All I Need is Something Real 作:作図
「ご注文はお決まりでしょうか?」
席についた俺達の元に、ギャルソンの男性が頭を一つ下げて脇についた。当たり前だが俺達な未成年で、アルコールの類いは飲むことが出来ないため、ノンアルコールのカクテル、いわばジュースの中から各自が興味を引かれたものを注文していく。
注文された内容を繰り返し読み上げ齟齬がない事を確認すると、男はバーカウンターの方へと戻っていった。バーカウンターには長い髪を結んだ女性のバーテンダーさんが立っており、注文を受けると慣れた手つきでカクテルを作り始める。高級店らしく立ち振る舞いがピシッとしており、俺も学ぶ所が大いにある。
「今直斗くんが頼んだのって……えっと……」
「? ヴァージン・ピニャ・コラーダの事ですか?」
「そうそれ! えっと、ヴァ、ヴァージン…? ピ、ピ、ピアノ? コラ……?」
「ヴァージン、ピニャ、コラーダです」
「ピニャ……コラーダ?」
さっぱり分からないといったようにりせは首を傾げる。
「ピニャ・コラーダ。スペイン語で『裏ごししたパイナップル』という意味ですね。プエルトリコが発祥のカクテルです」
「プエルトリコ……。正直言われてもあんましパッとしないなー」
「プエルトリコは――」
「いやいやいや、大丈夫っ! もう頭パンパンだもん……」
「流石名探偵、詳しいな」
「探偵なら当然です」
「探偵ってどんだけスーパーマンなの…?」
「それに僕の場合、以前からバーやクラブにはよく足を運んでいたので…」
「あーそれなら納得かも。修学旅行も一人でエスカペイドに行ってた位だもんね。こういうお店が好きなのかなーって思ったけど」
「好き……。そうですね、確かに嫌いではなかったです。けど、改めて考えて見ると、あの頃はこういったお店に通い詰めることで、少しでもカッコいい『大人』の『探偵』に近付こうっていう、意地の様な心持ちで通っていたような気がします。……今思えば笑っちゃいますけどね」
そう言って直斗は、憑き物が落ちたような穏やかな笑みを浮かべた。
「だから、ちゃんと気付けてよかった。僕がまだまだ『子供』だったって事に。おかげでこういったバーも、心から楽しめるようになった気がします」
「良いことだ。それなら尚更、今日は飲み明かそうか」
「そうですね。お付き合い下さると嬉しいです」
「そうと決まれば、私もバンバン飲んじゃうよ? 桐条さんと直斗くんの奢りみたいなもんだし」
「えっと……バンバン飲むのはちょっと…。本当、酔うのだけは勘弁してくださいね? そしたら置いていきますから」
「だ~いじょうぶだって! そもそも、アルコールは入ってないし、ジュースみたいなもんじゃん? まぁ、先輩は天然な所結構あるから不安なのは分かるけど…」
「いえ、僕はどちらかというと久慈川さんの方が心配です…」
「ちょっ!? ひどーい直斗くんっ! 私だってこういう場所は慣れっこなんだからね? 先輩にだって負けないんだから!」
「ふっ…。四六のスナックで養った力、見せてやる」
「いつから勝負になったんですか……」
俺達が会話に花を咲かせていると、ショートカットの女性の店員がこちらの席に近付いてくる。彼女は静かに俺達の脇につくと、中身の入ったシャンパングラスを三つ俺達の机の上に置いた。
「ごゆっくりどうぞ」
「お、きたきたっ!」
「それでは先輩、お願いします」
りせと直斗の視線が俺の方に向けられた。乾杯の音頭を頼まれているのだと分かり、俺は一度席をその場で座り直す。
「せーのって言ったら、オーな?」
「あ、それ千枝先輩のコールじゃん。なっつかしー!」
