ファフニール VS 神   作:サラザール

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ビルス 「お前、五日間も休んだようだな?」
作者「ビ、ビルス様! 申し訳ありません。どうかお許しください。エルリア公国名物の饅頭をあげますので」
ビルス 「それなら仕方ない。有り難く頂くぞ」
作者「ハァ〜、助かった」
ビルス 「だが、許すとは一言も言ってない。"破壊"」
作者「ギャァァァァァァァァァァッ!!!」

そんな夢を見てしまった。


魂送祭

襲撃を受けた僕たちはとりあえず現場を離れ、王宮に戻った。

 

予定よりは少し早いが、夜からエルリア城で"(こん)(そう)(さい)"の開催式典に出席するため、夕方までには帰ってくる予定だったのだ。

 

町はもう大賑(おおにぎ)わいだったが、葬儀としての"魂送祭"が実際に始まるのは、()が沈んでからのようだ。

 

僕たちはしばし部屋で体を休めた後、式典の場に相応しい服装へ着替え、エルリア城に向かった。今回はリムジンでの移動だ。

 

皆、昨夜の晩餐会(ばんさんかい)と同様に(きら)びやかなドレス姿で、車内はとても華やいで見えた。

 

既に大勢の人達が列を成している城壁の正門を通り過ぎ、リムジンは関係者専用と(おぼ)しき西門から城の敷地へと入った。

 

「わぁ……」

 

ティアちゃんが窓に貼りつき、感嘆の声を漏らす。

 

城の尖塔(せんとう)は美しくライトアップされ、荘厳で幻想的な雰囲気に包まれていた。

 

王宮も立派だったが、ここは本当に別世界という感じがする。ファンタジーの世界に迷いこんでしまったみたいだ。

 

パーティーにはいろんな世界で何十回も出席したことがあり、あまり感動や緊張はしていない。

 

それより僕はパーティーを邪魔する者が現れることを気にしている。悠も警戒しているようだ。

 

悠の元上官であるロキ・ヨツンハイム少佐が送り込んだ刺客、フレイズマルがパーティーの最中に現れる。

 

フレイズマルについては悠とキーリに任せるが、問題は()()()()()()()

 

今回は原作通りにするつもりはない。何だか嫌な予感がし、奴を仕留めるつもりでいる。

 

「皆様、こちらへ。特別席にご案内いたしますので」

 

ヘレンさんに導かれ、僕たちは城内へと入る。石造りの城内は、はっきり言って寒い。

 

だが階段を上り、大きな扉の中に通されると、少し空気が暖かくなった。

 

人のざわめきが聞こえてくる。そこは一階の広いホールを見下ろすことができる観覧用のテラスだった。

 

ホールの一番奥には巨大な肖像画が揚げられ、その下には花に包まれた(ひつぎ)が安置されている。

 

「お爺様(じいさま)……」

 

フィリルさんが肖像画と棺を見ながら、小さく呟いた。

 

あれがアルバート王か……。

 

白い口髭(くちひげ)を蓄え、鋭い眼光を絵の中から向けてくる老人は、いかにも意志が強そうに思える。この人が"D"の人権運動を起こし、世界を変えた人間だ。

 

ホールが一杯になると、フィリルさんの父であるアルフレッドさんが登場し、挨拶を述べる。

 

式典は原作通りに、厳かな雰囲気で始まった。まず長い(もく)(とう)(ささ)げられ、ざわついた城内が、しんと静まり返る。

 

フィリルさんも真剣な表情で目を閉じていた。きっと心の中で祖父への(おも)いを念じているのだろう。魂は存在し、天国や地獄でも下界の様子が見れるので、伝わるはずだ。

 

僕も黙祷を捧げ、アルバート王に感謝する。

 

(悠たちに居場所を作ってくれて、ありがとう)

 

黙祷が終わると、少し控えめだったホールの照明が明るくなり、脇に控えていた楽団が和やかな音楽を奏で始める。

 

ホールは見る間にパーティー会場へ様変わりし、ダンスを行う人々も現れる。

 

城内には他の会場もあるらしく、案内に従って密集していた人々は散って行った。

 

切り替えの早く、これがこの国なりの死者への手向けであることは、既に知っている。

 

王の棺を前にして舞い踊る人々の姿は、どこか切なくもあった。

 

「———見ているだけじゃ、つまらないわね。ねえ、私たちも踊りに行かない?」

 

テラスからホールを眺めていたキーリが僕たちに言う。

 

「あまり目立つことは避けるべきかと思いますが……あなたは狙われているんですよ?」

 

