ファフニール VS 神   作:サラザール

64 / 101
シャンパ「お前、最近休んだそうだな」
作者「シャ、シャンパ様! 申し訳ありません。お詫びにこのお菓子をどうぞ!」
シャンパ「おお〜、美味そうだな。やるじゃんお前!」
ビルス 「まて、これは僕のために用意してくれた物だぞ」
シャンパ「ああ? やるかビルス!」
作者「あの〜、もうすぐ投稿したいのですが———」
ビルス ・シャンパ「破壊」
作者「ギャアアアアアアアアアッ!!」

本当にこんな夢を見ます。


"黄"のフレスベルグ

 「守るしか———ないだろうが!」

 

 「悠、急ぐぞ! 奴が近づく前に倒す!」

 

 「ああ!」

 

 悠はキーリの手を(つか)み、僕たちはホールに駆け戻る。ホール内は少しざわついていた。楽団の音楽も鳴り止んでいる。

 

 視線を巡らせ深月さんの姿を見つけた僕たちは、彼女の元へキーリを連れて行く。

 

 「深月さん!」

 

 「……に、兄さん! その腕、どうしたんですか!?」

 

 深月さんが血に(まみ)れた悠の右手を見て、裏返った声を上げた。何事かと少し離れた場所にいたイリスさん、リーザさん、アリエラさん、レンちゃん、ティアちゃんも集まってくる。

 

 「ああ、傷は大丈夫だ。もう治ってる。それより、これを見ろ」

 

 悠がそう言って、黄色く変色したキーリの竜紋(りゅうもん)を深月さんたちに見せる。

 

 「な———」

 

 彼女らは絶句して、キーリの腕を凝視した。

 

 「フレスベルグが来た」

 

 そして僕が短く現状を告げると、深月さんの表情に理解の色が宿る。

 

 「そういう———ことだったんですね」

 

 素早く状況を認識した深月さんは、キーリを睨みつける。

 

 「ええ、そういうことよ」

 

 涼しい顔で頷くキーリ。

 

 「言いたいことはありますが……今は後回しにします」

 

 苦々しい声で呟き、深月さんは最初に僕たちが案内された二階の観覧用テラスへ視線を向ける。

 

 「篠宮先生、警戒レベルA! タイプ・イエローです! 私たちは迎撃に向かうので、避難誘導をお願いします!」

 

 周りに混乱が広がるのを防ぐため、深月さんはミッドガルで使われている警戒警報の言い方で篠宮先生に状況を伝えた。

 

 「———了解した」

 

 テラスで頷く篠宮先生の隣で、フィリルさんが身を乗り出す。

 

 「私も、すぐに行くから!」

 

 「いえ、フィリルさんはこのホールに(とど)まってください! 誰かがキーリさんと、この場所にいる人々を守らなければいけません」

 

 「っ……分かった」

 

 フィリルさんが応じるのを見てから、深月さんは僕たちへと呼びかける。

 

 「皆さん———行きますよ。まずは屋外に出て、対象を目視で確認します」

 

 キーリはホールに残して、僕たちは走り出す。

 

 自然の神々はフレスベルグの"気"に気付いていたので僕がエルリア城周辺に結界を張ることと、僕たちの準備が整えば解除するように指示を出していた。

 

 そのため、今は空を飛んで結界を作っている。いくらドラゴンでも神が作りだした力にはどうしようもない。

 

 「え? え? いったい何が起きてるの?」

 

 ただイリスさんはまだ状況を上手(うま)く把握できてないらしく、一緒に走りながらも戸惑いの声を上げた。

 

 「ねえ、ユウ。そういうことって、どういうことなの?」

 

 ティアちゃんも急な展開に付いてこれていないらしい。

 

 「竜紋が変色していたのを見ただろ? フレスベルグがキーリを狙っているんだ。キーリのドラゴン化を防ぐために———これからフレスベルグを迎撃する」

 

 「ええっ!? 今から戦うの? ドレス汚しちゃったらどうしよ……」

 

悠の言葉を聞き、自分の着た白いドレスを見下ろすイリスさん。心配の方向がズレているが、そういったことを気にする余裕があるので大丈夫だ。

 

 しかし、一際思いつめた顔をしている少女もいる。

 

 「———フレスベルグ」

 

 アリエラさんは絞り出すように来襲したドラゴンの名を呟き、ぎりっと奥歯を噛み締める。

 

 原作通りで彼女はフレスベルグを憎んでいるようだ。あまり覚えてはいないが、小さい頃にフレスベルグと遭遇して、周りにいた人々の具現化した魂を喰うところを見たらしい。

 

