「この者がここ最近、十二の世界に出現する空間の歪みを修正しているということですね」
神官王が議長を務め、画面に映し出されたフードの男を口にする。
"神界"の中央に位置するビル、"天上塔"二十階にある第一会議室では緊急招集が掛かっていた。
集まっているのは全ての頂点に立つ全王、その前に君臨する神官王、そして現場に向かっている亮と八重以外の"世界神"たち。
神々達は歪みを修正する存在に対して議論を交わしていた。
「歪みを修正できるのは"神の気"を持つワシたちだけじゃ。人間ごときが出来る訳がないのじゃよ」
真ん中の席に座るルドルフが画面に映るフードの男を見ながら大声で話す。
「だが我々以外に歪みを修正する人間はいません。亮と八重ちゃんはデート中として、オレたちにはアリバイがある。世界神が現場にいないならアイツは人間以外に他ならない」
パトリックはルドルフに対して異論を唱える。
歪みを修正することが許されているのは"世界神"のみであり、他の神が修正すれば重い処罰を受けることになる。
それ以前に人間が歪みを修正したとなれば、危険人物として排除される。そのため、この役目は"世界神"が処理することになっている。
「とにかく私たちは早急にフードの男の素性を調べるしかないでしょう? 今は亮さんと八重さんに任せて私たちは彼の素性を探ることに専念しましょう」
「八代の言う通りだな。ワッシたちが今すべきことはこのフードの男を調べること。これから忙しくなるぞ」
八代の意見にグランも賛成する。彼らは同期で普段は正反対な
「ではすぐにフードの男を詮索しましょう。俺っちも今日は残業するか」
「エドワードさんにしては珍しいですね」
「珍しいとは何だパトリック。俺っちだってたまには残業するさ」
「冗談ですよね? いつもゲームばかりしてるあなたが……ふっ」
「あぁ?」
小さく笑うパトリックにエドワードはガタッと席を立ち、威圧しながら睨む。
「落ち着きなさい、
彼女の言葉に我に返った
「そ、そうだな。喧嘩している場合じゃないな。済まないパトリック」
「えっ!? い、いえ、オレこそ小馬鹿にするようなことを言ってすみません」
「では皆さん、フードの男の件はあなた方"世界神"に任せます。これにて緊急招集を終了します。全王様、何か一言はございますか?」
神官王は全王に視線を向けて
「じゃあ皆、頑張ってね。期待してるよ」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
全王は満遍の笑みを浮かべて"世界神"たちに告げた後、第一会議室を出て行く。
「それでは皆さん、解散です」
そう言って神官王も全王に続いて部屋を出る。
会議室に残ったのは
◇
「ごめんね八重さん。この世界の問題に付き合わせて」
「気にしないで。最近歪みが消える現象は私たちの間で問題になってたもの」
僕と八重さんはサハラ砂漠のど真ん中に来ていた。
学園祭を楽しんでいる最中、突然この場所に"神の気"を感じ取った僕たちは誰も見られない場所に移動して、杖で"神の気"を感じた場所を調べた。
するとそこにはフードを被った男がサハラ砂漠に出現した空間の歪みに向けて"神の気"を注ぐ場面を見つけた。
僕は神官王様にこのことを伝えると既に"世界神"に緊急招集を掛けたことを知り、僕たち
サハラ砂漠に行くまでに時間が掛かり、歪みが出現した場所には誰一人おらず、足跡すらなかった。
僕たちはフードの男の"気"を探るが感じ取れなかった。
「とりあえず神官王様には報告しておくよ。八重さんはそのままフードの男を探してくれ」
「分かったわ」
僕は八重さんに指示を出して杖で神官王様に連絡する。
「神官王様、今よろしいでしょうか?」
画面には神官王様が写っており、少し揺れていることから移動中と判断する。
『はい、こちらは既に緊急招集は解散しておりますので大丈夫です』
僕の予想は合っていたようで、神官王様は笑顔でそう言う。
「今現場にいますがフードの男は何処にもいません。"気"を探ってはいますが感じ取ることができません。どこかへ移動したと思われます」
