ファフニール VS 神   作:サラザール

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"食戟のソーマ"も完結しちゃったけど、面白い漫画ですね。最近は自炊しようと考えてますので、レシピとかも載ってあるのでためになります。料理に興味がある人は第一巻から見ることをオススメします。


神とデート 2

 朝食後、教室を出た僕は学園の乗降口へと向かった。今日は第七世界の"世界神"井上八重さんを学園祭二日目に招待しているため、迎えに行っている。

 

 本当は昨日を招待しようと考えていたが、何故か二神(ふたり)きりで学園祭を楽しみたいと思ったからだ。

 

 自分でもどうしてそんな感情を抱いたのかは分からない。しかし他の"世界神"たちと(まと)めて招待したくないと真っ先に思った。

 

 先輩たちに知られないようにしたが、バレてしまったのは予想外だった。でもここはからかわれても我慢するしかない。"神界"に戻ってどんなことがあっても我慢しようと決意する。

 

 僕は階段の段差に足を踏み出しながら気持ちを落ち着かせていた。朝食中は心臓がバクバクと激しく音を立てて悠たちに気付かれないか心配でたまらなかった。

 

 悠たちには一神(ひとり)で他クラスの出し物を楽しむと言ってあるため、昨日当番だったイリスさん、フィリルさん、アリエラさん、レンちゃんの四人を避ける必要がある。

 

 彼女たちに嘘を吐いてしまったという理由もあるが、一番の理由は知られたくないというのが本音だ。あの時「友達を招待しているから二神(ふたり)で楽しむ」と言えばよかったと後悔している。

 

 しかしもう遅い。何としてでも彼女たちから避けなけれならない。僕は深呼吸をしながら一階の昇降口へ向かう。

 

 その近くには外部の方が大勢いる。僕と悠の存在を知る人間たちを招待しているとシャルロット学園長が言っていたので、普段通りに男物の制服を着ている。

 

 昨日は女装していたので、八重さんを誘わなくてよかったとほっとしている。

 

 周りを見回すが八重さんの姿がとこにもいない。既に"神の気"を感じ取っているが、"気"は小さくてどこにいるのかが分からない。

 

 僕は"神の気"を発して待っていると、八重さんの"気"がこちらに近づいてくるのを感じた。

 

 僕は近づいてくる"気"の方向に目を向けると、私服姿の八重さんを発見する。

 

 日除(ひよ)けの帽子を被り、肩が(あらわ)になった涼しげな白いワンピースを身に着けていた。

 

 さらにエルリア公国で買った花の髪留めを八重さんにプレゼントしたため、彼女の髪にあるのを見て、僕は少し嬉しくなる。

 

 八重さんは僕に気付き、笑みを浮かべながら近づいてきた。

 

「亮ちゃん、おまたせ〜」

 

 そのまま近づいて僕に抱きついてきた。

 

「ちょっ!?」

 

 八重さんの二つの双丘の感情が体に伝わってくる。僕の体を両手で抱きしめ、八重さんは僕の体に顔を埋める。

 

 彼女は公共の場でも大胆な行動をしてくるので恥ずかしくなる。廊下にいる人たちは僕たちに注目しているが、しばらくしてヒソヒソと小声で話す声が聞こえてくる。

 

「や、八重さん、人が見てます! は、離れてください」

 

「え〜、仕方ないな」

 

 八重さんは渋々僕から少し離れ、日除けの帽子を取る。

 

「亮ちゃん、今日は誘ってくれてありがとう」

 

「気にしないで。今日は二神(ふたり)で楽しみましょう」

 

「う、うん」

 

 僕がそう言うと八重さんは頬を赤く染めて頷く。

 

「髪留め付けてくれたんですね」

 

「ええ、亮ちゃんからのプレゼントだもの。特別な日に付けるって決めてるからね」

 

 八重さんは照れながら右手で髪留めを触れる。すると何かを思い出したかのような表情を浮かべる。

 

「義晴くんから教えてもらったけど、今日は女装はしてないんだね」

 

「あの野郎……余計なことを」

 

 どうやら義晴の馬鹿が昨日の女装を八重さんに話したようだ。

 

「映像を見たけどとても可愛かったよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 八重さんの笑みを見ていると、何故か女装のことを言われても照れてしまう。

 

「そんなことより早く行こうよ。今日は思う存分に楽しんでね」

 

 僕は彼女の手を引っ張りながら階段を登る。すると彼女は恥ずかしそうに目を逸らす。

 

「これって……デートだよね?」

 

「え?」

 

 八重さんの言葉に足を止め、時間が止まったように感じる。

 

