作者「シ、シドラ様! どうかお許しください」土下座
シドラ「土下座するとは……どうしよう」
ロウ「本当に優柔不断だな。破壊神シドラ」
シドラ「界王神ロウ。しかしここまで反省しているのだ。許してやっても……」
ロウ「それが甘いというのだ。いいか? こいつは———」
この後何時間も続いたそうだ。
「ここが女子寮か……」
放課後、メールでイリスに訪問の許諾を貰った俺は、クラスメイトたちと共に女子生徒たちが生活する寮へとやってくる。
誰かに同行を頼むという話だったが、自分たちも見舞いがしたいからと、生徒会の仕事がある深月を除く全員が一緒に来てくれた。
その代わりに深月は、今日の授業内容を分かりやすく
「あまりジロジロ眺め回さないでください。いやらしいですわよ?」
全体的に曲線が多く取り入れられたデザインの寮を見上げていた俺と亮に、リーザがジド目を向けた。
「あのな……いくら何でも、建物を見て妙な気持ちを抱いたりはしないさ」
「そうだぞ、まるで僕たちが変態みたいじゃないか」
俺と亮は溜息を吐くて言う。するとフィリルが横から俺たちの顔を覗き込んできた。
「本当に? 男の人は例外なく変態だって、前に読んだ本に書いてあったけど」
「いったいどんな本だよ……少なくとも俺は、建物で興奮するような変態じゃない」
「じゃあ、別の意味で変態なんだね」
「揚げ足を取らないでくれ」
何を言ってもドツボに
「おいおい……まじかよ」
亮が俺に汚物を見る目を向けている。
「なんでお前はそんな目で見るんだ?」
「だって、お前が女性の体に興奮する変態だってことは知ってたけど、まさか自分の性癖を皆に公言するとは思わなかった」
「話聞いてただろ! 皆の前で言ってねえだろ!」
「ということは自分が変態だってことは認めるんだね」
俺は亮に向かって声を荒げると、フィリルのように揚げ足を取られる。
「そ、そんな訳ないだろ……」
「ああ〜! 目を
俺を指差しながらからかうように笑みを浮かべる亮。皆は亮の言葉を聞くと一斉に俺に冷たい視線を向ける。
「本当に悠は変態だな」
「じゃあ、大島くんはどうなの?」
するとフィリルは亮に向かって聞いてきた。
「馬鹿なことを聞くんじゃない。僕は悠みたいな変態じゃ…………ない」
亮は急に間を空けて目を逸らしながら言う。何か思い当たる節があるのだろうか。
「オオシマ・リョウ、今の間はなんですの? まさかあなたもモノノベ・ユウと同じ変態ですの?」
リーザが亮に視線を向けて問いかける。
「……まあ、あれだ。悠みたいに些細なことで誤解を招くことは誰にだってあることだし、それが原因で予期せぬ事故が起こることもある。そんな場面を目にすることは何度もあるかもしれんが、そこは広い心で受け入れるのが一番良いと僕は思うぞ?」
「何言ってるんだ?」
亮はそう言って明後日の方向を向く。
「つまり、モノノベ・ユウと同じことをしてしまったと言うことですか?」
「…………あれは事故だ。欲望を剥き出しにしてやった訳ではない」
どうやら亮も何かやらかしたようで、皆の視線は亮に釘付けだ。
「……あっ、そんなことより早くイリスさんの様子を見に行こうぜ。時間も限られてるし」
「あっ、大島クンが逃げた」
「逃げたんじゃない。さ、早く行こう」
そう言って亮は足を動かす。それに続いて俺たちも歩き出す。
(そういえば、この中の誰かがバジリスクの能力を受け継いだ可能性があるって亮が言ってたな)
俺が知る限り、バジリスクを倒した後に異常を訴えた者はいなかった。まあこの件は学園長が対応すると言っていたので、今は任せておくことにしよう。
俺は思考を切り替え、寮の扉を通り抜ける。
エントランスホールに入った途端、ひんやりとした空気が頬を
適度な冷房が効いていて気持ちいい。エントランスホールの掲示板には色んな張り紙がされており、深月の宿舎より生活感があった。
女子のいい香りが
「こちらですわ」
リーザの案内に従い、俺と亮はイリスの部屋に向かう。途中、何度か他のクラスの女子に出くわすが、その度にリーザが事情を説明してくれた。
