ファフニール VS 神   作:サラザール

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どうも、サラザールです!今回で第四章最終話です。お楽しみください。


王子様

「ふう……温まる」

 

 俺は温かいお湯に浸かっていた。戦いの後に目覚めてから大浴場に来ている。

 

 大浴場に向かう少し前、亮に記憶のことを話すと、やはりそうなったかと理解していた。

 

 亮は今までユグドラシルから送られてくるデータやマルドゥークを生成するときの体への負担を和らげてくれた。そのおかげで体への負担は軽減され、違和感がないくらいに動ける。

 

 神でも記憶を元に戻すことはできないと言っていたが、今後は記憶を取り戻すため協力してくれるようだ。

 

 亮にもイリスがユグドラシルとの取引について知っていると話すと、協力してくれる人が一人でもいるなら心強いと納得してくれた。

 

 それから今後のことを話した後、亮と別れて大浴場へと向かう。

 

 温まっているとバジリスク戦での温泉を思い出す。あの時は深月とリーザが喧嘩をしており、俺は深月にリーザの気持ちを考えるように言い、リーザも深月を許すために罪と向き合った。

 

 その時フィリルから温泉を一日だけ貸切にしてもらったが、お礼としてみんなの裸を見せると言って俺がいることを黙って連れて来たのだ。

 

 結果、ティアにはバレてしまったが、深月たちには知られずに済んだ。

 

 あんなにドキドキしたのは初めてだ。

 

「それにしても広いな」

 

 俺は浴室を見回した。大浴場は豪華で広い。正直場違いではあるが何故か落ち着く。

 

 お湯に浸かっているとフレスベルグとの戦いの疲れが飛んでいくようだ。

 

 亮は先に入ったようでもう部屋で休んでいる。

 

 当然ここには誰も入ってこないとそう思っていた。

 

 しかし、正面から人がやってくる。湯気で顔や体が見えないがタオルを脱いで温泉に入ってきた。

 

 誰も入ってくるはずがない大浴場にイリスが入ってきたのかと思った。

 

 リヴァイアサン戦で、イリスがつがいとなった時に、浴室に入ってきて背中を流してくれた。

 

 それにさっき記憶が欠けていることを話したのでもしかしたらそのことかもしれないと思う。

 

 その人はどんどん近づいてきて俺は焦る。

 

 湯気は少し晴れてきた。もしかしたらイリスだと予想していたが、その予想は外れた。

 

「物部くん、大丈夫?」

 

 現れたのはフィリルだった。体はお湯で隠れているが胸が浮いており、驚きのあまり立ち上がった。

 

「フィ、フィリル!? 何でここに!」

 

 俺が理由を聞くとフィリルは頬を染めて微笑む。

 

「物部くんとお風呂に入りたくて、来ちゃった」

 

「んなっ……」

 

 フィリルはそのまま近づき、心配そうな表情を浮かべた。

 

「深月から物部くんが、目を覚ましたって聞いたから安心したけど、体の方は大丈夫?」

 

「あ、ああ、もう大丈夫だ。心配かけてすまない」

 

 正直に言うとまだ疲れは取れてはいないが風呂に浸かっているため、少し楽になってきた。

 

「謝らなくちゃいけないのは、私。ごめんね……私のために、無理させて」

 

 俺の頬に手を添え、上目遣いで俺を見つめるフィリル。

 

「いや、別に俺だけが頑張ったわけじゃないさ。フィリルも力を貸してくれたし、亮たちの援護がなければ、フレスベルグを落とし切れずに接近を許していたかもしれない」

 

「それでも……私を守ってくれたのは、やっぱり物部くんだよ。ありがとう」

 

 フィリルはそう言いながら、俺の方へにじみ寄ってくる。

 

「え? ちょ、ちょっと待て———」

 

「待たない。物部くんには一方的に守られたから、私も一方的にお礼する」

 

 俺の背中に手を回し、自分の方へと引き寄せるフィリル。

 

「っ!?」

 

 体から二つの豊かな双丘の感触が伝わってきて、さらにそのままぎゅっと抱きついてきた。

 

