ファフニール VS 神   作:サラザール

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今でも後悔していることがある。あの時やってれば良かったと思う時がある。皆さんもそんなことがないように。


学園祭

「では第三回、"霊顕粒子(エーテルウインド)"測定実験を行う」

 

 学園の地下にある特別演習場に、白衣を着たシャルロット学園長の声が響いた。

 

「はい」

 

 悠は短く返事をし、左手を掲げる。

 

 上位元素(ダークマター)で形作った架空武装の銃を構え、目標地点に横たわる巨大な冷凍マグロに向けて構える。

 

「学園長」

 

「何だ?」

 

「この絵面、少しシュール過ぎませんか?」

 

 悠はジークフリートを構えながら学園長に問いかける。

 

「……言うな。私とて、笑いを……(こら)えているのだ」

 

 肩と声を震わせながら答える学園長。

 

「って、もう笑ってますよね!? 滑稽(こっけい)だと思うなら、もっとまともなものを用意してくださいよ……」

 

「だから言ったじゃないか。僕が人間の死体を作るから冷凍マグロなんて必要ないですよ」

 

 冷凍マグロを作ったのは僕であるため、学園長が用意したものではない。

 

「何を言う。そなたが作ってくれたことはありがたいが、もしアスガルやニブルにバレたらどう説明すればいいのだ?」

 

 学園長が肩を(すく)める。

 

「まあ加工食品なだけ、前回よりマシか。今回は僕が作りだして正解だったな」

 

 フレスベルグ撃破により悠が獲得した新たな力———霊顕粒子(エーテルウインド)の生成。

 

 ユグドラシルとヘカトンケイル消滅の報告があってから四日後———今日はその測定と分析を行う、三回目の実験だ。

 

 悠がフレスベルグの能力が継承されたことが判明してから約二週間の間に、もう二回も実験は行われている。

 

 だがそのどちらも、満足な成果は上がられていなかった。それは"霊顕粒子(エーテルウインド)"の持つ、特殊な性質のせいだった。

 

「悠が物質変換で作り出す金色の粒子が、フレスベルグの能力と同質のものだからな。魂を具現化する媒介物質だと学園長は考えているんだ。まあ、死体が残っている特殊な"気"がその人間に具現化するから実際は魂じゃないからな。それでも効果を観測したいがために僕が一番大きな死体を作りだしたということだ」

 

「ま、そういうことだ。ありがたく思え」

 

 亮が説明した後、学園長がびしっと冷凍マグロを指差して胸を張る。

 

 前回は食堂棟から借りた加工肉などで試したのだが、特に何も起きなかった。そこで今回は僕が丸々一匹、神が作りだした冷凍マグロを作りだしてそれを試そうというわけだ。

 

 ちなみに僕はこれまでの実験で神としての見解を述べた。それを元に今日を入れて三回も実験ができているのだ。

 

「人の死体を運び込むのは、外部の人間に不審に思われるし、アスガルに報告しなくちゃならない。だから僕が死体を作ってもそれを上に報告するわけにはいかないということだな。しかし体の大きさで選ぶより脳の大きさで選んだ方が良かったんじゃないのか?」

 

 僕が説明し、最後に問いかけると学園長が舌をなめずりして言う。

 

「そう言うな。国際的組織であるミッドガルには倫理上の制約も多くてな。知能が高い生物を実験に使うと、各方面の反発が大きい。黙って実験してもバレる可能性がある。それにマグロなら実験後に美味しく頂けるではないか」

 

「今のが本音なんですね……」

 

 悠が肩を落として学園長に向けて言う。

 

「ふふ、ちょっとした役得だ。それにここには神がいるのだ。いつでも作り出すことができるから便利ではないか」

 

「実験のために能力を作ったんだ。それ以外には使わんぞ。それより悠、早く実験を始めてくれ」

 

「わ、分かった」

 

 僕が急かすと、悠は返事をしてジークフリートを構え直した。

 

 意識を集中してフレスベルグの力を思い描いているようだ。

 

霊顕弾(エーテル・ブリッド)

 

 悠はイメージした力を弾丸に変え、トリガーを引いた。

 

 放たれた上位元素の弾丸は金色の粒子に変換され、冷凍マグロを包み込む。

 

 マグロにある"気"がその形へと具現化したら、今以上にシュールな光景になるだろうと思い、僕は観察する。

 