『そうですか……では何かありましたらまた報告をお願いします。"世界神"たちにはフードの男を詮索しておりますので仕事は"神界"に戻ってからで大丈夫です』
「分かりました」
そう言って僕は通信を切ろうとするが、神官王様は何かを思い出したような表情を浮かべる。
『不運でしたね。八重さんとデート中なのに』
「なっ!?」
まさか神官王様までからかってくるとは思わなかった。
「し、神官王様までからかわないでください! とにかくこの件はもう少し調べますので待っていてください!」
そう言って僕は神官王様の返事を聞かずに通信を切き、しばらくして溜息を吐いた。
「全く……デートじゃないのに」
僕は呟きながら杖を仕舞って八重さんを見る。すると八重さんの頬は赤く染まっており、僕の目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らす。
「ん? どうしましたか?」
「……なんでもない。気にしないで」
どこか不機嫌さも感じ取れるが、どうして彼女が恥ずかしそうにしているのかが分からない。
「でも顔が赤いですよ? 熱でもあるんじゃないですか?」
少し心配しながら八重さんの額に自分の額を当てて体温を確かめる。すると彼女の顔が真っ赤になる。
八重さんが急に僕の顔を両手で押して離れようとする。
「りょ、亮ちゃん!? だ、大丈夫だよ! だからそんなに心配しなくていいよ」
「えっ、は、はあ……そうですか? 八重さんがそう言うなら……」
本当に大丈夫じゃないかと心配するが、本人が大丈夫だと言うのなら問題無いのだろう。
「そ、それより亮ちゃん。この世界を調べたけどフードを被った男はもういないよ。多分何処かの世界に移動したと思うけど、まだ調べる?」
八重さんは杖の先端にある球体を見ながら教えてくれた。
「そっか……じゃあ僕たちはミッドガルに戻りましょう。まだ時間もありますので学園祭を楽しみますか?」
「ホント! じゃあ早く行こうよ! "神界"に行く前に亮ちゃんのクラスに行ってみたい」
何故か上機嫌になって僕の腕を引っ張る八重さん。そんなに学園祭を楽しみにしていたのだろうと伝わってくる。
「分かりました。ですが八重さん? クラスメイトの前で彼女なんて冗談を言わないでくださいね?」
「ええ〜、それじゃあ面白くないよ。ここは彼女ってことにした方がいいと思うよ?」
「なんでですか? 僕たちは親友なんですから彼女じゃありませんよ」
「えっ? 親友?」
僕が親友と口にすると八重さんが何故か驚く。
「……友達じゃなくて?」
「ええ、そうですよ。僕たち親友じゃないですか? どうしました?」
「……そっか、親友か……」
何処か嬉しそうに微笑む八重さん。彼女が嬉しがることを言った覚えがないが、僕はミッドガルに戻るために彼女の手を握ろうとすると、イリスさんとフィリルさん、レンちゃんの"気"が小さくなるのを感じた。
「「っ!?」」
八重さんも気付き、さらに得体の知れない生き物の"気"がどんどん大きくなるのを感じ取る。
「何が起こっているだ?」
僕は何が起こっているのかが分からず、杖を再び取り出してミッドガルを映し出す。
そこにはイリスさんたちが動く巨樹に
この巨樹はグリーン・ドラゴン———緑のユグドラシルだ。
「ユグドラシルっ!? なんでミッドガルに……」
一瞬
学園祭二日目、悠はユグドラシルに左腕を乗っ取られ、リーザさんを殺しかけた。そこに現れたシャルロット学園長が悠の左腕を支配してユグドラシルは逃走する。
偶然居合わせたイリスさんたちは
僕はそのことを今思い出し、少し焦り始めていた。
「亮ちゃんやばいよ。彼女たちの"気"がどんどん減ってるわ。早く行かないと」
「そうだな、すぐに行こう!」
僕は杖を仕舞い、八重さんと共に"気"を上げて体を浮かせ、ミッドガルへと向かう。
「おいおい……ピラミッドが……」
その数秒後、緊急招集の件を伝えるために村の近くにやって来た第一世界の"世界神"義晴。
「こんなに派手にやるとは……、この世界のドラゴンは想像以上にやるな……」
辺りを見回すと、民家やピラミッドがボロボロに破壊されていた。