「物部くん、こうされると嬉しいよね? 温泉の時も喜んでくれたし」

 

「〜〜〜〜!!」

 

 お互い裸のため、フィリルの肌と胸の感触が直に伝わってきて、声が出ない。顔もだんだんと熱くなるのがわかる。

 

「前は三秒だけだったけど、今日は……ううん、これからは時間制限はないから」

 

 優しい声が耳朶(みみたぶ)を撫で、俺は自分の理性を保つのに精一杯で、どんどん耐えられなくなってきた。

 

「あと、前に言ったこと……無しで」

 

「?」

 

 俺は何のことか分からず、眉を寄せる。

 

「覚悟がないと、惚れちゃダメって言ったけど、あれ……撤回。私に、惚れていいよ……物部くん」

 

「なっ!?」

 

 すぐ(そば)(ささや)かれた言葉に動揺し、俺はフィリルを押してしまった。

 

「え?」

 

 フィリルの一言で俺は理性を保つことができなくなり、無意識に両手で彼女の体を押してしまった。しかし、ぷにゅんっと音がして見ると、手のひらにはフィリルの柔らかい二つの胸を掴んでいた。

 

「———っ!?」

 

「も、物部くん……大胆だね。…………えっち」

 

 フィリルは頬を染め、恥ずかしそうに俺の右手に自分の右手を添えてきた。

 

「わっ、悪い! い、今のはわざとじゃ……」

 

 俺は両手を離し、慌てて誤解を解こうとした。

 

「……もしかして、小さい方が好きなの?」

 

 フィリルは自分の胸に手を当てて聞いてきた。

 

「い、いや、そういうことじゃなくて……さっきの言葉にびっくりして、無意識に押してしまったんだ」

 

 俺は正直に言うと、フィリルは首を傾げた。

 

「覚悟のこと?」

 

「ああ……」

 

 俺が頷くと、フィリルは微笑んだ。

 

「だって覚悟なんてなくても、物部くんは……もう……私の王子様だからだし」

 

「お、王子様?」

 

「私、物部くんにドキドキしちゃったの。だから物部くんも……私に惚れてくれると、嬉しいな」

 

「——————」

 

 彼女の眩しい笑顔に、俺はしばし見惚れた。

 

 しかしそこで背筋が凍った。

 

「も、モノノベ……フィリルちゃんと何やってるの?」

 

 後ろから声が聞こえ、振り返るとイリスが引きつった笑みを浮かべていた。

 

 体はタオルを巻いていて、湯気で曇っていてもイリスのスタイルがはっきりと分かる。

 

「イリスも来てたんだ。……でもどうしてここに?」

 

 フィリルも気づいたようで、イリスを見上げる。

 

「も、モノノベが心配で背中を流そうと思って……」

 

 イリスはもじもじしながら言った。

 

 やはり俺の記憶のことで風呂場に来たのだろう。

 

「そっか、なら一緒に物部くんと入ろうよ」

 

 フィリルは手招きでイリスを誘った。

 

「えぇっ!? いいの!」

 

「うん、二人きりもいいけど、お風呂は大勢いた方がいいし」

 

「あ、ありがとう。……じゃ、じゃあ」

 

 そう言ってイリスはタオルを体が見えないように脱いで入ってきた。

 

 イリスの胸がお湯に浮き、視線がそっちに向いてしまう。

 

「えい」

 

「っ!?」

 

 イリスは俺の左腕に抱きついてきた。腕は双丘の谷間に挟まれ、イリスの肌が直に感じる。

 

「い、イリス」

 

 俺は視線が胸に行かないようにイリスの顔を見た。こうでもしないと平常心を保つことができない。

 

「それより、二人はさっきは何を話してたの?」

 

 イリスは上目遣いで俺たちに聞いてきた。

 

「いや、それは———」

 

「物部くんにプロポーズしてたの」

 

 俺は慌てて言い訳の言葉を口にしようとしたが、フィリルの声で掻き消された。

 

「ええっ!? そうなの!?」

 

 イリスは驚き、俺の顔を見た。

 

