ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです。あと半月で一年が終わりますね。今回も楽しんでください。


作戦決行

「今の言葉、本気ですの?」

 

会議室に怒気を(はら)んだリーザさんの声が響く。様々なデータを表示したスクリーンの前には深月さんが立ち、リーザさんの視線を真正面から受け止める。

 

「はい、もちろんです。私が———()()()()()()()()()()()()()()()

 

僕はそう言ってくると予想していたが、悠にとっては信じがたい言葉だった。皆は呆然(ぼうぜん)と深月さんを見つめている。

 

彼女はこの状況でも自分だけで背負おうとしている。原作でもそうだった。

 

「どうしてそうなるんですの? 無茶苦茶ですわ!」

 

バンッと机を叩いて立ち上がるリーザさん。

 

「分からなかったのなら、もう一度説明しましょう。計算上、第三の眼(サードアイ)からの閃光(せんこう)を五秒間耐える補強は可能でしたがら弾頭が巨大になり過ぎて、本来の落下制御システムが役に立たなくなります。ですから誰かがミストルテインと降下して、軌道修正を行う必要があるんです」

 

深月さんの言う通り、ミストルテインに新たにミスリルを物質変換で補強すれば、制御システムが使えなくなる可能性がある。その為には誰かがミストルテインと共に降下してバジリスクを倒さなければならないが、問題は誰がやるかだ。

 

「わたくしが問題にしているのは、そこではありません! どうして深月さんが一人でそんな役目を担うのかと聞いているんです!」

 

たぶんさっきの作戦で皆を危ない目に遭わせてしまったことに責任を感じてこのことを言っているのだろう。

 

「これは確証のない仮説に基づいた作戦です。こちらの予測が間違っている可能性は十分あります。そして失敗すれば、確実に命を落とすでしょう。そんな危険な任務を、他の誰かへ押し付けるわけにはいきません」

 

「っ……」

 

リーザさんが奥歯を噛み締め、つかつかと深月さんへ早足で近づく。

 

パン———と乾いた音が鳴った。深月さんの頬をリーザさんが叩いたのだ。

 

「あなたはどうして、いつもいつも……わたくしは認めませんわよ!」

 

「……認めていただかなくても結構です。(りゅう)(ばつ)(たい)の隊長は私ですから」

 

叩かれた頬を赤くしながらも、深月さんはリーザさんを正面から睨み返す。まったくこの人は本当に頑固だと改めて思う。

 

「待って」

 

けれどそこに、フィリルさんの声が割り込んだ。

 

「……誰かがやらなきゃいけないなら、私がやる」

 

「な———だ、ダメです! これは私がすべきことです!」

 

「……ううん、失敗した時のことを考えるなら、深月より私が適任。深月は生徒会長で(りゅう)(ばつ)(たい)の隊長だけど、私はただの一生徒だし」

 

フィリルさんは首を横に振り、深月さんの言葉を否定する。

 

「そういうことなら———ボクでも構わないわけだよね?」

 

ゆっくりアリエラさんも立ち上がり、深月に悪戯(いたずら)っぽい笑みを向けた。

 

「んっ!」

 

自分もだと言うように、レンちゃんも席を立つ。

 

「あ、あたしもっ!」

 

そんなクラスメイトたちを見回し、イリスさんまで慌ただしく起立した。

 

「空を飛べないイリスさんには、ミストルテインの制御なんてできないじゃないですか!」

 

深月さんは慌てた様子で指摘するが、イリスさんは真剣な表情で言い返す。

 

「確かにそうだけど、誰かを一人で行かせるわけにはいかないよ! あたしは、誰が行くことになっても付いていくから。何か力になれることがあるかもしれないもん!」

 

イリスさんは元々芯の強い少女だ。悠が好意を抱く理由も分かる。

 

完全に前提条件を無視しているが、イリスさんの言葉はある意味で正しかった。

 

「俺も降下メンバーに志願する」

 

悠が席を立って深月さんに言う。

 

「兄さんまで……」

 

深月さんは驚いて兄の悠を見た。僕もすかさず席を立ち、深月さんに意見した。

 

「悠とイリスさんはミストルテインの制御はできないが、二人ならいざという時(・・・・・・)役に立つぞ。あらゆる状況を想定して対処法を練るべきだが、僕も立候補しよう」

