ファフニール VS 神   作:サラザール

54 / 101
どうも、サラザールです。今回でバジリスク戦に決着が付きます。そして、深月とリーザがついに……。


VS 赤のバジリスク

深月さんとフィリルさんにミストルテインの制御を引き継ぎ、投下作戦に加わらない(りゅう)(ばつ)(たい)のメンバーは空域を離脱していく。ティアちゃんもその中に混じり、僕たちに手を振りながら遠ざかっていく。

 

そして———投下が始まる。一万五千メートル下にいるバジリスクへと。

 

悠たちは高層ビルのエレベーターに乗った時のような、内臓が浮き上がる浮遊感が襲ってくると思うが、僕は高速で空を飛ぶことができるので何も感じない。深月さんたちが作り出した空気が周囲を包み込んでいるので、気圧の変化による耳鳴りも感じない。

 

「———現在、一万四千メートル。バジリスクはティアさんたちが退避したミッドガル方面へ移動中。ミストルテインの軌道を修正します」

 

ゴーグルを掛けた深月さんは、架空武装の弓を手に現状を報告する。

 

バジリスクの射程は通常時で五千メートル、第三の眼(サードアイ)を開くと一万メートルに達する。高度が一万メートルを切れば、いつ攻撃されてもおかしくない。

 

「……一万二千メートル地点を通過。バジリスク移動停止。ミストルテインの迎撃態勢に入った模様」

 

フィリルさんも本の形をした架空武装を手に、ゴーグルへ転送されてくる情報を平坦(へいたん)な声で読み上げる。

 

リーザさんとアリエラさんが架空武装を生成し、状況の変化に備える。レンちゃんはリーザさんの(そば)に寄り、イリスさんは無言で悠の手を握っていた。

 

僕は杖を取り出し、バジリスクの状況を確認する。バジリスクは足を止めて第三の眼を開いていた。もうすぐ打ってくるだろう。

 

「間もなく一万メートル。ここからもう、バジリスクの射程圏内で———」

 

深月さんが台詞を言い始めた時にバジリスクは第三の眼から攻撃を始め、突如にして落下速度が落ち、ミストルテインの周囲から赤い粒子が立ち昇る。

 

「第三の眼からの攻撃です! ミストルテインから少し距離を取ります!」

 

深月さんが早口で告げると同時に、体がふわりと浮き上がる。深月さんとフィリルさんの作り出す風が、皆を浮遊させた。

 

飛行技術を習得しているリーザさんたちは平然としているが、イリスさんはバランスを崩さないように悠の手を握っていた。

 

赤い閃光はミストルテインが盾になっているため、僕たちのところへは届かない。

 

だが、五秒以上照射が続けば話は別だ。

 

「……3、4、5———」

 

ほぼ五秒ジャストで、ミストルテインの周囲から(あふ)れていた赤い燐光(りんこう)は消失した。運動エネルギーのリセットがなくなったことで、落下速度はまた上がり始める。深月さんとフィリルさんは風で再びミストルテインの動きを掌握し、軌道の調整を行った。

 

「よかった……計算通りだったみたいだね」

 

アリエラさんが安堵(あんど)の息を吐く。

 

「いえ———最初から第三の眼(サードアイ)で迎撃されるのは、計算通りとは言えません。理想としては前回のように五千メートルを切ってから撃って欲しかったところです。リーザさん、第三の眼の二射目を警戒してください」

 

深月さんが難しい顔で首を横に振る。

 

「了解ですわ。最初に第三の眼を使ったのは、二射目までのチャージ時間を稼ぐためかもしれませんものね。レンさん、プランB———スタンバイですわ」

 

「ん」

 

リーザさんが下方へ向けて構えた射抜く神槍(グングニル)に手を添えるレンちゃん。すると以前の作戦時と同様に、リーザさんの架空武装が巨大化する。

 

僕は杖を見続けると、バジリスクの両目から赤い光が浮かび上がっていた。どうやら通常の攻撃をするつもりのようだ。

 

「———もうすぐ五千メートル地点となります。バジリスクは両目から放つ通常の"終末時間(カタストロフ)"で迎撃してくるはずです!」

 

