ファフニール VS 神   作:サラザール

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遅くなりまって申し訳ありません。第六章いよいよ終了します。


新たな中枢

「今度は、私が行くわよ」

 

 巨大な樹木を目の当たりにしても、キーリは全く臆した様子もなく、右手を天に(かざ)す。

 

「———禍炎剣(レーヴァテイン)

 

 空へと延びる緋色(ひいろ)の閃光。キーリはそれを剣のように振り下ろした。

 

 ユグドラシルの本体を縦一文字に裂いた閃光は、幹の中ほどまで食い込み、大きな爆発を起こす。その衝撃でユグドラシルの幹が左右にバキバキと割れていった。

 

「今度は———当てます」

 

 そして深月さんは、キーリの攻撃で生じた裂け目を狙い、再び反物質の矢を放つ。

 

 幹の内側から真っ白な対消滅の輝きが(あふ)れ出した。空間の歪みで強くなっても内側は大したことはない。内部で起こった爆発は、ユグドラシルの体を大きく膨張させ、均衡を失った体は自重で崩壊していく。

 

「そろそろ頃合いでしょう。地上へ降りて"霊顕粒子(エーテルウインド)"の散布と対竜兵装と気功波による精神攻撃に移ります」

 

 崩れ落ちるユグドラシルを見て、深月さんは指示を出した。

 

「分かった」

 

 僕は頷いた後、気を高めて超サイヤ人2へと変身した。

 

 歪みに触れて強くなったユグドラシルを倒すにはそれだけの力が必要だ。全身からスパークが起こっており、皆は巻き込まれないように僕から少し距離を取る。

 

「まさか、これほどの力を隠し持ってたなんて……」

 

 キーリは驚愕の声を上げていた。エルリア公国の大瀑布でフレスベルグとの戦いの時に変身したが、キーリは王宮に待機していたため、遠くでしか超サイヤ人2の力を見ていない。

 

 僕は悠とレンちゃんが"霊顕粒子"でユグドラシルの魂を具現化するまで気を貯める。

 

 悠とレンちゃんは上位元素(ダークマター)の受け渡しと対竜兵装を撃つ準備をするために地上へと降りた。

 

「悠お兄ちゃん……!」

 

「ああ、やるぞ」

 

 悠の手をぎゅっと握りしめていたレンちゃんの手を、強つ握り返す。

 

 このままユグドラシルの体を壊すだけでは、奴はまた別の場所に中枢を移す。

 

 だからその前に———本体を壊した直前に、その中身を()()り出し、破壊しなければならない。

 

 僕は見通しのいい場所に降りた悠のレンちゃんの元へ向かい、皆は僕たちを守るように空気防壁を展開した。

 

 ティアちゃんがユグドラシルからの干渉を防いでくれている中で、悠は上位元素を生成した。

 

「架空武装———ジークフリート」

 

 悠が作り上げたのは装飾銃を模した架空武装。

 

 そしてレンちゃんはジークフリートに手を添えた。

 

「わたし、悠お兄ちゃんのことだけ考える。お兄ちゃんも、わたしのことだけ考えて。そしたらきっと、全部渡せる」

 

「———分かった」

 

 悠が頷くと同時にレンちゃんの上位元素が彼の元に流れ込んでくるのを感じた。

 

 それは恐らく制御に成功したことのない膨大な量。

 

 しかし、悠の架空武装の形は乱れない。その大きさだけを、安定して増やしていった。

 

 互いが互いのことを強く想うことで、上位元素は無理なく混じり合う。

 

 日本に来てから二日経ち、悠とレンちゃんは特訓を重ねてきた結果が表れる。

 

 架空武装はあっという間に、数十メートルの大きさへと達した。

 

 通常の物質ならば支えることも、バランスを取ることも不可能に近いサイズだが、架空武装を構成する上位元素には気と同じで質量がなく、意思に感応する性質がある。

 

 ゆえに悠が腕力で支えずとも、心で念じるだけで巨大化したジークフリートは宙に留まった。ティアちゃんが電磁障壁を張ってくれているおかげで、上位元素が奪われることもない。

 

 悠は巨大化したジークフリートの銃口をユグドラシルに向ける。

 

「悠お兄ちゃん、あと少し」

 

「……分かった」

 

 悠は架空武装が崩壊しないように意識を集中し、レンちゃんの心の色が、架空武装を微かに赤く色づく。

 

「———これで、全部」

 

