ニブルの作戦が失敗に終わった日から、バカンス気分は綺麗さっぱり消え去った。
刻一刻と迫るのは、ティアちゃんを守る命懸けの戦い。
ディラン少将からの情報を元に新たな作戦が立案され、その予行演習が毎日行われた。もはや通常授業はほとんどない。
バジリスクの体長はおよそ五十メートル。外観を一言で表現するなら、巨大なトカゲというべきだろう。しかしその生物は、ただ大きいだけの
体は赤みを帯びたダイヤモンドの
一秒間におよそ二千年は吹き飛ぶ威力である。そして奴には奥の手がある。
ミストルテインを貫いた
そんな状況で篠宮先生と深月さんが考え出したのは、至極単純な作戦だった。
バジリスクの射程外かつ死角から、反応できない速度で、ダイヤモンドの鱗を貫く威力の攻撃を加える———それが、新たな作戦の内容。
ニブルの有する光学兵器では火力が足りないが、ミッドガルには条件を満たす"D"がいる。
港から十分ほど歩いたところにある広い荒地で、今日も彼女たちは練習を繰り返していた。
「ではレンさん、行きますわよ!」
「ん」
リーザさんが作り出した架空武装、
するとリーザさんの架空武装は凄まじい速度で巨大化し、長さが何十メートルもありそうな
架空武装は
今、リーザさんはレンちゃんの上位元素を借りて、自身の架空武装を巨大化させたのだ。
しかし———。
「あっ!?」
リーザさんが慌てた声を上げた。
突如として槍の輪郭が歪み、宙に溶けるがごとく架空武装は消失する。
借りた上位元素は、あくまで他人のものなので制御が難しい。だから少しでも気を抜くと、ああやってすぐに崩壊してしまう。ゆえに二人以上から上位元素を借りるのは不可能だと言われていた。
しかし、僕は"世界神"であり、創造と破壊を司る神。上位元素を他人から借りても簡単に扱える。逆に、相手の使いやすいように調整できるため、問題はない。
悠も対竜兵装を作る時は深月さんたちから上位元素を借りているが、変換の際はユグドラシルから送られたマルドゥークの設計図を元に作りだす。だから他人の上位元素が持っている癖は気にしないわけだ。
けれどリーザさんたちの場合は、繊細なコントロールが要求される。
「もう一度、行きますわよ!」
「んっ」
リーザさんの声に頷くレンちゃん。再び巨大な架空武装の槍が形成された。
僕の場合、実戦では気を使って戦うので、尚更そういうことはしない。
しかし今回の作戦で必要とされる攻撃を行うには、どうしてもこの技法に頼るしかないという。
(さて、僕もそろそろやるか)
僕は彼女たちから視線を外し、自分の特訓に戻る。
今回の作戦はリーザさんとレンちゃんの二人で最初に攻撃をする。深月さんとフィリルさん、アリエラさんは、リーザさんたちの初撃が失敗した場合のサポート役だ。二人を守り、なおかつ第二次攻撃へ移ること。
悠とイリスさんは役割を与えられていない。
悠の対竜兵装で攻撃するとしても、射出型武器の"
アイツにできるのは、反重力物質でいざという時に行動の選択肢を増やすこと。そのため、少し離れたところでその制御訓練を行っている。
イリスさんは悠の少し近くで狙撃の訓練をしている。
彼女のミスリル零距離爆破は、バジリスクに通用する攻撃。もしもバジリスクが射程外から狙うことがあれば、致命打を与える可能性が高い。
とは言え、狙いを付けるには、どうしても目標を視認する必要がある。それはバジリスクの視界にも入るということだ。たとえ射程外であっても、そんなリスクのある作戦は許可されない。
なので、二人は船で待機することになる。
しかし、僕は少し気になることがある。彼女は何を作っても爆発させてしまう。その性質を攻撃に向けると、イリスさんは他にはない強みを手にしている。