深月さんが注意を促す。杖に映るバジリスクは両目から攻撃を放った。ミストルテインの速度がまだガクンと落ちる。深月さんは相対速度を合わせ、ミストルテインとの距離を保った。

 

ミストルテインは十分に耐えており、このまま行けばバジリスクに直撃するだろう。リヴァイアサンのように絶対的な防御力を持たないバジリスクなら、当たれば倒せるはずだ。

 

しかし楽観できない要素がある。前回、バジリスクが見せた異常な察知能力。僕は原作でその能力を知っており、昨日の会議で深月さんも確信したようで、そのことを説明していた。

 

あれは察知ではなく、予知(・・)であると。

 

バジリスクの能力は時間に干渉する能力。視界にあるものを風化させるということは、未来を視ている(・・・・・・・)ということだ。

 

ニブルが地雷などの罠が通じなかったことも頷ける。

 

けれど、そんな力を有しても、付け込む隙はある。

 

未来は絶対的なものではない。行動(・・)によって容易(たやす)く変質するものだ。バジリスク自身も行動によって危機を回避していた。

 

それに前回の様子から見て、僕やリーザさん、深月さんの攻撃を察知したのは、こちらが行動に移った後(・・・・・・・・・・・)だ。

 

「高度二千メートル! バジリスクが回避行動を取る様子はなし! もしも未来を()た上での行動であれば、第三の眼から二射目が来ると考えられます! バジリスクは次撃で私たちを消し飛ばせると予知している可能性が高いです!」

 

深月さんが早口で告げる。杖を見ると彼女の言う通り、バジリスクは第三の眼から赤い光が漏れている。

 

しかし、深月さんはこの状況を想定した上で作戦を立てたのだ。

 

第三の眼が来れば、ミストルテインは耐えられない。しかしそれが、バジリスクへの罠だ。

 

「高度千メートル———っ! 二射目来ました! アリエラさん、多重防壁を展開! リーザさん、プランBを開始!」

 

「了解!」

 

「分かりましたわ!」

 

一気に膨れ上がった赤い光を見下ろし、アリエラさんとリーザさんが応じる。

 

「防壁、五重展開っ!」

 

アリエラさんは手甲型の架空武装・牙の盾(アイギス)を振るい、ミストルテインと僕たちの間に巨大な壁を五重も生成した。

 

「成れ、聖銀(せいぎん)(やり)!!」

 

リーザさんはレンちゃんの力を借り、巨大化した射抜く神槍(グングニル)の穂先をミスリルへと物質変換する。

 

この瞬間、バジリスクの視る未来は変わる。まさかバジリスクも僕たちがミストルテインと共に降下していることは予想していないはずだ。

 

この時点でバジリスクは命の危機を察知したと思う。

 

相対距離は千メートルを切っており、いくら未来が視えようと、選択できる行動は限られている。

 

「———ミストルテイン消滅! アリエラさんの防壁も突破されます! リーザさん、耐えてくださいっ!」

 

「この程度、余裕ですわ!」

 

ミスリルの穂先が赤い閃光を受け止める。そして宣言通り、残り一秒足らずの極大化した光線を(しの)ぎ切った時、深月さんは叫ぶ。

 

「第三の眼、沈黙! バジリスク、回避行動に移りました!」

 

己が貫かれる未来を視たのか、バジリスクは"終末時間(カタストロフ)"による迎撃を()め、移動を始めたようだ。

 

「……今さら、遅い。逃がさない」

 

フィリルさんが強い口調で呟く。

 

「リーザさん、(やり)を放ってください! 軌道は私たちで修正します!」

 

深月さんの言葉にリーザさんは頷くと、柄までミスリルに変換した巨槍(きょそう)を投げ放った。

 

「———貫きなさいっ!」

 

加速しながら落ちていく槍を追いかけ、僕たちも降下する。

 

「イリスらそろそろ出番だ。何をするかは分かっているか?」

 

悠はイリスさんへ話しかける。

 

「うん、大丈夫。分かってる!」

 

そういってイリスさんは架空武装の杖を生成する。

 

僕は杖を仕舞い、攻撃準備をする。

 

