ファフニール VS 神   作:サラザール

73 / 101
原作ではリーザがメインの内容ですね。お楽しみください。


行事

 リーザさんたちと一緒に登校した僕だったが、ホームルーム開始のチャイムが鳴ってもイリスさんは現れなかった。

 

 僕は原作を知っているため、彼女が来ない理由を知っている。

 

「もう篠宮先生が来てしまいますね」

 

 深月さんがそう言った直後、教室の扉が開いて担任の篠宮先生が入ってきた。

 

 ミッドガルの司令官であり、大佐という地位を持つ女性だ。

 

 頭の後ろで(まと)めた黒髪を(なび)かせ、篠宮先生は教壇の上に立つ。

 

「起立」

 

 号令を掛ける深月さん。

 

 皆が礼をして着席するのを確認してから、篠宮先生は口を開いた。

 

「今日はいくつか重要な連絡事項があるが———その前にイリス・フレイアのことを伝えておこう。彼女は今日、熱を出して欠席だ。遠征の疲れが出たのだろうな。他の者も体調が悪いと思ったら、無理せず申し出るように」

 

 その言葉を聞いた皆は少しざわつく。

 

「……寝坊したのは、熱があったからなんですね。ちゃんと確認すればよかったですわ」

 

 リーザさんが後悔したように呟くのが聞こえた。

 

 原作通り、イリスさんは熱を出して寝込んでいるようだ。遠征の疲れもそうだが、悠の記憶を取り戻すために色々と考え込んだせいかもしれない。

 

 彼女はユグドラシルを倒すためにある決断をする。この後の展開は知っているが、僕は黙っておこう。

 

「篠宮先生———放課後、見舞いに行ってもいいでしょうか?」

 

 悠は手を挙げて、篠宮先生に問いかけた。

 

 イリスさんが熱を出してしまったのは悠自身にも責任があると考えてのことだろう。

 

「他の者なら構わないが、君は男子だからな……女子寮へ入るのは何かと問題がある」

 

 しかし篠宮先生は難しい表情を浮かべる。やはり男子が女子寮に行くのは許可が降りない。

 

「キーリとの戦いで俺が入院した時、イリスは見舞いに来てくれました。だから俺もイリスを少しでも元気付けたいんです」

 

 それでも悠は引かずに頼み込むと、篠宮先生は腕を組んで考え込んだ。

 

「ふむ……まあ、フレスベルグ戦における君の働きを思えば、そのぐらいの希望は叶えて然るべきか。私の出す条件を守れるのであれば、許可してもいいだろう」

 

「許可ですか?」

 

「ああ、一つはイリス・フレイア自身の許諾を取ること。二つ目は、寮生の誰かが同行すること。三つ目に、必要ない場所には立ち入らないこと。四つ目は、門限までには寮を出ること。そして最後に、大島亮。君も彼に着いて行くことだ。お願いできるか?」

 

 どうやら僕も彼女の見舞いに行くことを条件に出してきた。たぶん男子一人だけでは心配なのだろう。

 

「僕は構いません」

 

 僕もこのあと仕事はないため、彼女の見舞いは行きたいとは少なからず思っていた。

 

「亮、ありがとう」

 

「気にするな。今日は暇だったからな」

 

 悠に感謝の言葉を言われると、少し照れてしまう。

 

「よし、ではイリス・フレイアの許諾を得られたら、六限後のホームルームで報告するように」

 

 そう言って篠宮先生は教室を見回した。

 

「———他に質問はないな? なら連絡事項へ移ろう」

 

 こほんと小さく咳払(せきばら)いをし、少し間を取った後、篠宮先生は重々しく告げる。

 

「まず、あまり良くないニュースからだ。ヘカトンケイルが再び姿を現したらしい」

 

「とうとう、ですか」

 

 深月さんが暗い声で言う。ヘカトンケイルの気を感じ取っていたため、僕は最初から知ってはいた。

 

「ああ、やはり殺し切れてはいなかったようだな。今のところ奴がこちらへ向かってくる様子はないが、以前のように突然ミッドガルに出現する可能性も否定できん。常に心構えだけはしておいてくれ」

 

