All I Need is Something Real   作:作図

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誤字訂正などありがとうございます。
久しぶりの比企谷くん視点です。


12. A Youth Without Fire

>5/10(木) ー昼ー (テニス試合終了後)

 

 

 テニスコートに向かう大勢の生徒とすれ違いながら、俺達は校舎に向かって歩いていく。校舎の方向に進んでいるのは見える限りでは俺達だけで、何か大きな流れに逆らっているような気さえしてくる。

 

「良かったのかしら…。あそこに置いていってしまって…」

 

「いや、あれはしょうがねぇだろ…。全校朝会の半分とか、そういったレベルで人が集まってたからな…。交通事故みたいなもんだ」

 

「交通事故……ね」

 

 事はほんの少し前に遡る。俺達がコートをかけてテニス対決を行い、なんとか勝利をおさめた直後の事だ。

 

 俺達は『勝ってほっと一安心』などと息をつく間もなく、この会場をずっと沸かし続けてきた場の雰囲気、いわば、大衆の集合意識たるものの暴走に巻き込まれた。

 

 さながら細胞分裂のように増殖していく生徒たちは、みるみるうちにテニスコートを我が物顔で占領していく。気づけば、あっという間にこの場を盛大かつ感動的なフィナーレの会場に染め上げてしまっていた。

 

 昼休みの時間自体はまだそれなりに残ってはいるものの、このテニスコートの有り様をみれば、とても練習など出来ようもない事は明白で…。ついぞ俺達は退散せざるをえなかったのだ。

 

 ちなみにこの時、ジャストなタイミングで葉山に近づいていた鳴上先輩はというと…。一応俺達なりに頑張ってみたものの助けようがなかった。群衆に埋もれた先輩の姿は今や確認することもままならない。合掌。

 

「うぬ。まぁ盟友なら大丈夫であろう。ぶっちゃけた話、あのイケメンリア充の二人に天誅が下るというのは…。我としてはやぶさかではない。フフ…勝った…っ!」

 

「き、キモッ…。厨二、本当に最低だ…」

 

 ああ、最低だ…。お前に本の感想まともにくれたのあの人だけだろ…。材木座お得意の伝統芸『超高速テノヒラクルー』は今日も健在で、これに関してだけなら材木座は世界を視野に十二分に戦っていけるまである。これには流石の戸塚もドン引きしていた。

 

「は、はは…。でも雪ノ下さん、由比ヶ浜さん、比企谷くん。あと、材木座くんも! 本当に今日はありがとう!」

 

「え、ええ…」

 

 純粋な感謝を向けられる事に慣れていない雪ノ下は、面映い表情をしてうなずく。うーん、これはデレのん。まぁ、戸塚に笑顔で感謝されて落ちない人間などいないわな。天使は凍りきった女王の殻すら優しく溶かすのである。

 

「うんうん! ゆきのん大活躍ですごかったよね! あたしはあんまり役にたてなかったけど…。ははは…」

 

「安心しろ。それを言うなら俺の方が何もしてない。第一試合にも出てないしな」

 

 ついでにいうと練習もそんな参加してない。雪ノ下や由比ヶ浜は分かるが、俺や材木座が礼を言われる筋合いなんてない筈だ。

 

「そ、…そうかな? あの…風のサーブでいいのかな? それのおかげで先輩も最後決められたし、ヒッキーもちゃんと活躍したと思うよ! うん!」

 

「まぁ、あなたのあの斜め下すぎる作戦が勝ちを繋いだのは事実ね。残念ながら」

 

 いやでも実際風来るよーって言っただけだけしなぁ…。なんだか過大に評価されているようで、ちょっぴり居心地が悪い。雪ノ下に至ってはいつも通り毒気たっぷりだったけど。

 

 だけど…、戸塚の助けに少しでもなれたというなら良かったなー…なんて、俺は柄にもなくそう思った。

 

 思っていたよりも早く玄関口にたどり着く。人気が無くなっていくにつれて、何だか無性に安堵してしまうのはプロぼっちである俺の性か。女子は着替えがあるそうで、奉仕部の部室に一度戻るらしい。二つの校舎を繋ぐ連絡橋の前で俺達は解散した。

