ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。遂にニブルがバジリスク討伐に動き出しました。さて、どうなるでしょう。


ミストルテイン

シャワーを浴び、僕は制服に着替えてから会議室に向かった。今日はフィリルさんがお礼をしてくれるが、ずっと避けていた。

 

フィリルさんのお礼は刺激が強すぎて平常心を保つのは無理なため、みんなが船を降りるのを確認してからシャワーを浴びていた。

 

そして今日はニブルがバジリスク討伐を独自に進めていた作戦が伝えられてくるので、端末は肌に離さず持っていた。

 

連絡が届き、内容を見てから部屋を出る。しばらくして会議室に着き、端末をいじりながら時間を潰していた。

 

しばらくして入ってきたのは僕が今日、避け続けていたフィリルさんだ。

 

顔が火照(ほて)っており、妙に色っぽい。やはり行かなくてよかった。

 

「あ、大島くん、どこ行ってたの?」

 

フィリルさんは頬を膨らませて睨んできた。やっぱり原作以上に可愛い。

 

「悪い、仕事が山のようにあったから色々と船内を周ってたんだ」

 

僕は頭を()きながら嘘を吐いた。当人を避けてたなんて言えないからな。

 

「……そうなんだ。でも、お礼は別の機会にするね」

 

「ああ、いつでもいいよ。……ところで、お礼ってどんなことしてくれるつもりだったの?」

 

分かってはいたが、一応知らないふりをして聞いてみた。

 

「……今日の温泉を、物部くんと大島くんの貸切にすること」

 

やっぱりそんなお礼か。聞き様によっては有り難いが、フィリルさんはとある国の王女様であるため、ややズレた感覚を持っている。

 

「そっかー、損しちゃったよ。行けばよかった」

 

僕はわざとらしくないように悔しがる素振りを見せる。

 

「大丈夫、ニブルが独自に、作戦を進めてたみたいだし、もしバジリスクを倒せたら、また温泉に、入れてあげるね」

 

正直勘弁してほしい。ニブルが失敗してほしいと本心で思った。

 

「そうなるといいね」

 

僕が返事を返すと、無数の気を感じた。深月さんたちが来るのだろう。扉が開く音がして、悠以外のみんなが入ってきた。

 

「亮さん、早いですね」

 

深月さんが先頭にいて、僕に声を掛けてきた。

 

「まあね、船内に居たから連絡に早く気付いたんだ」

 

「そうでしたか、ではもうすぐ篠宮先生が来るので席に着いてください」

 

深月さんに言われ、僕は席に着いた。

 

十分くらい経つと、悠も入ってきた。顔は深月さんたちより、顔が火照っていた。

 

「兄さん、遅かったですね」

 

深月は悠に声を掛けた。

 

「ああ、まあ……ちょっとな」

 

「その様子だと、兄さんもお風呂上がりですか?」

 

じっと悠の顔を見つめ、問いかけてくる深月さん。

 

悠はみんなが温泉から出た後に自分も脱衣所に向かって着替えたのだろう。

 

「そ、そう、ちょうどシャワー浴びててさ、連絡に気付くのが遅れたんだよ」

 

悠は誤魔化すため、動揺を隠しながら、言い(つくろ)う。深月さんはそんな悠を疑わしそうに半眼で睨んでいたが、篠宮先生が部屋に入ってきたのを見て溜息を吐いた。

 

「ふぅ———まあ、そういうことにしてあげます。篠宮先生も来たので、席に着きましょう」

 

深月さんに促され、悠は着席する。

 

篠宮先生は全員が席に着いたのを確認すると、ホワイトボードの前に立って話し始めた。

 

「———先ほど、ニブルから連絡があった。明朝六時にかねてより準備していた作戦を実行に移すらしい。あちらさんは、これでほぼ確実にケリが付くと考えている。もし本当にそうなれば、我々の出番はなくなるわけだ」

 

それを聞いたリーザが手を挙げ、発言する。

 

「わたくしたちとしては、ニブルがバジリスクを倒してくれるのなら御の字ですけれど……そんなに上手く行くのでしょうか?」

 

「まあ、それなりの根拠はあるようだな。作戦内容の詳細と共に、ニブルが収集・分析した最新データも提供された。今から皆にも見せよう」

 

