ファフニール VS 神   作:サラザール

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大きな欠点

「———到着早々、慌ただしくなってしまったね。けれど侵入者が"ムスペルの子ら"のキーリだったとは……会えなかったのがとても残念だ」

 

 宮沢(みやざわ)健也(けんや)は本当に惜しいことをしたという表情で呟く。

 

 場所は食堂と同じ階にある会議室。

 

 キーリたちが姿を消した直後にやってきた彼は、突然の事態に戸惑う僕たちをここへ連れて来たのだ。

 

「キーリに……会いたかったんですか? 災害指定された危険人物なんですよ?」

 

 悠は宮沢健也の言葉に驚き、問いかけた。

 

「彼女は現状で唯一、生体変換を可能とする"D"だと聞いている。研究対象として極めて興味深い」

 

 語気を強めて彼は力説する。アリエラさんはそんな彼に冷めた眼差しを向けつつ、悠に話しかける。

 

「物部クン、その人は研究以外のことに興味がないんだよ」

 

「……みたいだな」

 

 悠は彼とは価値観が違うことに溜息(ためいき)を吐き、レンちゃんは彼から顔を背けて無言で窓の外を眺めていた。

 

 宮沢健也のことを知っている僕は本当にレンちゃんの父親なのかと疑問を抱く。

 

「キーリのデータを得られなかった惜しいが———今は気持ちを切り替えよう。さあ、私の考えたユグドラシル討伐プランの説明を聞いてくれ」

 

 改まった様子で宮沢健也は本題に入る。

 

 手元のノートPCを操作すると部屋が暗くなり、天井から白いスクリーンが降りてくる。

 

 そしてそこに、巨大な木の映像が映し出された。

 

「これが富士の樹海に出現した、ユグドラシルの映像だ。ドイツとデンマークの国境付近をテリトリーとしていた時に比べ、大きさはおよそ二十倍。現在は高さ五千メートルに達しており、なおも成長を続けている」

 

「五千メートル……」

 

 悠はあまりの大きさに驚く。

 

「ユグドラシルの出現場所と、急激な成長の理由に対する私なりの見解はあるが……それはひとまず置いておこう。問題は、ユグドラシルがどういう存在なのかということだ」

 

 彼はそう言うと、スクリーンの映像を切り替えた。

 

「突然ユグドラシルがミッドガルに出現したのは、君たちにとって大きな災難だっただろう。しかしおかげで多くの価値あるデータを得ることができた。ユグドラシルが電気的干渉の応用によって上位元素(ダークマター)にハッキングを行ったことは、新たな発見の一つだ。そしてさらに、優秀なドラゴン研究者でもあるシャルロット学園長からは、とても興味深い"仮説"を提示していただいた」

 

 少し含みのある言い方で彼は言う。

 

 学園長が提示した仮説というのは、支配の力によって彼女が感覚的に把握した"ユグドラシルの本質"に関することだろう。

 

 原作でも知られていないが、恐らく彼も学園長の正体を知る一人なのだろう。学園長が特殊な能力を有していることを知る者でなければ、彼女の仮説は根拠が全くないものになってしまう。

 

「その仮説を検証し、裏付けを行い、ユグドラシルという存在の全貌が浮かび上がった。あれは……地球上に存在する全植物の中枢意識だ」

 

「中枢意識?」

 

 耳慣れぬ言葉に悠は眉を寄せた。

 

「例えるなら、ユグドラシルは植物同士のネットワークによって構築される生体コンピューター……そのO(オペレーション)S(システム)と言えるかもしれない。ユグドラシルから周辺の植物へと微弱な電気信号が発信されていることを、私たちは観測している」

 

 彼の言葉に僕たちは顔を見合わせる。イリスさんとティアちゃんは意味がよく分からなかったようで、きょとんと首を(かし)げていた。

 

「お前の言った通りだったな」

 

「少しだけだがな」

 

 僕の隣にいた悠が小声で呟いた。

 

 ユグドラシルとヘカトンケイルが同時消滅したことを聞いた後、悠とイリスさん、リーザさんに宮沢健也と似た仮説を話した。あの時のことを覚えていたようだ。

 

