ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。悠は何やらある男と連絡を取るようです。お楽しみ下さい。


可能性

『———君の方から私に連絡してくるとは思わなかったよ、物部少尉。もしや私の隊に戻りたくなったのかな?』

 

艦橋のモニターに映し出された男が、切れ長の目を細めて言う。彼はニブル在籍時に俺の上官だったロキ・ヨツンハイム少佐。俺を最強の"人殺し"に仕立て上げようとした人物だ。

 

「まさか。俺はミッドガルの生活に満足してますよ」

 

作戦が失敗し、イリスの足止めのおかげでバジリスクから逃げることができた。

 

俺はこの作戦であることを思い付いた。もしかすれば、バジリスクを倒せるかもしれないと考えてロキ少佐に連絡した。

 

『ふむ、では何の用だね? 私も暇ではないのだが』

 

視線で早くしろと促すロキ少佐。

 

「以前———報酬をくれると約束してくれましたよね。いつのことだったかは、はっきりと思い出せませんが」

 

俺は含みを持たせた言葉を投げる。ロキ少佐は微かに眉を動かした。

 

あれは———リヴァイアサンの一件が片付いた後のこと。ロキ少佐は事態を上手く収めた俺を(ねぎら)い、好きな報酬を与えようと言ったのだ。

 

もちろん思い出せないというのは嘘。けれど、この会話をした時の通信はミッドガルが関知しないものだったので、篠宮先生たちがいる艦橋で口にするわけにはいかない。

 

『……そういえば、そんな約束をしていたな。何だ? ようやく欲しい物が決まったのか?』

 

ロキ少佐の問いに俺は頷く。

 

「はい———俺に、ミストルテインをください」

 

俺の要求を聞き、ロキ少佐は面白そうに口の端を歪めた。

 

『ほう……それは、バジリスク討伐用にニブルが開発した兵器のことか?』

 

「そうです。量産型の兵器ではないと思いますが、試作用のものは作られているはずです。それがまだ使える形で残っていたなら、俺に譲ってくれませんか?」

 

『ミストルテインはバジリスクに通じなかったはずだが、そんなものを何故欲しがる?』

 

ロキ少佐は画面の向こうから俺をじっと見つめ、問いかけてくる。

 

「俺はミストルテインの設計思想が間違っていたとは思いません。あれをこちらで運用すれば、活路が開けるかもしれないと考えています」

 

『何か考えがあるようだな。しかしあれが欲しいのならば、ミストルテイン作戦の責任者に直接話を持ちかけた方がいいのではないかね』

 

「その場合は、ミッドガル側がニブルに協力を依頼したという形になってしまいます。それはこちらへの過干渉を招く事態になりかねません。だから俺はロキ少佐へ、個人的に頼んでいるんです」

 

俺はロキ少佐と視線を合わせ、そう告げる。

 

『はは———用心深いことだ。まあ前例(・・)を考えれば分からなくもない。つまり私は、ニブル側からミストルテインをそちらへ提供するよう働きかければいいのだな?』

 

「はい、可能でしょうか?」

 

『報酬はどんなものでも用意すると言った以上、やれるだけのことはやってみよう。ただし上手くいくかは保証しない』

 

「それで十分です。ありがとうございます」

 

俺は礼を言って、頭を下げた。

 

そもそもミストルテインの試作品があるかどうかも分からない。過剰な期待はしていなかった。もし手に入れば多少は有利になるという程度。

 

本当なら、亮に頼めばすぐに作ってもらえるが、そんなことをすれば、みんなにどう説明すればいいのか困る。最悪、亮が神であることがバレてしまうかもしれない。

 

『ずいぶんと必死だな、物部少尉。そんなにも守りたいものがあるのか?』

 

「…………」

 

皮肉交じりの問いには、沈黙を返す。この質問に答えるのは、何故だか非常に危険な気がしたのだ。

 

『———まあいい、事が順調に運べば今日中にもニブルから反応があるだろう。動きがなかった場合は諦めることだ。これではな』

 