「でもそれ…。流石にここでは場違いなのでは…?」
「冗談だ。二人とも、グラスを持ってくれ」
俺の言葉を受けて、りせと直斗が各々のグラスを持った。それぞれ違うものを頼んだので当たり前といえば当たり前だが、香りも色も、グラスの形もわずかではあるが異なっている。
「それじゃ、乾杯!」
「「乾杯!」」
乾杯の声に合わせて、お互いにグラスをカチンと合わせてから口をつける。俺が注文したのは『コンクラーベ』と言うもので、黄色に近い色合いに、グラスにささったオレンジがよくマッチしているカクテルだ。
生憎こう言った知識には乏しい為、コンクラーベという名前のインパクトだけでこれを選んだのだが、口当たりもよく非常に飲みやすい。りせや直斗も、各々が頼んだ品を堪能しているようだった。
「ん~~美味しい~~!!」
「ああ、美味しいな。自分の中の根気も上がっていくのを感じる…」
「ど、どんな味なんですか……それ…? しかし、確かに話に聞いたとおり美味しいですね。雰囲気もいいし、桐条さんが勧めてくれたのもわかる気がします」
「セレブ、だな」
桐条さんに改めて感心しながら、俺はもう一口、もう一口と飲み進めていく。見れば、あっという間に俺とりせのグラスは空になってしまっていた。直斗のグラスが半分以上残っているのにもかかわらず、だ。
「ぷはーっ! 次はこのシンデレラって奴、飲んでみたいかも❤️」
「俺もおかわり、ストレートで」
「ちょっ! ちょっと待って下さい! 二人とも、いくらなんでもペースが早すぎませんか?」
「え、そう? いやでも美味しいしー」
「俺の本気は、まだまだこんなもんじゃない…」
「ほ、ほら! こういったお店では風情を楽しみながら飲むのがいい訳ですし。ともかく、おかわりはもう少し後にしましょう。ね?」
直斗は必死に彼女らのおかわりを留めた。それもそのはず、直斗からすれば彼らは前科持ちであるし、今この場で再び二人が場酔いしてしまっては堪らない。騒ぎにもなってしまうだろうし、注文したカクテルを味わうどころではなくなる。何より、帰宅に凄い困る。前回は花村先輩や里中先輩が酔ったりせ達を運んでくれたが、頼れるあの二人は今はいないのだ。
「まぁ、直斗くんがそこまで言うなら…」
「俺の本気は、今日はお預けだな……」
「そうして下さい…」
注文を取り止めた様子の二人を見て、直斗は人知れず安堵に浸った。
* * * * * * * * * * * * * * *
エレベーターが降下していくにつれて、ガラス越しに見える幕張の夜景がゆっくりと隠されていく。最上階からは見えていたはずの東京湾や湾岸部を走る車のテールランプは、街に呑まれて見えなくなった。
「うーん、美味しかった~!」
「お二人とも酔わなくて何よりです…」
「当然だ」
「心配しすぎだってーっ! もうっ!」
短針の指す位置は十五度ほど動き、現在の時刻は夜の十時二十分。バーでの一時は毎日会えていたあの頃のように盛り上がり、三人の会話が終始途切れる事はなかった。俺が今メイド喫茶で働いている事などを話した時、とても驚かれた事は記憶に新しい。
「しかし、まさかバーでお腹いっぱい食べるなんて…。初めての経験です」
「飲み物以外も充実しててびっくりしちゃったよね。ピザも凄い美味しかったし」
「カツサンドもなかなかの絶品だったな」
「それ!」
ポーンという音と共にエレベーターの降下が止まると、扉が音もなく開き、目の前には豪勢なエレベーターホールが広がる。
