ファフニール VS 神   作:サラザール

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今、名探偵コナンをYouTubeで見てます。最終回っていつになるのでしょう……。


エメラルド・テンペスト
それぞれの思い


「ねえ、ジャンヌちゃん、面白いことを教えてあげましょうか?」

 

 ドイツ、フランクフルトにある空港近くのホテル。

 

 その一室のベッドに寝転んでテレビを眺めていたキーリ・スルト・ムスペルヘイムは、バスルームから出て来たジャンヌ・オルテンシアに話しかけた。

 

「結構だ。貴様にとって面白いことは、オレにとっては大体が不快な事柄だからな」

 

 ジャンヌは、()れた髪をタオルで拭きながら答える。

 

「そう? 悠に関することなんだけど」

 

「何だと? 隊長に何かあったのか!?」

 

 キーリの言葉にジャンヌは顔色を変える。

 

「あら、やっぱり聞きたい? 悠のことになると食い付きがいいわね」

 

「ぐっ……」

 

 キーリはからかうように微笑(ほほえ)むと、ジャンヌはバツが悪そうに視線を()らす。

 

「いいわよ、教えてあげるわ。実はね……さっきのニュースで、ミッドガルにユグドラシルが現れたって言ってたの」

 

 にやにやしながらキーリは言う。

 

「な———ユグドラシルが? 隊長はどうなった!?」

 

「さあ、そこまでは分からないわ。けどユグドラシルはすぐに撃退されたらしいから、大丈夫なんじゃない? 本当に悠のことになった途端に、ジャンヌちゃんは可愛くなるんだから」

 

「っ……う、うるさい!」

 

 顔を赤くし、それをタオルで隠すジャンヌ。

 

 その様子を見てキーリは楽しそうに笑う。

 

「あとね、面白いことはもう一つあるのよ。ジャンヌちゃん、テレビを見て。まだニュースは続いているわ」

 

 ジャンヌは(うなが)しつつ、キーリはテレビの音量を上げた。

 

「これは———」

 

 テレビへ視線を向けたジャンヌは、言葉を失った。

 

『日本の富士山麓(ふじさんろく)に突如として出現した巨大樹———それに(ともな)い、周辺十数キロでは原因不明の電波障害が発生しており———』

 

 テレビ画面には、スケールが把握できないほどに巨大な木が映し出されていた。同じ画面に映っている富士の山よりも高く、天辺(てっぺん)は雲に隠れて見えない。

 

「日本にこんなものが……?」

 

「ええ、そうよ。ジャンヌちゃんは、この前ユグドラシルと一緒に消滅したヘカトンケイルが、どこから現れたか(おぼ)えてる?」

 

 キーリは笑みを浮かべながら問いかける。

 

「確か、基地で見た資料だと———再出現が確認されたのは日本(・・)だったような……」

 

「正解。面白い符合よね。たぶん……あのとてつもなく大きな木こそが、ユグドラシルの本体(・・)だと思うわ」

 

 そう言ってキーリはテレビ画面を指差した。

 

「どうしてそんなことが分かる?」

 

「———あなたより多くのことを知っている私には、あなたに分からないことが分かるのよ」

 

 キーリは曖昧(あいまい)な言葉でジャンヌを煙に巻き、目を細める。

 

「恐らく彼も知っているかもしれないわ」

 

「彼もだと? ……まさかアイツのことか?」

 

 ジャンヌはある男を思い浮かべる。それは五年前、ドラゴンをたった一人で圧倒した不思議な力を持った男。

 

「ええ、大島亮のことよ。もしかしたらだけどね。けど、彼ならユグドラシルのことも知ってるかもね」

 

「ふん、ますます野放しにはできないな。貴様もその男も」

 

 ジャンヌは大島亮を警戒し、一切信用していない。

 

「ジャンヌちゃん、次の目的地は日本よ」

 

「ん、日本……」

 

 ジャンヌはテレビ画面を見ながら呟いた。

 

