ファフニール VS 神   作:サラザール

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暴露

 ある程度ユグドラシルの干渉範囲を押し戻した後、僕たちは移動を始める。

 

 渋滞する高速道路を降り、一般道から西へ。

 

 その間ずっと照明光が夜空を明るく染め上げ、爆発音が空気を断続的に震わせていた。

 

 今のところ破壊した残骸が落下するという事故は起きていない。

 

 一時間経つと篠宮先生は深月さんとフィリルさんに帰投を命じ、戻ってきた二人と入れ替わりでアリエラさんとレンちゃんが出て行く。枝を攻撃し続けていた深月さんたちの消耗は大きいらしく、シートに体を預けてすぐに眠ってしまった。

 

 僕は昼夜問わずに行動できるため、すぐにでも手伝いたいが僕が神であることは悠と深月以外の皆には内緒にしている。

 

 そのため僕は行動が制限されており、正体がバレるようなことはできない。今できることは悠の体がユグドラシルに乗っ取られないようにウイルスがあると思われる脳に気を注いでいる。

 

 神の気を送っているため、ユグドラシルの電子干渉で体を乗っ取ろうとしても体に影響は出ないが、悠に語りかけてくることは可能だ。

 

 そのため今もユグドラシルの声が聞こえている筈だ。

 

 流石にそこまでのことをすれば皆から不審に思われるためしていない。

 

 さらに一時間経ち、日付が変わる。

 

 戻ってきたアリエラさんとレンちゃんは、やはりくたくたになっていた。

 

「僕たちの番か、二人とも行こう」

 

「ええ、分かりましたわ」

 

「———うん」

 

 リーザさんとティアちゃんに呼びかけて、僕たちは車から降りた。

 

 その間に僕は深月さんたちの体力を回復させ、気を少し上げながら舞空術を使う。

 

 超サイヤ人の状態になれば周りに少しだけ影響を与えてしまうため、普通の状態で対処することにした。

 

「ティアちゃん、上位元素(ダークマター)で明るくしてくれ」

 

「分かったの」

 

 僕が頼むとティアちゃんは少し暗い表情を浮かべながら上位元素を生成して周りを明るくする。

 

 案の定、ユグドラシルの枝が迫ってきた。しかしドラゴンの一部としても所詮は植物。超サイヤ人に変身せずとも対処できる。

 

「オオシマ・リョウ、油断しないでください」

 

「了解だ」

 

 僕とリーザさんは枝への攻撃、ティアちゃんはユグドラシルの猛攻が見えるように周りを照らし、一時間皆を守り続けた。

 

 その一時間が経とうとしていた頃、走っていた車が道路の脇に寄って停車した。

 

 恐らく通るはずだったルートが渋滞で塞がっていて、新しいルートを探しているのかもしれない。

 

 ちょうど一時間が経ち、僕たち三人は車に戻った。

 

「お疲れ」

 

 悠はまだ眠ってなかったようで、僕たちを(ねぎら)った。ティアちゃんは「うん……疲れたの」と、元気のない笑みを返した。

 

「深月さん、フィリルさん、起きて下さい。交替ですわよ」

 

 リーザさんは熟睡中の深月さんとフィリルさんの肩を揺すって、目覚めさせる。

 

「ん……了解です」

 

「ん〜、おはよう……じゃなかった」

 

 車から出る前に体力を回復させたため、ぐっすり眠れたのだろう。二人は通信機を装着して空へ上がっていった。

 

 リーザさんとティアちゃんは席に座って仮眠の体勢をとる。

 

 僕も少し仮眠を取ろうと思い、座ってすぐに目を閉じた。しばらくしてリーザさんが悠に小声で会話をする声を耳にする。

 

「あなた———もしかして、ずっと起きていましたの?」

 

「いや……さっき、ちょうど目が覚めただけだ」

 

 悠はリーザさんに余計な心配を掛けないように否定した。

 

「嘘ですわね」

 

「な、何でそんなことが分かるんだよ」

 