 ミッドガルに出現したのはキーリが潜り込んでいたので、突然現れることはない。

 

 だがこの先の展開を知っているため、心構えをしておくのは必要だ。

 

 真剣な表情で皆に注意を促した後、篠宮先生は表情を緩めた。

 

「さて次だが、こちらは暗い話題ではない。まあ君たちにとっては、少しばかり大変なことになるかもしれんが……」

 

 どこか面白がるような顔で篠宮先生は僕たちを見回す。

 

「大変ということは、また何かの任務ですか?」

 

 リーザさんが篠宮先生に問いかけた。

 

「そうだな、ある意味では特別任務とも言える。この度———学園長の発案で、一ヶ月後に学園祭が開催されることになった」

 

「が、学園祭?」

 

 戸惑った声を上げるリーザさん。しかし僕以外の皆も同じである。まあ、原作を読んでいるため、知ってはいた。

 

「このミッドガルが学園として機能し始めた当初はまだ"D"も少なく、催し物と言えば年末のクリスマスパーティーぐらいなものだった。けれど生徒数もクラスの数も増えた今ならは、それなりに賑やかなものにできるだろう———という学園長のお考えだ」

 

 学園として行事が一つ増えるのは僕も嬉しい。しかし僕は本当の理由を知っている。

 

 篠宮先生はそこまで説明したところで、少し声を低くした。

 

「それにこれは生徒たちのためだけに発案されたイベントではなく、対外的なアピールも兼ねている。この学園祭は、我々が前回の任務を失敗したツケだと考えて欲しい」

 

 (やっぱりそうか……)

 

 ある程度は予想していた。

 

 前回の任務は、フィリルさんの故郷であるエルリア公国へ赴いてキーリ・スルト・ムスペルヘイムを保護し、ミッドガルに移送することだった。

 

 だがその最中にフレスベルグか来襲。何とかフレスベルグは撃破したが、キーリは姿を(くら)まし、当初の任務は失敗に終わってしまった。

 

 皆は何故、学園祭を開催と繋がると疑問を抱いているだろう。

 

「キーリ・スルト・ムスペルヘイムは、ニブルが反社会的な"D"を処分しているとメディア前で公言し、それは今も波紋を呼んでいる。そして彼女を保護できなかったことで、我々ミッドガルの信用にも傷がついた。そのためミッドガルが"D"による"D"のための教育機関であることをアピールする必要に迫られたのだ」

 

 篠宮先生は言葉を続け、皆は納得する。

 

「ということは、その学園祭には外部の方々が大勢来られるのですか?」

 

 話を聞いたリーザさんが、質問を投げかける。

 

 確かに外部へアピールするならば、外から人を招かなければ意味がない。

 

「ああ、各国の要人や大口の出資者、生徒たちの親族の招待を予定している。もちろん厳しい審査をクリアした者に限られるがな」

 

 親族。悠はニブルに連れて行かれるよりも前の記憶を失っている。両親の顔すら思い出せない状態のため、記憶が失っていることを知られてしまうだろう。

 

 しかしそのことは心配していない。

 

 問題は僕の方だ。僕の両親を呼ぶわけにはいかないが、神々を出席するとなれば、学園長直々に許可を貰う必要がある。

 

 呼ぶのは神官王様と神官様、あとは八重さんを招待しようと考えている。しかし他の神たちは正直招待したくない。

 

 恩義はあるが、皆にはあの神たちを合わせたくないからだ。今回は黙っておこう。

 

「学園祭では、各クラスでそれぞれ出し物を用意してもらう。今日はイリス・フレイアが欠席しているので先送りにするが、後日話し合う場を設けるので、それまで企画案を練っておくように。あと———物部悠、大島亮」

 

 篠宮先生は最後に僕と悠の名を呼ぶ。

 

「学園祭に関することで、学園長が君たちに話をしたいらしい。昼休みに学園長室へ顔を出してくれ」

 

「「分かりました」」

 

 僕たちは口を揃えて返事をする。ちょうど僕も学園長に用事あったので、昼休みに許可を貰おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして昼休み、僕と悠は指示通り学園長室へと向かう。

 