「そう———ヴリトラが現れた地であり、私と悠(・・・)にとって(・・・・)()特別(・・)()場所(・・)。それにニブルの基地で見つけたフレイズマルのデータにも、この国を経由した記録が残されていた。きっと、これから"何か"がこの国で起きるわ」

 

 キーリは硬い表情で答えると、リモコンを操作してテレビを消す。そして渇望(かつぼう)(にじ)ませながら、(ささや)くように言葉を続けた。

 

「私はその場に居合わせなくちゃいけないの。彼とつり合う存在に———なるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第四世界のある森の中。フードを被った男は、杖の先端にある丸い球体に映し出された映像を見ていた。

 

「…………」

 

 フードの男は、ある三神(さんにん)の戦いを見ていた。

 

 それは第十二世界の上空での戦い。第一世界の"世界神"と第十二世界の"世界神"、そして第七世界の"世界神"が戦闘を繰り広げていた。

 

「やはり、"世界神"二神(ふたり)を相手にするのは無理があったか」

 

 彼は三神(さんにん)の戦闘が終わるのを見届けると、顔を上に向けてふぅと息を吐き出す。

 

「まあ、"世界神"を操っただけで倒せる訳ではないことは最初から分かってはいたが、隙を付けば私の手で倒すことはできる」

 

 フードの男はそう(つぶや)くと、映像を消して球体を操作する。

 

 彼は十二ある世界のうち、文明レベルが上位に上がっている第三世界を選び、映像を映し出す。

 

 球体には、文明が発達して大都会となった街が映し出された。その近くにある路地裏の奥に、ある紫色の歪みを見つける。

 

「ここにもあったか……空間の歪みが」

 

 空間の歪み。全世界に起こる自然現象であり、"世界神"が仕事で浄化(じょうか)しなければならない。

 

 "世界神"しかできない仕事である。しかし、それは立場上の話。神だけが発する気を(そそ)ぐことで中和(ちゅうわ)され、現象を無くすことができる。

 

 そのため、自然の神々でもやろうと思えばできる。

 

「全世界に必ず起きる自然現象……美しい世界を守るためには必要な仕事ということか」

 

 そしてフードの男も、神の気(・・・)()扱える(・・・)存在。

 

 彼に(まつ)わることがあるとすれば……かつて神々の世界で、"世界神"になれ(・・)なかった(・・・・)人間(・・)

 

 いや、元人間と言うべきかもしれない。人間をやめ、神になれなかったフードの男。

 

 そんな彼は今、ある野望のために動いている。

 

「……神は一神(ひとり)で十分だ。自然の神々と"世界神"を倒した後は、"絶対神"ゴッド……いや、全王を殺す」

 

 フードの男は(つぶや)きながら、球体に向けて手を(かざ)す。

 

 手のひらから出てくる紫色の波動。気配に敏感(びんかん)な生物でも感じ取ることができない力。

 

 禍々(まがまが)しい邪気が込められているが、体の内側にのみ増幅(ぞうふく)されたクリアで質が高い力、これこそが"神の気"である。

 

 神の領域に達しているものしか感じ取ることができない力。"神界"の神々たちはその力を操り、感じ取ることができる。

 

 フードの男から放たれた神の気は、球体に映し出された映像を超え、路地裏にある空間の歪みに達する。

 

 神の気に触れた瞬間、歪みは消えていき、数秒後には無へと変える。

 

「これで歪みが消えたか。デスクで仕事をしている"世界神"たちも、もうすぐ気付くはずだ……ん?」

 

 彼はこの世界の遠くから、"世界神"の気を感じ取った。その"世界神"はフードの男がいる森へと近づいてくる。

 

「この世界を管理するエドワード・タッチか。ここで戦うのは避けるとしよう」

 

 第四世界の"世界神"エドワード・タッチが仕事でやって来たのを知り、この森から逃げる準備をする。

 

「……私こそが神に相応しいのだ。今は"神界"の神どもから逃げるか」

 

 フードの男は杖を(ふところ)に仕舞うと、舞空術(ぶくうじゅつ)で体を浮かせる。

 