「恋人の嘘くらい、見抜けますわ」

 

 そう言うと、リーザさんは篠宮先生に問いかけた。

 

「篠宮先生、車から降りてもいいですか?」

 

「もうしばらくはここで待機の予定だ。それまでなら構わん。ただし、離れるなよ」

 

 篠宮先生がそう返事をすると悠とリーザさんは車を降りた。恐らく悠はユグドラシルがずっと語りかけてくることを話すのだろう。

 

 二人が降りて数十秒してから、ティアちゃんがリーザさんと同じことを篠宮先生に問いかけ、車を降りると二人の後を追った。

 

 (ああ、そういえばこんな展開になるんだったな)

 

 この先の展開を知っているため、ティアちゃんがこの先どんな選択をするのかも分かる。

 

 しばらくして、ティアちゃんが先に戻ってきた。目を瞑った状態で彼女がどんな表情をしているのかが分からない。

 

 それから悠たちも戻ってきて車の中は寝息を立てる音で満ちていた。

 

 (あ……歪みの調査するのを忘れてた、けど後でいいや)

 

 僕も篠宮先生に断りを入れてから車を降りるべきだったと後悔したのはユグドラシルの本体を目の当たりにしてからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態が動いたのは、午前四時。

 

 深月さんとフィリルさんの第一班に三回目の出番が回ってきた直後だった。

 

「何だ———これは……!?」

 

 助手席の方から聞こえて来た篠宮先生の声に、僕は顔を上げる。

 

 僕と共に顔を上げた悠、仮眠に入ろうとしていたリーザさんとティアちゃんも、驚いた様子で目を開いた。

 

『枝の成長速度が急に上がりました! 対処が追い付きません!』

 

『前からだけでなく、横からも来てる!』

 

 通信機を通じて、深月さんとフィリルさんの声が漏れ聞こえてくる。

 

「攻撃を続けつつ、念のため高度を下げろ。すぐに応援を向かわせる」

 

 篠宮先生は早口で指示を出すと、僕たちの方を振り向いた。

 

「全員起きろ! 緊急事態だ。ユグドラシルが枝を急速に伸ばし、干渉範囲を広げている。二班と三班も協力して対処に当たれ」

 

 その声にアリエラさんとレンちゃん、イリスさんも目を覚まし、急停車した車から運転手以外の全員が降りた。

 

 ティアちゃんの上位元素で作り出した照明光が、凄まじい速度で迫る枝の影を浮かび上がらせている。

 

 車の中で篠宮先生が言葉を続けた。

 

「電磁波異常区域が左右からも広がり、私たちを包囲しようとしている。二班は右、三班は左から来る枝に対処せよ」

 

「はい!」

 

 篠宮先生の指示に僕たちは頷き、空へと舞い上がる。

 

 リーザさんたちは架空武装を生成し、迫り来るユグドラシルの枝へ攻撃をする。

 

「はあっ!!」

 

 気功波で攻撃をしながらユグドラシルの干渉範囲を分析する。

 

 ここに来て枝の成長速度が異常であること。原作を知っているため、その理由を知っているが、これは余りにも異常だ。

 

 僕はユグドラシルの気配を探ると、その近くに空間の歪みを感じ取った。

 

 どうやらついさっき出来たばかりの歪みで、ユグドラシルの枝が触れたことで力を増したようだ。

 

 しかし今でも成長し続けることについては原作にある通りの展開だ。

 

 僕は皆に気付かれないように枝への攻撃をしつつ、ユグドラシルの近くにある空間の歪みに神の気を送る。

 

 歪みは数秒後に消えたが、ユグドラシルの猛攻は今も尚続いている。

 

「っ———電磁波異常区域の増大が止まらない。このままでは通信が妨害され、干渉範囲のモニターも困難になる。全班、一旦帰投だ! 地上に戻り、視界内の枝掃討に専念せよ」

 

 焦りを(にじ)ませて篠宮先生が指示を出してきた。それを聞いた僕たちは高度を下げて車に近づいた。

 