 そして、レンちゃんの上位元素が全て悠の架空武装へと注がれた。

 

 その全てを悠は魂を具現する金色の粒子を纏った一発の弾丸へ変換する。

 

霊顕弾(エーテル・ブリッド)っ!!」

 

 弾丸が放たれると同時に、架空武装は消滅した。

 

 悠とレンちゃんの全てが込められた金色の弾丸は空へ高く高く撃ち上がり———強い光を放って弾け飛ぶ。

 

 一瞬で空の色が、薄い青から超サイヤ人の放つ気と同じ(まばゆ)い黄金へと塗り変わった。

 

 きらきらと、光り輝く粒子が空から舞い落ちてくる。

 

 天から降る"霊顕粒子(エーテルウインド)"は崩壊していくユグドラシルの本体を、ゆっくりと上部から包み込んでいった。

 

「どうだ……?」

 

 悠は固唾を()んで様子を見守る。

 

 宮沢健也が予想した通りなら、ユグドラシルの精神が魂へと具現化されるはずだ。

 

 舞い散る光の中に、輪郭が浮かび上がっていく。

 

 それは、予想していた通りの光景で、僕は驚きはしなかったが皆は驚きに息を呑んでら目の前の光景に圧倒された。

 

「こんなの……ありえない」

 

 その中で呆然(ぼうぜん)と呟いたのはアリエラさん。

 

 崩壊するユグドラシルの体から(あふ)れ出るようにして、その魂が具現化していく。

 

 それは———空を完全に覆い、地平の向こうまで枝を伸ばした大樹の輪郭。

 

 五千メートルどころの大きさではない。もっと遥かに大きい。

 

 不自然に途切れたシルエットから見て、"霊顕粒子(エーテルウインド)"によって具現化しているのは全体のほんの一部。

 

 原作を知っている僕からすれば、予想していたことだ。しかし悠たちは想像の遥か上だと思い知ったのだろう。

 

 ユグドラシルの本質は、世界中の植物が構築するネットワークだ。その中身が地球規模の大きさでもおかしくない。

 

 ブリュンヒルデ教室の僕以外は()(すく)むが、僕は気を貯め終わり、悠の方へ向く。

 

「悠、何ボーッとしてるんだ? あれを壊すんだろ!」

 

「っ———!」

 

 僕が声を掛けると、悠は我に返った。

 

「———レン、もう一度上位元素(ダークマター)を借りるぞ。今度は対竜兵装を構築する」

 

「ん!」

 

 レンちゃんも瞳に戦う意思を(とも)し、悠の右手をぎゅっと握った。

 

「対竜兵装マルドューク———念式連装砲、彼岸を貫く方舟(ノア)!」

 

 悠は再びレンちゃんの上位元素を借り、旧文明の兵器へと変換した。

 

 回転可能な砲座の上に、二連装の砲塔が具現した。全体に光のラインが刻まれた連装砲は砲口をユグドラシルへと向ける。

 

 この砲手は思念を増幅して放つ兵器。気功波と同様に通常の物質では干渉できない精神体にも通じる。

 

「亮、準備は出来たか?」

 

「ああ、バッチリだ。いつでも撃てるぞ」

 

 僕は全身の気を両掌に増凝縮し、気の塊をユグドラシルへと向ける。

 

「か〜め〜は〜め〜波ー!!」

 

発射(ファイア)っ!」

 

 凝縮した気功波と強い意志が込められた砲弾が具現化した精神体に命中し、金色の粒子が宙に舞った。

 

 しかし、歪みに触れてパワーアップしたユグドラシルは精神体にも影響を受けており、僕たちの攻撃では壊れる様子ではない。

 

「っ———発射(ファイア)! 発射(ファイア)! 発射(ファイア)!」

 

 悠はそれでも諦めずに連射するが、それでも具現化したユグドラシルの精神体は壊れない。

 

 歪みの影響だけでなく、"黒"のヴリトラの上位元素(ダークマター)を干渉して大きくなり続けているため、フレスベルグよりも強い。

 

 僕は超サイヤ人2の状態で気を貯めていたのでかめはめ波を放ち続けられるが、悠は何度も撃つ度に限界が近づいてくる。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 悠は何発も撃ち続けたため、荒い息を吐いていた。

 

「く……そっ……」

 

 散布した"霊顕粒子(エーテルウインド)"が少しずつ薄くなりつつあり、僕は正体がバレる覚悟で超サイヤ人ゴッドに変身しようとした。

 

