ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。深月とリーザはこれから仲直りできるのでしょうか?それではどうぞ!


真実

ドラゴン信奉者団体"ムスペルの子ら"。ドラゴンを神と(あが)め、ニブルの活動を阻む彼らは、テロ組織として国際手配されている。それでも勢力が衰えず、拡大を続けているのは、ドラゴンがそれだけ恐ろしい存在だからだろう。人々はドラゴンの恐怖から逃れるため、崇めることを選択する。それで現実が何か変わるわけでもないというのに。

 

ドラゴンの力を有する人間———"D"も、彼らにとっては崇拝の対象だ。けれど好き好んでテロ組織に身を置く"D"などいない。何か特別な理由がない限りは。

 

その特別な理由(・・・・・)を持つ少女、キーリ・スルト・ムスペルヘイムは、"ムスペルの子ら"の指導者として活動していた。

 

現在、キーリが潜伏しているのは団体の息が掛かったホテルの一室。湯気で白く煙るバスルームだ。

 

キーリはお湯を張ったバスタブに身を沈め、ミッドガル潜入時に入手した情報を眺めていた。手にしているのは防水のコンピュータ端末。その画面には次々とミッドガルの機密情報が映し出される。

 

「ふぅん……反物質を生成できるのは物部深月だけ、か……つまり彼女が第六権能(コード・ゼクス)の断承者なのね」

 

生徒のパーソナルデータを閲覧し、キーリは面白そうに呟く。

 

「彼の、義理の妹……そういえば、三年前にも会ったような……偶然って不思議ね」

 

キーリの独り言がバスルームに反響する。とは言え、キーリは一人で喋っているつもりはない。自分がいつも"彼女"に見られていることを、キーリは知っている。

 

"彼女"の目と耳になって情報を集め、手足として意志を代行するのが、キーリの役割。そして———作られた意味。

 

「あれ……でも確か、反物質弾でクラーケンを討伐したのは物部深月なのよね。そうなると……おかしいわ、辻褄(つじつま)が合わない。クラーケンを倒さないと(・・・・・・・・・・・)反物質は生成できないはず(・・・・・・・・・・・・)……どうなってるの?」

 

キーリは眉を寄せ、他のデータを探る。

 

「例外はあるけれど……物部深月は条件に該当しない。当てはまるとしたら……そうか、彼女なら……それに二体のクラーケン……矛盾の答えはその辺りにありそうね」

 

ぶつぶつと呟きながらデータを(あさ)るキーリだが、やがて根負けした様子で天井を仰いだ。

 

「あー、もう、報告書にはちゃんと正確な情報を載せておきなさいよね! 答え合わせできないじゃない!」

 

ぱしゃぱしゃと不満げに足でお湯を叩き、キーリは端末の画面に展開していた報告書のデータファイルを閉じた。

 

「———まあいいわ。過去なんて重要じゃないし。大事なのはこれからよ」

 

そしてキーリは再び生徒のパーソナルデータを開き、その中にある物部悠の顔写真を表示させる。

 

「悠……あなたはきっと、私とも、他の"D"とも違う。お母様はただのエラーだと考えているみたいだけれど、私は信じる。あなたが、九番目(ノイン)だって」

 

キーリは祈るように、微かな希望に(すが)るように、物部悠の顔を見つめた。

 

「バジリスクなんかより、器の大きいところを見せてよね」

 

小さく(ささや)き、画面に映る物部悠の顔にキスをするキーリ。

 

そして生徒のパーソナルデータを開き、大島亮の顔写真を表示させる。

 

「それにしても謎だわ。お母様でも彼のことが分からないもの」

 

キーリは今までになく真剣な表情で見ていた。

 

「"D"には無い特別な力を持っていて、時々金色の光を輝かせてドラゴンを倒しているみたいだけど、何なのかしら?」

 

大島亮のことについてほとんど不明と書かれていた。

 