篠宮先生かリモコンを操作すると、天井からスクリーンが降りてきた。さらに電気が消え、スクリーンにニブルから提供されたらしい資料が映し出される。

 

「これによると、ニブルはバジリスクの能力を特定した上、様々な方法で測定をも行っている。このデータに基づいて立てられた作戦であれば、信用性は高いだろう」

 

「……バジリスクの能力、特定できたんだ」

 

フィリルさんの呟きが耳に届く。篠宮先生は頷き、スクリーン上のデータをポインタで指し示した。

 

「バジリスクが放つ赤い閃光、それによって引き起こされる現象の正体は———風化(・・)であることが分かった」

 

篠宮先生の言葉を聞き、会議室にどよめきが起こる。だが悠の前に座っていたティアは、振り向き、小さな声で訊ねてくる。

 

「ユウ、風化ってなあに?」

 

「えっと……例えば、大きな岩でも風雨や日光に(さら)され続けたら、砕けて細くなって、どんどん小さくなるだろ? そういう、時間による変化のことだな」

 

悠たちの会話を聞いていた篠宮先生は、大きく頷いて言葉を続けた。

 

「———そう、風化の原因となるのは時間だ。つまりバジリスクの攻撃は時間を吹き飛ばす(・・・・・・・・)ものだと言える」

 

原作通りだ。バジリスクは瞳から赤い閃光を放つため、触れた物は風化される。そして奴には奥の手(・・・)がある。それを知るのはニブルが作戦を決行するときに知るだろう。

 

「ニブルは半減期の異なる複数の放射線物質を使って測定したところ、赤い閃光を浴びた物質は数百年から数万年の時間経過が観測されたらしい。かなり差があるが、これは被照射時間の違いによるものだと分析されている。それを考慮すると、一秒間の照射でおよそ二千年が吹き飛ぶようだ」

 

「に、二千年ですか……」

 

深月さんも、声を上擦らせる。

 

「ああ、人間など一瞬で骨か(ちり)だ。生物にとっては最強最悪の攻撃だな。この能力は"終末時間(カタストロフ)"と呼称することになった。学者たちはタキオン粒子がどうこうといった仮説を立てているようだが、根本の原理は未だ不明。けれど起きている現象が風化だと分かれば、対応策を立てることも可能だ」

 

篠宮先生はポインタを移動させ、ニブルが実行しようとしている作戦の説明に移る。

 

「時間は万物に例外なく影響を与えるが、それでも変化しにくい物質はある。そういった物質なら、バジリスクの閃光にある程度耐えられるだろう。そこで立案されたのが、ミスリルでコーティングした爆弾を、目標の上空から垂直投下する計画だ」

 

ポインタで示されたのは、爆弾の外観写真。逆さになった円錐形(えんすいけい)で横に幅広く、独楽(こま)の形をしている。

 

「知っての通り、ミスリルは最も硬く、安定した合金。防壁としては最適と言える。そのミスリルを用い、厳密に耐久力を計算し、バジリスクまで到達するよう設計された兵器———それがこの対バジリスク用大型爆弾、ミストルテインらしい」

 

ミストルテイン……北欧あたりの神話に登場する宿り木の槍だったと思う。

 

ニブルはどうやらこれで倒せると思っているが、僕は全く思ってない。

 

「篠宮先生自身は、どのくらいの成功率だと考えていますか?」

 

悠は手を挙げ、篠宮先生に訊ねた。

 

「———五割だな。ドラゴンは未知数の存在だ。それまで得たデータが正しいとは限らない。もはやこれ以外に打つ手のないニブルは作戦の成功を信じているようたが、私はそこまで楽観的になれんよ」

 

肩を竦め、重い口調で答える篠宮先生。

 

確かにその通りだが、ミストルテインはバジリスクを倒すまでとはいかないが、追い詰めることはできる。新たなデータを得る機会となるだろう。

 

「打つ手がないって……これだけ能力が分析できたんだから、他の方法もあるんじゃ……」

 