 その時、悠の周りには皆が集まっていた。本人もその事に気付き、戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「兄さん、亮さん、大丈夫ですか!?」

 

「モノノベ! オオシマ!」

 

「ユウ! リョウ!」

 

 深月さん、イリスさん、ティアちゃんの声が響き、悠は倒れそうになった体を起こすが、今度は後ろによろけた。

 

「二人とも、しゃんとしてください」

 

「頑張って……物部くん、大島くん」

 

「物部クン、大島クン、しっかり」

 

 リーザさん、フィリルさん、アリエラさんが後ろで悠の体を支えた。

 

「悪い———助かった」

 

 悠が謝ると、一人離れた場所に立つキーリが問いかけてきた。

 

「悠、もう限界かしら?」

 

「いや……まだまださ。何だか、力が湧いてきた」

 

 先ほどから僕と悠の気が回復していることは分かっていた。皆の想いが僕と悠に力を与え、悠は何とか耐えていた。

 

 すると悠は精神力が上位元素(ダークマター)のように受け渡せることに気付いたようで、皆に問いかけた。

 

「皆、上位元素を明け渡す時の要領で、"想い"を俺たちに送ってくれないか?」

 

「想い……?」

 

 きょとんとした表情で首を傾げるイリスさん。

 

「それならいけるかもしれないぞ」

 

「———分かりました。想いだけですね」

 

 そう言って深月さんは悠の背中を支え、手に力を込める。他の皆も僕と悠に想いが送られてきた。

 

 それによって先ほどまでへばっていた悠の体力が徐々に回復していった。

 

 彼岸を貫く方舟(ノア)の砲口から強い気が生成されていき、かめはめ波を喰らい続けているユグドラシルの方へと向ける。

 

「行くぞ———皆」

 

「はいっ!」

 

 悠の呼びかけに、皆は応じる。そして、全員で声を合わせ———心を撃ち放った。

 

発射(ファイア)ァッ———!!」

 

 二つの砲口から光が膨れ上がり、ユグドラシルへと放たれる。

 

 発射と同時に念式連装砲は内側から弾け飛び、崩壊した。

 

 二つの光球は絡まり合い、一つの巨大な砲弾となってユグドラシルの精神体に着弾する。

 

 それにより、砲弾と皆の想いで威力が上がったかめはめ波は爆発を起こし、金色の粒子が大きく舞い上がった。

 

 大気がぴりぴりと震え、"霊顕粒子(エーテルウインド)"で構成されるユグドラシルの輪郭が揺らいだ。

 

 霧散した粒子が宙に解けた時、ユグドラシルの精神体には大きな穴があいていた。

 

 けれど———精神体全体が崩壊する様子はない。

 

 しかしこれでよかった。皆の想いで威力が上がったかめはめ波は、実は最初から力を弱めて放ったからだ。

 

 その理由はこれから仕事するある少女のためである。

 

「これで十分よ」

 

 キーリは満足そうに微笑んで僕たちに近づいた。

 

「十分って……まだユグドラシルの中枢意識は破壊できていないんだぞ?」

 

「けれど、ダメージは与えられた。だから後はあなたの仕事よ———ティア」

 

 悠に力を貸してくれていたティアちゃんの肩を叩き、キーリは言う。

 

「ティアの、仕事?」

 

 ティアちゃんはきょとんとした顔でキーリを見つめ返す。

 

「あなたなら聞こえるでしょう? ユグドラシルの悲鳴が」

 

「……うん。でも、めちゃくちゃで———何を言っているのか分からないの」

 

「それはまともに中枢が機能してない証拠だわ。今ならきっと、ティアはユグドラシルに勝てる」

 

 口の端を歪め、キーリは言葉を続ける。

 

「あなたの角は、ユグドラシルの干渉を防御するためだけにあるんじゃないわ。それは、ユグドラシル(・・・・・・)()食い(・・)殺す(・・)ための(・・・)武器。あなたがドラゴンに至るための力よ」

 

「角が、武器……ドラゴンに至る———」

 

 何か気付いた様子で、ティアは頭の角に触れた。

 

「悠を乗っ取ろうとしたユグドラシルに、同じことをやり返してあげなさい。ティアには、それだけの力がある」

 

「っ——————うん!」

 

 自分が何をすべきか悟った表情でティアちゃんは頷き、背中に翼型の架空武装を構築する。

 

「おい、ティア!」

 

