All I Need is Something Real   作:作図

1 / 22
【In the Warm Spring Sunshine】
01. Next Chance to Move On


>2012年 4月10日(火) -夜-

 

 

 悠の机に置かれたケータイが、電話がかかってきた事を知らせる着信音を響かせた。液晶画面には『花村陽介』の文字が。悠は明日の学校の準備を一旦止めて、机の上に置かれたケータイを手を伸ばすと、コール音の後から聞き慣れた、軽快な声が聴こえてくる。

 

「おっす相棒! 元気か? 俺らはもう授業始まったけど、悠はもう学校始まったのか?」

 

「学校は明日から。始業式自体は昨日からだったらしいけど」

 

「へぇー。つまり、明日が相棒の転校初日ってワケか。自己紹介とかちゃんと考えてるのかー?」

 

「特には」

 

「おいおい、大丈夫なのかよ」

 

「大丈夫だ。少なくとも、先生に落武者扱いされる事なんてもうないだろ。………思えばあれは、なかなか衝撃的だった」

 

「あー……そんな事もあったな。でも、それに対して『誰が落武者だ』なんて言い返しちゃうお前の方が、俺からしたらかなーり衝撃的だったよ…」

 

 陽介は昔を思い返して笑う。それに釣られて悠の頬も自然と緩んでいった。そんな事はもう一年も前の話だと言うのに、それを陽介も明瞭に覚えていてくれた事が嬉しかったのだ。ああ、本当に懐かしいな…。あの激動の一年間がまるで昨日の事みたいだ。

 

 稲羽を騒がしていた連続殺人事件……。その犯人を追い詰めるために相棒である陽介と共に結成した組織、『自称・特別捜査隊*1』。特捜隊の皆と共に街の平和のために戦ってきた日々は、楽しいだけでなく辛い事もあったが、今でも悠の大切な宝物だ。

 

「おーい! もしもーし! 相棒? 聞こえてる?」

 

 悠の返事が途切れたからか、陽介が心配そうに声をかける。しまった、ぼうっとしてしまったなと思いながら、悠は陽に陽介に返答する。

 

「悪いな陽介。ちゃんと聞こえてるぞ」

 

「おお良かった。今度は電話の回線まで切れちまったのかと思ったわ。最近色々と調子悪くてさー。初っぱなの席替えもいきなり一番前のど真ん中引いちまったし」

 

「それは災難だな」

 

「しかもよりによって大谷さんが隣だ」

 

「オーバーキル……、だな」

 

「だろ? ほんっと俺ってば、不幸の星の下にでも生まれちまったのかな…。なんて」

 

「そんなガッカリ具合も陽介らしさだ」

 

「いらないっつのそんな俺らしさ!」

 

「そークマ! ガッカリじゃないヨースケなんて、ヨースケじゃないクマよ~」

 

 割り込むように話に加わったもう一人の聞き慣れた声。彼の名前はクマ。ペルソナ*2を用いて解決した事件で知り合った『テレビの中の世界の住人*3』だ。声の様子から判断するに今は『中身』である美少年の姿でいるらしい。

 

 ちなみに『中身』というのは後から生えてきた物であり、初めてあった時は中身が空っぽの着ぐるみの姿であった。何から何までハチャメチャな存在であるため、一般の常識に当てはめて考えてはいけない。

 

「センセイ! お久し振りクマねー! そろそろクマが恋しクマ?」

 

「ああ、クマも久しぶり」

 

「おー! 懐かしの生センセイ! クマはね――」

 

 クマからも日頃の様子を聞く。どうやらクマも元気でやっているらしい。クマの住んでいた『テレビの中の世界』も、最後の戦い以来、荒れることなく穏やかなままだそうだ。クマと一通り話した後、電話口の相手が再び陽介に変わる。

 

「まぁ色々あるけど、こっちは皆相変わらず元気でやってるぜ。りせは芸能界の復帰、直斗は探偵業での仕事とやらで、最近は東京に行ったり来たりして色々と忙しそうにしてるけどな」

 

「りせチャンも~、ナオちゃんも~、最近はあんまし会えてないから、ちょっぴし寂しいクマね」

 