一ヶ月前にサハラ砂漠をテリトリーにしていた"赤"のバジリスクが破壊した後だった。
「今はそれどころじゃないな。えっと、亮と八重はこの辺りにいると聞いたがいないな」
義晴は亮と八重の"気"を探り、二人はミッドガルに向かっているのを感じ取った。
「亮たちはミッドガルに向かっているのか。招集の件を伝えたいところだが……ぐっ!?」
義晴が言い終わる直前に背後から針のような物で刺された。痛みはないが、油断しておりまともに食らってしまったようだ。
「な、なんだ……目の前がクラクラして……」
針には
すると背後からフードを被った男が現れ、ポケットの中から
「うっ!?」
義晴はそのまま倒れてしまい、意識を失った。フードを被った男は義晴に気付かれないように"気"を完全に消しており、無音の吹き矢で彼を狙ったのだ。
「"世界神"といっても所詮はこの程度とは……」
男は更にポケットの中から奇妙な道具を取り出す。
手にしているのは"神界"の神々しか使うことが許されている"神器"。彼が手にしているのは生き物を自分の意のままに洗脳して操る"神器"だ。
「"神器"よ……起動せよ」
男が手にした"神器"から赤いの煙が飛び出し、義晴の体を包み込む。
「……この計画に奴は邪魔だ。アイツを倒してこい」
フードを被った男はそう言ってその場を去っていく。義晴を包み込んでいた煙は徐々に消えていき、義晴はゆっくり体を動かして立ち上がる。
義晴の目は赤くなっており、"神器"の影響によりフードを被った男に洗脳されてしまった。
「…………」
義晴は"気"を上げてミッドガルの方向へ向かう。目的はただ一つ、フードの男が最も憎む相手を殺すため。
◇
僕と八重さんはミッドガルへと戻っていた。
ミッドガルに"緑"のユグドラシルが現れ、被害を大きくなるのを防ぐため、"世界神"
(悠達なら
一ヶ月前、エルリア公国に突如現れた"黄"のフレスベルグ。僕たちと交戦していたフレスベルグだが、突然発生した"空間の歪み"により、フレスベルグはパワーアップしてしまった。
もしユグドラシルが"歪み"に触れれば、悠たちに勝ち目はなくなる。
そうなるのを防ぐため、僕達はミッドガルへと急いでいたが、ある違和感を感じていた。
どんなに急いでも目的地にたどり着けない。まるで
「亮ちゃん……」
「ああ、分かっている」
八重さんも違和感に気付いたようだ。僕達は動きを止め、周りを見回す。
目に映るのは変わらない風景。海も空も何一つ変わらない青く輝く風景。
しかし亮と八重には分かっていた。いや、感じ取っていた。
何処の誰かも分からない敵からの視線とその気配。"世界神"に戦いを挑む
僕は超サイヤ人ゴッドに変身し、八重さんは"神の気"を発する。
どこから仕掛けてくるかも分からない敵。
この状態で姿を見せる敵はまずいない。しかし僕達の前に姿を現わす敵、そこには思いもよらない"世界神"が現れる。
「…………」
第一世界の"世界神"、河本義晴。"世界神"という役職では同期であり、僕と同じ第一世界出身である。
いつもと変わらない義晴、しかし彼から放つ"気"はとても異常であった。
"神の気"の中でもとても荒れている力。たとえその力を隠しても"世界神"なら
恐らく誰かに操られているのだろう、何者の仕業かは分からない。しかしこれだけは分かる。
"世界神"でも操ることができるのは"神器"だけ。そしてこの異次元空間を作り出せるのも"神器"である。
(八重さん、僕がアイツの相手をします。義晴の
(分かったわ)
小声で僕は八重さんに指示を出す。義晴は無表情のまま構える。
僕は八重の前に出ていつでも攻撃できるように拳を突き出す。
いつ始まるか分からない間。先に仕掛けてきたのは義晴であった。
「っ!?」
やはり戦闘スタイルは同じであった。彼の強みは強靭な足腰から放つ攻撃。
彼は「ONE PIECE」に出てくる海賊たちの技、"覇気"、"六式"。そしてドラゴンボール超のバジルの技。
「
鋭い蹴りで手裏剣状の"飛ぶ斬撃"を繰り出す。
「ギャリック砲!」
ベジータの技で迎え撃ち、義晴の放った"飛ぶ斬撃"を破壊する。