けれど深月さんは難しい表情を浮かべた。

 

「大丈夫よ。王族もいる城内は警戒厳重で、なおかつ人目も多い。こんなところで襲ってくるほど、敵も馬鹿じゃないでしょ」

 

キーリは楽観的にそう言うと、悠の手を(つか)む。

 

「さ、私と踊りましょう」

 

「お、おい!?」

 

悠は引っ張って観覧席を出ようとするキーリ。

 

「あーっ! モノノベを連れて行かないでよ!」

 

「ティアもユウと踊るの!」

 

イリスさんとティアちゃんが悠とキーリを追って行く。

 

「……仕方ありません。リーザさん、私たちも行きましょう」

 

「彼女から目を離すわけにはいきませんからね」

 

深月さんとリーザさんも溜息(ためいき)()いて、歩き出した。

 

「レン、ボクたちも行こっか。美味しい料理もたくさんありそうだし」

 

「ん、亮お兄ちゃんも一緒」

 

「ああ、行こうか」

 

レンちゃんに手を引かれ、アリエラさんと後に続く。

 

「……私はここで見てるね」

 

だがフィリルさんは篠宮先生やヘレンさんと共に、観覧席に残った。

 

フィリルさんがエルリア公国の姫であり、"D"でもあることを知る者は、この会場に少なからずいるだろう。彼女がパーティーに出て騒ぎになれば、ミッドガルが迎えとして"D"を派遣したことも(おおやけ)になってしまう。それを考えた上での行動に違いない。

 

一階のホールに足を踏み入れ、料理が並ぶテーブルの方へ歩いた。

 

どれも美味しく、僕たちは楽しんでいた。悠はキーリと踊り、イリスさんと深月さん、ティアちゃんは不機嫌そうに眺めていた。

 

悠はキーリに夢中で嫉妬しているようだ。

 

食事をしながら三人の様子を見ていたが、僕は会場にいる人達に目を向ける。

 

実は会場内にこの世界の神がおり、神として仕事の他にこの世界で会社を経営しており、さっきから"神の気"を感じていた。

 

僕は食事を終わらせ、近くにいる二人の大男に近づいた。

 

一人は口髭を生やし、茶髪をポニーテールにしている。もう一人は黒髪をオールバックにしいる。

 

間違いない。自然の神々だ。

 

「やあ、久しぶりだな」

 

「「っ!? 亮様!?」」

 

僕が声を掛けると、二人は驚いて僕の方を振り向いく。

 

ポニーテールにしている大男は第十二世界の"森の神"ジャック・ローランド。この世界でも五本の指に入る財団の会長でもある。

 

オールバックに髪を整えている大男は同じくこの世界の"海の神"香坂源次。この世界では石油王と呼ばれている。

 

「何故亮様がここに?」

 

源次が僕に問いかけてくる。

 

「ちょっと事情があってね。僕たち"世界神"が忙しそうにしているのに、自然の神々は随分と楽をしているようだね」

 

嫌らしく笑うと二人はびくっとする。

 

「い、いや、これは……その……」

 

「なんてね、冗談だよ。……で? 最近仕事はどうだ?」

 

僕がそう言うと、二人は安心した表情で息を吐く。二人は僕が怖いのだろうか……。

 

「まあ、ぼちぼちです。源次先輩はどうですか?」

 

「オレも同じだ。そういえば最近、空間の歪みが少なくなったと聞きますが、本当なんですか?」

 

源次は僕に問いかけ、それに答えた。

 

「ああ、神官様が原因を調べているみたいだけど、まだ分かってないようだ」

 

「そうですか……嫌な予感がしますね」

 

「僕もそんな気がするんだ。まあ、今は楽しもうか」

 

そう言いって僕たちは食事をしながら雑談をした。そうしていると、他の神々も近づいてきた。

 

「亮様、お久しぶりです」

 

赤いドレスを着た女性は"空の神"セレナ・デフスキー。ヨーロッパの貿易会社で社長をしている神である。

 

「亮様が来てるとは思っても見なかったっす」

 

少しチャラい神は"陸の神"ボリス・ユキムラ。日本人とロシア人のハーフで、アジアを拠点に企業を立ち上げた代表取締役の社長である。

 

まだ会場には一杯人がいるのでそこまで目立ってはいないようだ。

 

雑談をしていると、二つの"気"が王宮に向かって来るのを感じた。

 

一人はニブルのフレイズマルだろう。もう一つの"気"は人間ではない。

 

自然の神々も察知したようで、僕たちは警戒しながら会場に目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリスたちと踊り終えた後、キーリを見つけ、誰もいない庭園へ向かい、再びキーリと踊る。