 他の皆は大体のイメージを把握したようだったが、篠宮先生はいまいち納得できないという様子で彼に質問した。

 

「植物のコンピューター……それでは植物そのものがドラゴンということになりますが———しかし、ミッドガルにも植物はあります。ユグドラシルに敵意があるのなら、もっと早く何らかの行動に出ていてもいいのでは?」

 

 すると彼はいい質問だというように、得々と説明を始めた。

 

「そう単純な話でもないのさ。観測の結果、周辺植物の間で高度な情報処理が行われている形跡はないんだ。そのことから考えて、情報処理能力を有するのはあの巨大な———ユグドラシルと呼ばれている大樹だけなんだろう。あれは言わばCPUであり、ユグドラシルの本体。他の植物は外部メモリのようなもの。ゆえに意思を持って行動できるのは、あくまで本体だけだと推察できる」

 

 それを聞いたイリスさんは、身を乗り出して発言する。

 

「じゃあ、あの本体を倒しちゃえばいいんだよね!?」

 

 たぶん悠の事情を知っているがゆえに、気が()いているのだろう。

 

 だが彼は首を横に振った。

 

「いや、ドイツ・デンマークの国境でユグドラシルはヘカトンケイルと共に消滅したが———その後、知っての通りミッドガルに現れた。それを倒した後も、こうして日本に出現している。本体を破壊するだけでは解決にならない」

 

「た、確かに……」

 

 イリスさんは語気を弱め、もどかしそうに唇を()む。

 

「恐らくユグドラシルの意識は植物が形成するネットワーク上にあり、CPU(本体)を破壊してもまた別の植物が新たなCPUとなるだけなのだろう。成長し、発達したCPUを破壊することで、ユグドラシルの性能を()ぐことはできるはずだが……その効果は一時的なものだと考えられる」

 

「で、でしたら植物を根絶しない限り、ユグドラシルは倒せないということになるじゃありませんか!」

 

 顔を蒼白(そうはく)にし、声を上擦らせるリーザさん。彼女も事情を知っているため、少し感情的になっている。

 

「確かに、ユグドラシルを根本から滅ぼそうとするならそれ以外に方法はない。だがそんなことは不可能に近いし、できたとしても植物が絶えた世界で人間は生きていけないだろう」

 

 宮沢健也は声のトーンを変えず、淡々と絶望的な推測を語った。

 

「けれど———あなたには、何か考えがあるんだよね?」

 

 冷静に話を聞いていたフィリルさんが、彼へ真剣な声で問いかける。

 

「ああ、もちろん。だからこそ、私は物部悠と大島亮の出向を依頼したんだよ」

 

 彼は僕と悠に視線を向け、薄く笑った。

 

「僕たちに何かできることがあるんですか?」

 

 彼の作戦を知っているが、一応聞いてみた。

 

「ある。今のところ物部君にしか再現できないフレスベルグの能力———"霊顕粒子(エーテルウインド)"と大島君にしかできない"気"という力が、ユグドラシル打倒の鍵になると、私は考えているのだ」

 

「何故、"霊顕粒子"と亮の力が……」

 

 悠は理解できずに問い返すと、彼はスクリーンの表示を切り替えた。

 

 わずかな暗転の後、フレスベルグ戦の画像が映し出される。金色の粒子を(まと)うフレスベルグと、それを気功波と対竜兵装で撃ち落とそうとする僕たちの姿……近くに人の気配があることに気付いてはいたが、まさかあの戦いを詳細に記録していたとは思わなかった。

 

「精神と肉体———この二つが健全な状態を保っていなければ、生物は正常に活動できない。ユグドラシルの肉体を滅ぼすことが不可能なら、精神の方を破壊すればいい。二人の"霊顕粒子"とフレスベルグの纏う"魂の衣"を撃ち抜いた兵器と力があれば、それは可能だ」

 

 画像にある悠の対竜兵装と僕の気功波を示し、はっきりと断言する宮沢健也。

 

 篠宮先生は彼の言いたいことに気付いた様子で眉を動かし、彼に先を促す。

 

「宮沢所長、詳しく説明してもらえますか?」

 