 学園の重要施設が集まる時計塔は一度ヘカトンケイルに破壊され、僕たちがバジリスク討伐へ出ている間に再建が終わっていた。復旧後の時計塔に入るのは今日が初めて。

 

 もしかしたら学園長室の位置も移動しているかもしれないと考えたが、内部構造は以前とほぼ同じで、学園長室も変わらず時計塔の最上階にあった。

 

「———よく来たな、物部悠、大島亮」

 

 悠がノックをして部屋に入ると、奥の執務机で書類仕事をしていた金髪碧眼(へきがん)の少女が顔を上げる。

 

 一見すると同年代か年下にも見えるが、彼女こそミッドガルの最高責任者であるシャルロット・B・ロード学園長だ。隣にはメイド服姿の女性———学園長の秘書であるマイカ・スチュアートさんが立っている。

 

 以前来た時と同じく部屋の窓はカーテンで閉め切られており、薄暗い。

 

「ん? いつもの冷蔵庫は無いんですか?」

 

 僕が学園長室を見回しながら学園長の問いかける。

 

「ああ、私物化するのは良くないとマイカに言われたからな。私室に置いてあるぞ? これでそなたに漁られる心配はないしな」

 

 どうやら僕が冷蔵庫を漁られないように移動したようだ。まあ、あの時はボケでやっていたので同じことはしない。

 

「あの、学園祭のことで何か用件があると聞きましたが……」

 

 悠は少し緊張しながら話を切り出す。

 

「ああ、学園長に外部の者を招くにあたって、一つ問題があってな。だが、その前に———」

 

 学園長は目を細めると、席を立って悠の方へ近づいてくる。

 

「左手を見せてみよ」

 

 絆創膏(ばんそうこう)が貼られた悠の左手の甲に視線を向け、学園長が命じる。

 

「———はい」

 

 悠は言われた通りに左手を差し出した。

 

竜紋(りゅうもん)に何か変化があったのか?」

 

「実は以前のようにみみず腫れが———って、あ、待ってください。自分で()がします」

 

 絆創膏(ばんそうこう)に手を伸ばした学園長を止め、悠は自分で丁寧に剥がす。

 

 学園長と僕は(あら)わになった悠の左手の傷をじっと見つめる。そして学園長は以前と同じように、小さな赤い舌で傷をちろりと()める。

 

「っ……こ、この前も思ったんですが、舐めて何か分かるんですか?」

 

 悠は疑問を抱いてたことを問いかける。

 

「これは私なりの診断法だ。気にするでない」

 

「診断法って……」

 

 戸惑う悠に構わず、学園長は唾液で()れた傷をじっと見つめた。

 

「———やはり消えぬか(・・・・)。基本形質そのものが変容していると考えられるな。どうやら以前と同質の傷らしい」

 

 ぶつぶつとよく分からないことを言う学園長。舌で舐めただけで色々と分析できるようだ。神でもできない芸当だ。

 

「……で? 悠は新たな物質変換を試したのか? バジリスクかフレスベルグの能力を?」

 

「いや、まだだ」

 

 僕が問いかけると、悠は首を横に振る。

 

「そうか、ではここで試せ」

 

 すると学園長が物質変換をするように命じる。

 

「え? いいんですか?」

 

「構わん。生成する上位元素(ダークマター)をごく少量にすれば、何が起きても影響は小さい」

 

「わ、分かりました」

 

 悠は頷き、左手の上に直径一センチ程度の上位元素を生成する。

 

「さて、大島亮。そなたはどうなると思う? 神の推測を教えてくれ」

 

「なるほど……それで僕も呼んだわけか。僕はフレスベルグの能力を手に入れたと思う。あの時、とどめを刺したのは悠だしな。バジリスクの時は僕と悠、そして深月さんの三人で奴に大技を繰り出して倒したからな。これまでの話を聞くと、最後に倒した奴が能力を受け継いでいると考える」

 

「それなら合点がいくな。そうなると物部悠がバジリスクの能力を所有する可能性は低いな」

 

「ああ、だが予想外なことは起きるものだ。深月さんの他にリーザさんやアリエラさんが手に入れたかもしれん」

 

 誰が能力を受け継いだのかは知っているが、この世界は原作とは少し違うので確証がない。

 