 そして先ほどと同じように迫って来る枝へと攻撃する。

 

「喰らえ、ビックバン・アタック!」

 

 ベジータの技を繰り出し、枝を数本消滅させる。

 

()げ、閃刃!」

 

 リーザさんが槍の架空武装"射抜く神槍(グングニル)を振るい、眩いレーザーで正面の枝を(まと)めて薙ぎ払う。

 

「三の矢———月を穿つ虚空(ルナイーター)!」

 

 続いて深月さんが放った矢は右側の枝を(ちり)へと変えた。

 

「フレア・バースト・オクテット!」

 

 左から迫っていた枝を薙ぎ払うのは、フィリルさんが放った八発の炎弾。

 

 他の皆も訓練を続けてきた成果を出したが、ユグドラシルの枝を消し飛ばしてもすぐに新たな枝がこちらに近づいてきた。

 

「キリがないの……」

 

 ティアちゃんが空に爆炎を放ちつつ、弱音を零した。

 

「一応(しの)げてはいるけど、このままじゃ身動きできないよ」

 

「ん」

 

 アリエラさんもキツそうな表情で呟き、レンちゃんが同意の頷きを返す。

 

「———もうしばらく現状を維持して欲しい。十五分経っても枝の成長速度が落ちないようであれば、撤退して態勢を立て直そう」

 

 篠宮先生は考えた末に、そんな決断を下した。

 

 このまま行けば僕以外の皆は体力が削られて耐えられない。できるならこのまま進軍したいが、僕の正体がバレてしまうため、撤退せざる得えない。

 

 僕たちは迫り来る枝に攻撃し続けて十五分が経とうとする。

 

 その時———後方、東の方角から緋色(ひいろ)の熱線が空を()ぎ、一気に気温が上昇したことで見える周囲の枝が全て焼失する。

 

「この攻撃、まさか……」

 

 僕はこんなことができる一人の少女を思い浮かべて東の空を見上げる。

 

 こちらへと近づいてくる光が目に映る。光はあっという間に大きくなり、それが炎を(まと)った少女が地上へと降り立った。

 

 その少女はキーリ・スルト・ムスペルヘイム。一緒に行動しているジャンヌ・オルテンシアの姿は見えないが、僕が予想していた通りの人物だった。

 

「キーリ……やはり来たか」

 

「全く、私の警告を無視して無茶なことをするなんて……まあいいわ。とにかく撤退しなさい。今のユグドラシル相手に持久戦は無意味よ」

 

「無意味って……何で断言できるんだ?」

 

 キーリは呆れた様子で言うと、悠が彼女に問いかける。

 

 するとキーリはユグドラシルがいる西の空へ、憐れむ(・・・)ような(・・・)眼差しを向けた。

 

 深月さんとリーザさんはキーリのことを気にしつつも、じわじわと迫ってきた枝に攻撃を再開する。

 

 僕も気功波を繰り出し、彼女たちの援護をする。

 

「ヘカトンケイルがヴリトラ———お母様の作ったモノだって彼から聴いてるわよね?」

 

「あ、ああ」

 

 キーリは僕の方に視線を向けながら質問し、悠は戸惑いつつも頷く。

 

「私を切り捨てたことで、お母様はヘカトンケイルとの中継点を失ったわ。そこからのことは推測だけど———追い詰められたお母様は、新たなヘカトンケイルを作って天敵のユグドラシルを排除しようとしたのよ」

 

「ヘカトンケイルがユグドラシルを巻き込んで自爆した時のことか?」

 

 原作と同じ展開になったことを僕は思い出す。

 

「ええ。けど、それは失敗に終わった。そしてたぶんユグドラシルは、ヘカトンケイルが出現した位置から、お母様が隠れていた場所を割り出したんだと思う」

 

「ヘカトンケイルが出現した位置って、まさか———」

 

 悠は徐々にヴリトラの消息について知った。

 