「———まあ、難しいことじゃないんだ。作戦自体はとても単純だよ。まずユグドラシルの本体を半壊させた後、"霊顕粒子"を散布。その後ユグドラシルの精神———魂が具現化したならば、フレスベルグを倒した兵器と"気"で奴の魂を物理的(・・・)()破壊(・・)する(・・)。ただ、それだけさ」

 

 彼の説明を聞き、皆は息を呑んだ。

 

 原作を知っているため、大体の作戦は分かっていた。

 

 本体をいくら変えられるのなら、形のないユグドラシルの意識そのものを破壊すればいい。作戦の方向性は間違っていないが、僕はそれだけで倒せないことは分かっている。

 

「本当に……それで上手くいくのでしょうか? 兄さんの上位元素生成量では、十分な"霊顕粒子"を散布できないのでは……」

 

 僕たちに視線を向けた深月さんに、悠は苦笑いを返した。

 

「確かに———俺の生成量は少なすぎるからな」

 

 普通の"D"が一度に生成できる上位元素は最低でも十トンだが、悠は約十キロしかできない。

 

 けれどそうした疑問の声を聞いても宮沢健也は動じず、にこやかに口を開いた。

 

「皆の不安はもっともだ。だからこの作戦が実行可能か検討するためにも、まずは詳しいデータを取らせてもらいたい。できれば今すぐに」

 

 期待の籠った眼差しを彼は僕と悠に向ける。作戦のためというよりも、研究者としての興味と好奇心を強く感じた。

 

 しかし悠たちからすれば急ぐことに異存はないだろう。ユグドラシルが今でも成長し続けているのなら早く討伐するべきだと考えるからだ。

 

「いいんじゃないか? 悠もそう思うだろ?」

 

「ま、まあな」

 

「おお、ありがとう。できればティア君、深月君、イリス君も協力をお願いしたい。今回の作戦に直接関係はないが、君たちが有する特異性が突破口になる可能性もあるからね」

 

 彼は僕たちに礼を言い、ティアちゃんたちにも協力を求めた。

 

「ティアはユウたちに付いて行くの!」

 

「あたしもモノノベが行くなら……」

 

 ティアちゃんとイリスさんは承諾するが、深月さんは篠宮先生の方を見て訊ねる。

 

「篠宮先生、どうしましょうか?」

 

「———生徒の心身に負担が掛かるような検査でなければ許可しましょう。もし妙な実験を行おうとすれば、即座に止めていただきます」

 

 篠宮先生は彼に強い口調で告げた。

 

「分かっているさ。彼らの生成した物質の検査と、口頭での質問をさせてもらえば十分だ。薬物は一切使用しないし、体にも指一本触れないことを約束しよう」

 

 彼は軽い口調で請け合って、席を立つ。

 

「では、私に付いてきてくれ。研究区画にある検査室へ案内する」

 

 だが部屋を出ようとする彼に、リーザさんが声を掛けた。

 

「あの、わたくしたちはどうすればいいのでしょう?」

 

 先ほど名前を呼ばれなかったリーザさん、フィリルさん、アリエラさん、レンちゃん。

 

 彼は彼女たちを見回して、「ああ———」と興味なさげに呟く。

 

「君たちのデータは特に必要ないから、部屋に戻ってくれて構わないよ」

 

「っ……」

 

 その返事を聞いて、アリエラさんが奥歯を()()めた。レンちゃんは何の反応も見せず、下を向いている。

 

 今の言葉で彼女たちが傷ついたことは理解した。やはりこの男は実の娘に対しても興味がないようだ。

 

 分かってはいたが、僕は今の言葉で彼を殴ろうとしたが、流石に暴力は良くないと思い留まる。

 

 その代わり、僕や他の皆は責めるように彼を睨む。

 

「……? 何だい?」

 

 だが、彼はどこ吹く風だ。自分の言葉がアリエラさんたちを傷つけた自覚もないのだろう。

 

「———じゃあ、私たちは先に戻ってるね。皆、行こ?」

 

 フィリルさんが場を取り成すように口を開き、リーザさんはアリエラさんを(なだ)めるように肩へ手を置いた。

 

 そうしてリーザさんたちが静かに会議室を出て行った後、僕たちは宮沢健也に先導されて研究区画へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———後はボクたちで頑張ってくれ、か。彼はやっぱり何も変わってないね。ユグドラシルのことなんて、本当はどうでもいいんだよ」