「モノノベ、フィリルちゃんと結婚しちゃっうの?」

 

 イリスの表情はおどおどしており、悲しそうな目で見つめる。

 

「イリスは物部くんと結婚したいの?」

 

 フィリルは首を傾げてイリスに訊ねた。

 

「え、あ、あたしは、その……」

 

 イリスは頬を真っ赤にして視線を逸らし、それを見たフィリルは何かを閃いたのか、俺の腕を放してぽんと手を叩いた。

 

「それならいい方法がある」

 

「いい方法?」

 

 きょとんとした表情でイリスが問い返す。

 

「うん……あのね、まずこのエルリア公国は、同性婚が認められているの」

 

「へ、へえ———進んでるんだね」

 

 イリスが戸惑いながら相槌を打った。

 

「だから……私がイリスと結婚したら、すべて全部解決」

 

「へ……!?」

 

 俺とイリスはぽかんと口を開けた。

 

「王族だけは重婚が認められてるからイリスだけじゃなくてティアもみんなも結婚できるんだよ。悪くないと、思わない?」

 

「そっか……って、待って! それだとモノノベと結婚してるのフィリルちゃんだけだよ」

 

「ふふふ、バレちゃった」

 

 悪戯っぽく笑い、フィリルは肩を竦めた。

 

「もう……でも結婚かぁ」

 

 イリスは羨ましそうに俺たちを見つめていた。

 

「…………」

 

 イリスの体に目を引かれ、豊かな双丘を見てごくりと唾を呑み込む。

 

「物部くん、やっぱり大きい胸が好きなんだ」

 

「ええっ!? モノノベって大きな胸が好きなの?」

 

 フィリルはあらぬ誤解をし、イリスはその言葉に驚き、自分の胸を手で隠した。

 

「い、いや、そういうわけじゃない。ただ……可愛い女の子二人と一緒にお風呂は……流石に意識してしまう」

 

 誤解を解こうとするが、フィリルとイリスの柔肌が伝わってきて、だんだん言葉を小さくなる。

 

「そうなんだ……やっぱり男の人って意識しちゃうんだ」

 

 イリスは納得した様子で頬を染める。

 

「……あの本にあった通りだね」

 

「本?」

 

 フィリルの言葉に俺は首を傾げて聞き返した。

 

「フィリルちゃんと読んだ本に、男の人は大きい胸が好きで、少しでも当たると喜ぶって書いてあったんだよ」

 

「……一体どんな本なんだ?」

 

 俺は何の本か分からず、フィリルの方を見た。

 

「男性向けの本だよ。物部くんの気持ちが知りたくて」

 

 フィリルは恥ずかしそうに目を逸らしながら答えた。

 

「もしかして、違うの?」

 

「い、いや……」

 

 確かに間違いではないが、正直に答えるのも恥ずかしくなる。俺は目を下に向けた。

 

「人それぞれだと思うぞ。……俺は、その……」

 

「その反応だとモノノベは嬉しいんだ」

 

 イリスの言葉には男として否定できなかった。

 

「まあ、大きさとかは気にしないが、嬉しいといえば……嬉しい」

 

 俺は男として正直に答えるしかなかった。

 

「そっか、よかった」

 

「……やっぱり嬉しいんだ」

 

 フィリルとイリスは真っ赤になった顔で息を吹き返し肩までお湯に浸かった。

 

 俺も肩をゆっくり浸かりろうとするが、視界が歪んできた。

 

 長く風呂に入っていたせいで、のぼせてきたようだ。

 

「じゃあ俺はもう上がるが、二人はどうする?」

 

 俺は立ち上がろうとする前に二人に聞いた。

 

「私は、もう少しここにいる」

 

「あたしも。モノノベはゆっくり休んでね」

 

 フレスベルグとの戦いで気を失った俺に、二人は気を遣って先に上がらせてくれた。

 

「ああ、ありがとう」

 

 俺はそのまま立ち上がり、脱衣所に向かおうとした。

 

「「え?」」

 

 すると突然、二人は声を漏らして俺の体を見た。

 