 デートという言葉を聞いた僕は顔が赤くなるのが分かる。デートと言えば男女交際で必ずある行動である。僕たちは付き合ってはいないが、周りから見れば彼氏彼女に見えているのだろう。

 

「そ、そうだね。周りから見れば付き合ってるように見えてるから、デートと誤解されるかもね」

 

「亮ちゃんはそれでいいの?」

 

 八重さんが首を傾げながら問いかけてくる。

 

「……周りは気にしないようにしようよ。まあ、嫌じゃないから」

 

「っ!?」

 

 僕の言葉を聞いた八重さんは顔を真っ赤にして下を向く。

 

「……わたしも」

 

 八重さんは小声で呟くが、何を言ったのかは聞こえなかった。周りはまだ僕たちを注目している。

 

「そ、そろそろ行きましょう。人に見られてますよ」

 

「えっ!? そ、そうだね。い、行きましょう」

 

 そう言って僕の手を繋ぐ八重さん。彼女の温もりを感じながら、そのまま僕たちは階段を上りながら他のクラスへと向かった。

 

 

 

 

 

 ミッドガル学園の"D"たちは、皆それぞれの"教室"に所属している。

 

 クラス数は僕たちのブリュンヒルデ教室を筆頭に———ガルヒルデ教室、ヘルムヴィーゲ教室、シュヴァルトライテ教室、オルトリンデ教室、ジークルーネ教室、ヴァルトラウテ教室、グリムゲルデ教室、ロスヴァイセ教室———の九つ。

 

 これらの教室名は原作通り、北欧の戦乙女(ワルキューレ)から取られている。僕や悠のような例外はいるが、基本的に"D"は若い女性ばかりなので、"ドラゴンに立ち向かう乙女"という意味を込めて戦乙女(ワルキューレ)の名を付けられたのだろう。

 

 レンちゃんのように極めて頭の良い人間や、ティアちゃんのように事情があって例外的に配属される人間もいるが、基本的は年齢の近い人間が同じクラスになる。

 

 上位元素(ダークマター)生成能力が覚醒するのは第二次性微期前後が多く、悠や深月さんに近い年代の"D"が所属するクラスは複数ある。そして逆に幼い"D"は少ない。

 

 ロスヴァイセ教室は、そんな幼い"D"たちが集められたクラスだ。

 

 まずはホラーハウスに行きたいと八重さんが言ったので、最初にロスヴァイセ教室の出し物に向かったのだが———。

 

「ありがとうございました!」

 

「また来てねっ!」

 

 お化けの仮装をした少女たちに見送られ、僕はふらふらと彼女たちの教室から外に出る。

 

「つ、疲れたな……」

 

「ええ、若い子のテンションに付いていくのは疲れてしまうわ」

 

 八重さんもげっそりとした表情で頷く。ちなみに下界と神界の時間の流れは違う。ドラゴンボールに出てくる"精神と時の部屋"と同じで、下界での一分は神界では六時間となるので僕と八重さんは約二千年も生きてきたことになる。

 

 見た目は悠と同じくらい若く、神界での年の流れは下界と同じであるため年齢は十六歳である。

 

 ロスヴァイセ教室の出し物はホラーハウス。しかし恐怖感はゼロで、終盤は僕の存在に気付いたようで仮装少女が興奮してじゃれつかれてしまいかなり消耗した。

 

「次はグリムゲルデ教室で劇があるみたいだぞ」

 

「そこに行きましょう。少し落ち着きたいわ」

 

 僕たちは次にグリムゲルデ教室へと足を向ける。

 

 グリムゲルデ教室の出し物はショー形式らしく、入口で中世風の衣装を着た少女が呼び込みをしていた。

 

「えっ……りょ、亮様ですか!?」

 

 呼び込みの少女は僕たちの方を見るなり、顔を輝かせる。

 

「亮様?」

 

 八重さんは首を傾げながら僕を見る。

 

「クラスメイト以外からはそう呼ばれているんだよ」

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

 そういえば彼女は原作でティアちゃんと仲が良かった少女だ。名前はマユミちゃんで、ミストルテインを支える竜伐隊(りゅうばつたい)の中に加わっていた。

 

 すると教室の中から一斉に他の少女たちが顔を出す。

 

「わ、ホントに亮様だ! 隣にいる人も素敵な方ですわ」

 

「やはり亮様も悠様と同じくらいカッコいいですね!」

 

 彼女たちは黄色い声を上げながら感激する。

 

「人気者みたいね」

 

 八重さんがクスッと笑う。

 

「あの、この方は亮様のお知り合いですか?」

 