各部屋の扉にはネームプレートが取り付けられており、それを見るとルームメイトがいる生徒と、一人だけで部屋を使っている生徒もいるようだ。
二階の廊下を進んで
「わたくしが先に入って、部屋の状態を整えてきますわ。きっと散らかったままでしょうから」
リーザはそう言うと部屋の扉をノックする。
「イリスさん、入りますわよ」
扉の向こうから「あ……うん」というくぐもった声が聞こえてきたのを確認し、リーザは室内に素早く入った。そして待たされること約三分。扉の内側から開き、リーザが俺たちを手招きする。
「どうぞ。もう大丈夫ですわ」
「……お邪魔します」
「し、失礼します」
緊張しながら俺と亮はイリスの部屋に足を踏み入れた。火山島やエルリア公国へ
床には落ち着いた色のカーペットが敷かれ、壁にはカレンダーが掛けられている。家具の空いた部屋には写真や綺麗な貝殻が飾られていた。あの貝殻はミッドガルの海で見つけたものだろうか。
リーザが事前に片付けたおかげか、特に散らかっている印象はない。
イリスは奥のベッドで横になったまま、入ってきた俺たちに笑顔を向ける。
「モノノベ……オオシマ……皆……お見舞いに来てくれて、ありがとう」
力のない声で礼を言うイリスの元に近づき、俺は熱で
「辛そうだな———大丈夫か?」
汗で額に貼りついた銀色の髪を
「うん……しんどいけど、お茶も飲んだし……すぐに良くなるよ。だから心配しないで」
イリスの返事を聞いて、俺は少し安心する。
「これ、深月から預かったプリントだ。今日の連絡事項や授業内容が
俺は
「……ありがと。ミツキちゃんにお礼、伝えて」
「了解だ」
俺は頷き、約束する。すると話の切れ目を待っていた亮たちが、イリスのベッドを取り囲んで一斉に話しかけ始めた。
「ゼリーとスポーツドリンクを買ってきたから冷蔵庫に入れておくね」
亮は手にしたビニール袋を揚げて言う。
「ボクは果物を持ってきたんだ。食べられそうなら、リンゴ
アリエラは赤いリンゴを見せながら問いかけた。
「私とティアとレンはお菓子を買ってきたから」
「ティアはチョコレートなの!」
「ん」
ティアとレンと共にお菓子のお見舞いを差し出すフィリル。
「イリスさん、早く良くなってくださいね」
リーザはイリスの汗をハンカチで
「皆……あたし、嬉しい。本当にありがとう」
イリスはよほど感動したのか、目尻に涙を浮かべて礼を言う。
そうして皆でイリスを励まし、できる限りの世話をした後、俺と亮はイリスたちに挨拶をして女子寮を後にする。
◇
イリスさんの見舞いから帰った僕は、神界での仕事を終わらせ、"世界神"全員で第六世界の"世界神"アンジェリカさんの部屋に来ていた。
「ちょ……やめて……ください。ズルいですわよ。レイチェルさん」
「ふふっ、師匠が弱いだけです」
「なっ……言いましたわね。これならどうですか」
「っ……今のは、油断した」
レイチェルさんと恵さんは格闘ゲームをしており、熱を帯びた言葉を交わしながら二人は激しくぶつかり合う。
「
その光景を見ていた第六世界の"世界神"アンジェリカさんがゲームに没頭している
「今はそれどころではありません。ピンチなんですのよ。逆転してみせますわ」
恵さんはテレビ画面に視線を向けながら早口で答える。
「アンジェリカ、ちょっと待ってて。もう少しで終わるから」
レイチェルさんはコントローラーをカチャカチャと素早く操作しつつ、余裕のある声で言う。
「わたくしはまだ諦めていませんわよ! 逆転のチャンスは必ずありますわ———って動きを封じられてしまいましたわ!?」
「とどめです」
「ぐっ……ああ、今度こそ勝てると思いましたのに」
がくりと肩を落とし、コントローラーを手放す恵さん。
テレビ画面には双剣を持って倒れる騎士の少女と、勝利ポーズを決める薙刀を持つ少女が映っていた。
「悔しいですわ。またしてもレイチェルさんに負けるなんて……」
「これで三百戦全勝です。師匠もまだまだですね」
レイチェルさんは胸を張る。ちなみに貧乳であるため、本人はそのことを気にしている。