 たぶんそのことで奴を憎んでいるのだろう。

 

 渡り廊下へ続く扉を(くぐ)り、そのまま再び庭園に飛び出す。

 

 天を仰ぐと、ちょうど上空を横切った金色の鳥の姿が瞳に映る。先ほどよりその体軀(たいく)は大きく見える。

 

 かなり高度を下げて来ているようだが、自然の神々が作った結界のお陰で奴は近づけないでいる。

 

 「あれがフレスベルグ———ミッドガルの領海付近を通過することはよくありましたが、こんなに近くで見るのは初めてですわ」

 

 リーザさんが夜空を舞う巨鳥を見上げて呟く。

 

 ちなみに結界は人間たちの目には見えないため、自然の神々が作っていることには気付いていない。

 

 「フレスベルグは、あらゆる攻撃が通用しなかったことで有名なドラゴンです。けれど悲観することはありません。私たちはこれまで試されたことのないような———強力な攻撃方法を有しています」

 

 深月さんはそう言って、僕たちに指示を出す。

 

 「リーザさんはレンさんと協力して最大威力の陽電子砲を、私はイリスさんに上位元素(ダークマター)を借りて特大の反物質弾を撃ち込みます。兄さんもティアさんに協力してもらって、対竜兵装による迎撃、亮さんも気功波での全力攻撃をお願いします! アリエラさんは状況に応じて防壁を展開してください!」

 

 「了解!」

 

 僕たちは声を合わせて応じ、互いにある程度の距離を取って空を見上げた。

 

 「射抜く神槍(グングニル)!」

 

 リーザさんが槍の架空武装を生成し、レンちゃんがそれを巨大化させる。

 

 「五閃の神弓(ブリューナグ)!」

 

 深月さんはイリスさんの上位元素を借りて、通常の数倍はある弓型の架空武装を生成した。

 

 「ティア、頼む」

 

 悠が一度に生成できる上位元素生成量は非常に少なく、巨大な対竜兵装を作り出すには誰かに上位元素を貸してもらう必要がある。

 

 「うん! ティアの力、全部ユウにあげるの」

 

 ティアちゃんは頷き、悠の左手を握る。

 

 悠は右手を掲げ、旧文明の兵器を具現する。

 

 「特殊火砲———境界を焼く蒼炎(メギド)!」

 

 ティアちゃんから流れ込む上位元素によって、天を()く巨砲が構築された。

 

 「さてとやるか、……ハアッ!!」

 

 僕は"気"を上げて超サイヤ人になる。すると僕の"気"に気付いた神々が結界を解除した。

 

 僕はかめはめ波の準備をし、フレスベルグに狙いを付ける。

 

 「———牙の盾(アイギス)

 

 アリエラさんは手甲の形をした架空武装を装備し、フレスベルグからの攻撃に備えた。

 

 「まだ距離はあります。攻撃はもう少し引き付けてからにしてください。フレスベルグの目的がキーリさんならば、必ずこの城に降下してくるはずです」

 

 深月さんは準備の整った僕たちに呼びかけ、架空武装に上位元素の矢を(つが)える。

 

 フレスベルグは旋回する範囲を徐々に狭めていた。キーリの位置を絞り込みながら、降下しているのだろう。

 

 その姿が近づいたことは"気"を探っているので分かるが、視界ではいまいち距離感が掴めない。

 

 その理由は輪郭が揺らいでいるからだ。

 

 大まかに鳥の形をしているものの、フレスベルグには確固たる形がなかった。

 

 フレスベルグはキラキラと輝く金色の粒子を体に(まと)っていた。

 

 奴は自身の生命エネルギー、すなわち"気"を体に纏い、あらゆる攻撃を無効化しているのだ。今までニブルが奴を倒そうとして、あらゆる手を使ってきたが、その能力によって傷一つ付けることができなかった。

 

 さらに奴は人の"気"を具現化させることができ、それが魂となる。そうすることで数多くの人間を殺しているのだ。

 

 しかし、奴の能力にも弱点がある。それは同じ"気"を干渉させることで無効化にできる。故に皆の攻撃は通用しなくても、僕がいればダメージを負わせることができる。

 

 「動きが変わりました———皆さん、構えて!」

 

 キーリがエルリア城にいることを確認したようで、旋回していたフレスベルグは降下軌道に移った。真っ直ぐ、僕たちの方へと急降下してくる金色の巨鳥。

 

 「各攻撃が有効かを確認するため、波状攻撃で迎え撃ちます。リーザさん、第一射を!」

 