 だが特に何も起こらないまま、金色の光は薄れて消えてしまう。

 

「今回もダメだったな」

 

「ああ、やはり高度な知性体である必要があるかもしれん」

 

 学園長が残念そうに呟いた。

 

「———これで今日の実験は終わりですか?」

 

 悠がジークフリートを下ろして問いかけてくると、学園長が首を横に振る。

 

「いや、今回はもう一つ試したいことがある。マイカ、位置に着け」

 

 学園長がそう呼びかけると、演習場の扉が開いてメイド服姿のマイカさんが現れた。

 

 彼女はつかつかと冷凍マグロの方へ歩を進め、その(そば)で足を止める。

 

「今度はマイカに向かって撃て」

 

「———え?」

 

 悠が本気かと学園長の瞳を見つめ、僕は説明する。

 

「フレスベルグと交戦した際、僕たちは金色の粒子に包まれて身動きが取れなかったんだ。今やるのはそれを再現できるかの実験だ。最初は僕が実験台だったが、今の僕にやっても効果がないからな。だからマイカさんがやることになったんだ」

 

「けど、いきなり人間相手で試すのは危険じゃ……」

 

「心配ない。マイカはとても頑丈だ」

 

 マイカさんを心配する悠に、学園長は自信を込めて断言する。

 

「大丈夫ですから、どうぞ遠慮なく」

 

 当のマイカさんもニコニコと笑みを浮かべながら、悠を促した。

 

 実験台に抜擢(ばってき)されたというのに、全く緊張している様子がない。異様なほど肝が据わっているようで、やはり人間レベルとしても只者ではない。

 

「……分かりました」

 

 不安そうな表情を浮かべながら、悠はジークフリートの銃口をマイカさんに向け、フレスベルグの力をイメージした弾丸を放つ。

 

 撃ち放たれた弾丸は金色の粒子となって、マイカさんの体を包み込む。

 

「どうだ、マイカ?」

 

 学園長は彼女に呼びかけるが、返答がない。マイカさんは笑みを顔に貼りつけたまま、硬直している。

 

「マイカさんは喋れないんようです。僕や悠もフレスベルグにやられた時に動きを封じられましたから」

 

 僕は学園長にそう言いつつ、マイカさんの様子を見守った。

 

 しばらくして粒子は薄れ、それと共にマイカさんはぱちぱちと(まばた)きを行う。

 

「あ、動けるようになりました」

 

 手を握ったり開いたらしながら報告するマイカさん。

 

「ふむ、フレスベルグ戦の状況は再現できたが、魂の具現化を確認することは(かな)わなかったが、これでそなたの力がフレスベルグと同質のものである可能性が高まった」

 

 満足そうに学園長は頷き「ごくろうだった」と僕と悠の背中を叩いた。

 

 実は今回の実験に悠は"神の気"を使わないように言ってある。シャルロット学園長に知られれば、これからずっと実験に付き合わされるためだからだ。

 

「残る大きな懸念は行方の分からないバジリスクの能力か。ブリュンヒルデ教室の誰かが持っているかだな」

 

「そうですね。学園祭に備えてという名目で健康診断を実施したが、前回の検診から竜紋(りゅうもん)に変化のある生徒は見つかりませんでしたし」

 

 マイカさんが近づいてきて、相槌(あいづち)を打つ。

 

「外的な変化がないということは、本人も気付いてない可能性が高いな。いったいどうすればいいのか……」

 

「実は神が使える道具、神器(しんき)がたくさんあるんです。神々の世界に戻って準備をしますので皆に気付かれないように検査してみましょうか?」

 

「ほう、神の世界にも道具があるのか。これから先バジリスクの能力を知らずに開花する可能性があるかもしれんからな。では学園祭が終わってからで頼むぞ。マイカも良いか?」

 

「はい、私も方法を調べておきます。大島さんありがとうございます」

 

 話し合いを始めた僕と学園長、そしてマイカの間に悠が遠慮気味に声を上げる。

 

「あのー……今度こそ、実験は終わりですよね。学園祭の準備もあるので、もう戻っていいですか?」

 

「ん? ああ、すまない。そなたらは多忙だったな。けれど少し待ってくれ。まだ別件の用事が残っている」

 

 学園長は僕とマイカさんの会話を()める。

 

 (まずい、やっぱりあのことか)

 