 悠が止まる間もなくティアちゃんは空へ舞い上がり、ユグドラシルの方へ飛んで行った。

 

「キーリ、ティアに何をさせるつもりだ!」

 

 悠はどういうことかとキーリを睨んだ。

 

「———私は、選択肢を示しただけ。全てはティアが自分で決めたことよ。あの子の覚悟を安く見ないで」

 

 強い想いの籠った瞳で睨み返された悠は息を()んだ。

 

「あなたたちも、余計なことはしないで———ティアの戦いを見守りなさい」

 

 さらにキーリはティアちゃんを追おうとしたリーザさんたちを、鋭い口調で止める。

 

「あの子が何をしようとしているのかは、すぐに分かるわ」

 

 飛んで行くティアちゃんの背中を見つめ、キーリは静かに告げた。

 

 ユグドラシルの精神体に辿(たど)()いたティアは、そのまま僕と悠があけた穴へと飛び込む。

 

 そして数秒後、ユグドラシルを中心にして(まばゆ)い電光が(ほとばし)った。

 

 

 

 

 

◇ 

 

 

 

 

 

 金色の粒子が舞う空を飛びながら、ティア・ライトニングは思い出す。

 

 初めて彼に———物部悠に出会った時のことを。

 

 当時のティアは、自分自身のことをよく分かっていなかった。

 

 両親はティアのことを人間だと言いながら、物質変換で宝石を生み出すよう求めた。

 

 それからティアと両親は武装集団に捕まり、今度は"D"として上位元素(ダークマター)生成能力を利用された。

 

 だから———その武装集団から自分を救い出してくれた物部悠に、ティアはこう(たず)ねたのだ。わたしは、なあに———と。

 

 そして彼は、たどたどしく、ティアの母国語で答えた。

 

『君は———可愛い、女の子、だよ』

 

 それは、とても温かな回答。

 

 そうなりたい、そうであって欲しいとティア自分も願う答え。

 

 ティアは、ずっとその言葉を胸に生きてきた。

 

 キーリと出会い、ドラゴンとして育てられ、バジリスクに見初められ———一時はその夢を諦めたけど……彼と再会して、リーザたちに救われて、ティアは決めた。

 

 リーザたちと一緒に———人間として生きることを。

 

 物部悠におって一番可愛い女の子———"お嫁さん"になることを。

 

 そして、彼が自分を守ってくれたように、自分も彼を守るのだと。

 

「ユウは、ティアが助けるからっ!」

 

 ティアは己の架空武装———竜の紅翼(ティアマト)から風を生み出し、ユグドラシルの精神体内部へと突入した。

 

 辺りは金色の粒子に覆われ、眩しくてほとんど何も見えない。ティアの頭にはユグドラシルの"叫び"が聞こえてくる。

 

『思考、破綻———崩壊、拒絶———拒否、拒否、拒否、修復、最優先———』

 

 声だけではない。形にならない感情もティアは角を介して感じ取ることができた。

 

「———怖がってる」

 

 ティアは呟く。

 

 ユグドラシルは怯えている。意識がなくなることを、存在が失われることを、死ぬことを———とても、とても、恐れていた。

 

『ノイン———必要、必須———未確定、第九機能、唯一の———最適、生存戦略———』

 

 そして欲している。

 

 物部悠のことを、生きる(・・・)ために(・・・)必要としている。

 

 ティアには、そのことがはっきりと伝わってきた。

 

 何を恐れているのかは、分からない。ユグドラシルの思考は支離滅裂で、理解できない。

 

 けれど———。

 

「あげないのっ」

 

 はっきりとティアはユグドラシルに宣言する。

 

「ユウは、ティアの旦那さまになってもらうんだからっ!!」

 

 想いを全てを、上位元素(ダークマター)に込め、電気へと変換し———解き放った。

 

 電磁フィールドとして拡張されたティアの意識が、ユグドラシルの内側で膨れ上がる。

 

 彼岸を貫く方舟(ノア)とかめはめ派による攻撃で破壊され、バグを生んだユグドラシルの中枢システムへ、ティアの意識が入り込んだ。

 

 ユグドラシル(・・・・・・)への(・・)ハッキング(・・・・・)———それこそがティアに与えられた角の、真の役割。

 

「っ……」

 

 頭に走った激痛にティアは顔を(しか)めた。ユグドラシルが抵抗し電気信号として入り込んだティアの意識を追い出そうと足掻(あが)いている。

 