 「分かりましたわ———閃光(せんこう)よ、貫けっ!」

 

射抜く神槍(グングニル)の穂先から、(まばゆ)い閃光が放たれる。レンちゃんの上位元素を加えて極大化した陽電子の輝きは、一瞬にしてフレスベルグに到達した。

 

 ———しかし。

 

 「なっ……」

 

 陽電子砲は直撃したが、フレスベルグは閃光を裂いて降下し続けた。能力で攻撃を無効化したのだ。

 

 速度は減衰せず、それどころかさらに加速している。

 

 深月さんはその様子を見て、五閃の神弓(ブリューナグ)の弦を引き絞った。

 

 「次は私が! (つい)の矢———空へ落ちる星(ラスト・クォーク)!」

 

 ミッドガルの切り札でもある反物質の矢を放つ深月さん。

 

 一直線に向かってきているフレスベルグは回避行動を取ることなく、正面から深月さんの反物質弾を受け止める。

 

 攻撃を無効化したようで、爆発は起こらなかった。

 

 深月さんの矢はフレスベルグの体表で(はじ)け、そのまま霧散する。

 

 「そんな……何で———」

 

 呆然(ぼうぜん)とする深月さんだったが、すぐに我に返り、悠に顔を向ける。

 

 「兄さん、撃ってください!」

 

 「了解!」

 

 悠は頷き、ティアちゃんの手を強く握る。

 

 彼女から流れ込む上位元素を砲弾のエネルギーへと変換し、境界を焼く蒼炎(メギド)を放つ。

 

 「———発射(ファイア)!!」

 

 (あお)い光球状が、夜天へと昇る。フレスベルグに直撃し、弾けた光が、フレスベルグの体を呑み込んだ。

 

 あまりの輝きに、空からは月も星も消え()せる。

 

 ———ズァッ!

 

 けれど、光の中から羽音が響き、夜空に生まれた蒼い太陽を突き破り、金色の鳥が僕たちに迫る。

 

 リーザさんたちの攻撃と同様、全く効いてない。

 

 「っ……亮、頼む!」

 

 「ああ、任せろ!」

 

 僕は両手首を合わせ、体の前方から腰にもっていく。"気"を集中させ、青い光球状を作りだす。

 

 「か〜め〜は〜め〜波ー!!」

 

 僕は悟空のかめはめ波をフレスベルグに向けて放つ。

 

 かめはめ波はフレスベルグの体に命中し、爆発が起こる。フレスベルグはダメージを負ったようで体勢が乱れ、体に纏っていた"気"が消える。

 

 「効いたっ!」

 

 悠が声を上げ、深月さんを見る。深月さんも険しい表情が微かに緩む。

 

 「どうやら、亮さんの気功波が一番有効なようですね。亮さん、第二射の準備をお願いします。皆さんは亮さんの気功波の後に攻撃してください」

 

 「分かりましたわ。レンさん、お願いします!」

 

 「ん!」

 

 深月さんは皆に指示を出し、リーザさんは再び架空武装を生成する。

 

 「ティア、もう一度頼む!」

 

 「分かったの!」

 

 悠もティアちゃんから上位元素を借りて、対竜兵装を生成する。

 

 「ミツキちゃん! あたしたちも!」

 

 「はい!」

 

 深月さんも先ほどの反物質弾を生成し始める。

 

 僕は片手をフレスベルグに向け、手のひらに"気"を集中させる。やはりフレスベルグも他のドラゴンと同様に簡単には倒れないようだ。

 

 超サイヤ人のまま、ベジータのビックバン・アタックの構えをする。

 

 フレスベルグは体勢を立て直し、高度を下げてこちらに向かってくる。

 

 僕の後に皆が攻撃すれば、フレスベルグは倒せる。……そう思った。

 

 「っ!?」

 

 するとフレスベルグの近くが少し歪んだ。しかも歪みは僕は見たことがある。

 

 (空間の歪みだと!?)

 

 ここ最近、歪みが発生することはほとんど無かったが、このタイミングで出てくるとは思わなかった。

 

 もし生き物が空間の歪みに触れれば、我を失い、超人的な力を手に入れてしまうことになる。歪みは今のどころ僕にしか見えてないようで、皆は気付いていない。

 

 (まずい、このままじゃ奴がパワーアップしてしまう!)