 僕はあのことを思い出す。

 

「別件?」

 

 にやりと笑う学園長に悠は聞き返す。

 

「ミッドガルの学園長として頼みたいことがあるのだ。学園祭が二日間行われることは、そなたも知っているな」

 

「はい、まあ……」

 

「二日間にした理由は来場者を区分するためだ。ミッドガルに関係が深く、(おおやけ)にしていない機密情報も知る立場の人間と、そうでない者とを一緒にはできん」

 

「なるほど、悠や僕はミッドガル関係者の中では男の"D"と知られているが、世間には知られていない。どんな波紋を呼ぶか分からないからか」

 

「そういうことだ」

 

 世間では僕たちのことは知られていない。フィリルさんの両親———エルリア公国の王族は、ミッドガルに多額の出資を行っているため、少しは知っているのだ。

 

 つまりミッドガルの出資者であるリーザさんの両親は二日目に来るということになる。

 

「そこで考えたことがある」

 

 学園長はパチンと指を鳴らす。するとマイカさんが小走りで扉の向こうへ駆けて行き、すぐに何かを持って戻ってきた。

 

「そなたらのことを知らぬ者たちは、学園祭一日目に(まと)めて招く。その際、そなたらにはこれを着てもらいたい」

 

 学園長がマイカさんに目くばせすると、彼女が運んできたものを僕たちに差し出す。

 

「学園の制服……? こ、これって女子用じゃないですか!」

 

「つまり僕たちに女子生徒の振りをするというのか」

 

「そういうことだ」

 

 以前マイカさんが僕たちの体をメジャーで測ったのはこのためだった。しかし僕はどうしても聞きたいことがあった。

 

「学園長、前に神々と連絡するといって僕が通信機をあげましたよね。あれはどうなりました?」

 

「ああ、実は神たちにも事情があるようだったが、ほとんどは初日に来るそうだ」

 

 教室中に僕が笑い者になる未来が見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慌ただしい時間はあっという間に過ぎていき、学園祭一日目———僕と悠は試練の時を迎える。

 

「ふ、ふふ……に、兄さん、りょ、亮さん……か、可愛いですよ」

 

 変わり果てた僕と悠の姿を眺めた深月さんが、お(なか)を抱えて笑っていた。

 

「———悪いが、可愛いと言われても全く嬉しくない」

 

 女性用の制服を身に付け、長髪のウィッグを(かぶ)った悠が仏頂面で言う。

 

「お前のほうがまだマシだ? 僕なんて着物だぞ? 初日が当番だから制服以上に恥ずかしいぞ」

 

 僕は悠と同じ長髪のウィッグを被り、薄紫色の着物を着ていた。

 

「そ、そうだな……」

 

「悠、この場で破壊するぞ?」

 

 僕の格好を見て笑いを堪えている悠に右手を(かざ)して破壊のエネルギーを作り出す。

 

「ま、待ってくれ……もう笑わないから」

 

「……しょうがないな。まあ、我慢するしかないか」

 

 学園祭一日目はほとんどの"世界神"が来るそうだ。全王様と神官王様は仕事で来られないが、笑い者になるのは避けられない。二日目は八重さんが来るようで二神(ふたり)で色々と楽しめる。

 

 

 

 

 

「オ、オオシマ……似合うよ」

 

「う、うん、そうだよ……似合ってる」

 

「イリス、フィリル、笑ったら、大島クンが……可哀想じゃないか」

 

「アリエラさんだって笑っていますわよ。ですが……オ、オオシマ・リョウ……なかなか着慣れてますわね」

 

「……お姉ちゃん」

 

 最初は悠と深月が教室に入り、皆は女装した悠に関心したりしていたが、僕が入った途端に皆は笑いを堪え始めた。

 

 レンちゃんは僕の格好を見て"お兄ちゃん"ではなく、"お姉ちゃん"と呼ぶ。

 

「リョウ、似合ってるの」

 

「…………ありがとう」

 

 ティアちゃんは関心した眼差しを向けてくれるのでこれが唯一の救いだった。

 

「そ、それでは、本日の予定を確認しますから、皆さん適当に座ってください」

 

 深月さんは皆に指示を出して、自分は教壇の上に立つ。

 

 適当に座れと言ったのは、もう教室内には僕たちの席がないからだ。

 