 そして彼は怒りを(あら)にしてその場を後にする。

 

「……必ず奴に復讐する。あのサイヤ人(・・・・)もどき(・・・)め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女は、多くのことを知っていた。

 

 普通なら掛け算や割り算を習う程度の年齢で少女が遊んでいた(・・・・・)のは、大人でも解くのが難しい複雑な照明問題。

 

 少女は同年代の子供が知らないようなことを、たくさん、たくさん、その小さな頭に詰め込んでいた。

 

 いつもの数学定理、学術書や図鑑から得た知識、機械と対話するための言語(スクリプト)———数え上げれば切りがない。

 

 しかし少女が本当に解き明かしたいと願っている問いの答えだけは、いつになっても見つからないままだった。

 

 そして今日も少女は、白く大きな背中をじっと見上げる。

 

 白衣を着た少女の父は、ずっとある研究に没頭していた。

 

 ヨーロッパにあるイタリアの街に現れた"青"のヘカトンケイルを一撃で仕留めた少年。

 

 "D"にはない不思議な力でドラゴンの一体を撃破し、それを聞いた少女の父は彼が使用した能力を研究しており、少女に背中を向けていた。

 

 何の研究をしているか分かっていない少女は、彼を振り向かせる方法を考えていた。

 

 お父さん———と、呼びかける少女。

 

 しかし彼は振り向かない。椅子に座り、無言でパソコンのモニタを見つめている。

 

 それでも少女は諦めず、何度も何度も彼を呼ぶ。

 

 おとう———。

 

「うるさい。少し静かにしてくれ」

 

 だが、返ってきたのは彼の冷たい言葉。

 

 振り返らないまま、彼は少女を叱る。

 

 少女はぴくりと身を(すく)め、声を喉の奥に()()んだ。

 

 静まり返った部屋に響くのは、彼がキーボードを叩く音だけ。偶に言葉を発するとすれば、「例の少年は一体どんな能力なんだ?」と口にするだけ。

 

 下唇を()み、泣きそうになるのを(こら)える少女。

 

 そうして少女は、いつものように学術書を手に取り、研究室の隅で読み始める。

 

 けれど、開かれた本のページにポタポタと涙が滴り落ちた。

 

 分からない。

 

 どうすれば彼が振り向いてくれるのか。

 

 そんな日々が振り返され、いつしか少女は言葉を口にするのを止めた。

 

 それは、ただ父を不快にするだけのものだったから。

 

 二人でいるのに、孤独を感じる毎日。

 

 だがある時———突然二つの出来事が起きた。

 

 一つは少女が父の目を盗んで外の世界に飛び出した日のこと。

 

 行く当てのない少女に優しく声かけてくれた少年。彼は少女を連れて公園や街を周り、夕方になるまで遊んでくれた。

 

 少女にとって特別な一日であり、数年ぶりに味わった楽しさと喜びの感情。

 

 彼は少女を無事に家まで送り、去り際にこう名乗った。

 

「僕はせかいしん(・・・・・)だよ」

 

 そう言って彼は少女の頭を撫で、その場から去っていく。

 

 ———せかいしん?

 

 少女にとって知らない言葉、意味が分からなかった。

 

 けれど彼から感じた温かい手の感触と優しい言葉。まるで"兄"のようだった。

 

 戻ってきた少女は、いつもと変わらない父の姿を見る。外の世界に行っていたことに気付いていない様子だった。

 

 また外に出れば彼と遊んでくれると楽しみにしていたが、その日以降会うことはなかった。

 

 もう一つの出来事は、彼と別れた次の日のこと、少女に"姉"ができた。

 

 どことなくボーイッシュな印象の少女。まるで昨日知り合った少年のような優しさを持っていた。

 

 昨日のことを思い出す少女に、ボーイッシュな少女は快活な笑みを浮かべて挨拶をする。

 

「ボクはアリエラ・ルー。今日からよろしくね、レン」

 




どんな理由があっても、殺しはいけないですね。

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