悠も右手のジークフリートを持ち、タイミングを計っている。アイツがしくじれば、全てが台無しになってしまう。失敗は許されない。

 

「目標まであと三秒————————————着弾っ!」

 

深月さんの声と同時に、巨大な銀の槍が塩化した白い海原に突き刺さる。

 

大気を揺るがす轟音(ごうおん)が響き渡り、塩塵(えんじん)が高々と舞い上がる。ニブルのミストルテインとは違い、リーザさんの槍には爆薬が仕込まれていない。なので爆発はせず、避けられてしまうと当然ながら致命傷は与えられない。

 

しかし、槍は第三の眼を貫いていた。原作ではギリギリで避けられてしまうが、リーザさんの攻撃をくらい、第三の眼に致命傷を与えた。バジリスクは悲鳴を上げ、こちらを向いていた。

 

赤い光が輝く。両目から、僕たちの時間を奪い尽くす輝きが放たれる。

 

けれど悠はバジリスクが"終末時間(カタストロフ)"を放とうとすると同時に、弾丸を撃った。

 

斥力弾(アンチ・グラビティ)!」

 

白い輝きが局地的な斥力場を発生させ、赤い閃光の軌道を逸らす。

 

バジリスクまでの距離は、およそ二百メートル。

 

イリスさんはバジリスクを視認し、お得意の絶対に狙いを外さない間合い(・・・・・・・・・・・・・)の攻撃をする。

 

聖銀(せいぎん)よ、(はじ)けろっ!」

 

双翼の杖(ケリュケイオン)(かざ)し、イリスさんは告げる。

 

バジリスクの眼前で、銀色の爆発が巻き起こる。

 

甲高い金属質な爆発音が耳を打つ。

 

零距離での爆発を避ける(すべ)はない。予知したところで、既に手遅れ、爆散したミスリルがバジリスクの全身に突き刺さる。

 

ギィィィィィィィィィィ———!

 

バジリスクの悲鳴だろう。ざわついた耳障りな音が、辺りに響き渡る。

 

「聖銀よ———弾けろっ! 弾けろっ! 弾けろっ!!」

 

イリスさんは手を休めず、容赦なく追撃を行う。

 

この時点でバジリスクの両目は血のようなものを流しており、"終末時間(カタストロフ)"による攻撃はもうできない。

 

バジリスクはアルマジロのように体を丸め、爆発に耐えようとしているが、強靭(きょうじん)なミスリルの破片はダイヤモンドの(うろこ)を突き破る。

 

しかし、僕は知っている。これは防御ではなく、攻撃(・・)だと。

 

丸まったバジリスクの体がわずかに収縮し、体表から石柱状に突き出ていたダイヤモンドが四方八方に勢い良く飛び散る。

 

「っ———まだこんな奥の手を!?」

 

散弾のように襲い来る鋭利なダイヤモンド塊を見た深月さんは、驚きの声を上げる。

 

バジリスクはどうやっても倒せないと判断したようで、ダイヤモンドの外殻を僕たちに放ち、その間に逃げるようだ。

 

「大丈夫! ボクに任せて!」

 

飛来したダイヤモンドは、アリエラさんが生成した防壁が弾き返す。対バジリスク演習の時に見せたものより強度は上がっている。訓練によって成長したようだ。

 

ダイヤモンドの外殻を捨てたバジリスクは、素早い動作で塩の砂漠へと潜り始める。

 

「逃がさん———ジャスティスフラッシュ!」

 

僕は右手をバジリスクの方に向け、五本の指から気弾を放った。この技は第十一宇宙のトッポが使う技だ。

 

「貫け、閃光っ!」

 

雷球弾(プラズマ・ブリッド)!」

 

それと同時にリーザさんの陽電子砲と悠のプラズマ化した圧縮空気の攻撃を放つ。悠の攻撃はバジリスクの頭を貫き、僕とリーザさんの閃光はバジリスクの体中心に大穴を開ける。

 

二人の威力も前より上がっている。この日のために特訓してきたのだから当然成長している。

 

ぐらり、とバジリスクはバランスを崩し、自らが掘って積み上げた塩の山へ倒れ込んだ。

 