もしかしたら、彼女の本質はもっと別の何かではないかと思う。
例えば正常な機械が壊れた時、原因は不適切な使い方にあることが多い。だからイリスさんの能力も、不適切な使い方をしているからエラーが起きて爆発するのではないかと推測している。
もし、
原作では悠も同じことを思っていたが、今はリヴァイアサンの能力を制御しているので、まだそうは思っていないようだ。
それに、イリスさんを見ているとそんなことは一生ないと思う。
そんなことは置いといて、悠とイリスさんは船で待機して、深月さんたちがバジリスクと戦うところを見ることだ。
ちなみに僕は深月さんたちの攻撃でバジリスクが隙を突いたところを攻撃するのが役割である。つまり、僕がバジリスクにとどめを刺すということだ。
しかし、僕も何かあればサポートに回らなければならないので、
金縛りは問題ないが、"魔封波"は
攻撃も超サイヤ人で迎え撃つが、それでも
破壊のエネルギーは風化と違って、存在するものを消すことであるので、時間に影響されない。
体に身に纏えば、たとえ食らっても骨になることはない。しかし、その場合はみんなにどう説明するかで今後に関わる。
破壊のエネルギーは最後の手段にして、僕は超サイヤ人でバジリスクを倒す特訓を続ける。
「みんなーっ! もうすぐお昼ご飯なのーっ!」
するとそこに、架空武装の翼を生やしたティアちゃんが空を飛んで現れた。空気への変換を巧みに制御して地面に降り立ち、悠の方に駆け寄ってくるティアちゃん。
「ユウ、今日のお昼ご飯はティアも手伝ったの!」
「そりゃ楽しみだ。期待してる」
「うんっ!」
悠とティアちゃんの話し声が耳に届く。
僕たちが練習を行っている間、ティアちゃんは別の時間割で座学の授業を受け、時には乗組員の手伝いを行っていた。
バジリスクに狙われているティアちゃんは前線には立てないため、今できることを頑張っているみたいだ。
みんなバジリスクを倒すために誰一人として時間を無駄に使ってはいない。
しかし僕は昼食を食べた後に"神界"に行って仕事をしなければならない。
僕はみんなに見られないように昼食を早く食べ終わるようにした。
◇
"虚無の世界"。ドラゴンボール超に出てくる"無の界"と同じで、時間も空間もない。僕がミッドガルに来る前はほぼ毎日ここで修行をしていた。
今は週に三回来ており、他の"世界神"と組手をしている。
ここには僕と弥生さんとルドルフさんが居る。
第二世界の"世界神"飯島弥生さんは神々の中で、一番の怪力の持ち主。お淑やかな女性で、みんなのお姉さん的存在です。
第三世界のルドルフさんは神々で一番の声量の持ち主である。雄叫びを聞いたものは一時的に運動神経を麻痺させ、"世界神"でも立っていられるのがやっとな程だ。
ドラゴンボール超の漫画に出てくる第十宇宙の破壊神ラムーシと同じ能力を持っている。
数時間前に僕たちは
"カチカチン鋼"でできている武舞台を修復し終え、今は観客席に座って雑談をしていた。
「そういえば、いつ頃神々の合同サミットがあるんすか?」
ルドルフさんは弥生さんに聞いてきた。
「たしか下界時間では五年後ですよ。忘れましたか?」
弥生さんが答えると、ルドルフさんは「そうだった」と納得した。
本当はルドルフさんが何十万倍も年上だが、"世界神"は変わり者が多く、まともなのは弥生さんしかいないのだ。
「神々合同サミットは百年に一度だから忘れるのも仕方ありませんが、ルドルフさんは恵さんの次に長く仕事しているんですからいい加減覚えてください」
弥生さんは少し怒った表情でルドルフさんを睨んだ。
「悪いな。ワシは忘れっぽいんだよ。しかし、最近は歪みが少なくなったな」
「そうですね。僕の方でも歪みがほとんど発生しないんです」
