ファフニール VS 神   作:サラザール

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ONE PIECEって、最終回いつになるんだろう……。 あっ、お楽しみください。


VS 黄のフレスベルグ

 東の山脈から太陽が顔を覗かせ、空の雲が(くら)い灰色から朝焼けの色に染め変えられていく。

 

 (まぼゆ)い朝日は足元の影を長く伸ばし、湖から流れ落ちる大量の水を壮大に彩った。

 

 今日も轟音(ごうおん)を響かせるエルリアの大瀑布(だいばくふ)、少し離れた広場の中央からフレスベルグが攻めてくるのを待っていた。

 

 ニブルからの刺客、フレイズマルを倒して合流した悠とフィリルさんと共に、ブリュンヒルデ教室の仲間は集合した。

 

 しかし僕は驚いていた。それは悠がフレイズマルと戦闘を開始した直後のことだ。

 

 僕は人間の"気"を探ること探ることも、実力も知ることができる。

 

 悠から放たれる"気"は人間と同じ力を感じていた。三年間もニブルで訓練をし、今では常人以上の力を持っている。

 

 だが、フレイズマルとの戦闘で僕は驚きを隠せなかった。

 

 悠からは、神の気(・・・)()感じた(・・・)

 

 戻ってきた悠を見ると、蒼い光を(まと)っており、皆は気付いていなかった。

 

 何故悠が神の気を発しているのか今でも分からない。しかし、思い当たる節はある。

 

 推測だが、悠の中に"悪竜(ファフニール)"の力を持っているため、それが原因だと思っている。

 

 原作を読んでいるため、悪竜のことは知っている。もしかすると……いや、やめておこう。今はフレスベルグを倒すことが先だ。

 

 僕の(そば)には、今でも神の気を放出している悠とフィリルさん、深月さんとイリスさんがいる。

 

 リーザさん、アリエラさん、レンちゃん、ティアちゃんの四人は僕たちを遠く囲むようにして、広場の端で配置に付いていた。

 

 周辺道路は封鎖されているので、他に人の気配はいない。

 

「神の気?」

 

 悠はフィリルさんたちに聞こえないように神の気を教えていた。

 

「ああ、何で君が神の気を操ることができるのかは知らないが、たぶん誰かを守りたいって思う気持ちが、"悪竜"の力を違う方向に覚醒したのかもしれんぞ?」

 

 僕は悠を少し安心させるため、推測している事を小声で話す。

 

「まあ、推測だから本当のことは知らんがな。しかし神の気が使えるってことは、神の素質が僕以上にあるかもな」

 

「そ、そうか……?」

 

 嫌味を言うが、少し安心した。悠が変わってしまうのではないかと心配していた。この世界は原作とは少し違うので、予想外の展開にならずに済んだ。

 

「悠、もし死んだら僕の代わりに世界神にならないか?」

 

「い、いや、遠慮しておく。それよりもうすぐ来るかもしれんぞ?」

 

 悠はそう言って視線を逸らす。まあ、冗談はさておき、フレスベルグの"気"を探るとすぐ近くにいた。

 

「あと少し、ですね」

 

 深月さんが変色を終えようとしているフィリルさんの竜紋(りゅうもん)を確認し、緊張した声で呟いた。

 

「そうだね」

 

 刻一刻と迫る。悠はもうすぐユグドラシルと取引し、記憶を失う。

 

 本当は忘れたくないと思っているだろう。しかし悠はフィリルを守るために選択した。

 

 記憶を取り戻す方法は知っているが、この先悠はいろんな困難を乗り越えるだろう。

 

「では作戦を確認します。フレスベルグを視認後、接近される前に兄さんと亮さんが攻撃。撃破し切れなかった場合は、私たちが全員で迎撃する———という段取りでいいんですよね?」

 

 深月さんが僕たちに視線を向けて確認する。

 

「ああ」

 

「では、もう一つ。この作戦が失敗した場合は、どうしますか?」

 

 深月さんが悠と———広場のベンチに腰かけているフィリルさんへ問いかける。

 

「それは……」

 

 悠は言葉に詰まった。今回はイリスさんの時のように、ドラゴンになるぐらいなら殺してくれと頼まれているわけではない。最悪の結末に至った場合、フィリルさんが何を望むのか———僕たちは知らない。

 

 原作では自分で命を絶つつもりのようだが、この世界ではどうなるのかは知らない。

 