「分析したからこと、と言えるな。爆弾を垂直投下するのは、弾道軌道のミサイルだと、閃光を浴びた瞬間に運動エネルギーを"風化"させられてしまうからだ。その点、重力なら時間を吹き飛ばされても影響が持続する。実弾であるのも、ニブルが所持する光学兵器では、ダイヤモンドの(うろこ)に散乱させられて通用しなかったためだ」

 

そう解説されると、確かに他の方法が思いつかない。けれど深月さんは違ったのか、挙手して篠宮先生に問いかけた。

 

「地雷はダメなんですか? これまでの事例で、地面が赤い閃光の影響をあまり受けていなかったのは、大地は数千年を掛けても変化が小さいものだからと考えられます。それなら地面の下に爆弾を仕掛けておれば……」

 

「その方法も試されている。けれどバジリスクはあらかじめ自分の進行方向を掃除(・・)するので、地雷は影響を受けない地中深くに設置しなければならない。しかしそれでは、爆発が地表に届く前に察知され、爆発そのものを閃光で吹き飛ばされてしまうんだ」

 

「爆発そのものを……では、私たちの計画も、見直さなければなりませんね」

 

難しい顔で考え込む深月さん。しかし、篠宮先生は察知と言うが、実際は違う。

 

爆発が地表に届くにしても数秒は掛かるため、バジリスクの鈍い動作ではダメージを負う。しかし、それでも効果がないということは、察知以上の何かがある。僕は知っているが、バジリスク討伐前に知るだろう。

 

「幸い、こちらにはまだ時間がある。今回提供されたデータを元に、作戦は最考しよう。とは言え、ニブルがバジリスクを倒してくれれば、私たちが頭を悩ませる必要もなくなるのだがな」

 

篠宮先生は苦笑しながら言うと、部屋を明るくしてスクリーンを仕舞う。

 

「明日は朝五時半に艦橋へ集合すること。ニブルが作戦映像をリアルタイムでこちらに回してくれるらしい。よほど私たちに自分たちの力を誇示したいようだ」

 

「あ、朝五時半……」

 

露骨に嫌そうな声を上げたのはフィリルさんだ。そういえば彼女は朝起きるのは苦手だったと思い出す。

 

「寝坊はするなよ? 時間までに現れなかったら、私が叩き起こしにいくからな」

 

僕たちに釘を刺し、篠宮先生は会議室を出て行く。何か相談があるのか、深月さんは急ぎ足で篠宮先生を追いかけて行った。他のクラスメイトたちは、雑談をしながら席を立つ。

 

悠はティアちゃんに近づいて何かを話している。多分ティアちゃんはさっきの話を聞いて不安になったのだろう。それを見た悠は不安を和らげるためだろう。

 

僕は仕事があるので、扉を開けて廊下の曲がり角で杖を取り出し、"神界"へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八時間後、僕たちブリュンヒルデ教室の面々は時間通りに艦橋へと集合した。

 

輸送船は停泊中のため、クルーの姿は少ない。太陽はまだ昇っておらず、艦橋から見える景色は、星空をバックにした火山の影と黒い海。

 

艦橋には大きなモニターがあり、そこには複数の映像が分割して映し出されている。その一つはノイズ混じりの暗い景色。もう一つは軍服を着た強面(こわもて)の男たちが居る並ぶ会議室の映像。

 

『篠宮大佐———よく見ておくといい、我々ニブルがバジリスクを討つ瞬間を』

 

「はい、楽しみにしております、ディラン少将」

 

篠宮先生は額に傷のある初老の男———ディラン少将と会話をしている。後ろに整列して会議室にいる面々は、今回の作戦に携わるニブルのお偉い方のようだ。

 

『クラーケン、リヴァイアサンを討伐し、ヘカトンケイルを撃破した君たちの力はもちろん評価しているが、我々とていつまでも"D"に頼ってはおれん。人の力でドラゴンを倒すことが、今こそ必要なのだ!』

 

ディラン少将は声高々に叫ぶ。どうやらニブルはドラゴンを倒したという実績が欲しいようで、竜災(りゅうさい)と後始末役というイメージを払拭したいようだ。

 

すると、ディラン少将は僕の方を見た。ニブルのお偉い方も僕を見てざわざわと話し声が聞こえてくる。

 

『彼が例の———』『ああ、間違いない』『よく見ると普通の男に見えるが……』

 