僕たちはバジリスクから十分な距離を取りつつ、塩化した海面に降り立つ。

 

「接敵陣形! とどめを刺します!」

 

深月さんの指示通りに、僕たちは作戦会議で決めた陣形の一つを取る。

 

防御役のアリエラさん、フィリルさん、リーザさんが周囲に展開し、その中央に僕と悠、そして深月さんが並ぶ。さらに悠の横にはイリスさん、深月さんの隣にはレンちゃんがついた。

 

これは相手の攻撃に備えながら、こちらの最大攻撃で殲滅(せんめつ)するフォーメーション。

 

「ハアッ!!」

 

僕は超サイヤ人に変身した。しかし、ただの変身ではない。未来から来たトランクスが完全体のセルを倒すために使った第三形態となる。

 

あの形態はパワーを重視した形態だが、筋肉が盛り上がることでスピードが落ちるのだ。

 

しかし、バジリスクはもう動ける状態ではないため、この形態で攻撃しても避けることはできない。

 

「———イリス」

 

「うんっ」

 

悠はイリスさんに左手を差し出し、イリスさんは右手でぎゅっと握る。

 

「対竜兵装マルドゥーク!」

 

悠はイリスさんから借りた上位元素(ダークマター)で旧文明の兵器を構築した。

 

「レンさん、お願いします」

 

「ん」

 

続いて深月さんもレンちゃんから上位元素を借りて、自らの架空武装を巨大化させた。

 

バジリスクは体を貫かれながらも、まだぎこちなく手足を動かし、もがき、塩の中へと逃れようとする。頭を貫かれ、体に大穴を開けられたにもかかわらず生命力は凄い。しかし、それでもダメージを負っているので動きは鈍い。

 

「深月さん、あなたは今度こそ……全てを守り抜くんです!」

 

リーザさんは前を、向いたまま叫ぶ。

 

「———はいっ」

 

深月さんは力強く頷き、五閃の神弓(ブリューナグ)に、上位元素の矢を(つか)える。

 

そして僕たちは、赤き暴竜へと最後の一撃を放つ。

 

「ファイナルフラッシュ!!」

 

「特殊火砲、境界を焼く蒼炎(メギド)———発射(ファイア)っ!!」

 

(つい)の矢———空へ落ちる星(ラスト・クォーク)っ!!」

 

僕が放つ気功波と悠こ砲塔から撃ち出される蒼い光弾、そして深月さんが()った反物質の矢が、バジリスクの体に、突き刺さった。

 

緑の閃光と、眩く白い対消滅の輝きが、世界の色を一時的に染め変える。

 

バジリスクの巨体を光が()み込み、無へと帰す。

 

爆風が塩塵(えんじん)と共に押し寄せてくるが、リーザさんたちの張った空気防壁により、白い波は僕たちを避けるようにして通り過ぎて行く。

 

後に残ったのは———塩の平原にぽっかり開いた大穴。さらに爆発は塩の層を貫通していたようで、次第に内側から海水が満ちてきて、綺麗な真円状の水たまりになった。

 

バジリスクの気を探ったが、どこにも無かった。僕たちの大勝利だ。

 

しばらくは、誰も口を開かなかった。

 

深月さんは海水で満たされた大穴をじっと見つめ、やがて静かに息を吐く。

 

「ふぅ……」

 

架空武装の弓を手放し、澄んだ青空を見上げる深月さん。

 

リーザさんがゆっくりと深月さんに歩み寄り、隣へ並んだ。

 

「綺麗さっぱり、跡形もないですわね」

 

「はい……」

 

気の抜けた声で深月さんは相槌(あいづち)を打つ。

 

「それに、全員生き残っています。誰一人、欠けてはいません。これで———条件はクリアですわ」

 

「……私は、許してもらえるんでしょうか?」

 

「もちろんです。わたくしに二言はありません」

 

リーザさんは晴れ晴れとした顔で保証するが、深月さんは遠くを見ながら問ひ返す。

 

「そんな簡単に、割り切れるものですか? もし無理をしてるのなら———」

 

「無理なんてしてませんわよ。全く、深月さんは相変わらずですわね」

 