「ではアンジェリカさん。次はあなたですわ。イライラした気持ちをあなたに全て撃ち込みますわ」
「要するに私はストレス発散相手ですね……分かりました。望むところです」
アンジェリカさんはレイチェルさんと代わり、コントローラーを握る。
「では私は魔法使いで勝負します」
そう言って画面に映し出される魔法使いの少女をセレクトして、対戦が始まる。
ちなみにアンジェリカさんの家にはゲームがたくさんあり、月に一回は"世界神"全員集まって楽しんでいる。
家にはテレビが数台あるため、先輩たちは好きなゲームをしている。
ちなみに僕は第十世界の"世界神"グランさんと3Dアクションゲームをしている。
エディットしたキャラクターを使ってダンジョンを進んでいる。
「もうそろそろ中間地点に着いてもいいはずなんだが……」
「そうですね。結構進んだと思いますが、もしかしたらボスキャラが出てくるかもしれませんね」
冒険者風のキャラは森の中を進み、体力ゲージは半分以上ある。
「あ、あそこに出口がありますよ」
画面には森の出口らしきものがあり、奥には光で先が見えない。
「そうらしいな。よし、敵が襲って来る前にクリアするぞ」
「了解」
返事をした僕はコントローラーでキャラを操り、もう一人のキャラクターと共に森を抜け出すが、その先は毒の沼地だった。二人のキャラは毒の沼地にはまり、体力ゲージがどんどん下がっていく。
「しまった!? 亮、早く抜け出すぞ!」
「ま、待ってください」
コントローラーをカチャカチャと素早く動かし、何とか沼地を脱出する。
しかし二人のキャラの体力ゲージは半分以上減ってしまい、赤く点滅している。
「ここは木の実を探して回復しましょう」
「ああ、敵を倒して肉を食うにはリスクがあるからな」
そう言ってキャラを操作して再び森の中へ足を踏み込む。
「グランさん、あそこに何かあります」
僕は森の先にある赤い何かを見つける。
「でかした。早速行くぞ」
二人のキャラは先にある赤い物体に近づく。しかしその赤い物体はスライムのようにうにょうにょしていた。
「あれはレッドスライム。近くにいるモンスターそのものに変身するモンスターです」
「肉は無いから回復は難しいか。んっ、あれは?」
グランさんはレッドスライムの近くにドラゴンタイプのモンスターを発見する。
「インフィニティドラゴン!? 一撃必殺"インフィニティエンド"を使うほとんど登場しないモンスターだ」
「まさかここで出会うなんて……ってグランさん!? レッドスライムがインフィニティドラゴンに変身してます!」
「何っ!?」
グランさんはレッドスライムを見ると、既にインフィニティドラゴンへと変身を遂げており、こちら向けて攻撃態勢に入っている。
「仕方ない。"インフィニティエンド"に注意して奴を倒すぞ!」
「はい!」
それから僕たちはドラゴンに変身したスライムを倒し、近くにあった木の実を手に入れて生き延びた。
◇
「おっはよーっ!」
翌日、イリスさんは元気な声で挨拶をして、リーザさんたち女子寮組と共に教室へ入ってきた。
「おはよう。よかった、風邪は治ったんだな」
「元気になってよかったな」
近づいてきたイリスさんに僕たちは挨拶を返す。
「うん、もうばっちりだよ」
ぐっとガッツポーズをして、復調をアピールするイリスさん。
皆が挨拶を交わしつつ席に着く中、イリスさんは足を止めて深月さんへ話しかけた。
「そうだ、ミツキちゃん。昨日貰ったプリントに学園祭をやるって書いてあったけど、本当なの?」
「ええ、学園長の発案で一ヶ月後に開催されることになったそうです。今日はイリスさんもいますし、たぶんクラスの出展内容を決めることになると思います」
深月さんはイリスさんに今日の予定を伝える。
「へー、楽しみだね! ミツキちゃんは何かやりたいことある?」
「一応オーソドックスな企画をいくつかピックアップして来ましたが……特に何かを強く推すつもりはありません」
深月さんは真面目な顔で答える。皆に選択肢を示すのが自分の役割だと割り切っているようだ。
「じゃあ、モノノベとオオシマは?」
