ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。今回、深月たちが立てた作戦でバジリスクと戦います。楽しみですね。


"赤"のバジリスク

とうとう決戦の時がやってきた。

 

時刻は午前十一時二十分。空の高い場所まで昇った太陽が、容赦のない日差しで辺りを照らしていた。

 

既に全員、持ち場についている。輸送船は火山島がギリギリ水平線上に見える位置まで後退し、リーザさんとレンちゃんは火山島で攻撃準備中。僕と深月さん、フィリルさん、アリエラさんは、火山島と輸送船の間でそれぞれ一定距離を保って待機している。もしリーザさんたちに何かあれば、即座にサポートするための布陣。

 

僕もサポート役の一員だが、本来の役割はリーザさんたちがバジリスクを引き付ける間に高い攻撃力で奴を倒すこと。つまり、最初の攻撃に失敗した時の保険ということだ。

 

悠とイリスさんとティアちゃんは篠宮先生の指揮を艦橋から見守っている。

 

ティアちゃんが船に残ったのは、当初の予定と異なる。けれど、自分がいればバジリスクは船への攻撃を躊躇(ためら)うかもしれない———というティアちゃんの主張で、作戦は変更となった。

 

言わばバジリスクに対する人質だが、本当にその役割を果たせるかどうかは分からない。実験することも不可能だ。もし試した結果、ティアちゃんが命を落とせば何の意味もなくなってしまう。

 

それでもティアちゃんの要望が通ったのは、もしティアちゃんが巻き添えになった場合でも、バジリスクが増えるという最悪の事態だけは避けられるからだろう。

 

ミッドガルの後発隊もやってきていたが、彼女たちは火山島から数十キロ離れた場所で待機している。作戦の性質上、大人数で前線に立つのはリスクを無駄に高めるだけだと、篠宮先生たちが判断したそうだ。

 

バジリスクは現在、火山島から十二キロメートルの地点にいる。火山の上部なら、もう見えていてもおかしくない距離だ。

 

知っての通り、地球は丸い。ゆえにある程度距離を取ると、地上にあるものは水平線の下に隠れて見えなくなってしまう。人間が海岸に立った場合の視界は約五キロメートル。バジリスクの大きさだと、十キロメートルといったところだ。火山の山頂付近からなら、二、三十キロ沖まで見通せる。

 

つまりこちらが利用する天然の障壁は、火山島と水平線の二つということだ。

 

周辺の海には、多数の観測機器がばら()かれており、その映像が船にあるモニターに映し出されている。バジリスクは進路上の海を塩化させてしまうが、赤い閃光(せんこう)の直撃を免れた観測機器は生き残っており、データを送信し続けているらしい。

 

今頃、ティアちゃんの竜紋(りゅうもん)()くなってきているだろう。見染められた"D"はドラゴンとの距離が近くにつれ、どんどん色が熱くなる。

 

もし僕たちの作戦が失敗し、ティアちゃんを改めて見染めれば、彼女は同種のドラゴンに変貌する。そうならないよう、みんなはこの今作戦でバジリスクを倒そうとしている。

 

しかし、僕はできないと思う。皆はまだ、バジリスクの隠された本当の力に気付いていない。

 

本来なら僕一人でも倒せるが、そうしてしまえば神の存在を知られてしまう可能性がある。たとえ討伐出来ても、今後のことで支障が出る。だから僕はこの作戦が失敗しても、奴に深手を負わせるようにする。僕はいつでも動けるように準備をする。

 

リーザさんたちがやろうとしているのは、火山を目隠しにしての超長距離狙撃。

 

レンちゃんの力を借りた高出力の陽電子砲で山を貫き(・・・・)、バジリスクを攻撃するのだ。

 

リーザさんは、観測機器からのデータで照準計算を行うゴーグルを身に着けることにより、山を挟んでいても狙撃が可能だ。直前までバジリスクには見えないはずなので、迎撃は間に合わないと考えられている。

 