この攻撃だけでも"世界神"なら隙が出る。しかし八重さんは透明の気弾を放たない。
義晴を見ると明らかに八重さんを警戒している。やはり僕の方に注意を向けないといけない。
僕は義晴の
僕は拳、義晴は脚を交えて戦う。接近戦で挑んだため、八重さんは僕に当てないように隙を伺っているのだろう。
「……シャイニングブラスター」
対する義晴も強さは変わっていなかった。脚から気弾を放つ。
「くっ!?」
バジルが使う技を放ったことで、僕の顔に直撃する。その攻撃により、頭から血が出るのが分かる。
それでも僕は義晴の隙を突くために攻撃を喰らっても気にせず拳を振るい続ける。
"世界神"同士の戦闘は宇宙を破壊する程に及ぶビックバンそのもの。
"神器"によって作り出されたこの空間でも一分でさえもたない。
一刻も早くこの戦闘を終わらせる必要がある。
僕は義晴に隙を作らせるため、人体の急所を狙いつつも威力を弱める。
義晴は僕の攻撃を全て受け止めるが、どう見ても僕が優勢に立っていた。
すると義晴は右手で"気"を練って巨大な金棒を生成し、僕に向かって振りかざす。
「……
「ぐはっ!?」
義晴は"四皇カイドウ"が使う技で強烈な一撃を与え、僕は吹っ飛ばされないように踏ん張る。
この技は"ルフィ"の"ギア4"の状態でも瀕死になるほどのダメージを与える技で、他の"世界神"でも重傷を負うほどの力を持っている。
まともに受けたため、全身から血が出てきた。
「柳モチ」
義晴は"気"を練って、何本もの左足を僕の頭上に掲げる。この技は"三将星カタクリ"が使う技の一つ。
(八重さん、サングラスを準備して)
(分かったわ)
僕は八重さんに念話を送ってから、両手を広げて頭の横に揃える。
「太陽拳!」
全身の気を発し、目くらましさせる。この技は天津飯、悟空、クリリンが使用した簡単な技。攻撃力は無いが、相手に隙を突かせることができる。
そのおかげで義晴は両手で目を覆う。その間に八重さんはサングラスをして、先ほどから準備していた透明の気弾を義晴の心臓近くに打ち込んだ。しかし———。
「なっ!?」
義晴は目が見えないにも関わらず、八重さんの放った攻撃をかわした。どうやら、"見聞色の覇気"で攻撃を回避したのだろう。
「
口から熱風を吹き出す義晴。またしてもカイドウの技を使ってきた。八重さんは攻撃を避けるが、義晴の放った熱風は突如として方向を曲げる。
「そんな……」
熱風が向かう方向は先ほどの攻撃を避けた八重さんのいる場所。どうやら、確実にダメージを与えることを考えて放ったのだろう。
僕は
「亮ちゃん!?」
「だ、大丈夫です……それより、早く義晴を———」
「武装」
義晴は僕に接近し、両脚に"武装色の覇気"を
"覇気"を纏うことで攻撃力も上がる。先ほどまで防戦一方であった義晴が徐々に押し始める。
「…………
右脚からなる高熱の蹴り。恐らくこの技で仕留めるつもりだろう。
このままでは僕がやられてしまう。そのため、僕は全身に気のバリアを作り、
義晴の右脚が首、肩、背、鞍下、胸、太ももの順に僕の体を蹴り、全身を
しかし僕は義晴の右脚を掴み、動きを封じ込む。
「はっ!?」
八重さんは僕が作った隙を突いて、義晴に向けて人体にだけ影響を与える気弾を放つ。
義晴は八重さんの攻撃を喰らい、僕はその隙に杖から"神器"を取り出す。
その"神器"は相手を眠らせる機能を持ち、操られた神を正気に戻すことができる。
僕は"神器"のボタンを押し、義晴に近づける。
すると"神器"から放たれる超音波により、義晴から異常な気が消えていく。
義晴はその場で気を失い、倒れそうになった体を支える。その瞬間、僕たちの周りを覆っていた空間も一瞬にして消えていく。
体中から痛みを感じ、全身がボロボロの状態。骨折していないのが奇跡だ。
意識はもうろうとしているが、それでもなんとか動ける。
八重さんは僕たちに近づき、義晴の肩を持つ。
「亮ちゃんは先に行って。義晴くんのことは私に任せて」
「ありがとう」
八重さんの言葉に甘え、僕は治療せずにユグドラシルと交戦しているクラスメイトたちの元へと向かう。