ファフニール VS 神   作:サラザール

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みんな〜一ヶ月ぶり。「ファフニールVS神」ミドガルズ・カーニバル編、始まるよ〜〜〜(情緒不安定)。


ミドガルズ・カーニバル
面白い情報


 第九世界。武道派の人間が多く、文明は第一世界、第十二世界でいうところの中世ヨーロッパに類似している世界。

 

 この世界を管理している"世界神"レイチェル・スミスは、かつて何万人の武道家をたった一人で圧倒した武器の使い手で、ほとんどの国では英雄と崇められる存在である。

 

 しかし百年以上も前、仲間に裏切られた彼女は罪を擦り付けられ、監獄の中で亡くなった。

 

 そのあとはレイチェルの無実は証明され、かつての仲間は法で裁かれた。そして数々の伝説を作ったレイチェルは、後に"武術の神"と崇められることになった。

 

 それからレイチェルは"絶対神"ゴッド、後に全王と改名する最高位の神と出会い、世界を管理する"世界神"となる。

 

 あれから一年、"世界神"となったレイチェルは自分の故郷である第九世界で仕事をしていた。

 

「レイチェル、これでいいのか?」

 

 第一世界の"世界神"河本義晴は、レイチェルと共に空間の歪みを調査していた。

 

「ええ、ここで間違いないよ」

 

 レイチェルは杖の先端にある丸い球体を見つめていた。

 

 一週間前に発生した歪みがその翌日に突然消えたという情報が"神界"に入ってきた。

 

 歪みを中和する方法は、神が発する"気"を注ぎ込むことで消すことができる。

 

 つまり、歪みが消えたのは神だけが持つ"気"を注ぎ込むこんだからである。

 

 しかし、他の神々は第九世界で仕事をしていないと言う。もちろんこの世界を管理しているレイチェルも然り。

 

 そのため、手が空いているレイチェルと義晴が現場に来ていた。

 

「ここ最近になって歪みが突然出現してから消えるなんて、初めてだわ」

 

「ああ、恵さんもそんなことを言ってな」

 

 義晴はブリーフケースの中から丸い球体を取り出し、地面に置くと半円状のサークルが義晴とレイチェルを包みこむ。

 

「それって"神器"?」

 

「ああ、誰も来ないように結界を展開してるんだ」

 

 義晴が取り出した球体は、"神界"に住む神々しか使うことが許されない道具。それを"神器"と呼ばれている。

 

「これでこの世界の人間が近づいてくることはないな。そういえば亮のクソ野朗は"神器"が紛失したとかなんとか言って神官王様に聞いてたな?」

 

「そういえばそうね。でもどうしてかしら? "神器"が紛失したことなんてないからね」

 

「当然だ、"神器"の管理は厳重だからな。無断で持ち出そうとすることは絶対に不可能だ。あの馬鹿、何訳の分からないことを聞いてるんだ……」

 

 義晴は舌打ちをしながら杖を取り出して歪みの情報を調べる。

 

「それにしても、歪みが消えるのは不自然だ、一体誰の仕業なんだ?」

 

「ん? どういうこと?」

 

 レイチェルが問いかけると、義晴は周りを見回しながら口を開く。

 

「歪みを消すことができるのは俺たち神々しかできないんだぞ? 自然になくなったなんて有り得ないだろ?」

 

「でも歪みを消すには"神の気"を注ぎ込む必要があるから、何かしらの現象で中和されたのかもしれないよ?」

 

「そんな事例は聞いたことがない。大体そんなことが起こったら誰だって気付くだろ」

 

「そっか、じゃあ今回は神の誰かってこと?」

 

「いや、それはない。"神の気"を注ぎ込むには現象が起こってる世界に行かないとできない。亮の野郎は自分の担当する世界に行ってるし、俺たちは"神界"で仕事してたからな。もしかしたら神になれなかった人間の仕業だと俺は思う」

 

「あ、なるほど」

 

 義晴の推測を聞いたレイチェルは手を叩いて納得する。

 

「じゃあその人たちを調べてみようか。ちょうど調査も終わったことだし」

 