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 さて、この後どうするか…。解散して今は俺一人になったのだが、やることもなく正直暇だ。「やることがないなら教室にでも戻ってろよ」と、思った方もいるだろうが、そういう訳にもいかないのである。昼休みの途中でなんて、一番教室に戻りたくないタイミングだ。

 

 なんてったってマジで目立つ。マジで。あの教室に入った時に一斉に向けられる視線といったらもう……。人の心なんてものは視線一つだけでどうにでも傷ついちゃうもんなんだよ?

 

 いつも通りスルーしてくれよな……こういう時だけ注目浴びたないわ。そんなぼっちのメンタルの為にも、教室の方々、どうか今後は気にせずに、そのまま自身のケータイに永遠と向き合っててくれと切に願う。

 

 …まぁ、今日はいつもよりは教室に人はいないだろうが、行きたくないものは行きたくない。

 

 だけれど、かといってすることも当然なく、とりあえず正面の窓から、喧騒の絶えないテニスコートをただただ眺めた。賑やかで華やかしい声達は、三階であるにもかかわらず鮮明に俺の耳の穴まで届いてくる。うるせぇ。

 

「あれ? えっと… 比企谷君だっけ?」

 

 ふと、何者かに声をかけられた。まさか人に話しかけられるとは微塵も思わなかったため、その声自体には聞き覚えがあったにもかかわらず、咄嗟に名前が浮かばない。まぁ俺の場合、知ってる名前自体がそもそも少ないけどな。

 

「……城廻先輩?」

 

 そこにいたのはかなり意外な人物だった。彼女は城廻めぐり先輩。我らが総武高校の現生徒会長を努めるバリバリの有名人だ。俺は奉仕部に入部する際、一度顔を合わせたことがある。

 

「うん、久しぶりだねっ! 確か…、ちょうど一ヶ月前位にも一回会ったかな? 合ってる?」

 

「合ってますよ。確か春休み明けてすぐだったはずなんで」

 

 そうか、もう一ヶ月も経ったのか…。なんだかここ最近は、去年よりも時間の流れを速く感じる。ちょっと前まで、一ヶ月なんて長いものだとばかり思っていたのに、今はなんだか早いなぁとすら感じるのは、俺も歳を重ねたという事なんだろうか。

 

 確かに小学校の頃とか一日すんげえ長かったもんなぁ…。そしてきっとこの先も、こく一刻と一日という時間は短くなっていくのだろう。人間は時間ですら平等に与えられてなどいないのである。

 

「そうだよね~! 良かった~! 違ってたらどうしようと思ったよ~」

 

 心から安心したのか、彼女はほんわかな笑顔を満面に咲かせた。その表情をみていると、自然と強ばった肩の力がずるずると身体から抜けていく。すげぇな…。なんというか癒される…。これが『めぐりっしゅ』効果って奴なのか……。(今命名)

 

「でも、よく俺の名前分かりましたね? 言っても最後に会ったのは一ヶ月前でしょう?」

 

「いいや、実は私自身も名前を覚えるのは苦手なんだ~。直さなきゃなっていっつも思うんだけど…。あ、でも比企谷くんや雪ノ下さんの事は、ちゃんと覚えてるんだよ。鳴上君がよく奉仕部の事話してくれるからそれでなんだけど…。比企谷くんの事、随分気に入ってるみたい」

 

「そ、そうなんすか」

 

 えぇ…。俺のどこを気にいったんだよ…。人から嫌われる事ならば慣れっこではあるのだが。それに、俺は彼に気に入られるような事をした覚えなど毛頭ない。やっぱりどうにも、あの先輩は掴みどころがないなと、俺はただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

「うんうん。すっごいよく話してくれるよ! なんか楽しそうな部活だよねー!」

 

「そうっすかね…。基本めんどくさいだけっすよ。色々やらされますし…」

 