 

 深月さんから検査室での話を聞いたアリエラさんが吐き捨てるように呟く。

 

「……ん」

 

 レンちゃんも同意するように頷いた。

 

 検査室へ向かった僕たちは悠、深月さん、イリスさん、ティアちゃん、僕の順番で検査を受けた。

 

 宮沢(みやざわ)健也(けんや)は悠の生成した"霊顕粒子(エーテルウインド)"を間近に見たことに感動していた。

 

 あの表情を見ると本当に研究にしか興味がないことが伝わった。

 

 深月さんの反物質の検査に協力したが、イリスさんは"終末時間(カタストロフ)"の試行を断った。

 

 ミッドガルでユグドラシルと戦ってから一度も使ってないようで、学園長から危険だから勝手に使わないように言われたようだ。

 

 宮沢健也は残念がっていたが、こればかりは仕方なかった。そして意外なことに彼が最も時間を割いたのはティアちゃんへの問診だった。

 

 ティアちゃんは彼の質問に全て答え、悠たちは彼女の角に少し知った。

 

 なんでも彼女たちがドラゴンになるためにキーリから与えられたこと。そしてこの角は何かと戦うために必要なものだということ。

 

 ティアちゃんがバジリスクに見初められると"もうその角はいらないわね"と言ってこれ以上のことは教えてくれなかったようだ。

 

 ちなみに僕はその角が何のために重要なものなのかは知っていたが、いずれ皆が知ることになるため、言わなかった。

 

 宮沢健也は彼女が普通の"D"であることに落胆していたが、順番が僕に回ってくると、最後に残していたデザートを食べるかのような表情で検査をした。

 

 僕が"気"を試行すると、彼は悠が使った"霊顕粒子"以上に感動して、色んな質問をしてきた。

 

 彼は超サイヤ人になってほしい頼まれたが、力が強すぎて周りに被害が出ると断った。

 

 彼は当然残念がっていたが、一時間で検査は終了した。

 

 想定していたより早く終わり、彼は研究結果を(まと)めながら結果を口にした。

 

 どうやら彼が考えた作戦をそのまま実行するのは不可能というのが答えだった。

 

 検査をして、"霊顕粒子"によって具現化した魂のサイズは、肉体の大きさに比例するようで、一度に生成する量が少ない悠では足りないとのことだった。

 

 しかし希望はあった。"D"は上位元素(ダークマター)を貸し借りすることで足りない量を補うことにし、リーザさんたちに手伝ってもらうことになった。

 

 検査を終えた彼は"後は君たちで頑張ってくれ"と言って興味が尽きたように部屋を出て行った。

 

 ひょっとしたらユグドラシルのことも僕たちからデータを得る口実程度にしか思っていないのかもしれない。

 

 そして僕たちも部屋を後にして、現在は研究所十八階にある深月さんの部屋で皆と作戦会議が行われていた。

 

「まあ、必要な情報は頂きましたし、ここからは私たちの仕事であることも事実です。なので今はまず、ユグドラシルをどう倒すかを考えましょう」

 

 深月さんは腹を立てているアリエラさんを(なだ)め、テーブルに置いたノートパソコンの画面にユグドラシルの画像を表示させる。

 

 シングルベッドの上に肩を乗せ合って座る皆の視線が、深月さんに集まった。

 

「現状、ユグドラシルを滅ぼすのは限りなく不可能です。なので宮沢所長が提案したように、ユグドラシルの体ではなく精神を破壊して無力化するのが、最も有効な手段と言えます。しかし大きな問題点が二つ———」

 

 深月さんは悠に視線を向け、言葉を続ける。

 

「一つは、兄さんの上位元素(ダークマター)生成量ではユグドラシルの魂を具現化させるに足る"霊顕粒子(エーテルウインド)"を散布できないだろうということ。そしてもう一つは、射程の問題です」

 

「射程?」

 

 悠はどういうことかと眉を寄せる。

 

「ユグドラシル周辺の地域では電子機器の異常が起こっていると聞いています。恐らくユグドラシルが電気的な干渉を行っているのでしょう。ミッドガルでのこのを考えれば、その干渉範囲内では私たちの上位元素もハッキングされてしまう可能性が高いです」