ロキ少佐は最後に薄く笑い、通信が途切れる。

 

(そば)で話を聞いていた篠宮先生は、俺に怪訝(けげん)な眼差しを向けた。

 

「物部悠、君はいったい———」

 

「勝手なことをしてしまい、すみません。篠宮先生、できれば皆を集めてくれませんか? そこで説明をしようと思います」

 

俺は篠宮先生に謝り、そう頼んだ。

 

ミストルテインが手に入るかは分からないが、俺には皆へ伝えておくことがある。

 

バジリスクには恐らく"隙"かある。

 

それは今回の失敗から見出(みいだ)した———唯一の活路だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は———ニブルの取った作戦が、最もバジリスクに有効だと考えている」

 

篠宮先生から会議室に集まるように連絡きたので、修行を切り上げて船に戻った。どうやら原作と同じ作戦を立案するつもりだ。

 

皆も集まり、悠は話を切り出す。

 

「ミストルテインに足りなかったのは、"終末時間(カタストロフ)"に耐え切る量のミスリル防壁だ。逆に言えば、それさえ補えればバジリスクを倒しうる武器になる」

 

やっぱりそうきたか。悠が強い口調で言うと、リーザさんが口を挟んだ。

 

「待ちなさい、モノノベ・ユウ。確かに理屈ではそうでしょうが、第三の眼(サードアイ)を開いたバジリスクはミスリルさえも一瞬で風化させますわ。どれだけミスリルがあっても足りないと判断したからこそ、ニブルも諦めたのではなくて?」

 

リーザさんの言う通り、単にミスリルの量を増やせばいいだけならば、ニブルはミストルテインを量産し、連続投下する作戦へ移行したはずだ。それをしないということは、必要とされるミスリルが現実的な量ではないということ。

 

「そうだな、バジリスクが第三の眼(サードアイ)から閃光(せんこう)を放ち続けたら、どれだけ厚いミスリルの防壁を作っても簡単に消し飛ばされるだろう。だけど俺はバジリスクにも限界があると思っている」

 

どうやら悠もそのことに気付いたようだ。

 

「……どういうことですの?」

 

リーザさんは何を言っているのか分からないようだ。

 

「バジリスクはニブルの作戦時も含め、第三の眼からこれまで三回閃光を放った。会議前に調べてもらったんだが、照射時間は共通して約五秒。さらに今作戦中の二回においては、連射した方が有利な状況に(かかわ)らず、それをしなかった」

 

悠の言葉を聞き、僕は今気付いたという演技をする。普段通りに話せば最初から分かっていたと知られてしまうためだ。

 

「そうか……僕たちが一度に生成可能な上位元素(ダークマター)は限りがあるように、バジリスクの第三の眼にも一度に放てるエネルギーにも限度があるということか」

 

「そうだ」

 

僕の言葉に悠は頷いた。やはりあいつは頭の回転が速いな。皆もそのことに驚いているようで、深月さんも納得したようだ。

 

「……可能性はありますね。そう考えると、連射できない理由は説明できます。照射時間が一定であるのは、加減ができないから……かもしれません」

 

「ああ、第三の眼はたぶん細かな調整が利かないんだろう。ありったけの量を放射して、五秒間でガス欠になる。そんな切り札なんじゃないかと俺は思う」

 

そこまでの説明を聞き、イリスさんが悠に問いかけてくる。

 

「じゃあ第三の眼からの攻撃した直後なら、バジリスクは無防備になるの? その時なら簡単に倒せちゃったりするのかな?」

 

「———そうなれば楽なんだけどな。俺が言ったのはあくまで第三の眼だけの話だ。残り二つの眼から、バジリスクは普通に攻撃してくると考えた方がいい。実際、イリスが降らせたミスリル片の雨を、バジリスクは迎撃してただろ?」

 

「あ、そっか……じゃあ、どうするの?」

 

首を(かし)げて(たず)ねてくるイリス。

 

