……それは、不思議。バジリスクの赤い閃光って、単純な高火力の攻撃じゃないんだね」

 

フィリルさんの言葉に深月さんは真面目な顔で頷く。

 

「はい。バジリスクの能力はこれまで諸説ありましたが、今回多くのデータが得られたことで大分方向性が絞れてきています。作戦実行までには、確度の高い仮説を提示できるはずです」

 

やはりバジリスクの能力を完全に解明されていないようだ。出現してから約二十年間、砂漠に引き(こも)っていたというので、データが少ないのは仕方ない。

 

しかし、深月の言うことには一つだけ間違いがある。

 

僕は原作でこのバジリスクのことも知っている。確かにバジリスクの瞳から放つ赤い閃光は地形を変えるほどの力はないが、奥の手(・・・)を使えば別だ。

 

バジリスクは砂漠に籠っていたため、知らないのも無理はないが、奥の手は瞳から放つよりも数十倍の威力を秘めている。これを放てば地球の形は変わる。

 

ここで言ってもいいが、信じてはもらえない。だから僕は黙って話を聞いている。

 

「———他に、何か質問はありますか?」

 

僕たちを回し、深月さんが問う。

 

「はい」

 

後ろから悠が手を挙げたようで、深月さんは視線を向ける。

 

「どうぞ、兄さん」

 

「さっき深月はブリュンヒルデ教室のほぼ全員が竜伐隊に選抜されるって言ってたけど、ほぼ(・・)ってことは誰か外れる奴がいるのか?」

 

どうやら悠もそこが気になっていたようだ。多分だがミッドガルに残る人予想できる。

 

「そうですね、まだ確定ではありませんが……兄さんにはミッドガルに残ってもらうつもりでいます」

 

「なっ……俺が? どうしてだ?」

 

やはりそう言ってくると思ったが、悠は驚いて問い返す。

 

「当然でしょう? 兄さんは怪我人なんですから」

 

「いや、待ってくれ。バジリスクと戦うのはまだ一ヶ月近く先なんだろ? それまでにはたぶん傷も治る。作戦に参加しても問題ないはずだ」

 

悠が慌てて抗弁すると、深月さんは呆れた表情で溜息を吐いた。

 

「無理に参加してどうするんですか? 今作戦に必要とされるのは高い攻撃力です。兄さんには対竜兵装がありますけど、あれは足場が安定しない船上や空中では使えないと言っていましたよね?」

 

「それは……そうだが」

 

痛い所を突かれ、悠は言葉を濁す。

 

悠の架空武装である対竜兵装は、マルドゥークという遺失兵器(ロストウェポン)の一部である。ゆえに色々な機能が不完全で、足場が悪い所では上手(うま)く狙いをつけられないし、反動で足場が耐えられない。

 

「島ごとバジリスクを吹き飛ばす時、攻撃発射地点は当然船上となります。兄さんの出る幕はありません。ティアさんの世話役も、リーザさんが十分に務めてくれます」

 

「ぐ……」

 

深月さんの言うことは正論だ。しかし悠は素直に受け入れることはできないだろう。もしも深月さんが無茶をした時、それを止めるには(そば)にいる必要があった。

 

それにバジリスクとの決戦を含め、悠の力は必要だ。どうにかして深月さんを説得するしかなかった。

 

すると悠は何か思い付いたらしく、表情が変わった。

 

「———いや、深月。俺を連れて行く価値はあると思うぞ」

 

「え……?」

 

「深月も見ただろう? 俺はヘカトンケイル戦で、反重力物質を生成した。この力はいざという時の切り札になるかもしれない」

 

どうやらリヴァイアサンの万有斥力(アンチグラビティ)が使えることを思い出したようだ。

 

対竜兵装が使えなくても、その拒絶の力があればバジリスクの攻撃を跳ね返せる。

 

本人はどうして使えるのかは分かっていないが、いずれ知ることになるだろう。今はなんとしてでも悠を連れていく必要がある。

 

「深月さん、悠を竜伐隊(りゅうばつたい)に加えてやってはくれないか?」

 

「亮さん?」

 

「確かに悠の対竜兵装は使えないかもしれないが、あいつの反重力物質はバジリスクの攻撃を跳ね返せるかもしれない。そう思わないか?」

 

「亮……」

 

僕はそう訴えるが、深月さんは険しい表情で眉を寄せる。

 

「そうかもしれませんが、その力はデータ不足です。よく分からない力を頼ることはできません。それに亮さん、兄さんの反重力物質をついて何か知ってますね」

 

「まあね。……だが、そんなことは今はどうでもいい。いざという時に悠は役に立つ。僕は良いと思うぞ?」

 

「あなたの言葉には私情が混じっているように聞こえますが……」

 

少しばかり(かたく)なになっている様子の深月さん。けれどそこに篠宮先生が口を挟んだ。

 