 

「…………」

 

黙り込む深月さん。先の作戦では、悠とイリスさんの力もあって窮地を脱することができたのだ。ゆえに否定の言葉を口にできないのだろう。

 

「たまには良いことを言いますのね、オオシマ・リョウ」

 

ブリュンヒルデ教室のメンバーが全員席を立ったのを見て、リーザさんが口元に笑みを浮かべた。

 

「深月さん、わたくし———決めましたわ」

 

「決めたって……何をですか? 作戦の決定権は、リーザさんにはありませんよ?」

 

警戒の眼差しを向ける深月さんに、リーザさんは苦笑を返す。どうやら、原作通りの状況になったようだ。

 

「違いますわよ。わたくしが決めるのは、二年前の罪をあなたが清算する方法です」

 

「な———どうして今、そんなことを……」

 

完全に予想外の言葉だったようで、深月さんは意表を突かれた様子でたじろいた。

 

「もちろん、今の状況に関係あることだからですわ。わたくしは深月さんに要求します———」

 

びしっとリーザさんは深月さんの眼前に指を突きつけ、鋭く告げる。

 

「わたくしを含め、今作戦に志願した全員の力を最大限に生かし、想定外の事態にも対応しうる完璧な作戦を考えなさい! そして、全員を生還させるのですわ! それを成し遂げれば、わたくしは深月さんを許しましょう」

 

「そんな……全員だなんてあまりにリスクが———」

 

「無理とは言わせません。新たな作戦が思いつかなければ、深月さん以外の誰かがミストルテインと降下することになりますわ。そうですわよね、篠宮先生?」

 

篠宮先生はずっと難しい顔で腕を組んでいたが、リーザさんに問いかけられて重々しく頷く。

 

「……他に志願者が現れた以上、司令官としてはそう判断せざるを得ないな。隊長には他にもやるべきことがある。ただし、より優れた他案がなければ、複数人を降下させることも許可できない」

 

篠宮先生の答えは至極真っ当なものだった。深月さんも反論することはできないらしく、唇を噛んで目を伏せる。

 

「分かりましたか? 深月さん、仲間を一人きりで死地へ向かわせたくないのなら———今度こそ家族を守り抜きたいのなら、死にものぐるいで考えなさい。皆で生きて帰れる……道筋を」

 

リーザさんの要求はとても難しい。仲間の命を背負うぐらいなら、自分一人でバジリスクに立ち向かう方がずっと気楽なはずだ。

 

とんでもなく難しい条件を考えると言っていたが、これほど深月さんにとってきつい要求もないだろう。

 

しかし、深月さんなら達成できる。原作を読んでだことがある僕なら知っている。彼女はどんな条件でも必ず応えてくれる。

 

深月さんは拳を握りしめ、震える声で答える。

 

「……やってみます。少し、時間をください」

 

そう言うと、深月さんは早足に会議室を出て行く。その華奢(きゃしゃ)な後ろ姿を、リーザさんはじっと、祈るように見つめていた———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕たちを乗せた輸送船は、ミッドガル第一防衛線の内側まで退避し、そこでミストルテインを運んでいたニブルの大型輸送艦と合流した。

 

僕は深月さんからの再召集が掛かるまで自分の部屋で瞑想(めいそう)をしていた。ドラゴンボール超に出てくるジレンもこうして精神を落ち着かせていた。

 

深月さんなら大丈夫だと信じている。リーザさんと仲直りし、全員で生還することを知っているからだ。

 

すると、廊下の方から気を感じた。それは悠に似ている気で、扉をコンコンとノックしてきた。

 

「どうぞ〜」

 

僕が入るように言うと、扉が開く。そこに立っていたのは、少し疲れた表情を浮かべている深月さんだった。

 

「亮さん———少し、お話いいですか?」

 

「ん? いいぞ」

 

頷き、深月さんは僕の部屋に入ってきた。

 

深月さんは奥のベッドに腰掛け、深々と溜息を吐いた。

 

「ふぅ……なかなか上手くいきませんね」

 

「新しい作戦を考えるのにか?」

 

深月さんと向かい合うように手前のベッドに座った僕は問いかけてみた。

 

「いえ、既に新たな作戦立案は終わっています。ただ、私はその上で、皆さんに志願を取り下げてくれないかと、頼んで回っていたんです」

 