「だからこそ、ミストルテインだ。あれは"終末時間(カタストロフ)"の通常照射には耐えられるよう設計されてる。そこに第三の眼(サードアイ)からの照射を五秒間(しの)げるミスリル防壁を追加すれば、計算上はバジリスクに届くだろう」

 

悠は自分の思い描いた可能性を説明する。確かにそうすれば有利にはなるが、それだけでは奴を倒せない。悠や皆はまだ、奴の隠された能力に気付いてないようだ。

 

「……兄さんの言いたいことは大体分かりました。つまり足りないミスリルを"D"の物質変換で補うわけですね」

 

悠に確認するように深月さんが問いかける。

 

「そういうことだ。俺はこれが、一番現実的な作戦だと思う」

 

「現実的、というにはまだ詰めが甘いです。バジリスクが今回見せた異常な察知能力も考慮されていませんし。た、検討する価値は十分にあると思います」

 

深月さんはそう言うと、篠宮先生へと視線を向ける。

 

「———私も同意見だ。ニブルからミストルテインが譲渡されるかどうかで多少状況は変わるが、この方向で新たな作戦を考えてみよう」

 

篠宮先生の言葉に深月さんは頷き、僕たちへと告げた。

 

「では、一時解散します。作戦の通達があるまで、体を休めてください」

 

そう言う深月さん自身は休むつもりはないようで、篠宮先生と相談を始める。

 

しかし、その表情は先ほどより明るくなっている。それならバジリスクよ察知能力を解明してくれるだろう。

 

そしてこの作戦が二年前の罪を償う条件になると知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古傷を額に刻んだ初老の男———ディラン少将が、画面の向こうから柔和な笑顔をティアちゃんに向ける。

 

『これはおじさんからのプレゼントだ。受け取ってくれたまえ』

 

その日の夕方———ミストルテインの譲渡は、意外なほどあっさりと成立した。

 

ディラン少将が積極的に動いてくれたらしく、高空まで運搬可能な輸送機付きという話だ。

 

「おじさん、ありがとうなの!」

 

満面の笑みを浮かべて礼を言うティアちゃん。それを聞いたディラン少将はさらに相好(そうごう)を崩すが、隣にいる僕と悠の視線に気付いて咳払いをする。

 

『こほん———ミストルテインにもう予備はない。これが最後の一発だ。上手く役立てて欲しい。ニブルの兵器がバジリスク討伐に貢献したとなれば、少しは我々の面目も立つからな』

 

ディラン少将は真面目な顔に戻って言い、通信は切れた。

 

悠の元上官、ロキ少佐がどんな風に働きかけたかは分からないが、ディラン少将はこちらがミストルテインを欲しがっていると分かった上で、無条件に引き渡してくれたようだと思う。

 

たぶんそれは、ティアちゃんのおかげなのだろう。

 

「助かったよ、ティア」

 

悠はティアちゃんにお礼を言う。

 

「え? ティアは何もしてないの」

 

きょとんとするティアちゃんだが、頭を()でると気持ちよさそうに目を細める。

 

「あとは深月が作戦を立ててくれれば奴を倒せるな」

 

「そうだな、……あと悠」

 

「どうした?」

 

僕は悠に近づいて小声でお礼を言う。

 

「ありがとな、ニブルに頼んでくれて」

 

「いや、俺はミストルテインに予備があると思ったから頼んだんだ」

 

「だとしても、本当は僕に作らせるつもりだったんじゃないのか?」

 

僕がそう言うと、悠は「うっ」と()めいた。どうやら図星のようだ。

 

「僕の正体を知られないためにわざわざ手間を掛けてくれたんだろ? 感謝する」

 

「……気にするな。もうすぐ作戦会議だから行くぞ」

 

「了解」

 

僕たちは会議室に向かったが、予想していたことが起きた。




いかがでしょうか?次回、リーザさんが深月さんに償いの条件を提示します。お楽しみ下さい。
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