どうやらニブルは僕を直接見るのは初めてのようだ。僕はミッドガルの生徒ではあるが、それ以前に神様であるため、堂々としている。

 

『君が……ドラゴンを圧倒する存在か』

 

「ああ、大島亮だ。よろしく」

 

僕は少し偉そうに微笑む。するとディラン少将たちは感じ取ったようでたじろぐ。

 

『まあ、今回のことで君も知ることになろう。我々の力を』

 

ディラン少将は落ち着きを取り戻したようで僕に力を知らしめたいようだ。

 

「ああ、楽しみにしてます」

 

僕は返事を返して目を閉じた。多分みんなは唖然としているだろう。強面で貫禄がある人たちに対して堂々としているからだ。はっきり言って人間と神では格が違うので敬語で話すものの、偉そうに話すことにしている。

 

「んぅ……」

 

威圧的に話すニブルの軍人を見て、レンちゃんはアリエラさんの後ろに身を隠した。

 

「レン、どうしたんだ?」

 

悠が気になって問いかけると、アリエラさんが苦笑を浮かべて代わりに答える。

 

「ああ、レンは大人の男が少し苦手なんだよ。……でも、物部クンと大島クンは大丈夫だよ。二人ともお兄ちゃんみたいな感じってレンも言ってたし」

 

「———!? んっ! ん〜!」

 

するとレンちゃんは顔を赤くして、アリエラの背中をポカポカ叩く。

 

「あ。これは秘密だったっけ? ごめんごめん」

 

頭を()いて謝るアリエラ。それを見ていたディラン少将は毒気を抜かれた様子で息を吐く。

 

『……君の部下たちは、ずいぶんとマイペースなのだな』

 

「申し訳ありません、何分問題児ばかりなもので……」

 

篠宮先生は苦笑を浮かべて答える。

 

「あの……」

 

そこにティアちゃんの小さな声が響く。ティアちゃんはおずおずとモニターの前に歩み出ると、画面の向こうにいる男たちを見つめる。

 

『その角……君は今回の竜紋(りゅうもん)変色者だな』

 

ティアちゃんのことも知っているようで、ディラン少将は硬い声で言う。ドラゴンを連想させるティアちゃんの角は忌々しいものに見えるのかもしれない。

 

「あの、ティア、応援するの!」

 

けれど男たちの様子に構わず、ティアちゃんは一生懸命に声を上げる。

 

『お、応援?』

 

画面の向こうに微かな戸惑いが広がった。

 

「うん———おじさんたち、ティアを守ってくれて、ありがとうなの! ティア、応援してるから、頑張って!!」

 

強面の男たちが明らかに動揺する。

 

『な、何ていい子だ』『うちの娘にもあんな時期が———』『角もよく見ればキュートではないか……』

 

ひそひそと(ささや)き合う声が漏れ聞こえてきた。

 

ディラン少将はしばらく絶句していたが、こほんと咳払(せきばら)いをしてティアちゃんを告げる。

 

『君の気持ちは受け取った。おじさんに任せておけ』

 

ディラン少将は孫に弱いおじいちゃんのようだ。自分でおじさんって……。

 

画面の向こうからは『おい———今すぐミストルテインの輸送班と(つな)げ。私が直接気合いを入れてやる』というディラン少将の勇ましい声が聞こえてくる。

 

そうしたニブル側とのちょっとした交流もありつつ、ついに作戦開始時刻が間近に迫った。

 

『———ミストルテインは、四機の大型輸送機で牽引(けんいん)できる限界重力までミスリル防壁を厚くしてある。バジリスクの攻撃射程は約五千メートルのため、高度八千メートル付近から投下する予定だ』

 

ディラン少将はこれから行う作戦の内容を僕たちに説明する。

 

『バジリスクの射程に入るまでは燃料噴射で細かく位置を調整する。そして一度赤い閃光(せんこう)の中に突入すれば、もう風化による影響は受けない。余計なエネルギーは全て"風化"され、ミストルテインはただ重力に引かれて真っ直ぐに落ちるのみだ』

 

疑問をぶつける篠宮先生に、ディラン少将は余裕を持って答えた。

 

「バジリスクがミストルテインを迎撃せず、回避に徹する可能性は?」

 