 マユミちゃんが八重さんを見ながら問いかける。すると八重さんが僕の腕に抱きついてきて、とんでもないことを口にする。

 

「はい、亮ちゃんはわたしの彼女です」

 

 八重の言葉にグリムゲルデ教室の少女たちがさらに黄色い声を上げる。

 

「ちょっ!? 何言ってるだ!?」

 

「今日は亮ちゃんとデートなの。亮ちゃんを慕ってくれてありがとう」

 

 八重さんが僕の腕に抱きしめながら頭を下げる。

 

「いえいえ、とんでもないです。今日は楽しんでください。ほらマユミ! 早く案内して!」

 

 そう言って僕たちへきらきらした眼差しを向ける少女。

 

「亮様の彼女、綺麗な人ですわ」

 

「そうだね、お似合のカップルね」

 

「あたしたち、応援しなくちゃ」

 

 彼女たちの声が聞こえてきて、非常に落ち着かない。

 

「亮様、えっと……」

 

「私は八重よ、井上八重」

 

「八重様ですね、ではこちらへ! 特等席にご案内しますね」

 

 マユミちゃんはそう言って僕たちを導く。

 

 彼女たちの教室には小さな舞台が設置されていた。原作を知っているため、グリムゲルデ教室の劇がどんな内容なのかは予想していた。

 

「私たちの出し物は演劇なんです! 双子の勇者ユウとリョウの冒険、ご覧になってくださいね!」

 

 予想していた通りだった。そのタイトルに嫌な予感を感じると、教室は暗くなり舞台がライトアップされる。

 

 そこから始まったのは、双子の勇者ユウとリョウが悪のドラゴンをばったばったと退治していく物語。

 

 主役は当然僕と悠をモデルにしており、それを眺めている最中、僕はずっと穴があったら入りたいと胸のうちで叫んでいた。

 

「ぷっ、勇者リョウ———大活躍だったね」

 

「その呼び方やめてくれない?」

 

 八重さんは笑いながら僕をからかう。劇の間中、彼女はずっと声を押し殺して笑い続けていたのだ。

 

 そういえば原作通りなら悠たちも、グリムゲルデ教室の演劇を見ていると思い出す。

 

 僕は恥ずかしくなり、彼女の手を引っ張りその場を後にする。そしてたどり着いたのはオルトリンデ教室の写真展だった。

 

「ここにしよう。面白い展示がしてあるかもな」

 

「ええ、笑いが込み上げてくるからここで落ち着きましょう」

 

「…………」

 

 無言で八重さんにジド目を向ける。

 

 教室の中に入ると、写真が展示された室内は女子生徒と外部の人間で(あふ)れていた。

 

「思ったよりも、混んでるね」

 

 八重さんが意外そうに呟いた。

 

「何がそんなに人気なんだ?」

 

 不思議そうに僕は視線を巡らせる。

 

 展示されている写真はミッドガル内で撮影された写真ばかりで、どれも美しいがこれほどの集客力があるとは思えない。

 

「あれ? 奥の方が混んでるよ?」

 

 八重さんが特に女子生徒が集中している場所を指差す。

 

「行くか」

 

 そう言って僕たちは人波を()()けて進んでいく。そうして辿り着いた場所には、予想外のものが展示されていた。

 

「二日目限定の特別展示、悠様 亮様特集? これは……」

 

 パネル上部に設置されたキャプションを読み上げた僕。

 

「亮ちゃんの写真があるよ」

 

 展示されている写真を見た八重さんが言う。

 

 どこで撮られたものか、奥のパネルには僕と悠の写真が飾られていた。

 

「こんなにいっぱい……ん? こ、これは———」

 

 すると八重さんは声を震わせてある写真に目を奪われる。

 

 そこには夕日をバックにした水着姿の僕が写っていた。

 

「いいね! 水着姿の亮ちゃん。カッコいいよ」

 

 八重さんの言葉を聞いた周りの女子生徒は僕の存在に気付いて視線を向ける。

 

「亮様よ! 本物だ!」

 

「写真で見るより実物のほうがかっこいいですわ」

 

「亮様、こっち向いて!」

 

 彼女たちは僕に夢中で写真に目を向ける人が誰一人いなかった。

 

「大人気ね」

 

 八重さんは紙の封筒を手にしながら僕を見る。

 

「それはなんだ?」

 

「亮ちゃんの水着姿が写った写真よ。サングラスとマスクで顔を隠した人にお金を払ったら貰ったのよ」

 

 まさかオルトリンデ教室はこれを狙っていたようだ。僕と悠の写真を売って売り上げを上げるのが目的らしい。

 

「や、八重さん、もう出ましょう」

 