ただそれでも万一ということがあるため、狙撃はバジリスクの射程外から行うことになっていた。第三の眼(サードアイ)が開いていた場合は一万メートル以上、閉じていた場合は五千メートル以上の距離が必要だ。当然遠くなるほどに難易度は上がるため、第三の眼が開いていないことはこちらの有利に働く。

 

『B1、B6、作戦はプランAにて実行。対象が距離六千に達すると同時に攻撃を開始せよ』

 

リーザさんたレンちゃんの通信機から篠宮先生が指令を出す。

 

『了解ですわ』

 

『ん』

 

二人は篠宮先生に返事を返す。

 

(さてと、少し気を上げるか)

 

僕はいつでも超サイヤ人になれるように気を上げ、準備を終わらせようとした。

 

そして準備を終えると、その時が訪れた。

 

『目標、六千メートル地点に到達!』

 

オペレーターを務めるクルーがそう報告した。

 

『作戦開始!』

 

篠宮先生は間髪()れずに通信機を通して告げる。

 

リーザさんとレンさんは何度も練習していた通りに、協力して架空武装の槍を作り上げた。

 

その穂先が(まばゆ)い光を放ち始める。現代兵器を凌駕(りょうが)する陽電子の光槍(こうそう)が生み出されようとする。その威力は悟空が超サイヤ人の状態で放つ"かめはめ波"と同等だ。

 

けれど、その直前にオペレーターが叫んだ。

 

『バジリスク移動停止! 背面部開口! 第三の眼(サードアイ)()り出していきます!』

 

やはり使ってきたか。バジリスクの隠された能力を。

 

「そんな、気付かれるなんて……」

 

深月さんも驚きを隠せないようだ。

 

「でも、どうして分かったんだ?」

 

アリエラさんが驚きながら疑問を抱いた。

 

今頃悠たちもバジリスクの行動に驚いているだろう。原作では、多分大きなエネルギーの発生を感知したと思っているだろうがそうではない。それ以上に厄介な能力を持っている。

 

バジリスクの気を探ると、莫大な力を感じ取る。

 

『まずい———攻撃中止!』

 

焦った声で僕たちに叫ぶ篠宮先生。

 

しかし、発射直前のリーザさんたちの攻撃はすぐには止まらない。巨大な架空武装の穂先から、陽電子砲が放たれる。

 

眩い金色の光が火山に正面にある山を突き刺した。しかし同時に、バジリスクの第三の眼からの終末時間(カタストロフ)が放たれるのを感じた。

 

火山を挟んでぶつかる金と赤の輝き。だがこのままでは、山を貫通した瞬間に陽電子砲は()き消され、リーザさんとレンちゃんが赤い光に呑まれてしまう。

 

『二人とも至急回避行動に移れ! 作戦はプランBに移行!』

 

篠宮先生が早口でリーザさんたちに告げる。

 

その直後———第三の眼から放たれた攻撃により、火山の上部が(ちり)と化し、赤色の光が空を駆け抜けた。この威力では超サイヤ人の大技でも風化させられる威力だ。山であろうと、莫大な年月の経過には逆らえないようだ。

 

気配を探るとリーザさんとレンちゃんの気を感じ取れる。どうやら、第三の眼から放たれた終末時間(カタストロフ)を回避したようだ。

 

数秒後、光が途切れた後に残ったのは、不自然な形に(えぐ)れた雲と、上半分が消失した火山の姿。

 

奴の放つ攻撃は凄まじかった。その気になれば地球の形を変えるほどの威力かもしれない。

 

しばらくして、溶岩が吹き出し、噴煙が空へと上がる。

 

『リーザとレンは!?』

 

通信機から悠の声が聞こえる。

 

『無事ですわ。ギリギリで回避しました。もうすぐ深月さんと合流します』

 

リーザさんは返事に答えた。通信機からイリスさんとティアちゃんの安心する声が聞こえた。目の前にはリーザさんとレンちゃんがこっちに向かってくる。

 

篠宮先生は気を緩めることなく、僕たちに指示を飛ばした。

 

『全員、速やかに船へ帰還せよ。高度は可能な限り低く保て!』

 