イリスさんは僕たちにも話を振ってきた。
「僕は特にないな。 悠はどうするんだ?」
「んー……俺も、別に何でもいいかな」
僕は十歳の頃に死んで神になったため、学園祭と言われてもピンと来ない。
悠も三年前より昔の記憶を失っているせいで、具体的なイメージが湧かないのだろう。
「えーっ! 二人とも、もっと真剣に考えようよ!」
「そんなこと言われてもな。まあ、色々と案が出たら、その中から真剣に選ぶよ。それよりイリスさんは何かやりたいことがあるのか?」
「もちろん! あたしは———」
と、イリスさんが答えようとしたところで予鈴が鳴った。
キーンコーンカーンコーンというチャイムの音が途絶えた後、イリスさんは
「———やっぱり秘密。後で発表するよ」
そう言ってイリスさんは自分の席に着く。
病み上がりとは思えないほど、テンションが高い。それだけ学園祭の開催が嬉しいのだろう。
確か、原作でもそうだった。そういえば何を発表したのかは忘れてしまった。
(まあ、思い出そうとしなくてももうすぐ知るからいいか)
そう思い、僕も自分の席に戻る。
そして深月さんの言葉通り、朝のホームルームで篠宮先生は一時限目の予定を変更して、学園祭の出展内容を決める時間にすることを告げた。
「———連絡事項は以上だ。後の進行は、ひとまず物部深月に任せる」
「分かりました」
篠宮先生に代わって教壇へ立った深月さんは、皆を見回してから口を開く。
「それでは、まず出し物の候補を挙げてもらいたいと思います。何か提案のある方はいますか?」
深月さんが問いかけると、真っ先にイリスさんが手を挙げた。
「はい!」
「イリスさん、どうぞ」
「あたしね、金魚
「…………え?」
しばらく沈黙した後、深月さんは呆気に取られた表情を浮かべる。
「日本のお祭りでは定番なんでしょ? フィリルちゃんに貸してもらった漫画にも、よく出てきたし」
「えっと、学園祭は祭りと言っても、そういうお祭りとは少し意味合いが違うんですが……」
「ダメなの?」
悲しそうに問いかけるイリスさん。そういえばそんなことを言っていたことを思い出す。
「いえ、ダメというわけではありません。ただ現実的な問題として、金魚を用意するのは厳しいと思います。生きている動物の持ち込みに関して、ミッドガルはかなり厳しいですから」
「そっか……残念」
心底がっかりした様子でイリスさんは手を下ろす。原作と同じでよほど憧れを抱いていたのだろう。
「他に、何かありませんか?」
再び深月さんが意見を求めると、今度はフィリルさんが挙手して発言する。
「ホラーハウスとか、どう? 日本風にして、お化け屋敷でも可」
「いいですね。日本では学園祭の定番です」
まともな意見が出たことに少しほっとした様子を見せながら、深月さんはフィリルさんの提案を黒板に書き留めた。
すると僕の後ろに座るティアちゃんが、悠の方を振り向いて
「ねえ、ユウ。オバケヤシキって何なの?」
「怪物とか幽霊とか、そういう怖い
ティアちゃんの質問に悠は答える。三年前より昔の記憶は
お化け屋敷と聞くと、家族で遊園地に行った時のことを思い出す。"世界神"になってから仕事をする毎日で、一度も行ったことがない。
「えっ!? ティア、怖いのはヤなの」
「大丈夫さ。もしやることになっても、俺たちは怖がらせる側だ」
「けど、怪物になるのは怖いの……」
———怪物になる。
その言葉はドラゴンに見初められた"D"が、同種のドラゴンに
ティアちゃん自身も"赤"のバジリスクに見初められ、自身が同類の怪物になるのを怖がっていた。
悠とティアちゃんの会話を聞いたアリエラさんが苦笑を浮かべる。
「ホラーハウスは
「ん」
レンちゃんがアリエラさんの言葉に同意して頷く。
「そうですね。皆が楽しめることが前提ですから」
深月さんは小さく息を吐き、黒板からホラーハウスの文字を消した。
この後も色んな案が出てきて、僕たちブリュンヒルデ教室の出し物は和風喫茶ということになった。
実行委員は悠とリーザさんがなり、一ヶ月後の学園祭に向けて動き出したのだった。