腰に手を当てたリーザさんは呆れた様子で溜息を吐く。

 

「でも……」

 

しかし深月さんはまだ納得のいかない顔で目を伏せた。

 

「ああもう、まどろっこしいですわね……」

 

リーザさんはもどかしそうに頭を()き、深月さんを強引に抱き寄せる。

 

「むぐ」

 

大きなリーザさんの胸に顔を押し付けられた深月さんは苦しそうに(うめ)いた。

 

「深月さんはもう十分以上に頑張りましたわ。わたくしは、そんなあなたを心から尊敬します。友人として誇りに思い、家族として……とても(いと)おしく感じています」

 

ぎゅっと、強く深月さんの体を抱きしめるリーザさん。

 

深月さんは偽すがままになりながら、声を震わせて呟く。

 

「ありがとう、ございます。リーザさん……」

 

そして少し躊躇(ためら)いながらも、リーザさんの背に腕を回した。

 

これで二人のわだかまりが消え去った。

 

(二人とも、よかったよ)

 

原作を読んでいる僕でもホッとしている。ミッドガルに来てから彼女たちに情が移ったようだ。

 

「亮、前に言ってたよな。 バジリスクを倒した後に仲直りするって……」

 

悠は僕に近づいて、火山島に着いた時に言ったことを確認してきた。

 

「ああ、言ったな」

 

「まさか……こうなることを分かってたのか?」

 

悠はこの結果を予想していたのかと思っているようだ。実際その通りだ。

 

「……想像にお任せするよ」

 

僕は意味深な笑みを浮かべて言う。

 

「お前って奴は……」

 

悠は呆れた表情で僕を見た。

 

「……物部くん、大島くん。私たちも行こ」

 

少し離れたところから僕と悠の背中を、フィリルさんが押す。

 

「まさか、おい———」

 

「え? 行くってどこへ———」

 

「てやー」

 

フィリルさんは僕たちを深月さんとリーザの元へ勢いよく押していき、そのまま二人にぶつけた。

 

「きゃあっ!? も、モノノベ・ユウ、オオシマ・リョウ? い、いったい何ですの?」

 

「兄さん、亮さん!?」

 

「い、いや」

 

「これはフィリルが無理やり———」

 

「……勝利は、皆で喜ぶもの」

 

二人に抱き付くような形になった僕たちの後ろから、さらにフィリルさんが飛び付いてきた。柔らかで大きな胸の感触が背中に押し付けられる。

 

「あ、待ってよモノノベ、オオシマ!」

 

「———レン、ボクらも行こうか」

 

「ん」

 

イリスさん、アリエラさん、レンちゃんまで加わってきて、おしくらまんじゅう状態となってしまう。

 

「お、オオシマ・リョウ! か、顔が近いですわよ!」

 

「兄さん! ど、どこを触ってるんですか!」

 

リーザさんと深月さんが文句を言うが、離れられる隙間もない。

 

「……バジリスク討伐、おめでとー」

 

フィリルさんが相変わらずのローテンションな声で勝鬨(かちどき)を上げた。

 

「おめでとーっ! やったね、勝ったねっ!」

 

明るい声でイリスさんが応じる。

 

「やったぞーっ!」

 

「おー」

 

アリエラさんは腕を上げて叫び、レンちゃんも頬を紅潮させて珍しく大きな声を出していた。

 

(仕方ない、開き直るか)

 

「深月、リーザ、次は俺たちの番だ。亮、頼む」

 

「はいよ」

 

悠は深月さん、僕はリーザさんの腕を掴み、天へと突き出す。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「勝ったぞぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

腹から声を絞り出し、僕と悠は全力で叫んだ。

 

(そば)で大声を張り上げられた二人はポカンとした表情を浮かべていたが、やがて同時にくすりと微笑む。

 

「……リーザさん、私たちも叫んでおきますか?」

 

「そうですわね……せっかくですから」

 

深月さんの問いかけにリーザさんは頷き、短く咳払いをする。

 

そして二人は声を合わせ———真っ青な空へと喜びの声を響かせたのだった。




いかがでしょう?次回第三章最終話です。第四章の投稿まで一週間くらい休みます。お楽しみください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。