「負けないの……今度はティアが、ユウを守るのっ!!」

 

 意志を牙に、感情を爪にして、ユグドラシルの意識を食い破り、引き裂くティア。

 

 上位元素から変換される電気によって限りなく増幅されたティアの思念が、中枢システムを侵食していった。

 

 周囲を包む金色の粒子が揺らぐ。それはユグドラシルの精神体が変容を始めた証明。

 

『———拒否、拒否、拒否、不可、負荷、不可———消滅、拒絶、拒絶っ———!』

 

 必死に抵抗するユグドラシルだが、CPU(本体)を物理的に破壊され、その精神にもダメージを負った今、演算能力は極限まで低下していた。

 

 そして逆にユグドラシルの意識を喰らった(・・・・)ティアの思念は、圧倒的な処理能力を手に入れていく。

 

 だがあまりに拡大した自我は、彼女本来の在り様を(かす)ませてしまう。人間が本来持ち得ない処理能力を得たティアの思考に、心が追い付かない。

 

「ティアは……何だっけ?」

 

 膨張した自我の中、彼女の意識が揺らぐ。

 

 すると、どこからか温かい空気が迫ってきた。それは初めて会った彼と同じもので、胸に刻まれた彼の言葉が、ティアの意識を繋ぎとめた。

 

 ———君は、可愛い、女の子、だよ。

 

 奥歯をぐっと噛み締め、全ての上位元素(ダークマター)を絞り出し、ティアは己の意思で全てを塗り替える。

 

「そうなの……ティアは……ティアは、ユウのお嫁さんになるのっ!!」

 

 そして彼女の意思は植物が形成するネットワーク内に駆け抜け、ユグドラシルの本質へと手を伸ばした。

 

 彼女は知る。電気を操る能力など、本質の一端に過ぎなかったことを。

 

 その権能(・・)の名は———全知回路(アカシックレコード)

 

 ティアはそこで、全て(・・)垣間見(かいまみ)た。 

 

 

 

 

 

◇ 

 

 

 

 

 

 ゆらりと、金色の粒子で構成されていたユグドラシルの精神体が歪み、溶けるようにして形を変えていった。

 

「ティアは……何をしたんだ」

 

 驚きながらその様子を眺めていた悠は、すぐにそれ以上の驚愕を味わっていた。

 

 揺らぎ、薄れつつある"霊顕粒子(エーテルウインド)"がまだ、何かの輪郭を描き出した。

 

 それは大樹ではなく———ティア・ライトニングの姿を(かたど)っていた。

 

「上手く行ったようね。今、ティアがユグドラシルの中枢を乗っ取ったのよ」

 

 キーリが嬉しそうな表情で僕たちに説明する。

 

「な……中枢を?」

 

「ええ、思考を電気信号として出力できる今のティアは、感覚的な電子干渉———つまりユグドラシルへのハッキングが可能なの。それで中枢をクラックし、自分を新たな中枢として認識させたんでしょう」

 

 淡々と答えるキーリは、"霊顕粒子"が薄れて行くのを見て笑う。

 

「私は初めから、ティアにユグドラシルを喰わせる(・・・・)つもりで育てていたのよ。まあ、その時はユグドラシルがここまでの化け物だって知らなかったから、普通に挑んだだけじゃ失敗していたと思うわ。上手く行ったのは、悠と亮が中枢にダメージを与えてくれたおかげね」

 

 確かに中枢を乗っ取るにはこれが最も適した方法なのは原作を読んでいたため分かっていた。

 

 しかしユグドラシルの権能は乗っ取ろうとすればするほど自我を失い、自分が何者なのかすら分からなくなる。

 

 そのため、僕は"魔人ブウ"の他者の技を一度見ただけで、すぐに自分のものにする能力を使った。

 

 その応用として、他者の気と同じ性質を持つ力に変えてティアちゃんに注ぎ込んだ。

 

 その甲斐があったのか、ティアちゃんは自分が分からなくなることなくユグドラシルの中枢を乗っ取った。

 

 朝焼けの空に散っていく金色の粒子。

 

 ティアちゃんの姿を象っていた粒子も消えていき、そのうちがわから現れたのは、崩壊したユグドラシルの残骸。そして———光り輝く翼を背負った、一人の少女。

 

 僕たちの元へと戻ってくる少女を見上げたキーリは、誇らしげに告げた。

 

「見て、あれが私の育て上げた新たなドラゴン———ティア・ライトニング・ユグドラシルよ」

 

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