 

俺はキーリにフレイズマルについて話し、彼女も自分の正体を明かした。

 

自分が"黒"のヴリトラから作られた存在であること、そのことを亮が知っていることも話してくれた。

 

俺はキーリを人間と決めた。フレイズマルから受け継いだ能力でキーリを殺しかけたからだ。

 

これ以上聞き出すのは無理だと判断した俺は、冷たい風が吹く庭園からホールに戻ろうと、彼女を促す。

 

しかし、何かが近づいてくるのを俺たちは感じる。()()えとした月の光が降り注ぐ庭園に現れる、大柄なシルエット。

 

「こんな場所で襲ってくる馬鹿はいないと言ったけど、あれは間違いだったみたいだわ」

 

キーリが苦笑を浮かべて呟く。

 

闇に紛れる黒いフード付きのコートを(まと)った男が、花壇を踏み潰し、距離を詰めてくる。フードの下からは装甲服の硬質な輝きが見えていた。間違いない、こいつは———。

 

「———フレイズマル」

 

俺はそいつを呼び表す名を呟く。

 

返答はない。俺の言葉が聞こえたのかすら、分からない。

 

「キーリ、下がったろ。俺がお前を殺せるなら、きっと奴もお前を殺せる。だからどんな状況になっても、戦おうとはするな」

 

「分かったわ。援護も要らないのね?」

 

「ああ、俺を助けようとする行動が致命的な隙になる。自分の身だけ守ってくれ」

 

俺はキーリの問いに答えると、前へと足を踏み出した。

 

対甲兵器———エンリル。

 

俺は右手に上位元素(ダークマター)を生成し、彼と戦うための武器に変換する。

 

ネイガルに比べて銃身が長く、銃口部分が不自然なほど大きい。これは放つ銃弾に特殊な振動を付加する遺失兵器(ロストウェポン)。ニブルに技術供与したものの、機構が複雑すぎて量産化は断念された代物だ。

 

エンリルから放たれた振動弾は、相手がどんな強固な装甲に身を包んでいようと内部に衝撃を伝導させる。装甲服を着た彼には恐らくスタンガンであるネイガルは通用しないため、このエンリルに頼るしかない。

 

直接傷を負わせる武器ではないので、殺傷力は低めだ。対物ライフルや架空武装を用いるよりは、致命傷を負わせてしまう可能性は低いだろう。

 

「…………」

 

フレイズマルは俺が武器を手にしたのを見ても、歩調を変えない。

 

コートの内側に両腕を隠しているのが、かなり厄介だ。攻撃手段と間合いが分からない。

 

こういう場合、相手にイニシアチブを取らせるのは非常に危険だ。こちらから仕掛けて、相手の行動選択を狭めなければ。

 

集中し、無意識の底に沈む"悪竜(ファフニール)を呼び起こす。

 

知覚が拡大し、全てが手に取るように分か———。

 

「っ!?」

 

眼前に、死があった。

 

それは、月光を浴びて輝く鋭い切っ先。俺の眉間を狙い、()()()()()()()()ナイフ。

 

反射的にエンリルを振り上げ、銃身でナイフを(はじ)く。

 

コートの内側から完全なノーモーションでナイフを投げたのだろうが、全く予測できなかった。

 

そしてほんの一瞬ナイフに注意を向けた間に、彼の姿は視界から消えている。

 

「っ!?」

 

背筋に走る悪寒。視界の右端に、銀色の輝きが過ぎった。

 

右方を見ると、そこには黒い銃を手にしたフレイズマルの姿。

 

深い風穴が———死の闇を(はら)んだ銃口が俺を見つめている。

 

火花と共に、放たれる銃弾。

 

右手のエンリルで防御しようと試みるが間に合わず、右の手首を貫通する。だがそれでわずかに軌道を逸らした銃弾は、俺の耳を通り過ぎた。

 

焼け付くような熱さと激痛が右手から脳に襲い掛かる。

 

「くそっ!」

 

俺は右腕を振るって吹き出す血をフレイズマルの顔に浴びせた。フードから覗く白銀の装甲が俺の血を(まだら)に染める。

 

視界を遮ることができたのか、彼の動きが一瞬だけ停滞した。その隙を見逃さず、俺はエンリルを左手に持ち替え、弾切れになるまで連続で撃ち放つ。

 

硬質な撃突音が響き、コートが千切れ飛ぶ。

 

フレイズマルは一発目を右腕の装甲で弾いた後、残りの弾丸は全て(たい)(さば)きで(かわ)し切った。

 

何とか再び距離を稼いだ俺は、エンリルの弾倉に物質変換で弾を補充し、銃口を彼に向ける。

 

フレイズマルは破けたコートの内側から、右腕をだらんと垂らしていた。持っていた銃も取り落としている。振動弾を受けた以上、しばらくは(しび)れて使い物にならないはずだ。

 

手痛い一撃を喰らってしまったが、これで条件は互角。

 

そう考えたのも(つか)の間———フレイズマルは右腕を持ち上げ、感覚を確かめるように手を握っては広げた。

 

(嘘だろ———もう、動かせるのか?)