「そうだな」

 

 二神(ふたり)はそう言ってその場を去った。

 

 しかし二神(ふたり)は気付かなかった。遠くから様子を見ていたフードを被った男の存在に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄雲の向こうに月明かりがぼうっと(にじ)む、静かな夜。

 

 柔らかな夜風を(たの)しむように、二人の少女が歩を進める。

 

 一人は長い黒髪を(なび)かせ、もう一人は月光に映えるプラチナブロンドを風に遊ばせていた。

 

 黒髪の少女は髪と同じ色のドレスを(まと)い、プラチナブロンドの少女は軍服姿。

 

 ちぐはぐな印象を受けるが組み合わせの少女たちは、歩きながら辺りに立ち並ぶ窓のない建物を見回す。

 

「ジャンヌちゃん———ここで間違いないのね?」

 

 黒髪の少女が落ち着いた声で問いかけた。

 

「……馴れ馴れしい呼び方をするな、キーリ・スルト・ムスペルヘイム」

 

 ジャンヌと呼ばれたプラチナブロンドの少女は、不機嫌な声で黒髪の少女———キーリに言い返す。

 

「別にいいじゃない。可愛いあなたにはお似合いよ、ジャンヌちゃん」

 

 キーリはいやらしい表情で彼女を見つめる。

 

「黙れ、蹴り転がすぞ」

 

 緑色の瞳で睨みつけるジャンヌだが、キーリは楽しげな様子で笑った。

 

「あら、怖い。今は同じ目的のために協力する仲間なんだから、もう少し仲良くして欲しいわね」

 

「お前もフレイズマルと同様、隊長に害を及ぼす者だ。馴れ合うつもりはない。もちろん隊長の近くにいたアイツもな」

 

 ジャンヌは鋭い視線でキーリを睨む。

 

「アイツ?」

 

「ドラゴンを倒す存在、大島亮という男だ」

 

 ジャンヌは神である大島亮を良くは思っていないようだ。

 

「あの男は底が知れない、何を考えているのかが分からない。オレはあの男が隊長をいつ裏切るのかが心配でならない」

 

「そんなことはないわ。彼は確かに世界の脅威となる存在だけど、エルリアで話した彼はとてもいい人だったわ」

 

「信じられんな。お前も奴と同じとオレは思っている」

 

「あら、心外だわ。私は彼と同じで悠のためを思って行動しているのに」

 

 キーリはわざとらしく溜息を吐く。

 

「テロリストの言葉など、信用できるものか」

 

「何言ってるの。ここへ一緒に忍び込んだ時点で、あなたも私の同類よ」

 

 皮肉っぽい口調でキーリは言い、辺りを示す。

 

 彼女たちがいるのは、夜の散歩に適した憩いの場などではない。

 

 広い敷地を取り囲むのは、高いフェンスと高圧電流が通じた鉄条網。窓のない四角い建物の入り口や、通路の角には、死角が生じないように監視カメラが設置されている。

 

 ここは、ニブル西ヨーロッパ方面第三基地。一般人が立ち入ることを許されない軍事施設だ。

 

「…………」

 

 複雑な表情で視線を逸らすジャンヌ。

 

「ここまで来たんだから、覚悟を決めなさい。あと、さっきの質問にもちゃんと答えてくれないと。この基地に、フレイズマルの手がかりがあるのは間違いないの?」

 

 キーリは軽やかな足取りでジャンヌの視線の先へ移動し、首を傾げて問いかけた。

 

「……少なくとも、足取りを辿(たど)ることはできるはずだ。フレイズマルがスレイプニルと合流する際に使ったヘリには、この基地の識別番号が記されていたからな」

 

 渋々といった様子でジャンヌは答える。

 

「ふうん、なら一時的にであれ、彼がこの基地にいたのは間違いないわけね。じゃあとりあえず、その辺りの情報を探ってみましょう」

 

 キーリはそう言うと、道のど真ん中を堂々と進んでいく。ジャンヌは辺りを見回しながら後に続いた。

 