「だー! お前は早く仕事に戻れっつの! ……ああそういや、悠は東京じゃなくて……えっと、千葉にいるんだっけ?」

 

「ああ、親の仕事の都合でそうなったんだ。俺も普通に『前に通ってた学校』に戻ると思ってたから、まさか千葉の学校に通うことになるとは思わなかったよ」

 

 悠が言った『前に通ってた学校』とは、去年の一年間、俺が高校二年生の時に陽介達と共に過ごしていた『八十神(やそがみ)高校』の事ではなく、さらにその前に通っていた都立高校の事を指している。

 

 そもそも悠が八十神高校に転校してきたのは、両親が一年間だけ海外出張をした為なのだ。そのため、初めから八十神高校には一年だけの滞在と決まっていた。そして本来ならば、今年は都立高校の方に戻る手筈だったのだが、悠の親の仕事の都合上、再び一年間異なる土地の高校に転入することになった。

 

「ちなみに、新しい学校はなんて所なんだ?」

 

「総武高校ってところだ。県の中でも結構な進学校だって聞いてるけど」

 

「そうなのか? …うわ本当だ、偏差値60越えじゃねーかよ! 俺じゃ絶対授業ついていけねーわ」

 

「へいさち…って何クマ?」

 

「頭の良さみたいなもんだ。……まぁ、お前は頭いいし上手くやれると思うけどな! なんかあったら、俺たちを頼ってくれよな! 駆けつけるからさ」

 

「ありがとな、陽介」

 

「じゃあ俺はそろそろバイトに戻るわ。悠! ゴールデンウィークは必ず空けとけよ!」

 

「みんなセンセイと会えるの楽しみにしてるクマよ~! もちろんクマもセンセイにまた会える日を楽しみに待ってるクマ!」

 

「ああ、必ず行くよ。陽介もクマもバイト頑張ってな」

 

 おう! という声を最後に陽介からの電話は途切れた。

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

>4月11日(水) -午前-

 

 

 

「改めて、私は君が所属することになる三年D組の担任を務めることになった鶴見です。担当教科は家庭科だから、実際に授業を受け持つ事がないのが残念ね…。君も三年時からの転入で大変だと思うけど、これからの一年間が君にとってより良い糧となるよう、困った事があればなんでも相談してね」

 

「ありがとうございます。改めて、鳴上悠です。一年間。どうかよろしくお願いします」

 

「うむ、ハキハキした挨拶でよろしい! 鳴上君にはクラスのホームルームで自己紹介をしてもらう予定だから何か言うことを少しは考えておいてね。私がHR中に転入生の話を出すから、その時にクラスに入ってきて軽く挨拶をすれば大丈夫よ」

 

「分かりました」

 

 悠は鶴見先生の他にも、職員室で何人かの先生に挨拶をする。反応は各々良好だった。その後転入する教室に向かうため、鶴見先生に連れられて廊下に出ると、八十神高校の木造風な廊下とは対照的な、少しばかり無機質にも見える灰色の長い廊下が視界に入る。悠はこれからの一年間に期待と不安を抱きながら、新しいクラスメイトの待つ教室に足を踏み入れた。

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

「転入生! 今日からこのクラスに来るんだって!」

 

 高校での転入生が珍しい事もあり、一人の女子生徒の声からクラスがどっと沸きだす。新年度早々の大ニュースを契機として、既にこのクラス間の仲はそれなりに良好の様子だ。

 

「マジ? え、女子だったりする? え、俺の青春始まっちゃう?」

 

「残念ながら転入生は男子だぞー。いやてかお前… そもそも去年も女子とまともに接点なかっただろ」

 

「男子かぁ… 二年生の葉山君位にかっこいい人が来るといいなぁ…」

 

「いや…葉山君はハードル高すぎるでしょ…。でも転入生も高校三年の時期にとか、ちょっと同情しちゃうかも」

 

 クラスの様々で転入生の話が展開され、それぞれが様々な盛り上がりを見せる中、鶴見先生が教室に入りHRを始めた。悠は先程言われた通り合図があるまで廊下での待機。先生はある程度の諸連絡を済ませた後、転入生の紹介に移る。

 