「もう作戦はできているのか……さすが深月さんだ。でも今さら誰も取り下げたりしないだろ。もちろん僕もだけど」

 

本当にこの人は優秀だと感じる。

 

「ええ……フィリルさんたちの部屋を回ってきましたが、誰も頷いてはくれませんでした。やはり亮さんもそう答えますか」

 

「まあね、僕たち仲間だろ? それに僕を誰だと思っている? 僕は創造と破壊を司る"世界神"だぞ? バジリスク程度の相手にやられたりしないさ」

 

そう断言すると、深月さんは呆れた顔で息を吐いた。

 

「全く、貴方って人は……まあ、亮さんはそういう方でしたね」

 

「ああ、僕は偉いんだ」

 

僕は胸を張って偉そうにする。

 

「仕方ありません。兄さんのところが最後ですので行ってきます」

 

「悠が最後か……けど断られるぞ?」

 

「分かっています。念のためです」

 

深月さんは扉の方に向かい、部屋を出ようとしたが、途中で止まった。

 

「亮さん、一つだけいいですか?」

 

「ん? どうした?」

 

深月さんは僕の方を向いて言ってきた。

 

「……無理をしないでください」

 

深月さんは僕のことを心配してくれてるようだ。僕も悠みたいに無茶をすることがあるので、そう言ってくれているのだろう。

 

「……アンタがそんなこと言えるのか?」

 

僕が皮肉交じりに言うと、深月さんは「うっ」と(うめ)く。

 

「なんてね、心配してくれてありがとう。出来る限りやってみるよ」

 

微笑んでそう言うと、深月さんはどこか安心した表情を浮かべる。

 

「はい、それでは」

 

そう言って深月さんは部屋を後にした。深月さんの気が遠くに行くのを確認してから、再び瞑想を始めた。

 

バジリスクの第三の眼(サードアイ)に通用するのは超サイヤ人2だが、まだ使わない。原作を読んでいるため、作戦は頭に入っている。

 

僕は召集が掛かるまで、瞑想を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、午前七時———僕たちは高度一万五千メートルの天空にいた。

 

地球が丸いことを理解できる高さで、雲を見下ろせる世界だ。

 

足場にしているのは、巨大な銀色の兵器。対バジリスク用に開発された、ミスリル製の大型爆弾———ミストルテイン。

 

周囲には後発隊として合流した(りゅう)(ばつ)(たい)の少女たちが、(せわ)しなく飛び交っている。

 

彼女たちは空気変換による風の制御でミストルテインを浮遊させ、さらに下部のミスリル装甲を厚くする作業を行っていた。

 

この高度まではニブルの輸送機に牽引(けんいん)してもらったが、彼らは"D"の役割を引き継いで撤退している。ミストルテインは既に輸送機では支えきれない重力になっているからだ。

 

投下メンバーであるブリュンヒルデ教室の面々は、力を温存するためにミストルテイン上で待機し、準備が整うまで待っている。

 

普通なら呼吸もままならない零下の高度ではあるが、辺りを包む風は温かく、十分な酸素も含んでいるため、息苦しさや寒さは感じない。

 

風の生成役にはティアちゃんも加わっていた。少しでも力になりたいからと、半ば強引に付いてきたのだ。

 

ただ、共に投下することはできないため、準備が終わればティアちゃんは他の竜伐隊と一緒に撤退する予定だ。

 

翼の形をした架空武装を紅に輝かせ、空気を生成し続けるティアちゃん。僕たちの周囲はほぼ無風状態なのは、彼女がちゃんと風を制御している証拠だ。

 

「———では、作戦の最終確認を行います」

 

深月さんは僕たちを見回して言う。額にずらしたゴーグルと、小型の通信機を身に着けた姿は、竜伐隊の隊長に相応しい貫禄(かんろく)があった。

 

「ミストルテインの投下制御は、私とフィリルさんで行います。"終末時間(カタストロフ)"の迎撃を受けた時点で、以降の軌道調整は難しくなるでしょう。観測機器から送られたデータに従い、常にバジリスクの直上を保たなければなりません」

 

深月さんはフィリルさんに視線を向ける。フィリルさんも深月さんと同じゴーグルを身に着けている。これはリーザさんがバジリスクを狙撃しようとした時と同じく、視認することができない相手の位置を捕捉するためのものだ。