 視線をフィリルさんに向けると、彼女は小さく息を吐いて答える。

 

「大丈夫、私は自分で決着をつけるよ。死にたくはないけど……(みやこ)の時みたいに、深月たちをずっと苦しめるのは嫌だから」

 

 篠宮都———篠宮先生の妹で、クラーケンに見初められ、ドラゴン化した深月さんの親友。深月さんは彼女を自分の手で討った妻に、ずっと(さいな)まれていた。全てのドラゴンを倒すというのは、その償いの一つ。

 

 そんな深月さんをずっと見て来たからこそなのだろう、フィリルさんはコートの内ポケットからコンバットナイフを取り出した。

 

「それは、フレイズマルの———」

 

 どうやらニブルの刺客が持っていた武器のようだ。

 

 それに原作通り、フィリルさんは最悪の事態を考えて、自分の手でケリをつけるつもりだ。

 

「さっき拾っておいたの」

 

 フィリルさんは覚悟の光を瞳に灯してナイフを自分の体に刺す構えをする。

 

 すると悠は、フィリルさんからナイフを取り上げた。

 

「そんなもの、絶対に使わせないからな」

 

「……うん」

 

 フィリルはこくんと首を縦に振る。

 

「あ———」

 

 だがそこで彼女の顔に苦痛の色が走った。

 

「フィリルちゃん、どうしたの?」

 

 イリスさんが焦った声で問いかけると、フィリルさんは竜紋のある肩を押さえて(うめ)く。

 

 僕は既に奴が近づいてくることに気付いていた。

 

「っ……熱い」

 

「み、見せてください!」

 

 深月さんが慌てて彼女の襟を広げ、肩口の竜紋を確認する。これまでとは比較にならないほど竜紋が黄色く輝いている。

 

「竜紋が完全に変色しました。兄さん、亮さん———フレスベルグが来ますよ」

 

 僕たちにそう報告した深月さんは、広場の端に散った皆にも手を挙げて合図を送った。

 

 リーザさんたちは架空武装を生成し、空に視線を向ける。

 

「さてと、準備をするか!」

 

 僕はまず、超サイヤ人になる。さらに力を上げ、超サイヤ人2になる。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 周囲の悠たちは驚いていた。全身からスパークが走っており、髪の毛がさらに逆立っている。

 

 今までの変化と比べ物にならないと分かったのだろう。

 

「これがお前の奥の手か?」

 

 悠が僕の姿を見て問いかけてくる。

 

「そうだ。奥の手じゃないが、今までの変身よりもパワーやスピードが上がってるからな。これでフレスベルグを倒せる」

 

 僕はそう答え、空を見上げる。

 

「俺もやらなきゃな。イリス、頼む」

 

 悠も曇った空を見上げ、イリスさんに手を差し出した。

 

 悠はユグドラシルから得られるデータがどんなものかは知らないが、今までの対竜兵装と同じ規模であるなら、物質化するなら誰かの上位元素(ダークマター)を借りる必要があると考えるだろう。

 

 実際その通りだ。だが、今までの対竜兵装とは少し違う。

 

 僕は原作を知っているため、どんな武装なのかは知っている。

 

 イリスさんは悠の手をじっと見つめてから首を横に振る。

 

「モノノベ、やっぱり今回はミツキちゃんの方がいいと思う」

 

「え?」

 

「ミツキちゃん、皆への指示はモノノベに上位元素を渡しながらでもできるでしょ? だから、あたしと代わってくれない?」

 

 悠の返事を聞かず、イリスさんは深月さんにそう言った。

 

「そんな急に———」

 

「お願い。きっとミツキちゃんと一緒の方が上手くいくから!」

 

 真剣に訴えるイリスさんを見て、深月さんは渋々と頷く。

 

「そこまで言うのなら……分かりました。イリスさんはフィリルさんの(そば)に付いていてください」

 

 深月さんは悠の左手を、右手でそっと握る。

 

「頑張って、モノノベ。繋いでいれば、()くさないでしょ?」

 

 どうやらイリスさんは、悠が少しでも深月さんのことを忘れないように役目を代わったようだ。

 

「イリス……」

 

 悠は彼女の名前を呟き、上空に視線を戻す。

 

 すると太陽がまだ山の縁にあるというのに、天頂にある雲の向こうが急に明るくなる。

 

「お出ましのようだな」

 

 フレスベルグの来襲を察知した僕は空に向かって呟く。

 