 

 僕は手を(かざ)したまま、歪みに向かって"神の気"を注ぐが、しかし既に遅かった。

 

 空間の歪みはすぐに消えたが、フレスベルグのくちばしが歪みに触れたようで、見る見るうちに体が変化する。

 

 「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

 皆はフレスベルグが変化していることに気付き、驚愕の声を上げる。

 

 体はさっきよりも巨大化し、頭には角が生えていた。ところどころに棘が無数にあり、"気"も上がっている。

 

 「まさかフレスベルグは体を変えることができるなんて……」

 

 リーザさんが声を上げる。

 

 この状況はまずい。奴がパワーアップしたことでさっきより手強くなっている。

 

 僕はさらに"気"を上げ、超サイヤ人の第三形態になる。

 

 第三形態はパワーを重視した変身で、筋肉が大きく膨れ上がる。スピードは落ちるが、力だけなら今までの数倍はある。

 

 「くられ! ビックバン・アタック!!」

 

 僕はベジータのビックバン・アタックを放ち、フレスベルグに到達するが、奴は翼で自分を守り、気功波は消滅する。

 

 「なっ! なに!?」

 

 どうやら僕の超サイヤ人の力でも敵わないようだ。僕は驚き、フレスベルグを見る。やはり空間の歪みに触れたことで僕が超サイヤ人の状態で攻撃しても弾き返すレベルにまでパワーアップしている。

 

 「まさか亮の攻撃が通用しないなんて……」

 

 悠は呟き、フレスベルグを見る。

 

 フレスベルグは猛スピードで降下し、その勢いのままエルリア城へと突っ込む。

 

 「———空気障壁、展開!」

 

 アリエラさんが叫ぶ声が聞こえた直後、轟音が響き渡り、大地が激しく揺れる。

 

 粉塵(ふんじん)が舞い上がり、歴史を重ねた美麗な古城が崩壊する。

 

 飛び散った大小の瓦礫(がれき)が雨のように降り注いが、アリエラさんの風の結界によって、僕たちに届くことはなかった。

 

 「———ありがとう、助かった」

 

 悠はアリエラさんにお礼を言うが、彼女はフレスベルグに突っ込んだ場所を険しい表情で睨んでいた。

 

 城の周囲は舞い上がった土煙で、ほとんど何も見えない。しかしフレスベルグはホールに突っ込んだのは間違いない。

 

 「っ……とにかくキーリさんのところへ! 彼女を守りながら応戦します!」

 

 深月さんが指示を出し、舞空術で空に舞い上がる。ホールに通じる扉は崩壊してしまったので、フレスベルグが突っ込んだ場所から城内へ戻る。

 

 三階分まで吹き抜けになった広大なホールは、悲鳴と混乱の声が響き渡っていた。

 

 濛々(もうもう)とした粉塵(ふんじん)と金色の粒子に満たされたホール中央に、フレスベルグの姿が(うっす)らと見える。

 

 最初に現れた時より大きくなっているが、体に包む光の粒子が拡散しているので、降下時よりも小さく見える。

 

 フレスベルグの近くにはキーリがおり、フィリルさんも架空武装を構えている。

 

 「皆さん、あらゆる方法を試して、攻撃してください!」

 

 深月さんの指示で悠たちは架空武装を構え、僕も"気"を集中する。

 

 クァァァァァァァァ———!

 

 だが僕たちが攻撃に移るより早く、フレスベルグは甲高い鳴き声と共に翼を広げた。金色の粒子がフレスベルグを中心に放たれ、こちらに押し寄せてくる。

 

 「エアー・ウォール!」

 

 フィリルさんがとっさに風の結界を張るが、粒子は空気の壁を無視して僕たちを呑み込んだ。

 

 「くっ!?」

 

 粒子に包まれた瞬間、体が動かなくなる。意識はあるが、肉体が命令に従わない。

 

 奴の能力で精神を肉体に封じ込めているのだ。歪みに触れる前の奴なら超サイヤ人でも簡単に弾き返すことができるが、パワーアップしたことで能力も上がっている。超サイヤ人状態でも体が言うことを聞かない。

 

 「あなたたちならフレスベルグに勝てると思ったけど———やっぱり難しかったみたいね」

 

 諦観の混じった声が聞こえ、キーリは言葉を続ける。

 

 「それとも、私を守るためじゃ本気にはなれなかった?」

 

 口を動かせないので答えられない。

 

 僕が油断していなければこんなことにはならずに済んだ。

 

 もちろん悠もユグドラシルから兵器のデータを送ってもらえば奴を倒せたが、それをすればまた記憶が失うことになる。悠もこの手は使わずに倒したかったようだ。

 

 「まあ———でも、お礼は言っておくわ。守ってくれて、ありがとう。それと今日は楽しかった。こんな楽しい日はたぶん、人生で二度目よ」

 

 キーリはそう言ってフレスベルグに近づき、奴の正面に立つ。フレスベルグも立ち止まり、キーリを見下ろす。

 

 「さあ———好きにしなさい」

 

 竜紋が輝く右腕を掲げ、彼女はその時を待つ。

 

 ゆっくりと身を(かが)め、キーリの手に(くちばし)を近づけるフレスベルグ。

 

 (まずい!)