するとその豪勢なホールの中に、本来ならばここにはいるはずのない人物が壁際に立っていた。彼の格好は学校で見る時と違ってきちんと整えられており、この場の雰囲気も合わさって少しだけ大人っぽく見える。彼も俺に気付いたようで、どこか間の抜けた声を上げた。
「……は? え? 鳴上先輩?」
「比企谷じゃないか。こんな所で何してるんだ?」
「いや、それはこっちのセリフなんすけど…」
「あれ? この子、先輩の知り合い?」
後ろから着いてきていたりせも俺達の話に加わってくる。心なしか比企谷の眉がわずかに引き攣ったように見えた。
「ああ。彼は比企谷。さっき話した部活の後輩の一人なんだ」
「ええっと……確か奉仕部だっけ? 四人で活動してるっていう…。へぇー、この子がそうなんだ!」
「あの鳴上先輩、この人達は?」
「前の学校の俺の後輩だよ。ここで会う約束をしてたんだ」
「は、はぁ…」
「ヒッキー! お、お待たせ…」
そんなやり取りをしていると、少し照れたような声音が横から聞こえる。見れば、深紅のドレスを纏った由比ヶ浜が俯きながらそこに立っていた。着なれない服で落ち着かないのか、彼女は俯き、赤いカーペットの敷かれた床をもじもじと見つめている。
「なんだ由比ヶ浜か。もしかしてまた知らん人が増えたのかと思ったわ」
「ちょ、知らん人って何よーっ!」
「つーか、あいつはどうしたんだよ?」
「ゆきのんの事? それなら今はトイレに行ってるよ。もうちょっとしたら来るんじゃないかなー。あれ、鳴上先輩も来てたんだ! やっはろー!」
「やっはろー!」
由比ヶ浜が好きないつもの挨拶を俺も返すと、りせがちょんちょんと俺をつつく。
「ねぇねぇ先輩、あの子も先輩の知り合いなの?」
「そうだけど」
「ふーん。………なーんか先輩は相変わらずだなー」
どういうことだ? そうりせに問おうとした矢先、由比ヶ浜が唐突に素っ頓狂な声を上げた。
「え、う、嘘っ!?」
「は? 何、どしたん?」
「どしたんじゃないよ知らないの!? え、ええ!? えええええ!? ど、どどどういうことなの? え、何!? ヒッキーまさか知り合いなの?」
由比ヶ浜が比企谷の両肩を掴んで、ぐわんぐわんと前後に揺らす。しかし、その目線は終始りせに釘付けになっている。
「いや俺も会ったばかりだけど…。つか痛い痛い! 痛いからっ!」
「あっ……ごめん」
「ふぅ…。何お前、ついに壊れたん? どういう事ってのはこっちが言いたいんだけど…」
「あ、あはは……。え、えっとね? 私もなんかまだ信じられないんだけど……こ、ここここの人はね…? い、今人気絶頂中のアイドルで…! ああっ! え、えとその」
彼女は慌ててケータイを取り出したかと思うと、それについたきらびやかな装飾の一つをりせに見せた。
「あ、これ。私のグッズ…。もしかして、使ってくれてるの?」
「は、はいっ! 愛用してて……えへへ……。そ、その、いつも応援してますっ!! ファ、ファンですっ! 大ファンなんです!」
由比ヶ浜は比企谷に向けて説明をしていたはずなのに、いつの間にやらりせに向けたファンコールへと変わっていた。言葉の端々から緊張しているのがよく分かる。
それを聞いたりせは嬉しそうに微笑んだかと思うと、由比ヶ浜の肩をポンと叩く。惚けた顔で「ふぇ?」っと声を漏らす由比ヶ浜に、りせは由比ヶ浜の唇に人差し指をたててこう言った。
「ふふっ、いつも応援してくれてありがと❤️ でも、ここで会ったのは内緒だよ?」
「も、もちろんですっ! す、すごい……。本当に『生りせちー』だ……! 可愛い……! え、こ、これ、あたしの夢じゃないよね!?」
「夢じゃないよ。貴方も先輩と同じ学校の子なんだよね? 同年代同士、よろしくねっ!」