 そして悠は深月さんの上位元素を借りて、奴を(ほふ)るための遺失兵器(ロストウェポン)を構築する。

 

「マルドゥーク……念式連装砲、彼岸を貫く方舟(ノア)!」

 

 ユグドラシルからデータを受け取ったようで、真っ黒な上位元素から変換されていく、旧文明の兵器。

 

 回転可能な砲座の上に、二連装の砲塔が具現化する。これまでの兵器より小さいため、ほぼ完全な形で構築した。

 

 この兵器は、高密度に圧縮された精神波は微量の未確認媒介粒子(エーテル)でも具現化し、物理的な干渉力を得ることができる。

 

 つまり、自らの生命エネルギーを使って攻撃する兵器だ。しかもそれだけではない。

 

 悠は今、神の気を操れているので、莫大な威力が出せる。

 

 これならフレスベルグを倒せることができる。

 

「亮、いくぞ!」

 

「了解!」

 

 金色の粒子が、ちらほら雪のように舞い始める。

 

 悠はその粒子の根源———フレスベルグへと、己の気を打ち込む。

 

「———発射(ファイア)!」

 

「ビックバン・アタック!!」

 

 二門の砲口と僕の気功波が同時に放たれる。

 

 フレスベルグは歪みに触れて変色した時のように、翼を羽ばたかせて制動を掛ける。

 

 だがフレスベルグの回避行動は間に合わず、僕たちの攻撃が全て奴に命中する。

 

 舞い散る金色の翼。

 

「……効いた」

 

 イリスさんが歓声を上げる。

 

 しかしフレスベルグは空中で乱れた体勢を立て直し、旋回軌道に移った。

 

 命中し、ダメージを与えられたが、まだ奴を倒せるほどではない。

 

 悠が放つ神の気もまだ本人は使いこなせていないのだろう。軌道も僅かに逸れていた。

 

 僕の攻撃も命中したが、それでも奴は生きている。

 

 力尽きるまで攻撃し続けるのみだ。

 

 僕は両手をフレスベルグに向け、悠のマルドゥークも奴を標準を合わせる。

 

()ちろっ!!」

 

「か〜め〜は〜め〜波!!」

 

 僕たちは奴に攻撃する。

 

 僕は平気だが、悠は自分の"気"を使って攻撃するのは初めてなのだろう。息切れしており、神の気を使うのにも負担が掛かっている。

 

 フレスベルグは大瀑布(だいばくふ)の上空を高速で旋回し、僕たちの砲弾と気功波を回避する。

 

 当たらない。手数が足りない。

 

 着実に高度を下げてフレスベルグは近づいてくる。辺りに舞う金色の粒子もだんだん濃くなっていく。

 

 このまま接近されれば、また粒子に包まれて身動きを封じられてしまう。

 

「頼む、イリスも俺に上位元素を!」

 

 そう言って悠は空いていた右手を、振り返らないまま後ろに伸ばす。

 

 どうやら悠はもう(・・)一基(・・)()砲塔(・・)作る(・・)つもりだ(・・・・)

 

「わ、分かった!」

 

 イリスさんは悠の右手をぎゅっと掴み、彼女の上位元素を借りる。

 

彼岸を貫く方舟(ノア)———第二砲塔!」

 

 悠はフレスベルグに砲弾を撃ち続けながらも、その隣にニ基目の念式連装砲を構築した。

 

 僕もパワーを上げ、もう一度かめはめ波を放つ。

 

「波ー!!」

 

発射(ファイア)っ!!」

 

 僕と同時に悠は砲弾を放つ。

 

 だがフレスベルグは器用に体を(ひね)り、攻撃を(かわ)す。

 

 辺りの粒子が濃くなり、タイムリミットが迫る。

 

 このままでは、間に合わない。

 

 僕は奴の動きを封じるため、体中に気を高める。

 

「悠、僕がフレスベルグの動きを止める。その間に奴を倒してくれ!」

 

「分かった、フィリル……頼むっ!」

 

 僕は両手をフレスベルグに向け、悠はフィリルさんに上位元素を借りるように叫ぶ。

 

「え、で、でも……いざという時は、自分の命を———」

 

「後のことはどうでもいい! 今、全力で戦えば道を開けるかもしれないんだ! 生きたいなら———俺に力を貸してくれ!」

 

「っ…………うんっ」

 