 

 原作を読んでいるため、僕は知っていた。この先に起きる事。だから僕はどうしても今回は(・・・)()()()()()()

 

 フレスベルグはキーリの竜紋もじっと見つめた後、興味を失くしたように彼女から離れる。

 

 「え……?」

 

 (かす)れた声を漏らすキーリ。

 

 スウッと、キーリの竜紋が光を失う。

 

 やはり原作通りだ。そしてこの先の展開も同じだ。

 

 呆然とする彼女の脇を通り過ぎ、フレスベルグはフィリルさんに視線を固定した。

 

 (しまった、やはり原作通りか……)

 

 フレスベルグは身を屈めてフィリルさんに顔を近づける。

 

 辺りに満ちる金色の粒子が一層濃くなる。

 

 そしてその粒子がアルバート王の(ひつぎ)を覆った時、ぼうっと人間のシルエットが浮かび上がる。

 

 悠たちは驚いている。

 

 フレスベルグは魂を具現化する能力、霊顕粒子(エーテルウィンド)という力を使う。

 

 さらに自身の魂を体に纏うことによって攻撃を無力化し、生物の魂を肉体に封じ込めることができる。

 

 それは未確認媒介粒子(エーテル)を生成する。ある学者がそう主張したようだ。

 

 しかし、アルバート王の棺に現れたのは本当の魂ではない。あれはフレスベルグ自身が生成して作っているものだ。

 

 曖昧(あいまい)に揺らめく金色のシルエットは、フィリルを間近から見つめるフレスベルグの前へ滑るように移動し、粒子で形作られた腕を振り上げた。

 

 ———パンッ。

 

 フレスベルグの(くちばし)が微かに揺らぎ、人影の腕を構成していた粒子が反動で霧散する。

 

 どうやらアルバート王の死体には微かに"気"が残っていたようで、本能的にフィリルさんを守ったようだ。

 

 ———クェェェェェェ!

 

 フレスベルグはアルバート王の魂と(おぼ)しき粒子の塊に向け、その嘴を開いた。

 

 強い風が巻き起こる。ホール内に満ちていた金色の粒子が逆巻き、風に束ねられ、フレスベルグの口に吸い込まれる。

 

 それはアルバート王の姿を形作った粒子も例外ではなかった。

 

 ザァ———と砂の城が崩れるように、粒子で具現化していたアルバート王は輪郭を失う。

 

 魂を喰らう魔鳥、まさに伝説通り、フレスベルグは魂を喰っていた。

 

 フィリルさんの目の前で、削られていくアルバート王の魂。

 

 しかし声すら出せない状況で、それを阻める者はいない。

 

 消える寸前、アルバート王はフィリルさんの方を向いた気がした。だがその表情はもはや読み取ることもできず———彼の全ては失われた。

 

 魂を喰って満足したのか、フレスベルグはフィリルさんから離れ、僕たちに背を向ける。

 

 金色の翼を広げ、宙に舞い上がる。

 

 そしてそのまま、ホールの壁に空いた大穴から空へと飛び立っていた。

 

 辺りに満ちていた金色の粒子が薄くなり、体が動くようになる。

 

 「そう———(まが)い者の私じゃ、ドラゴンにはなれないのね」

 

 キーリはフレスベルグの去った大穴を見上げながら、乾いた笑い声を上げる。

 

 「ふふっ……あははははっ! 残念ね、お母様。私はあなたが思ってた以上の役立たずみたい」

 

 そして———自由を取り戻したフィリルさんは、地面に崩れ落ちて泣いていた。

 

 「……っく、……う……ああっ……あああああああっ!」

 

 アルバート王の魂が立っていた場所で(うずくま)り、悲痛な声を上げるフィリルさん。

 

 他の者は、何も言えない。

 

 僕はフィリルさんが悲しまないように奴を倒そうとしていたが、僕の中に油断があった。それがこの状況を招いてしまった。

 

 そしてこれからが大変だ。原作通りならまだ戦いは終わっていない。




悲しい内容ですね……。次回、原作を知っている人なら分かると思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。