『これまでのデータでは、自分に接近する何かを感知した場合、バジリスクは必ず足を止めてそれを迎撃している。最初から逃げに徹する確率は低いだろう。直前で回避に切り替えられても、ある程度は追尾できる。バジリスクの鈍足では逃げ切れんよ』

 

ディラン少将は自信ありげに言うが、僕は失敗に終わることを知っている。しかし、この作戦でバジリスクの奥の手を知ることになる。

 

『では……間もなく時間だ。ミストルテインの行方を共に見守ろう』

 

会議室の映像が小さくなり、代わりにノイズ混じりの画面が大きく表示される。先ほどより画面は明るくなっており、それが超遠距離の高空からバジリスクを移し出している映像だと皆は気付いた。

 

白んだ水平線に小さな黒い影が浮かび上がっている。豆粒程度の大きさにしか見えないが、あれがバジリスクのシルエット。

 

画面の左上に表示されていた時計が、作戦開始時間を示す。

 

映像に変化はないが、八千メートルの高さからミストルテインが投下されたはずだ。

 

皆、息を呑んでモニターを見つめる。

 

チカッと赤い光が瞬いたのは、誰かが唾を呑む音を響かせたのと同時に、地上から空へと、真っ直ぐに赤い閃光が伸びていく。ミストルテインがバジリスクの射程である高度五千メートルに到達したのだろう。

 

だが時間を剥奪する閃光は、天頂までは届かずに途中で途切れた。そして次第に、地上へと押し戻されていく。

 

どうやら落下するミストルテインが、赤い閃光を受け止めているのだ。ニブルの示したデータの通り、ミストルテインは赤い閃光の"風化"に耐えている。

 

しかし異変は唐突に起こった。

 

赤く細い光の柱が、急激に膨張する。何倍もの太さになった赤い閃光が、夜明け前の空を裂く。

 

そして数秒後———押し戻されていたかに見えた閃光は、一気に天を()いた。それは閃光を遮っていた障害物が消えた証。どうやらバジリスクは奥の手(・・・)を使ったようだ。

 

『———おいっ! いったいどうなっとる!』

 

モニターの向こうからディラン少将の怒号が響き、画面に部下らしき人物が映り込んだ。

 

『高度約二千メートルにて、ミストルテインの消滅を確認。作戦は失敗です』

 

『何だと!? ミストルテインには攻撃に十分耐えうる量のミスリルを用いたのではないのか?』

 

『風化速度が想定以上だったとしか言いようがありません。観測分析班からは、バジリスクの背中が割れて巨大な眼球が出現したとの報告が届いています』

 

『新たな眼だと? それが"終末時間(カタストロフ)"の出力が増大した理由か……』

 

ディラン少将は険しい表情で呟き、俺たちの方へと視線を向けた。

 

『———聞いての通りだ。我々の力は、またしてもドラゴンに通用しなかったらしい』

 

「いえ……決してそんなことは。バジリスクが新たな眼を開いたのは、それだけ追い詰められた証拠です」

 

篠宮先生はそう言うが、ディラン少将は苦笑いを見せて首を横に振る。

 

『それでも、倒せなければ意味はない。バジリスクの新たな眼———今後は第三の眼(サードアイ)とでも呼ぼうか———それに関するデータは後程送らせる。そちらの作戦を成功させるために役立ててくれ』

 

「感謝します」

 

頭を下げる篠宮先生。ディラン少将は頷き、次にティアちゃんの方を見る。

 

「おじさん……」

 

『応援してくれたのに、すまないな。力が足りなかった』

 

「ううん、いいの。おじさん、ありがとう!」

 

ティアちゃんが礼を言うと、ディラン少将は薄く微笑む。

 

『……君たちの幸運を祈る』

 

その言葉と共に通信は切れ、モニターは真っ黒になった。代わりに窓の外が明るくなった。陽が昇ったのだろう。

 

僕は悠たちの気が上がっていることが見なくても分かる。次は自分たちが戦う番だと、全員が理解しているようだ。

 

僕も奴と戦うのが楽しみのようで、心の底からワクワクしてきた。




いかがでしょう? ニブルの作戦が失敗に終わり、亮たちの出番ですね。次も楽しみにしてください。

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