 俺は訳が分からず、二人の視線が向いているところを見ると、今まで下に巻いていたタオルが脱げていた。

 

「あ」

 

 今になって気付き、二人の前に自身の下半身を晒してしまった。

 

 二人の視線がある一点に注がれ———数秒後、イリスとフィリルの悲鳴が大浴場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレスベルグとの戦いから約十二時間。僕は杖の先端にある球体に向けて話しかけていた。

 

『そうですか……空間の歪みがありましたか』

 

「はい。すぐに修正しましたがこの世界のドラゴンが歪みに触れてしまい、倒すのに少し苦労しました」

 

 僕は神官王様に連絡を取り、今回の件を伝えていた。

 

 十二の世界に起きる自然現象である空間の歪みはここ最近起こらなくなっていた。僕たち"神界"の神々はその原因を調査していたが何一つ分かっていない。

 

『先程世界中を確認しましたが歪みが発生したのは第十二世界だけです。他の世界は一向に起きないようです』

 

「そのようですね、少し前に義晴と連絡を取りましたがあの世界でも歪みが起こってないそうです。ミッドガルに戻ったら僕も調査します」

 

『分かりました。全王様にはそう伝えておきます』

 

 球体に映し出された神官王様は微笑みながらお辞儀をする。

 

 この(ひと)は誰に対しても丁寧に接してくれる。ドラゴンボール超に出てくる大神官と同じ性格と言動、そしてこの立ち振る舞いだ。

 

 全王様と同じくらいに頭が上がらない神様だが、見た目に合わず大食らいで暇さえあれば十二の世界に来ていろんな店を食べ歩いている。

 

 本人は隠していてバレてないつもりのいるが、全王様以外の神には知られている。まあギャップがあって初めて知った時は驚いた。

 

『では私はこれで失礼します』

 

「あっ、待ってください。報告のついでに確認したいことがあります」

 

『確認ですか?』

 

 僕が呼び止めると神官王様は聞き返す。

 

「実は"神器"についてです。何か紛失したとか盗まれたとかそういう報告はありませんか?」

 

『いえ、そのような連絡はありません。何かありましたか?』

 

「い、いえ……無いなら構いません。では失礼します」

 

『はい』

 

 僕は神官王に頭を下げて通信を切った。

 

 ("神器"は無くなってないのか……)

 

 僕は椅子に深々と座りながら机に置いてある紅茶の入ったカップを手にして口につける。

 

 昨日、フレスベルグがエルリア城に襲来してきた時、奴の能力で魂を肉体に封じ込まれたことだ。

 

 僕は一瞬だけ"神の気"を放って奴を倒そうとしたが、何故か出せなかった(・・・・・・)

 

 "神の気"が出せなかったのは初めだった。そのせいでフィリルさんにあんな光景を見せてしまった。

 

 "神の気"を封じることができるのは"神界"にある"神器"と呼ばれる神様専用の道具だけ。

 

 あの会場にいたのはこの世界を担当する自然の神々だけだった。ある理由で誰かが"神器"を使った可能性があると考えた僕は自然の神々に連絡を取った。

 

 しかし自然の神々たちは持っておらず、神官王様に歪みの件での報告ついでに確認を取った。

 

 それでも何も無かったが神が"神の気"が出せないのは異常だ。"神器"で力を封じ込む以外に考えられなかった。

 

 (……仕方ない。ミッドガルに帰ったら歪みの件と一緒に調べるか)

 

 僕は着替えとタオルを持って王宮の大浴場に向かう。先に悠が来ているので記憶のことが話せる。

 

 扉を開けようとした時、男湯でイリスさんとフィリルさんの悲鳴が聞こえたことに驚いた。

 

 原作を思い返すが、この展開は一ヶ月以上先になると考えた。しかしこの世界はラノベの展開とは少し違っていることを思い出す。

 

 (悠たち楽しんでるな。原作では描かれてない展開ってことか)

 

 どんな状況なのか察した僕は自分の部屋に戻ってシャワーを浴びることにした。




いかがですか?一週間、もしくはそれ以上休むかもしれません。それまで楽しみにしてください。

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