 

俺は信じられず、奥歯を噛み締める。

 

恐らくは最善の角度とタイミングで弾丸を弾き、衝撃を最小限に抑えたのだろう。

 

互角どころではなく、俺は一方的に追い詰められたことになる。右手から流れ落ちる血が、体温を奪っていった。もはや右手には痛み以上の感覚がない。

 

(これほど、差があるなんてな)

 

かつて俺が魅入られた男は、想定していた以上の力を有していた。

 

加えて俺の方は、以前キーリと戦った時よりも感覚が鈍い気がする。いつもなら意識的に痛みをシャットアウトすることも可能なのだが、今はそれもできない。

 

俺はフレイズマル以上の"人殺し"になることを忌避し、自らの"悪竜(ファフニール)"を無意識に抑え込んでしまっているのかもしれなかった。

 

恐らく俺は、これ以上自分が何か別のモノになってしまうのが嫌なのだろう。

 

深月が知る"俺"から、遠ざかってしまうのが許せないのだろう。

 

「全く、いつまで手間取ってるんだ?」

 

すると俺の後ろから声が聞こえた。振り向くと亮が歩いてきた。

 

「あいつがニブルの刺客か」

 

そう言って亮は俺に近づき、負傷した右腕を手を当てると、徐々に傷が塞がってきた。

 

「お前がこんな傷を負うなんてな……傷は治したし、体力も回復させたからこれで大丈夫だ」

 

「ああ、ありがとう」

 

俺は亮にお礼を言い、フレイズマルに向けてエンリルを構える。

 

フレイズマルはコンバットナイフを構える。

 

———ブワァァ……。

 

その時、空がざわめいた。

 

突風が庭園を吹き抜け、白い花びらが舞い上がる。

 

「とうとう、気付かれたみたいね……」

 

キーリが呟く声が視界の外から聞こえて来た。

 

フレイズマルは空を見上げる。そしていったい何を見たのか———後ろへと大きく跳躍すると、俺たちに背を向けて城壁の方へと走り去った。

 

「な……」

 

彼からずっと視線を逸らさずにいた俺は、ワイヤーらしきものを使って城壁を乗り越える彼を呆然と見つめる。

 

エンリルをベルトに挟み、俺は強風が吹きすさぶ夜空を仰いだ。

 

金色の光が、エルリア公国の空を横切る。

 

「イエロー・ドラゴン———"黄"のフレスベルグが来たんだ」

 

「なっ!?」

 

亮は空を見上げながら呟き、俺は驚いた。まさかドラゴンが来るとは思ってもみなかった。

 

「やっと本当の敵が現れたようね」

 

静かなキーリの声が聞こえ、俺たちは視線を下ろす。

 

キーリは淡い笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。

 

夜空に金色の軌道を刻みながら、フレスベルグはエルリア公国上空を旋回していた。しかも徐々に高度を下げているようだ。

 

「まさか降りてくるのか?」

 

「その通りよ、フレスベルグは私の位置を探りながら降下してきているの」

 

キーリはそう言いながら服の袖を(まく)り上げ、右腕を夜空に(さら)す。

 

そこには昨日と同様、包帯が巻かれていた。

 

「スレイプニルもフレイズマルも、私にとってはそれほど脅威じゃないわ。たとえ私を殺してしまえるほどの力があっても、逃げればいいだけの話だし。でも……アレは違う」

 

キーリは話しながら包帯を解いていく。

 

「一度気付かれてしまえば、絶対に逃げ切れない。だから私はミッドガルに———いえ、あなたたちに助けを求めたの」

 

包帯の隙間から黄色い光が漏れ出した。

 

それはキーリの竜紋(りゅうもん)を放つ輝き。

 

「ねえ、悠、亮。私を———守ってくれるかしら?」

 

彼女は変色した竜紋を見せながら、俺たちに問いかけた。




いかがでしょう? 次回、フレスベルグと戦います。お楽しみください。

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