「ドラゴンのことだけじゃなくて、私やティアのことも知ってるみたいだし……注意が必要ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、僕は外に出て空が若干暗くなっていた。

 

潮の香りが漂い、風が吹いて気持ちいい。もうすぐミーティングが始まるが、時間になるまでここにいることにした。

 

この時期になるとあの事を思い出す。僕は一度、罪を犯してしまった。全王様は仕方のないことだと許してもらい、罰もなかったが、今でも辛くなる。

 

あの時はそうするしかなかったが、やはり心が痛い。深月さんと似た過去を抱えているからだ(・・・・・・・・・・・・・)

 

空を眺めていると、後ろから気を感じた。アリエラさんほど大きくはないが、穏やかで心地よい感じだ。僕はその気の持ち主を知っている。

 

「一人でどうしたんですの?」

 

声がして振り返ると、リーザさんがいた。彼女は若干疲れている表情だ。もしかしたら、深月さんと口論したのだろう。

 

確か第三巻で、深月さんとリーザさんにあった溝は塞がれるが、それはバジリスクを倒した後だ。今はまだ喧嘩中のままだ。

 

「あ、ああ、ちょっと外の空気を吸いたくて……」

 

「そうですの……もうすぐミーティングが始まりますわ」

 

やはりリーザさんは僕を呼びに来てくれたようだ。もしかしたら、深月さんと喧嘩したあと、僕を探しに船内を回ってくれたのかもしれない。

 

「ああ、ありがとう」

 

僕はお礼を言い、再び空を見上げた。二人は何時間も前に会議室で口論をしていたことは原作を読んでいるので知っている。内容は篠宮都だろう。

 

二年前、深月さんはドラゴン化した篠宮都を討伐し、その罪を背負っている。

 

なんだか六年前を思い出す。あの時、僕は同期の一人を殺してしまった。深月さんと同じだな。

 

「どうしたんですの? 悲しそうな顔をして」

 

リーザさんは僕の隣に来て、心配してきた。六年前のことを思い出したのか、僕は悲しい表情になっているのだろう。

 

「え? ああ、ちょっとね」

 

「悩み事なら言ってください。いつでも聞いてあげますわよ」

 

リーザさんはやっぱりいい人だ。仲間のためなら自分の力を貸すいい女だ。

 

「……六年前のことでちょっとね」

 

「六年前?」

 

僕はリーザさんに罪を犯した内容を話すことにした。

 

「僕が"D"に目覚めた時の頃かな? その時にはもう気を操れたからそんな"D"になったことに実感はなかったよ」

 

嘘を交えながら話をした。僕が神であることは悠と深月さん、シャルロット学園長と秘書のマイカさんだけだ。ミッドガルの教職員や生徒たちからは特別な力を持っているとされている。

 

「まあ、中国の山奥で修行してたんだけと、気の力を操れたのは僕を入れて十三人だったんだ」

 

「えぇっ!? 十三人! そんなにいるんですの!」

 

リーザさんは驚いた。この話は誰にもしていないから当然だ。僕はそのまま話を続けた。

 

「僕は道場で新入りだったけど、特に優しかった友人がいたんだ。その友人は気の制御が凄くて、目標だったんだ」

 

目標というのは嘘だか、友人は本当である。もし世界神の席を争うことになっていたら負けていたのかもしれない。

 

「そんなにすごい人でしたの。それで、その方は?」

 

リーザさんが相槌を打つと、僕は悲しい表情になるのがわかった。

 

「……僕が殺してしまったんだ」

 

「え?」

 

僕は正直に答える。彼女に嘘は吐かないが、このことを隠すのは良くないと思った。

 

僕だって元は人間だ。人を殺すのは気分が悪いが、仲間や知り合いを殺めるのはそれ以上だ。

 

「いろいろあってね。ホントはやりたくなかったけど、そうするしか方法がなくて……それで……」

 