 復活したヘカトンケイルの出現した場所は日本。詳しい場所は憶えてはいないが、キーリの話と原作で起こる展開を照らし合わせと……。

 

「そう、まさにこの辺りよ」

 

 キーリは表情を変えずに答え、僕たちの話を聞いていた篠宮先生が、驚愕の声を漏らす。

 

「"黒"のヴリトラは……ずっと富士の樹海に隠れていたというのか?」

 

「恐らくね。日本にいるのは知っていたけど、私も正確な位置は教えられていなかったわ。まあ地中に潜っていたとか、そういう普通な"隠れ方"ではなかったはずよ」

 

 キーリは頷きつつも、そう補足した。確かにそんな隠れ方ではユグドラシルどころか、人間にもすぐ見つかってしまうだろう。

 

「お母様は、オリジナルの上位元素(ダークマター)生成能力を持つドラゴン。そしてユグドラシルは上位元素への干渉が可能———ここまで言えば分かるでしょう? ユグドラシルが何故こんなにも巨大な姿で出現したのか……どうして持久戦を挑んでも無駄なのか———その理由が」

 

 悠を試すように見つめ、キーリは(たず)ねた。

 

「ユグドラシルがエネルギー源にしているのは……ヴリトラの上位元素なんだな?」

 

 ミッドガルで"D"の上位元素を奪って成長したように、今のユグドラシルもヴリトラの上位元素を用いて巨大化したのだ。

 

「ええ———お母様はたぶん、ユグドラシルの苗床(なえどこ)にされたのよ」

 

 悠の言葉を、キーリは淡々とした口調で肯定した。

 

「そうか……」

 

 悠はそう呟き、今の状況を目にして打つ手がないことを悟る。

 

「皆、撤退しよう」

 

 覚悟を決めたようで、悠は皆に呼びかける。

 

 僕はこの先、どんな展開になるのかを知っている。そのため、反対してくる少女に視線を向けた。

 

「ダメっ!!」

 

 視線の先にあるティアちゃんが、攻撃の手を止めて否定の声を上げる。

 

「ユグドラシルは、今、絶対に倒さなきゃダメなの! ティアがユウを守るの!」

 

「俺を、守る?」

 

「…………」

 

 ティアちゃんは悠に強い眼差しを向け、その様子に彼はようやく気付いた。

 

「まさか、リーザとの話を聞いて———」

 

 外で悠はリーザさんと話して戻った時、少しだけ違和感に気付いていたようだ。ティアちゃんは二人の後を追って、話を聞いていたのだ。

 

 ティアちゃんはこくんと頷き、目尻に涙を浮かべる。

 

 車の周囲に展開し、枝へ攻撃を続けていた深月さんたちが、何事かとティアちゃんに目を向けた。

 

 悠は秘密が皆に知られないように止めようとするが、その時にはもう手遅れ。

 

「このままだと、ユウはユグドラシルに体を乗っ取られちゃうんでしょ?」

 

 ティアちゃんは震える声で、悠が皆に隠してきたことを叫んだ。

 

「——————っ!?」

 

 その言葉に息を()み、攻撃の手を止めたのは深月さん、フィリルさん、アリエラさんの三人。

 

 既に秘密を知るイリスさん、リーザさん、レンちゃんは、心配そうな眼差しを悠に向ける。

 

 事情を知らないはずの篠宮先生は動揺を見せないが、彼女が学園長に悠とユグドラシルとの関係について聞かされていることは知っていた。

 

 キーリも驚きを浮かべていたが、すぐに納得した表情へと変える。

 

「そう———あなたはユグドラシルにも狙われていたのね。道理で……ふふ、これで確定だわ。やっぱり私の目に狂いはなかった」

 

 何故か嬉しそうに微笑むキーリ。彼女の目的も知っているため、疑問には思わない。

 

「兄さん……どういうことですか?」

 

 深月さんが揺れる眼差しで悠を見つめていた。




悠の秘密がとうとう皆にバレてしまったね。次回どうなる?
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