最近、世界に起きる空間の歪みが少なくなってきており、自然を司る神々はその原因を調べているが、全く分かっていない。
空間の歪みは世界で発生する超自然現象で、世界を滅ぼしかねない。それを僕たち"世界神"が神の気を注ぎ込み、正常に戻すのが主な仕事である。
しかし、歪みが発生するということは世界のバランスが保たれている証拠であるが、それが無いということは、何か嫌な事が起こるかもしれない。
僕たちはどんな状況でも対処できるが、何があるか分からない。だからこうして修行して身と心を鍛えている。
「亮くん? どうしたの?」
僕が歪みについて考えていると、弥生さんが心配して声を掛けてきた。
「ああ、すみません。歪みがないので何だか嫌な予感がしてきまして……」
「そのことか、心配することはない。ワシたちがいるんだ。それにおぬしだって強いんだ。その何があっても大丈夫だ」
ルドルフさんは僕の背中をポンポン叩いて言った。そう言われると照れてしまう。
「あ、ありがとうございます」
僕はお礼を言ってお茶を飲んだ。弥生さんが入れてくれたお茶は温かくて美味しい。ルドルフさんが用意してくれたクッキーやせんべいにも相性が良い。
「亮、そういや八重ちゃんの胸を揉んだって?」
「ぶっ!」
ルドルフさんの一言に僕は飲んでいたお茶を吹き飛ばしてしまった。お菓子には掛からなかったが、椅子は汚してしまった。僕はタオルで吹きこぼしてお茶を拭いた。
「なっ、なんでそれを……」
たしかルドルフさんと弥生さんはその頃、自分の担当する世界で仕事をしていたので、会議室のことは知らない筈だ。すると横から弥生さんが言ってきた。
「エドワードくんが言ってきたのよ。亮くんって八重ちゃんとはそういうことが時々あるよね」
弥生さんはニヤニヤしながらこちらを見た。ルドルフさんも微笑みながら僕を見ている。ホント"世界神"は変わり者が多くて疲れるよ。
「あれは事故です。まあ反省はしてますが……」
僕は頬を染めて顔を逸らした。事実、あれは事故であり、僕が襲ったわけではない。何故か八重さんと関わってくると、こういうことが多々ある。
「ふ〜ん、そうなんだ……で? 今は八重ちゃんとはどうなんだ?」
「何がですか?」
ルドルフさんが何を言っているか分からず、聞き返した。
「だから、八重ちゃんとは恋人になったのか?」
「えっ!?」
今度はお茶を飲んでいなかったが、急に変なことを聞いてきたので、僕はルドルフさんの方を向いた。
「だって……好きなんでしょ?」
「なっ……そ、それは……その……」
僕はその言葉に否定できない。何故だか分からないが、否定しようとすると心が苦しい。逆に認めようとしても恥ずかし過ぎて答えられない。
「好き……なのかもかもしれません」
僕は答えるが、徐々に声が小さくなる。するとルドルフさんはにやけた表情で僕に寄ってきた。
「ん? なんて? 聞こえなかった、もう一回言って?」
ルドルフさんは笑いながら聞いてきた。この人、本当に面白がってる。
すると、杖が出てきて、球体が青白く光っていた。どうやら連絡が来ているようだ。球体は映像になるので、顔を近づけると深月さんの姿があった。
『亮さん、午後九時に召集があるので会議室に来てください』
深月さんはそれを報告するために連絡してくれたようだ。いいタイミングできたので助かった。
「分かった。もうすぐ戻るから」
『はい、待ってます』
そう言って僕は通信を切り、船に戻る準備をした。
「どうした? もう戻るのか?」
「え、ええ。もうすぐ夕食の時間ですので」
そう言って僕はすぐに飛び去り、"虚無の世界"を出た。
途中、弥生さんがルドルフに「からかいすぎですよ」と注意している声が聞こえた。
いかがでしょうか?次回は悠とイリスがメインの話です。お楽しみ下さい。