「えーそれでは皆さん。もうすでに知っている人も多いみたいですが、このクラスで一年間皆と過ごす転入生を紹介します。じゃあ入って」

 

 先生の声に応じて悠は教室に入る。悠本人こそ気づかなかったが、クラスメイトからしたら『転校生がかなりの美形男子』というアニメのような展開だ。当然、多くの女子生徒が一挙に沸き立つ。

 

「どうも、鳴上悠です。去年は稲羽市の八十神高校に通っていて、部活動はバスケ部と吹奏楽部を兼部(けんぶ)していました。一年間、よろしくお願いします」

 

 前の学校と加入していた部活動を答え、無難な内容で自己紹介を終える。彼の漢らしさを象徴するように、黒板に書かれた名前の文字は大きい。

 

「うん! よろしくな鳴上!」

 

「やばいやばい想像以上にイケメンだ…」

 

「え、バスケ部と吹奏楽部の兼部?その二つ兼部できんの、超人?」

 

「席は今空いてる真ん中の席だぞー。一年間よろしく!」

 

 転入生が珍しいのか、悠の周りにはあっという間に人だかりができていた。悠は困った事になったなと思いつつも、クラスメイトからの質問攻めを丁寧に答えていった。

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

>4月11日(水) -放課後-

 

 

 転校初日からいきなり六限まであったが、それもあっという間に終わり放課後。早々に帰り支度を済ませて玄関に向かっていると、道中、見覚えのある女子生徒が悠の視界に映った。

 

 彼女は隣の席に座っていた…。確か城廻(しろめぐり)さんだったか。彼女の両手には、決して少なくない量の荷物が積み重なっており、見ているだけでもその重さが伝わってくる。勿論見過ごすなんていう選択肢はない。悠は城廻の荷物を肩代わりするべく、城廻に声をかける。

 

「大丈夫か? 荷物持つよ」

 

「わっ。……あっ、と…。鳴上君だよね?」

 

「鳴上です」

 

「だよね! ふふっ、優しいんだね。ありがとう」

 

「気にするな。それで、これはどこまで運べばいい?」

 

「えっと…生徒会室までお願い。あの、ホントに大丈夫? これ結構重いと思うんだけど…」

 

「問題ない。力には自信があるから」

 

「へぇ…。すごいなぁ! 流石男の子って感じだね!」

 

 悠は城廻からどことなくふわっとした優しい雰囲気を感じとり、八十神高校ではいなかったタイプの人だな、なんて事を思った。

 

「この荷物は何に使うんだ?」

 

「えっとね。来週始めに生徒会主催のオリエンテーションがあるんだけど、それ関係の物かな。私、これでも生徒会長なんだよ」

 

「生徒会長か…。これも生徒会の仕事なのか?」

 

「うん! 今日は荷物を運ぶだけだし一人でいいかなと思ってたんだけど、思ったより多かったから助かっちゃった」

 

 生徒会の人とは、悠は去年は全然関わりがなかったのもあり、なんだか新鮮に感じた。他愛のない話も交えながら、先導されるままに城廻に付いていくと、プレートに大きく『生徒会室』と書かれた部屋の前にたどり着く。

 

 何回もこのドアの施錠をしているのだろう。慣れた様子で城廻が鍵を使い扉を開けると、そのまま悠は生徒会室に通される。生徒会室の中は物の整理が行き渡っており、扇風機や、小型のテレビなぞも置いてあった。これが生徒会室なのかと感心しながら、悠は城廻が指定した場所に運んだ荷物を置く。

 

「手伝ってくれてありがとね! 助かっちゃった!」

 

「いえいえ」

 

「あっ、そうだ! お礼といっては何だけど、鳴上くんは今日きたばかりだし校内の事もまだ分からない事多いよね? もしよければこの後、色々と案内しよっか?」

 

「そうだな…。確かに案内してくれると助かるけど… 時間を取らせて大丈夫か?」

 

「全然大丈夫だよ! ただ私は職員室にも用があるから、それも付き合ってくれると嬉しいなーなんて」

 

「もちろんだ。案内もよろしく頼む」

 

「うん! 任せて」

 