「へぇ…。なんか奉仕部も色々と大変そうだね? でもでも、そういうめんどくさいなーって思うような事でも、やってみたら案外楽しくなってくるものじゃないかな? 生徒会だってそうだもん。基本的に雑用ばっかりやらされてるけど、それが妙にやりがいがあるっていうのかな」

 

「いや、それもろ社畜じゃないすか…」

 

 学生時代に働き盛りとか絶対に勘弁。特に、無賃労働なんぞに喜びを見いだしてしまったら、一生相手のいいように使われるのが目に見えている。専業主夫を目指すことこそが最善であり最強であることを、俺はここに改めて宣言したい。

 

「はははっ! なんかそれ比企谷くんらしいねっ! で、そんな比企谷くんはここで何してるのかなー?」

 

「なにって…。まぁ特になにも…。強いていえばずっと外をボーッと見てましたけど」

 

 俺はすうっとテニスコートの方向を指さした。「何かあるの?」と、興味深そうに城廻先輩は窓から外を見渡すと、その顔がみるみるうちに驚愕のそれに変わっていく。

 

「ええっ! 何この人の集まり様っ!? ……あー、だからさっきから校内に人がいなかったんだ…」

 

 どうやら城廻先輩はこの騒ぎを知らなかったらしい。三階のここまで声は聞こえてきてるのになんとも不思議だ。名探偵の俺の推理では、生徒会の仕事でもしていたんじゃないかと推理しているが、その真相は不明である。

 

「すごい…。あ、あれ、真ん中に鳴上くんがいる! もう一人は葉山くん…かな? なんていうか、すごいね……」

 

 場面はちょうど渦を巻くように集まった大勢の生徒達の手によって、葉山や鳴上先輩が空高く胴上げされているところだった。ワッショイ!というベタな掛け声が妙に足並みを揃えている。何も知らない人がこれを見たら、何かしらの一大イベントでもあるのかと勘違いしてしまいそうだ。

 

「あー……。まぁ、圧巻ですよね」

 

「うんうん。こんなに一堂に人が集まるなんて、まるではるさんでもいるみたい。みんなすっごい盛り上がってるね」

 

 何処か懐かしむような声音で先輩はそう呟く。城廻先輩の言う『はるさん』がいた時もこんな感じの事があったのだろうか。なんとなくだが、その人物にはお目にかかりたくない。

 

「まぁでも、生徒会長としては流石にこれは止めなきゃだよね~。みんなには水を差すようで申し訳ないけど、このままじゃ収拾つかなそうだもん」

 

「一人でいくんすか? それは流石に――」

 

「いやいや、流石に他の人も連れていくよ~。今日は生徒会室に役員が何人かいるはずだから大丈夫っ! ありがとね」

 

 窓から身体を離して、俺に背を向けて階段の方向に軽やかに近寄っていく。そのまま下の階に続く階段に差し掛かって、今まさに俺の視界から外れようとした時、何かを伝える事を思い出したのか、その足取りを止めた。

 

「ちなみに、さ。……比企谷くんはああいうのって嫌い?」

 

「嫌いというか…。まぁ絶対混ざりたくはないっすね」

 

「そっかそっか。……でも、意外とこういうのも加わってみたら案外いいものかもよ? 今からそれを止めにいく私が言うのもちょっとあれなんだけどね」

 

 俺は無意識に唇を噛んだ。

 

「……そう……なんですかね。まぁ、検討しておきます」

 

「うんうんっ! じゃあまたねっ!」

 

 答えに満足したのか、先輩は今度こそ俺の視界から消えていく。だが、俺は欠片も検討なんてする気などはなかった。

 

 だってそうだろ。俺がもしあの輪の一部に違和感なく溶け込んで、『みんな』の中で笑って楽しめるような人間なら、今頃ぼっちなんてとっくに卒業してる。

 

 むしろ、俺はあいつらが本当に楽しめているのかと疑問にすら思うのだ。輪になってよってたかって騒ぎたてて何が楽しいのか。どうしても俺には、それが空虚なものに思えてならない。

 

 きっと、そんな彼らの中では、先程の試合の結果なんて最早無いようなものなのだろう。敗北も、勝利も、等しく青春の一ページとして彩られていく。なんだよそれ。迷惑かけられた側の身からすればたまったものではない。