「少し落ち着け、物部深月。データ不足なら、これからそれを得ればいいだげだろう。元々、彼の回復を待ち、検査を受けてもらうつもりだったのだしな」

 

「検査?」

 

悠が疑問の声を上げると、篠宮先生は悠の方に顔を向ける。

 

「ああ、物部悠———君が生成に成功したという反重力物質については上層部も興味を抱いている。だからぜひ詳しく、その新物質の調査と測定をさせて欲しい」

 

篠宮先生の言葉聞いた後、悠は口を開く。

 

「検査の結果、反重力物質が有用だと分かれば……竜伐隊に加えてもらえますか?」

 

「我々として勝率は一パーセントでも上げたい。大島亮の言う通り、バジリスク戦で役に立つのであれば、自然とそういうことになるだろう」

 

その言葉を聞いた深月さんは、珍しく篠宮先生に非難の声を上げる。

 

「篠宮先生!」

 

「これは合理的な判断だ。私情で最善手を選択せずに失敗した時、後悔して苦しむのは君自身だぞ」

 

篠宮先生は静かな口調で深月を諭す。

 

「……………………分かりました」

 

数秒の沈黙を挟み、深月さんは渋々と頷く。それから僕や悠を睨むが、その表情は怒っているというよりも、何かを恐れているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反重力物質の検査はその日の放課後、地下の特別演習場で行われている。

 

僕は学園長に呼ばれ、時計塔一階にある第二会議室に来ていた。

 

どうやらリヴァイアサンの能力について聞きたいことがあるようだ。

 

部屋は暗く、変な匂いがする。どうやら学園長が自分の部屋のようにしているようだ。正直ここに居たくないが話があるから仕方がない。

 

部屋には椅子に腰掛けているシャルロット学園長と隣に立っている秘書のマイカさん、そして僕がいる。

 

「さて……そなたを呼び出したのは他でもない。物部悠がリヴァイアサンの能力を手にしていることについてだ」

 

学園長は堂々と聞いてきた。顔は微笑んでおり、見方によれば不気味だ。

 

「どうして僕に聞くんですか? 何も知りませんよ」

 

「とぼけるな……物部悠がヘカトンケイルに反重力物質を使ったとき、そなたは驚きもせずに当然のように万有斥力(アンチグラビティ)と口にしてただろう」

 

「……聞いてたんですね」

 

どうやら僕が悠の前でリヴァイアサンの能力を言ったことを聞いていたらしい。

 

「そなたは何か知っているのであろう。たとえ神だとしても驚かないのは不自然だ」

 

やはりシャルロット学園長は察しがいい。しかし、正直に答えるにはまだ早い。嘘を言っても疑ってしまうので、隠し通すことにした。

 

「知っているが、まだ言えない。だが、いつか言うと約束する」

 

「そうか……それなら仕方ない。だが、当初の目的通りリヴァイアサンの能力については教えてもらおう」

 

やはり万有斥力(アンチグラビティ)については聞きたいようだ。仕方なく僕はそのことだけを説明した。

 

「なるほど……そなたの予想では斥力場を発生させる範囲は半径約三十メートル。時間はおよそ十秒。全力を出せば半径百メートルで三十秒か」

 

「ええ、反重力物質の密度を高めた場合はより強力になるが、範囲や持続時間は十分の一以下になる」

 

原作で知ったことを教え、学園長は納得してくれた。実際そんなことが可能なのかを確かめるために杖の先端にある球体にシミュレーション映像を映し出した。結果、原作と全く同じ能力だった。

 

「しかし、ドラゴンを倒せばその能力を手にすることができる。深月さんのように」

 

「やはり知っていたのか……」

 

僕は原作で深月さんが"紫"のクラーケンを倒し、能力である絶対矛盾(アブソリュート)を手にしたことを知っている。

 

「クラーケンの能力は反物質弾とミスリルの触手。深月さんが使えるようになった後、他の"D"も出来るようになったようだな」

 

「ああ、物部深月がクラーケンを討伐した後にミスリルの変換や反物質を生成するものは次々と現れた」

 

やはり原作通りだ。しかし、僕は学園長の言っていることが一つ間違っている(・・・・・・)ことを指摘しなかった。

 

言おうと思ったが、それだと本物のドラゴン(・・・・・・・)を知ることになる。それだけは避けたい。

 

「まあ、バジリスクを倒せばその能力を使える"D"も現れるだろう。期待してて待っていてくれ」

 

僕がそう言うと、学園長の顔が緩んだ。

 

「そなたが言うと、なんだか安心できる。全員が無事に帰ってくることを信じているぞ」

 

「ああ、じゃあ僕は仕事があるからこれで」

 

そう言って僕は第二会議室を後にした。船出の準備をする前に何週間分の仕事を終わらせるために"神界"に向かった。




いかがでしょうか?次回はいよいよ火山島に出発します。次もお楽しみ下さい。

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