 前日のうちに教室から机を運び出し、代わりに客用のテーブル席を四つ配置し、教室内は"何となく和風っぽいもの"で装飾されていた。

 

 深月さんが持ってきた(ひな)人形が、多数の招き猫に囲まれて飾られている光景は、どことなくシュールだ。ちなみに招き猫はレンちゃんのもので、エルリア公国に買った招き猫も飾ってある。

 

「一日目の和風喫茶運営を担当するのは、イリスさん、アリエラさん、レンさん、フィリルさん、そして亮さんです。イリスさんたちは衣装に着替えた後、五名はウォーミングアップと試食を兼ねて全員分の朝食を作ってもらいます」

 

「うん、頑張る!」

 

 イリスさんが深月さんに気合いっぱいの声で返事をする。

 

「学園祭の開始は午前九時。最初のシフトはイリスさんと亮さんが接客で、フィリルさんとアリエラさん、レンさんが調理です。けれど混雑した場合は、接客を一人にして三人で調理を行なってください」

 

 (よど)みない口調で深月さんは説明を続ける。

 

「午後になったら、混雑具合を見て一人ずつ三十分の休憩を取るように。その際は接客と調理二人ずつの体制でお願いします。では、準備開始です!」

 

 深月さんの号令と共に、今日の当番であるイリスさんたちが教室を出て行った。

 

 調理や着替えは隣の空き教室で行うため、彼女たちが着替えたらすぐに向かうつもりだ。

 

 しばらく経ち、アリエラさんが僕を呼びに来て教室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食後、開店準備に取り掛かった僕、イリスさん、フィリルさん、アリエラさん、レンちゃんの四人だったが———そこで予想外の事態に直面する。

 

「すごい列だね……」

 

 廊下の窓から外を(うかが)いながらイリスさんが呟く。

 

 まだ開店前だというのに、ブリュンヒルデ教室の入り口には長蛇の列が出来ていた。

 

「なんでこんなに混んでるんだ?」

 

 ブリュンヒルデ教室はドラゴン戦の中心として戦ってきたため、学園内では英雄とされていると深月さんが言っていた。しかし列を見ると終わりが見えず、他に理由があるのだろう。

 

「これは大島くんのせいだね」

 

「え? どうしでだ?」

 

 フィリルさんの言葉に疑問を投げかけると、アリエラさんがやれやれと肩を(すく)める。

 

「今日は大島クンが店頭に出るって噂を聞きつけて集まったんだよ。しかも女装で出るから女子は盛り上がってると思うよ」

 

「ん、"お姉ちゃん"は人気者。おかげでお客さんがいっぱい」

 

 レンちゃんがこくんと頷く。今日は僕のことを"お姉ちゃん"と呼ぶそうだ。

 

「この状況で大島クンを接客から外したら、間違いなくクレームが出るね。だから大島クンにはずっと接客担当だよ」

 

「わ、分かった」

 

 僕はこの状況に困惑しつつ、アリエラさんの言葉に頷いた。

 

 そういえば原作でも同じ状況があったことを思い出す。悠の女装に盛り上がっていたため、僕がこの格好でも同じことが起きるだろう。

 

「もうすぐ時間だよ。早く準備しよ」

 

「そうだな」

 

 イリスさんの言葉を聞いた僕たちは開店準備を再開した。時間ギリギリで準備が終わり、学園祭が始まった。

 

「わ、本当に亮様だ! 着物姿が凛々(りり)しいです!」

 

「亮様、握手してください!」

 

「あの……サインを貰ってもいいですか?」

 

 黄色い声を上げる客の女子生徒たちに、次々とそのようなことを求められ、僕は焦る。

 

 (ちょっと待て、これは予想外だ)

 

 もしかしてからかわれてるのかと考えるが、僕を見つめる少女たちの瞳は本気で、その迫力に気圧(けお)されそうになる。

 

 今は女子生徒の客が多く外部の人間は誰もいないため、女子生徒たちは僕のことを亮様と呼んでいる。

 

 僕以外の四人は隣の空き教室で調理をしているため、接客は僕一人だけだ。

 

 お客の注文を全て聞き、空き教室に向かって注文の内容を伝える。

 

「ここまでとは思わなかった」

 

「あはは……大島くん、大変だね」

 

「ああ、たが始まったばかりだからな。頑張らないと」

 

 少し気合を入れた僕はイリスさんと共に料理を持ってお客の元へ戻った。

 