空気変換による飛行法は、編隊を組むことでより速い移動が可能となる。リーザさんたちと合流して、高度を上げながら戻ろうとした。

 

「申し訳ありません、まさか攻撃してくるなんて……」

 

「ん」

 

リーザさんとレンちゃんは僕たちに謝り、深月さんは返事を返した。

 

「いえ、作戦はまだ失敗していません。早く戻りましょう」

 

気を探ると、火山の上部を吹き飛ばしたバジリスクは、火山島の先にいるティアちゃんの元へと進撃を再開したようだ。

 

すると、バジリスクから力を感じた。第三の眼からの攻撃よりは小さいが、通常の終末時間(カタストロフ)を撃ってくるようだ。

 

しかし、それは僕たちに対してではなかった。

 

バジリスクは行く手にあるマグマと噴煙を邪魔に感じたのか、島の手前で赤い閃光を両目から放つ。すると煙は一瞬で消え去り、マグマは噴き上がった形のまま石化した。

 

不自然に固まった溶岩は前衛芸術のように奇妙で、終末時間(カタストロフ)の凄まじさを改めて思い知る。そして僕は同時に確信した。

 

(やっぱりそうか、貯めの時間(・・・・・)が必要か)

 

(いま)だに第三の眼は開いたままだ。原作通り、第三の眼を放つには膨大な力を使うようだ。そして再び攻撃するには時間がかかる。多分悠はそのことに気付いているだろう。

 

「もうすぐ着きます。皆さん、頑張ってください」

 

深月さんは僕たちに呼びかけた。船との距離が少しずつ縮まり、あと数十秒で着く。

 

船は島から遠ざかるように移動しており、悠たちは船尾側の甲板に居た。

 

「おかえり!」

 

イリスさんが手を振って僕たちを出迎えた。とりあえず全員無事だったことが嬉しいらしい。

 

「気持ちよく、ただいまと言えればよかったんですけどね。すみません、失敗してしまいましたわ」

 

リーザさんは悔しそうに呟く。レンちゃんも「ん……」と顔を伏せた。

 

「バジリスクの感知能力が想定以上だっただけです。リーザさんたちの責任ではありません。次は———私と亮さんの番です」

 

落ち込む二人を深月さんは励まし、火山島の方を鋭く見据える。

 

辛うじて固まった溶岩の一部が見えているだけで、島自体は水平線の向こうに隠れてしまっている。

 

「水平線に身を隠しつつ、特大の反物質弾を撃ち込みます。私の矢は放物線軌道を取りますから、他の皆さんより低い高度からの攻撃が可能です。亮さんも最大エネルギー量で攻撃してください」

 

「了解」

 

僕は返事をすると、深月さんはレンちゃんを見た。

 

「レンさん……今度は私に力を貸してください」

 

「んっ」

 

レンちゃんはこくんと頷き、深月さんこ傍に寄る。

 

「はあっ!」

 

僕は超サイヤ人になり、奴を消滅させる程の気を貯めつつ舞空術で空を飛ぶ。

 

五閃の神弓(ブリューナグ)

 

深月さんは弓の架空武装を生み出し、空気変換を行い、レンちゃんと共に宙へと浮かび上がる。

 

ある程度の高さまで上昇した僕たちは狙いを付け、バジリスクがギリギリ水平線下に収まる位置で攻撃を行う。

 

「ん」

 

レンちゃんが五閃の神弓(ブリューナグ)に手を触れると、リーザさんの時と同様に架空武装は一気に巨大化した。

 

身長の数十倍もある虹色に輝く大弓を構える深月さん。そして弓の大きさにふさわしい、長大な上位元素(ダークマター)の矢を(つが)えられる。

 

どうやらレンちゃんから移譲された上位元素を制御しているようだ。

 

僕も奴を消滅させる程の気を貯め終え、両手の指を合わせて照準を作る。

 

深月さんは矢を引き絞り、僕と同じタイミングで攻撃する。

 

(つい)の矢———空へ落ちる星(ラスト・クォーク)!」

 

「気功砲!」

 