 明るく返ってきた声に、城廻の優しい心使いを感じた瞬間、悠は胸の中で何かが弾けたような感覚を覚える。頭の中に響く声が、新しい絆の育みを告げていた。

 

 

 

 我は汝… 汝は我…

 

 

 汝、新たなる絆を見出だしたり…

 

 

 絆は即ち、まことを知る一歩なり。

 

 

 汝、"節制"のペルソナを生み出せし時、

 

 

 我ら、更なる力の祝福を与えん…

 

 

 

>新たな絆を手にいれたことで、"節制"属性のコミュニティである"城廻 めぐり"コミュを手にいれた!*4

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 城廻の好意に甘えて、校内を案内してもらう。一学年三クラスだけだった八十神高校とは違って、教室棟だけでもかなり広い。生徒会の規模や文化祭などの規模も、城廻から聞く限りかなり大きいみたいだ。

 

「ここが職員室だよ。まぁ流石に職員室はもう知ってるかな。ちょっと用があるから待ってて」

 

 城廻はそう言って職員室に入っていった。職員室の空調が効いているのか、少し開いた扉から、廊下にひんやりとした心地よい風が流れてくる。城廻はすぐに職員室から出てきた。

 

「随分早いな。先生がいなかったのか?」

 

「うん。平塚先生、今は職員室にはいないみたい。奉仕部の方に顔を出してるって」

 

「奉仕部?」

 

 聞き慣れない部活名に悠は困惑した。八十神高校や一年の時に通っていた都内の高校でも、奉仕部という部活動は今まで一度も聞いたことがなかった。

 

「あー確かに珍しいよね。校内でも知る人ぞ知るって感じだもん。私も正直よくは知らないんだけど、平塚先生が顧問をしている部活みたい。鳴上くんもちょっと見てみる? 私も行ったことないから、二人だと心強いし」

 

「俺も少し興味あるな。もちろん付き合うよ」

 

 その奉仕部はどうやら特別棟にあるようで、悠は城廻に続いて教室棟と特別棟を繋ぐ連絡橋を渡る。特別棟の中は歩いていると音楽室やら生物室やらが目に入るが、あまり人気は感じられない。だんだんと廊下が薄暗くなり、人気もますます少なくなってきた所で、悠達は何の変哲もない教室の前に辿り着いた。どうやらここが奉仕部の部室らしい。

 

 城廻がドアを三回ほどトントンと叩くと、中から「入っていいぞ」と声がかかる。そのまま扉を開けると、机と椅子が無造作に積み上げられている教室に、一人の男子生徒と女子生徒、白衣を着た先生が目に入る。窓から射し込む光が、どこか絵画じみた雰囲気を(かも)し出していた。

 

 

 

to be continued

*1
通称『特捜隊』。ペルソナ4作中序盤で主人公(鳴上悠)と花村陽介によって結成され、殺人事件を始めとした物語の真相に迫っていく。物語が進むごとに仲間もどんどんと増えていき、最終的には8人にまで増える。メンバーの全員がペルソナを行使できるペルソナ能力者。

*2
『ペルソナ』とは、ペルソナ能力に目覚めた者だけが使用できる、『シャドウ』と呼ばれるバケモノに対抗するための特殊能力の事である。『ペルソナ』は自分の精神状態を具現化した、いわば自分自身であるともされ、基本的には一人一体のペルソナを行使できる。例外として、主人公(鳴上悠)の有する『ワイルド』の能力者に限り、複数のペルソナを自在に行使する事ができる。ジョジョで言えばスタンドのようなもの。

*3
ペルソナ能力者のみがテレビを媒介にして入る事の出来る異世界の事。クマはその世界出身。テレビの中の世界は『シャドウ』と呼ばれるバケモノの巣窟である。

*4
ペルソナ3以降に登場するコミュニティ(コープ)と呼ばれるシステム。仲良くなるとその人物との絆が深まり、詳細は省くがゲーム中において有利になれる。キャラクターによっては恋人になる事もでき、ペルソナ4Gでは最大七股をかけることも可能。七股番長。




タイトル日本語訳
『新たな一歩を踏み出すチャンスなんだ。』
ペルソナ4 The Golden Animation OPより引用
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。