 

「……うん、大丈夫。細かな制御は得意だし」

 

フィリルさんは力強く頷き、大きな胸の前でぐっと拳を握りしめる。

 

「作戦が順調に進んだ場合、バジリスクが回避行動に移ることを想定し、着弾直前までミストルテインの落下制御を行います。離脱は着弾五秒前。けれどこれは、爆発から逃れるにはかなり際どいタイミングです。ですからアリエラさんに、多重物理防壁の展開をお願いします」

 

「任せておいて。ボクは皆の盾だから」

 

自分の胸を叩いて請け負うアリエラさん。

 

「リーザさんとレンさんは、私とフィリルさんと共に全力で空気防壁を生成してください。これで確実に爆発は防げるでしょう。そしてお二人には、イレギュラーな事態への対処もお任せします」

 

深月さんは真剣な眼差しをリーザさんとレンちゃんに向け、言葉を続ける。

 

「それは———第三の眼(サードアイ)からの照射が五秒を超えた場合(・・・・・・・・)です。継続して五秒をオーバーした場合はプランA、第二射を放たれたケースはプランBにて対応してください」

 

これは全員の命運を左右する、最も重要な役割だ。対応を誤れば、全てが水泡に帰すだろう。

 

「ん」

 

レンちゃんはこくんと頷き返す。

 

「———了解ですわ。深月さんの作戦がわたくしの期待に応えるものであることを、願っています」

 

リーザさんは深月さんの瞳を見つめ返す、どこか挑戦的に応える。

 

「はい、私を信じてください」

 

深月さんは気圧(けお)されることなく、強い意志が宿った声で応じる。その表情を見て、リーザさんは口元に笑みを浮かべた。

 

「最後に、兄さんとイリスさん、そして亮さんですが———三人の役割は状況によって大きく変わります。全部のパターンをきちんと覚えていますか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

僕はそう答えたが、イリスさんは上擦った声で言う。

 

「う、うんっ! たぶん、ばっちりだよ!」

 

その言葉に深月さんは不安そうな表情になる。

 

「たぶん、が付いた時点で、ばっちりではないと思いますが……」

 

「うっ……そ、それは……」

 

焦るイリスさんを見ると、悠は助け舟を出す。

 

「大丈夫だ。俺とイリス、亮の役割はセットだ。ちゃんと俺がリードするよ」

 

「モノノベ……」

 

感激の眼差しを悠に向けるイリスさん。

 

「……では兄さん、相方のイリスさんをよろしくお願いします。亮も二人に何かあったら援護してください」

 

「了解」

 

何となく、少し不機嫌そうな声で深月さんは言う。どうやらやきもちをやいているようだ。

 

そこで深月さんの通信機に報告が入った。漏れ出た声が、微かに耳に届く。

 

『こちらA班。作業、全て完了しました』

 

『B班も終了です』

 

「———ご苦労さまです。では次の工程に進んでください」

 

深月さんは指示を送り、僕たちの顔を見回して告げた。

 

「ミストルテインこ補強が完了しました。間もなく作戦開始となります」

 

表情を引き締めて頷く僕たちの元に、ティアちゃんがやってくる。補強作業を終えたメンバーに持ち場を代わってもらったのだろう。

 

「ユウ、みんな!」

 

ティアちゃんはミストルテインの上に降り立つと、心配そうな表情で僕たちを見上げた。

 

「それじゃあ、そろそろ行ってくるな」

 

悠はティアちゃんの頭を撫でて言う。

 

「ユウたち……ちゃんと、帰ってくる?」

 

「ああ、約束する。絶対に全員で、生きて戻る」

 

悠がそう答えると、僕は言葉を付け足して言った。

 

「もちろんバジリスクを倒した上でな。安心して待っていな」

 

「……うん、分かった。ティア、応援してるの! すっごく、すっごく応援してるの! だから———頑張ってっ!」

 

瞳を潤ませながらティアちゃんは大きな声で叫ぶ。

 

彼女を守るため、短い時間の間に僕は強くなっている。超サイヤ人では第三の眼の攻撃には通用しなかったが、今では大技を出しても互角だろう。

 

僕は気を集中させ、いつでも攻撃できるようにする。




いかがですか? 次回バジリスクと決着が付きます。お楽しみください。

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