 

「近づけない、ということですのね……」

 

 リーザさんの呟きに、深月さんは頷く。

 

「はい。正確な干渉範囲に関してはデータの提供をお願いするつもりでいますが、テレビの報道などを見る限り、現在の干渉範囲は十五キロ前後と思われます。しかもユグドラシルは成長していますから、その範囲はますます広がっていくでしょう。ですが……」

 

「僕の力ならユグドラシルの干渉を受けることはない、ということか」

 

「ええ、そうなりますね」

 

 僕の"気"はユグドラシルの電気信号に干渉できないため、近距離での攻撃も可能となる。

 

「ユグドラシルは巨大ですし、バジリスク戦時と同様、リーザさんに長距離狙撃してもらう手もあります。最終的にとどめを刺すのは兄さんと亮さんです。亮さんは大丈夫ですが、兄さんは十五キロ以上離れた地点からユグドラシルを狙えますか?」

 

 深月さんに質問された悠は腕を組む。

 

「フレスベルグを倒した"彼岸を貫く方舟(ノア)"は狙撃に適した兵器じゃない。一発の威力は大きくないから、対象を破壊するには大量の弾を叩き込む必要がある。けど十五キロも離れたところから撃っても当てるのは難しいし、威力も落ちるだろう。正直……難しいな」

 

 悠の答えを聞いた深月さんは、口元に手を当てる。

 

「となると……可能な限り近づきたいところですね。電気的な干渉が原因なら何か手を打てるかもしれませんし、宮沢所長にも相談して対策を考えましょう」

 

 すると、そこで篠宮先生が口を開く。

 

「その辺りのことは、私が引き受ける。貸しはあまり作りたくないが、ニブル側にもコンタクトを取ってみよう」

 

「ありがとうございます、篠宮先生。では、私たちはもう一つの問題解決に力を注ぎます」

 

 篠宮先生に礼を言い、深月さんは再び悠に視線を向けた。

 

「兄さん———レンさんに上位元素を借りて、架空武装を構築してみてください」

 

「え……レンに?」

 

 悠は驚き、レンちゃんの方を見た。

 

「っ」

 

 お互いの視線が合うと、レンちゃんはアリエラさんの陰に隠れてしまう。

 

「はい、レンさんの上位元素生成量は私ちの中でも飛び抜けて膨大です。それでもユグドラシルの魂を具現化させるのに足りるかは分かりませんが、"霊顕粒子"散布の補助にはレンさんが適任だと思います」

 

「———というわけだが、今のままじゃ無理だな」

 

 深月さんに続いて僕が言う。

 

「ああ、分かってる。上位元素の受け渡しを練習するしかない」

 

「いや、それ以前の問題だ」

 

「どういうことだ?」

 

 悠は僕の言ったことが分からないようで、首を傾げた。

 

「僕の力や"D"の上位元素は、その人の思念が宿っている。いわば心の欠片(かけら)だ。レンちゃんの上位元素を扱うには、レンちゃん自身を理解しなきゃいけないぞ」

 

「レンのことを理解……」

 

 悠は横にいる赤毛の少女を見下ろす。僕と違って悠は彼女のことをまだよく知らない。

 

「悠とレンちゃんに足りないのは、訓練よりもコミュニケーションだろう。今よりも打ち解けるためにはどこかに遊びに行くのがいいと思う」

 

「けど、いきなり二人きりはハードルが高くないかな?」

 

 僕の言葉にアリエラさんが異議を唱える。

 

「そこは皆で出かけて、その中で可能な限りコミュニケーションを取るのがいいんじゃないか?」

 

「…………ん」

 

 レンちゃんは少し迷うような表情を浮かべるが、首を縦に振る。

 

「それで決まりだな。で、どこか行きたい場所とかあるか?」

 

 僕が(たず)ねるとレンちゃんは個人端末を取り出し、素早く文字を入力する。

 

「ん」

 

 端末を僕たちの方に(かざ)すレンちゃん。

 

 表示されているのは、漢字で三文字。

 

「遊園地?」

 

 悠がその文字を読み上げると、レンちゃんは頬を紅潮させてこくりと頷いた。

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