 

 けれども、『みんな』はそんな事はお構い無しに、大人になった時にあんなこともあったねー、なんて思い出や笑い話にいくらでも変えて魅せるんだ。

 

 おっと、誤解されないようにいっておくが、俺はそんな彼らを否定したい訳ではない。きっと彼らが共通して持ち合わせる『青春フィルター』なるものを通せば、世界はきっと変わるのだ。

 

 だからきっと、それを持ち合わせていない俺だけが異端で、彼らとは全く違う世界線にいるんだろう。このたった一枚の窓が、俺と彼らを決定的に断絶していた。

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

>5/11(金) ー放課後ー

 

 

 俺が部室のドアを開けると、雪ノ下はいつもと同じ場所で、平素と変わらぬ姿勢で本を読んでいた。戸の軋む音に気づくと、顔を上げる。

 

「あら、今日はもう来ないと思ったわ」

 

「いや、俺も休もうと思ったけどな。ちょっとやることもあったからさ。ほれ、戸塚」

 

 俺は後ろからちょこちょことついて来ていた戸塚を部室に招き入れた。……やばいな。部室に入ってくる動作の一つ一つがもう可愛い。思わず入り直してみてくれとか言いかける所だった。

 

「そーいや、由比ヶ浜と鳴上先輩はどうした? 二人もいてくれるとよりいいんだが…」

 

「由比ヶ浜さんは今日は三浦さんたちと遊びに行くのだそうよ。鳴上先輩はアルバイトで来れないみたいね」

 

「へぇ…それは意外。…でもないな」

 

 昨日のテニス以来、傍目にもわかるように三浦の由比ヶ浜に対する態度も柔らかくなった。由比ヶ浜と三浦の関係性は、以前とは比べ物にならない位改善されたと思う。

 

 鳴上先輩はアルバイト。相変わらず多忙の限りを尽くしているなぁ…と感心してしまう。ただ、彼がどんなアルバイトをしているのか、転校してから今日までのこの短い期間に、一体どれほどの交遊関係を築いたのか、俺は何も知らない。

 

「それよりどうして戸塚さんが?」

 

「えっとね…。テニスの事で、改めてみんなお礼したいなって思って。あのテニスの試合があってから、部員のみんなもやる気になってくれたみたい」

 

 そう、今日の昼休み。俺と先輩とでテニスの特訓を引き続き行っていると、戸塚の部活仲間も次々に練習に加わってきてくれたのだ。

 

 その後の練習の雰囲気も悪くなく、戸塚の依頼である部活内の空気の改善は成されたといっていい。きっと、俺達の手伝いはもう必要ないだろう。俺としては少し…。いやかなり寂しかったりもするが、戸塚の更なる健勝を祈るばかりだ。

 

「そう、良かったわね。でも、お礼の方は気にしなくても大丈夫よ。私達に出来ることをしただけだから」

 

「ううん。そういう訳にはいかないよ。なんというか、昨日の部活に今日の昼休み…、久しぶりにテニスが楽しいなって心から思えたんだ…」

 

 このように語った戸塚の表情は、言葉通りに日に日に増して生き生きとしていっている。明確に打ち込める何かを持っている戸塚を、俺は何だか、ひどく羨ましくなってしまった。

 

「邪魔するぞ」

 

 突然、がらっと戸が開く。

 

「……はぁ」

 

 雪ノ下は諦めたのか、額を軽く押さえてため息をついた。まぁ……落ち着いた空間でこうもいきなり戸を開かれたら口を酸っぱくして言いたくもなるよな。

 

「平塚先生。入るときはノックしてくださいよ」

 

「ん? それは雪ノ下のセリフじゃなかったか? 何やら珍しい客人もいるようだが」

 

 平塚先生は不思議そうな顔をしながら、手近にあった椅子を引くとそこに座った。戸塚は先生に軽く会釈を交わす。

 

「何か、御用ですか?」

 

 雪ノ下が問うと、平塚先生は少年のような瞳を見せる。

 