 少女たちの勢いに圧倒されそうになるものの、なんとか接客をこなす。

 

 

 

 

 

「やっと解放された……」

 

 午後になってようやく女子生徒の列が途切れ、外来のお客が並び始めたところで、僕は調理を行う空き教室へ下がることを許された。

 

 途中、悠と深月さんの両親が来たので、接客をしながら挨拶をする。今日のためにミッドガルに来てくれたようで、家族が恋しくなってきた。しかし気持ちを抑えて仕事に集中した。イリスさんたちにも挨拶し、女子生徒の列が途切れたと同時にブリュンヒルデ教室を後にする。

 

 接客はアリエラさんとフィリルさんが行なっており、空き教室には僕とイリスさん、そしてレンちゃんの三人だ。

 

「もう少しで材料が無くなるよ? どうする?」

 

 イリスさんが料理の材料を見ながら問いかけてくる。女子生徒がおかわりをたくさんしてきたため、余分に発注された材料も無くなりかけていた。

 

「材料が無くなったら今日の運営は終わりだな。フィリルさんやアリエラさんにも伝えてるか」

 

「ん」

 

 そう言いながら調理を進め、外来のお客を全員(ざば)いた。教室はお客が誰一人おらず、材料はもうすぐ底を尽くようだった。

 

「ふぅ、なんとか終わったね。材料もあと十人分しかないよ」

 

 フィリルさんが材料を確認しながら言う。

 

「じゃあ無くなったら終了の張り紙を出すか」

 

 僕はそう言いながら張り紙を手にする。すると空き教室からアリエラさんが入ってきた。

 

「大島クン、知り合いの人が十人来てるよ」

 

「……来たか」

 

 覚悟は既に決めている。ブリュンヒルデ教室には"神の気"を十人ほど感じ取っていた。それも僕と八重さん以外の"世界神"だ。

 

「よし、その人たちで終わりにしよう。アリエラさん、終了の張り紙を出しておいてくて」

 

「了解」

 

 そう言って僕はアリエラさんに張り紙を渡し、ブリュンヒルデ教室へと向かう。

 

「いらっしゃいませ、お客様」

 

 僕が教室に入ると"世界神"全員が目を丸くする。そして数秒後、教室中に笑い声が響いた。

 

「ガハハハハ、亮! お前なんだその格好は!」

 

 第三世界の"世界神"ルドルフさんが手を叩きながら爆笑する。

 

「ルドルフさん、笑ったら……失礼ですよ」

 

 笑いを堪えながらルドルフさんの肩に手を置くのが第ニ世界の"世界神"弥生さん。

 

「亮! 傑作だよ。ギャハハハハハ」

 

 第一世界の"世界神"義晴が僕を指差して笑い、他の"世界神"たちは腹を抱えて笑っていた。

 

「そりゃどうも……」

 

 引きつった笑みを浮かべて義晴の言葉に応える。イリスさんたちは料理を運びに教室に入る。

 

「おお、亮さんのご友人ですか。始めまして。生駒八代と申します。亮さんがいつもお世話になっております」

 

 そう言って席を立ったのは第五世界の"世界神"八代さん。それに応じて先輩たちが共に一礼する。

 

「い、いえ、こちらこそ。オオシマには助けられてばかりです」

 

 イリスさんが料理を提供して言う。

 

「今後ともよろしくお願いします」

 

 第十一世界の"世界神"恵さんが笑顔で言う。しばらくして料理が運び終わり、一日目の運営は終わりを迎えた。

 

「とても美味しいわ。毒を使った魔術を使えばもっと美味しくなりますね」

 

 アンジュリカが卵焼きを口に運びながらとんでもないことを口にし、彼女の発した単語に反応したフィリルさんが首を(かし)げる。

 

「毒?」

 

「なっ!? なんでもないよ。気にしないで」

 

「う、うん」

 

 アンジェリカちゃんは神々最強の魔術師。レンちゃんと年が近いが、幼い頃から魔術師としての教育を受けてきたみたいだ。

 

「おい亮、酒はないか? 日本食を食べてると酒が欲しくなる。ぐはははは」

 

 グランさんが手を挙げて酒を持ってくるように言ってくる。

 

「学園祭ですよ。あるわけないじゃないですか」

 

「ご飯うめ〜な。墓場で食っても不味くない味だ」

 