「あ……」

 

 すると悠は声を出す。僕と学園長が視線を向けると、悠の手の平には上位元素がきらきらした金色の粒子へ変換し、ふわっと宙へ舞い上がる。

 

「どうやら僕の推測が当たっていたようだな」

 

「おお〜、そなたの言った通りになったな。さすが神だな。つまりこれが"黄"のフレスベルグの能力ということか?」

 

 興味深々に学園長が悠に問いかける。

 

「はい。これはフレスベルグが纏っていた、魂を具現化する粒子です」

 

 新たな物質変換を行えた驚きに包まれながら、悠は興奮する学園長に答えた。

 

「悠はフレスベルグの能力を思い浮かべて生成したんだな」

 

「いや、最初はバジリスクの能力を思い浮かべたが、何も変化がなかったからすぐにフレスベルグの能力を思い描いたんだ」

 

「……と言うことは、僕と悠以外のブリュンヒルデ教室の誰かがバジリスクの能力を手にしていることになるな。悠はリヴァイアサンの"万有斥力(アンチグラビティ)"も使えるから、"紫"のクラーケンの能力を持ってる深月さんの可能性が高いな」

 

 可能性の話だが、誰がバジリスクの"終末時間(カタストロフ)"を受け継いだのかは知っている。

 

「そうなるな。では後日、しっかり検査と測定を行うことにしよう。その時にも二人には協力してもらうぞ?」

 

「分かりました」

 

「ええ、構いません」

 

 僕たちが答えると、学園長は僕たちを見る。

 

「では本題に入ろう。マイカ、とっとと済ませてしまえ」

 

「承知しました」

 

 学園長は命じられて、ずっと部屋の隅に控えていたマイカさんが近づいてくる。

 

「な、何ですか?」

 

「……!?」

 

 悠は思わず身構えるが、僕は呼び出された理由を知っている。

 

「大丈夫です。じっとしていてくれれば、すぐに終わります」

 

 にこりと微笑んだマイカさんは悠の前にしゃがみこみ、ズボンの裾をまくり上げた。

 

「うわっ、ちょっ……」

 

「綺麗な足ですね」

 

 困惑する悠に構わず、マイカさんは上着の袖を(まく)り、何かを確認するようにじっと見つめる。そして今度はメイド服のポケットからメジャーを取り出し、体のあちこちを測り始める。

 

「物部さんのは終わりました。次は大島さんですね」

 

 そう言ってマイカさんは悠から離れ、同じようにメジャーで測る。

 

「あ、あの……」

 

 悠は今でも戸惑っているようだ。まあ、何をしているのかは分かる。……本当は逃げたかったが。

 

「すみません、もう少しお待ちください。あとはここと……はい、ありがとうございます」

 

 マイカさんはメジャーをしまうと、一礼して僕から離れる。

 

「それで? これはいったいなんですか?」

 

 本当は分かっていたが、分からないふりをして問いかける。

 

「うむ。実は——————いや、やはり今言うのは()めておこう。準備が整った時にまた話す。逃げられてしまっては困るからな」

 

「すごく嫌な予感を覚えるんですが……ちゃんと教えてください」

 

 悠の言う通りのことが起きるが、逃げられないため黙っておこう。

 

「ふふふ、聞かぬ方がよいと思うぞ? 知れば学園祭の準備に集中できなくなってしまうだろうからな」

 

「な……いったい何を(たくら)んで———」

 

「秘密だ。楽しみにしていろ」

 

 いやらしい笑みを浮かべる学園長。僕は構わず口を開く。

 

「学園長、実はお願いがあります」

 

「ん? なんだ?」

 

「実は今回の学園祭に上司や先輩を招待しようと思っていますが———」

 

「ああ、そのことか。それなら構わんぞ? 後日話をしたいから通信機を貸してくれるか?」

 

「分かりました。ではどうぞ」

 

 僕はそう言って通信機をポケットから取り出して学園長に手渡した。

 

「これで楽しみが増えたな……」

 

 再びいやらしい笑みを浮かべる。よし、二日目に来るように伝えるか。




原作を読んでる人はこの後の展開を知ってと思います。その通りです。楽しみにしてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。