僕の言葉が徐々に小さくなっていく。あまり彼女たちには聞かせたくない内容だ。特にリーザさんは篠宮都の件で深月さんと対立しているので、話したくなかった。

 

「その後はどうしたんですの?」

 

リーザさんの表情は僕より辛そうだった。やはり、二年前の事と重ねているのだろう。

 

「その日の夜は眠れなくてね、罪の意識で押し潰されそうになったよ……けど———」

 

「けど?」

 

僕は出来るだけ表情を変えようとして、空を見上げた。

 

「自分だけで背負うのはあまりにも身勝手だと思ったから、みんなに許してもらおうと色々と頑張ったよ」

 

それを聞いたリーザさんは表情が少し柔らかくなっていた。

 

「半年は掛かったけど、みんなからは許してもらったよ。今でも少し辛くなるけど、前よりは楽になったよ」

 

僕は無意識に笑顔になっていた。本心で言っている証拠だろう。するとリーザさんは微笑んだ。

 

「あなたの認識を改める必要がありますわ。深月さんと違って自分だけで背負おうとしないことに、わたくしは良いと思いますわ」

 

リーザはそう言って僕の右手を添えてきた。

 

「っ!?」

 

一瞬ドキッとしたが、平常心を保つため、なんとか堪えた。

 

「い、いや、そんなことは……」

 

「いいえ、あなたは間違っていませんわ。過去は変えられませんが、仲間に頼ることはそれだけ信頼している証拠ですわ」

 

否定するが、リーザさんは少し詰め寄ってきて反論してきた。深月さんもそうだが、リーザさんにも敵わない。

 

「ありがとう、リーザさんに話して良かったよ」

 

「ええ、次からはいつでも言ってください。自分勝手なことでしたらその時は成敗して差し上げますので」

 

リーザは手を離し、真剣な表情で言った。

 

「ああ、そうするよ。それに今ので分かったよ」

 

「何ですの?」

 

「深月さんのこと……本当は恨んでない(・・・・・)でしょ?」

 

「なっ!?」

 

僕がそう言うと、リーザさんは顔を真っ赤にして驚いた。実は既に知っていたのだ。あれはティアちゃんとビーチで遊んだ時のことだ。リーザさんは罪の意識に押し潰されそうになったティアちゃんに罰を与え、罪を償わせた。

 

その時にリーザさんは罪の意識に押し潰される前に清算するとか言って一瞬深月さんを見ていた。ということはリーザさんは恨んでやっているのではなく、許すきっかけを作り、自分で向き合わせるためにそんなことを言ったのだろう。

 

「僕はこう思う。もしかしたらバジリスクとの戦いで深月さんは罪を償うかもしれないとね」

 

「有り得ませんわ。彼女はあなたと違って頑固ですのよ。そう簡単には……」

 

リーザさんがそう言うのも仕方ない。事実、今でも深月さんは自分だけの責任だと思っている。しかし、彼女は義理とは言え、親友の妹。もしかしたら間接的に関わってくるだろう。

 

「そう言うが、もしかしたら許す方法を聞いてくるかもしれないぞ? その時はどうするつもりだ?」

 

僕が聞くと、リーザさんは口に手を当てて考えた。

 

「そうですね……まあ、難しい条件を出しますわ。有り得ないことではありますが」

 

「……あんたも頑固だな。まあ、近いうちにそうなるよ」

 

僕は苦笑して空を見上げた。太陽は水平線に沈みかかっており、星が輝いていた。

 

「そうなることを期待しますわ。さあ、もう行きますわよ」

 

「そうだね」

 

そう言って僕たちは船内に戻った。明日には深月さんはリーザに罪を使う方法を聞いてくるだろう。この件は悠だけでなく、フィリルさんも関わっているのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)




いかがでしょう?みんなの知らない亮の過去を知ることができましたね。六年前の出来事はちゃんと書きますので、お楽しみください。

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