 フィリルさんは悠に近き、後ろから抱き付いてきた。

 

 三人分の上位元素を扱うことなど普通は不可能で、体への負担が大きい。けれど、兵器の設計図という揺らぎのないフィルターを通すことで、悠はフィリルさんの上位元素を制御している。

 

「良し、準備はできた」

 

 フレスベルグの動きを封じるくらいの"気"は溜めることができた。

 

萬國驚天掌(ばんこくびっくりしょう)っ!!」

 

 両腕を腕を突き出すと共に電撃を放射し、フレスベルグの動きが止まった。武天老師の技で、相手の自由を奪うが、人間なら感電死してしまうほどの威力だ。

 

 しかも超サイヤ人2の状態で放っているため、威力は数百倍はある。フレスベルグは動きを封じられ、逃れることはできない。

 

「悠、今がチャンスだ!」

 

「任せろ! 彼岸を貫く()方舟()———第三砲塔ぉぉぉっ!!」

 

 悠はとっくに処理能力の限界を迎えており、苦しそうに叫ぶ。

 

 けれど悠は頭に耐え、三基目の念式連装砲を放つ。

 

発射(ファイア)っ!」

 

 六発のうちニ発が直撃し、金色の巨鳥は完全にダメージを負う。

 

発射(ファイア)発射(ファイア)発射(ファイア)発射(ファイア)っ———!!」

 

 ありったけの力を振り絞り、奴に三基の"彼岸を貫く方舟(ノア)を連射する。

 

 命中する度に金色の粒子が飛び散り、フレスベルグが(まと)う光の衣は無くなっていた。

 

 フレスベルグも自らの生命エネルギーを使っているため、消耗も激しい筈だ。さらに僕と悠の攻撃を喰らえば瀕死状態になるのも当然だ。

 

「皆さん———撃ってください!」

 

 深月さんは左手を高く上げ、勢いよく振り下ろす。それが攻撃開始の合図だ。

 

 広場を囲むように布陣していたリーザさんたちが、空に向けて架空武装から攻撃を放つ。

 

 光の衣を失ったフレスベルグに、皆の攻撃が直撃する。

 

 ———クァァァァァァァァァッ!!

 

 苦しげな声を響かせるフレスベルグ。粒子ではなく、本物の羽毛が空に舞い散る。

 

 片翼を失ったフレスベルグに、悠は三基の砲塔を操作し、砲弾を放つ。

 

「——————発射(ファイア)っ!」

 

 フレスベルグの体に真っ直ぐ吸い込まれる六発の光球。

 

 そして———巨大な爆発がフレスベルグを呑み込んだ。

 

 爆風と共に飛び散る金色の粒子。

 

 徐々に爆発は消え、金色の巨鳥は跡形もなく消滅していた。

 

 僕は超サイヤ人を解除し、上空を見つめる。

 

 フレスベルグの"気"は完全に消えていた。つまり僕たちの勝利だ。

 

「倒したようだな」

 

 僕がそう言うと、皆は歓声を上げ、僕たちの方へ駆け寄ってくる。

 

 悠を見ると、今にも倒れそうな状態で、ふらふらと揺れていた。

 

 僕はすかさず近づき、悠の体を支える。

 

「悪い……亮」

 

「全く、無茶し過ぎだ」

 

 本当に悠は原作通り、無茶ばかりする奴だ。僕も人のことは言えないけど。

 

「あ———」

 

 悠の背中から離れたフィリルさんが、驚きの声を上げた。

 

「どうかしたのか?」

 

 僕がフィリルさんに問いかける。

 

「今、あそこにお爺様(じいさま)がいたような———」

 

 彼女の指差した方を見ると、そこには薄れて消えていく金色の粒子があるだけだった。

 

「フレスベルグに取り込まれた魂が……解放されたって風に考えられる。もし何か伝えたいことがあるなら……今、言っておいたらどうだ?」

 

 朦朧(もうろう)とした様子の悠が促すと、フィリルさんはこくんと頷く。

 

「そうだね、もし本当に、お爺様がいるなら……伝えなきゃ」

 

 彼女は祖父の姿を垣間見た場所に視線を向ける。

 

 それと同時に悠は体力の限界を迎えたようで気を失った。

 

「……ありがとう」

 

 悠を支えていると、フィリルさんが絞り出すように感謝の言葉を告げる。




アニメしか見たことないから漫画でも読もうかな。続きもお待ちください。

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