放たれる反物質の矢と大規模に撃った気功波はバジリスクに向かっていく。

 

しかし、二つの攻撃を、逆巻く赤い閃光の奔流が呑み込んだ。

 

「なっ……」

 

僕は言葉を失くす。

 

光の規模、射程から考えて、間違いなく第三の眼(サードアイ)による迎撃。

 

超サイヤ人の状態でパワーを最大限に上げた気功砲に加え、深月さんの反物質の矢でさえも第三の眼には敵わなかった。

 

やはり奴は僕たちの攻撃を分かっていた(・・・・・・)ようだ。

 

バジリスクがいるのは火山の向こう側。上部が吹き飛ばされたとは言え、山は(いま)だにバジリスクの視界を制御していた。どんなに死角からの攻撃でも通用しないようだ。

 

赤い閃光は僕たちの頭上を通り過ぎ、彼方(かなた)へと抜けていくが、光は落ちてくる。

 

雲を貫いていた閃光が、今度は僕たちの頭上へと迫る。そしてそのまま僕たちの方に向かってくる。

 

このままでは深月さんたちが危ない。破壊のエネルギーを生み出し、巨大な赤い閃光に向けた。

 

その時、赤い閃光が不自然な方向に曲がり、海をあっという間に真っ白な塩と化す。どうやら悠が斥力場を発生させ、終末時間(カタストロフ)の軌道を()じ曲げたようだ。

 

「———兄さん、ありがとうございます。危うく私たちが巻き込まれてしまうところでした」

 

歯を噛み締め、悔しげな表情を見せる深月。

 

「後悔するのは後ですわ! 次はどうするんですの!? 今の攻撃を続けられたら、逃げ切れることもできなくなりますわよ!」

 

リーザさんが切羽詰まった声で、深月さんの判断を求める。

 

「……イリスさん、お願いがあります」

 

数秒沈黙した後、深月さんはイリスさんの名を呼んだ。

 

「な、何? 何でも言って!」

 

「島の上空辺りで爆発を起こし、ミスリルの雨を降らせてください。狙いは適当で構いません。恐らく全て迎撃されるでしょうが、時間稼ぎにはなるはずです」

 

「わ、分かったよ———双翼の杖(ケリュケイオン)!」

 

イリスさんは架空武装を手に、船尾の端に立つ。

 

聖銀(せいぎん)よ、降れっ!!」

 

白銀の杖を(かざ)し、イリスさんは叫ぶ。すると彼方の空で銀色の爆発が起こり、数えきれないミスリルの破片が地上へと降り注ぐ。

 

その範囲内にはバジリスクもいたようで、赤く細い閃光が複雑に空を駆け巡った。深月さんの言う通り、たぶん一つ残らず撃ち落とされているのだろう。こういう飽和攻撃が有効であるならば、ニブルもそれを選択していただろう。

 

イリスさんは繰り返し爆発を起こし、その間に船はバジリスクから遠ざかる。白く塩化した(いびつ)な水平線も、次第に見えなくなっていく。

 

これは———敗走だ。

 

僕たちの作戦は全て失敗に終わり、敵に背を向けて逃げるしかない。

 

「っ……」

 

深月さんは唇を噛み、拳を強く握り、小さく肩を震わせていた。

 

悔しいのだろう。力が及ばず、仲間を危険に晒した自分が許せないのだと思う。

 

リーザさんはそんな深月さんを。歯がゆそうな面持ちで眺めている。

 

連続で大規模な爆発を起こし続けたイリスさんは、疲れ果てた様子で甲板に座りこんだ。僕は超サイヤ人を解除して水平線を見た。

 

重い空気から満ちていて、誰も口を開かない。

 

悠は何も言わず、静かにその場を離れた。どうやら何か思い付いたようで、原作通りに元上官と連絡を取るつもりらしい。

 

僕は気持ちを切り替え、その場を後にした。自分に出来ることをするために、"虚無の世界"に向かった。




いかがでしょう? 次回、悠はバジリスクを倒す作戦を立案します。お楽しみください。
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