「あ、待っ———」

 

 僕は彼女の手を引っ張り、オルトリンデ教室の外に出る。あれだけ騒がれたら余計に疲れる。

 

「くだらんものを買ったな」

 

「むっ、そんなことないよ。かっこいいよ」

 

「そんなに見たいなら、水着姿ぐらい見せてやるよ」

 

「えっ———」

 

 僕の言葉に八重さんはおかしな声を出す。そして僕はとんでもないことを口にしたと思い知る。

 

「い、今のは違う! それは、その……」

 

「亮ちゃん、大胆だね」

 

 八重さんは頬を染めながら恥ずかしがる。

 

「だから違う。言葉の綾で———とにかく他行くぞ」

 

「あ、待ってよ」

 

 僕はその場を去ろうとして足を運ぶ。後を追うように八重さんが付いてくる。

 

 恥ずかしさのあまり、彼女の手を握るのを忘れてしまった。僕は我に返って八重さんの手を握る。

 

「すまんな。忘れてた」

 

「気にしないで。それより———」

 

 八重さんは後ろを気にしながら僕の顔を見る。

 

「ホラーハウスの時からだけど、誰かがずっとつけてるよ」

 

「え?」

 

 僕は後ろにいる人間の"気"を探るとクラスメイト(・・・・・・)()"気"()を感じ取った。

 

 他クラスの出し物に驚かされていたため、彼女たちに気付かなかった。

 

「……無視しろ。気付かない振りをするんだ」

 

「わ、分かったわ」

 

 まさか跡をつけていたとは思わなかった。僕は杖を取り出して彼女たちを映し出す。

 

「オオシマがリードしてるよ」

 

「そうだね。大島くん、満更じゃないね」

 

「二人とも楽しんでるね。これは将来、結婚するんじゃないかな」

 

「ん」

 

 四人のクラスメイトはひそひそと僕たちに聞こえない声で話していた。

 

 (杖で見てるから聞こえてるんだが……)

 

 僕は彼女たちの様子を見ていると、八重さんが僕の体に抱きついてきた。

 

「なっ!?」

 

 僕は驚くと、イリスさんたちも八重さんの行動に驚きの声を上げる。

 

 八重さんを見るといやらしい笑みを浮かべて僕を見つめていた。

 

「わざとか?」

 

「はて? 何のことでしょう」

 

 八重さんはとぼけた表情を浮かべて顔を逸らす。

 

「……挨拶しに行くぞ?」

 

「結婚の?」

 

「よし、八重さんの恥ずかしい話を"世界神"たちにバラす」

 

「ちょっ!? ごめん! もうこんなことしないから!」

 

 そう言って僕は後ろを振り向いてイリスさんたちに近づいた。

 

「もう少し上手く跡をつけて欲しいものだな。最初からバレバレだぞ?」

 

「あっ、大島クン」

 

 彼女たちは僕が近づいたことに気付いた。

 

「本当は今気付いたくせに」

 

「うるさい……」

 

「はいはい……どうも、井上八重です。亮ちゃんがいつもお世話になっております」

 

「亮ちゃん?」

 

 イリスさんが八重さんの言葉に不思議そうに首を傾げる。

 

「気にするな、八重さんはこういう(ひと)なんだ」

 

「そういうこと。よろしくね」

 

 八重さんがイリスさんたちに頭を下げる。

 

「あたしはイリス・フレイア。オオシマにはいつも助かってます」

 

「私はフィリル・クラスト。趣味は読書」

 

「ボクはアリエラ・ルー。よろしく」

 

「……レン・ミヤザワ」

 

 イリスさんたちが八重さんに挨拶する。

 

「言っておくが、友達だからな? 彼女だって言ってたけど、冗談だからな?」

 

「あれ? そうだった? わたしたち一緒のベッドで寝る関係なのに……」

 

「なっ!? 誤解される言い方をするな! 一緒に昼寝しただけだろ……あっ」

 

 僕は墓穴を掘った。八重さんの家に何度も行った時には一緒に昼寝をした。彼女はそれを言わせるためにあんなことを言ったのだ。

 

「へぇ、そんな関係なんだ」

 

 アリエラさんをはじめとして後の三人は顔を赤くしていた。

 

「ふふ、ちょっとからかい過ぎたな。とりあえず、これからも亮ちゃんをよろしくね」

 

 そんなこともあって僕たちは学園祭を楽しんだ。ちなみにこの後、イリスさんたちは教室に戻って僕たちのことをべらべらと喋ったことを知ったのはもうすぐ始まる戦いの後だった。




アニメと見比べるのも良いかもしれないと思います。

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