 パトリックさんが意味の分からないことを口にしてきた。

 

「そこ、変なことを言わないでください。さっさと食べて帰れ」

 

 教室には僕たち"世界神"とイリスさんたちしか居ないので、いつもの口調で話す。

 

「大島クンの知り合いって変わってるね……」

 

 アリエラさんが引きつった笑みで話しかける。

 

「そういう(ひと)たちなんだよ。飲み物買って行くけど何がいい?」

 

「じゃあお茶をお願い」

 

 そう言ってイリスさんたちに飲み物のリクエストを聞き、女子用の制服に着替えて近くの自動販売機へ向かう。

 

 廊下を歩いていると軍人らしき"気"を感じ取る。相当な手練れのようだが、どこか悠な少し似ていた。

 

 僕はその気と原作を照らし合わせてある軍人を思い出す。原作でしか知らないため、ここで会うのは初めてだ。僕は人気(ひとけ)のないところに向かう。

 

 後ろから付いてくるのはさっき感じた"気"を放つ人間。廊下を歩き、人がいないところで足を止める。

 

 後ろをつけていた軍人は同じく足を止める。そして僕は口を開く。

 

「軍人にしては流石だと言っておこう。だが所詮はその程度。気配を完全に消せていないな。午後に貴方がミッドガルに来たことは気配で分かってましたよ」

 

 僕が振り返るとニブルの軍服を着た男———ロキ・ヨツンハイム少佐がいた。

 

「驚いたよ。私の想像を遥かに超えているよ。まさか気付いていたとは……」

 

 ロキ少佐は笑みを浮かべながら近づいてくる。

 

「ロキ・ヨツンハイム。ニブルの少佐にして、悠の元上司か。学園長を———いや、"灰"のヴァンパイアを憎んでいる(・・・・・)そうだな……英雄の息子」

 

 僕が威圧するとロキ少佐は無意識に身構えた。

 

「申し遅れたな。ブリュンヒルデ教室の大島亮だ。悠の親友で特殊な力を持つ"D"。まあ、知ってるか。ロキ・ヨツンハイム」

 

 正直僕は自分が認めた相手以外は威圧して話すようにしている。この男も(のち)に役には立つが、所詮は人間レベルが低い存在。大したことはない。

 

「ご丁寧にどうも。自己紹介は必要ないね。君に会うのは初めてだが、本当に只者ではないようだ」

 

「そりゃどうも、嬉しくないけど。先に言っておくけど———」

 

「っ!?」

 

 高速で動き、ロキ少佐の間合いに入り、鳩尾(みぞおち)を殴る。その間に隠し持っていたカメラを盗み取った。

 

 どうやら学園に仕掛けるつもりで持ち込んだようだ。僕はすぐにロキ少佐から離れる。

 

「悠やミッドガルの生徒、先生、そして学園長や秘書に危害を加えてみろ。僕がその場で"破壊"するからな」

 

 ロキ少佐は鳩尾を押さえながら僕の方を見る。最初は信じられないという表情をしていたが、徐々に落ち着きをとりもどした。

 

「なるほど、本当に大したものだよ。私が反応できないなんて……」

 

「あんたは舐めすぎだ。これを見な」

 

 僕はロキ少佐から奪ったカメラを見せるとロキ少佐は驚く。

 

「破壊」

 

 僕はカメラに向けて唱えると、カメラは光の粒子となって消えていく。

 

「分かったらさっさと帰れ。ニブルには良い方向をするよう願ってるよ」

 

 彼はニブルの視察団としてミッドガルの学園祭に派遣されたのだろう。

 

「……それは脅しかな?」

 

「いや、単なるお願いだ」

 

 僕がそう言うとロキ少佐が急に笑う。

 

「ふふ、やはり君は面白い。私の部下に欲しかったが仕方ない。今回は引き下がるとしよう」

 

「僕の実力を分かってないようだな。さっさと帰りな」

 

「ああ、そうするとしよう。また会おう、大島亮君」

 

 そう言ってロキ少佐は後ろを振り返って歩く。

 

 (また会おう、まあそうだな。また会う日が来るな)

 

 そう思った僕は近くの自動販売機で飲み物を買い教室に戻った。その途中、深月さんか焦った表情で廊下で会い、悠が倒れたことを知る。

 




今も大事だけど、これから先のことも考え、過去の経験を活かして頑張っていきましょう。
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