 しかしその時、行く手の死角から見回りの兵士が現れる。

 

「っ!?」

 

 反射的に戦闘態勢に入ろうとするジャンヌだったが、キーリは余裕の表情で首を横に振った。

 

「大丈夫よ。静かにしていれば気付かれないから」

 

 キーリの言葉通り、兵士たちは横を素通りしていく。

 

「まるで、魔法だな……」

 

 兵士たちの姿が見えなくなってから、ジャンヌは嘆息と共に呟いた。

 

「空気を熱して、光の屈折率を調整しただけよ。効果範囲は狭いから、あまり離れないでね」

 

 大したことではないという風にキーリは言って、近くの建物に近づく。他の建物と同様に窓はなく、入り口の扉は電子錠でロックされていた。カードキーと暗証番号が必要なタイプのようだ。

 

「回路を焼き切れば開くかしら」

 

 電子錠に手を(かざ)し、炎を生成するキーリ。

 

「やめろ、壊れて動けなくなるだけだ。仕方ない———」

 

 ジャンヌは手の平大の機械を取り出すと、電子錠に取りつけて手早く操作する。十秒もかからず、扉のロックが外れる音が響いた。

 

 そうして彼女たちは屋内へと侵入する。

 

 建物の内部にも監視カメラやセンサーがあったが、二人は難なくそれらを突破し、事務室らしき場所に辿り着いた。並んだデスクの上にはパソコンが置かれている。

 

「ひとまず、ここを調べてみましょうか」

 

 キーリの言葉にジャンヌは無言で頷いた。

 

 パソコンを起動させ、目的の情報を手分けして探し始めるキーリとジャンヌ。

 

 カタカタとキーボードを叩く音だけが暗い室内に響く。

 

「へぇ……」

 

 しばらくして、キーリが小さく声を漏らした。

 

「どうした? フレイズマルの出入記録が見つかったのか?」

 

 ジャンヌが自分の作業を止めて(たず)ねる。

 

「いいえ、違うわ。ちょっと面白い情報が目に入っただけ」

 

 そう言ってキーリは笑みを浮かべる。

 

「面白い情報?」

 

 キーリの言葉に、ジャンヌは眉を寄せた。

 

「この前ミッドガルで消し飛ばされた"青"のヘカトンケイルが———日本で再び現れたそうよ。今はユーラシア大陸を西へ横断中みたい」

 

 "青"のヘカトンケイル。"黒"のヴリトラによって作られたドラゴンであり、キーリと関わりのある存在だ。

 

「……特に面白い情報とは思えないな。不死と言われるヘカトンケイルがいずれ再出現するのは、ある程度予想されていたことだろう」

 

 ジャンヌはそう言って再び作業を再開する。

 

「ふふ、ジャンヌちゃんには分からないかもしれないけれど、これはとても価値のある情報なの。それにヘカトンケイルの進路も、すごく興味深いわ」

 

 口元に手を当て、まじまじとパソコンの画面を見つめるキーリ。

 

「ヘカトンケイルはどこへ向かっているんだ?」

 

「仮に直進したとしたら、いずれドイツとデンマークの国境付近を通過するわね」

 

「確かその場所は———」

 

 ジャンヌは何かに思い当たった様子で、息を()む。

 

 彼女の反応を見たキーリは頷き、わずかに高揚した声で告げた。

 

「そう———そこには今、別のドラゴンがいる。グリーン・ドラゴン、"緑"のユグドラシルがね」




ヘレス「そなたは醜い。実に醜い存在だ」
作者「へ、ヘレス様! 申し訳ありません。どうかこの薔薇の花束をどうぞ」
ヘレス「薔薇? 第七宇宙の植物か。実に美しい。今回は見逃してやろう」
作者「ありがとうございます。しかしヘレス様はこの薔薇のように美しいですね」
リブリアン「いいえ、ヘレス様は全ての宇宙で一番美しいのですわ」
作者「リ、リブリアン!」
リブリアン「喰らいなさい! ラブリーマシンガン」
作者「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ヘレス「リブリアン、彼女もまた美しい……」

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