「よくぞ聞いてくれたな。実は、今日はあの勝負の中間発表をしてやろうと思ってな。昨日の放課後、部活途中で鳴上を呼んだろ? その間、私達はこれを綿密に吟味していたのだ。滾るような熱い議論だった…」

 

「ああ、あれ…」

 

 そんな対決の事なぞ、すっかり忘れていた。確か先輩だけは審査員枠だった筈だが、こんな事に付き合わされていたのか…。平塚先生の謎めいた熱意に振り回される先輩の姿が、ありありと想像できた。

 

「議論の結果、現在の戦績は全員にそれぞれ一勝ずつだ。私としては依頼者計四人での雪ノ下二勝…としたかったのだな…。話し合いの結果こうなった」

 

「いや、確か相談者は三人しか来てないはずじゃ」

 

「何をいうかっ! 私のカウントではちゃんと四人いるのだよっ…! くっ…今度こそはしっかりと言い負かせてやらねば…」

 

 うっわー。この人めんどくさいなぁ…。審査員の枠の方が大変な気さえしてくる。

 

「ん? 比企谷くんたちは何かの勝負でもしてるの?」

 

 あぁ、そっか。戸塚は何の事だかてんで分からないよな。まぁ当たり前だ。当事者であるらしい俺や雪ノ下ですらさっぱり分かってないんだから。

 

「あぁ、そうらしいぞ…。全容は平塚先生のみぞ知るって感じだが…。先生、そこんとこ、いい加減に詳しく教えてくれても――」

 

「断る。なんでもかんでも明確にする必要はないからな。定期テストとは訳が違うんだ。採点基準なんてものは、君たちが知らないくらいなのがちょうどいいんだよ」

 

「はぁ…。そっすか。まぁ別に何でもいいっすけど」

 

「それにだ。私だけが規則、いわば掟の全てを知っているなんてっ…! なんだかちょっと……かっこいいじゃないか」

 

「子供ですか」

 

 材木座と発想のベクトルが一緒じゃねぇか。

 

「特にかっこいい要素もないですし…」

 

 俺と雪ノ下がばっさり斬って捨てると、平塚先生は少しばかりしゅんとした。

 

「全く…。君たちは人を攻撃するときは仲がいいな…。長年の友人のようだよ」

 

「どこが…。この男と友人になることなんてありえません」

 

 そう言って雪ノ下は肩を竦める。目線が怖い。

 

「比企谷、そう落ち込むな。蓼食う虫も好き好きという言葉もある」

 

「そうね…。いつか比企谷くんを好きになってくれる昆虫が現れるわ」

 

「せめてもっとかわいい動物にしろよ!」

 

 おっかしいなぁ…。女の子と話すのってもっときゃっきゃうふふしてもいいもんじゃねぇの? 俺上手いこと言われてサンドバッグにされてるだけなのおかしくない?

 

「比企谷くん…! ぼ、僕は友達だから、ね…っ?」

 

「と、戸塚ぁぁ…!!」

 

 ああ、そうだよ、これだよこれ。荒れ狂う台風の無風地帯、砂漠の中のオアシス、俺だけのサンクチュアリー、そんな君はユーアーマイエンジェル……。

 

 うっかり恋の深い谷間に落ちてしまいそうになるが、信じられるか? 戸塚って男の子なんだぜ? どう考えても設定を間違えているとしか思えない。ラブコメの神様って馬鹿しかいねぇんじゃねぇのか。

 

 …でも、そんな間違いだらけの青春も、どこか悪いもんじゃないなと思える自分がいて。彼らのような輝かしい青春模様では決してないかもしれないけれど、俺もこの学生時代を、いつか懐かしく思えたりする時がくるのだろうか。

 

 仄暗いモノクロームの世界が、ほんの少しだけ色づいたような気がした。

 

 

 

to be continued.




タイトル日本語訳
『光に満ちた青春とは言えないけれど。』


ヒッキー視点書くの難しい…。テニス回って原作だとあの試合で終わりみたいなところがあったので、今作ではその依頼の終着点を設けてます。

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