「はっはいっ!? よ、よろしくお願い…します」
由比ヶ浜は今までに見たことのないほど慌てており、その声は裏返ってしまっている。俺がもう慣れてしまっているのもあって、彼女の反応がとても新鮮に写った。
「流石は久慈川さんですね…。ファンの扱いが完璧です」
「ああ、流石だな」
りせは持ち前の明るさで、由比ヶ浜との距離をどんどんと詰めていく。由比ヶ浜の緊張も少しずつほぐれていき、あっという間に二人は仲良くなっていった。
「え、やっぱりこの人って……マジもんのアイドルなんすか? そういえば『りせちー』って……小町が好きとか言ってたような……」
「そのりせちーで合ってるぞ」
「…………先輩の人脈ってどうなってんすか」
「別に普通じゃないか?」
「いやいやいやいや、絶対普通じゃないですって!?」
「比企谷くんうるさいわよ。何やら人も多いようだし…」
そう言って今度は漆黒のドレスを身に纏った雪ノ下が現れる。着なれない様子を見せた由比ヶ浜とは対照的に、彼女の立ち振る舞いは凛としており、こういった場にも慣れているようだった。
「あー雪ノ下か。遅かったな」
「あなたね…。何か気の効いた一言ぐらいは言えないのかしら…?」
「俺にそういうの期待すんなっつの。そういうのは先輩担当だろ」
「よく似合ってる」
「……だとよ?」
その言葉を受けた雪ノ下は一応は満足したらしかった。
「ありがとうございます。鳴上先輩も来てらしたんですね。比企谷くんからは来れないと聞いていたのだけれど…」
雪ノ下が比企谷に刺すような冷たい目線を送る。
「いや、比企谷が言ったので合ってるよ。ここで会ったのは本当にたまたまなんだ」
「偶然……? こんな所で…?」
「気持ちは分かるけど本当に偶然なんだ。ここの最上階にバーがあるのは知ってるか? 俺達はそこでお茶してて、その帰りに比企谷と会ったんだ」
「お茶?」
「………飲み会?」
「言い方の問題じゃないです。なんでわざわざそんな所で…。まさか。飲酒でもしていたんじゃ…」
「いや、もちろんすべてノンアルコールだ」
「……なるほど。一応は分かりました。えっと…そちらにいるのは…」
雪ノ下が由比ヶ浜と話しているりせと直斗に視線を送ると、直斗が一歩前に出てくる。
「お久しぶりです。雪ノ下さん。前にお会いした時は小学生の時でしたから、こうして会うのは五年ぶりでしょうか?」
「白鐘さん!? こ、こちらこそお久しぶりです。でもまさか、こんな所で会うなんて…」
「それを言うなら僕もですよ。ええっと……雪ノ下さんも先輩とは知り合いなんですよね?」
雪ノ下も直斗も、何やらお互いの事を知っている風だった。気になった俺は二人に「知り合いなのか?」と尋ねてみると、その問いには直斗が答えてくれた。
「ええ。以前、一度だけ社交パーティーでご一緒した事があるんです。僕の家は結構名門ですから、少なからずこういった機会があって」
「そうか。直斗はお嬢様だったな」
「せ、先輩っ! そ、そういう言い方はやめて下さいっ///」
「なんだ、照れてるのか?」
「なっ!?/// て、照れてなんかないですっ! からかわないで下さい!?」
直斗の顔ら朱色に染まり、今にも湯気が出てしまいそうだ。助けを求めるように直斗はりせの方を見やるが、彼女は由比ヶ浜との話に盛り上がっており、援助は期待できそうにない。
やり取りを傍観していた比企谷は、訝しげな顔でボソッと呟いた。
「お嬢……様?」
「比企谷君……気付いていなかったの? 白鐘さんはれっきとした女性よ」
「は? いやでもあの服――」
「彼女にも、彼女の都合があるのよ」
「はぁ……。戸塚といい俺、この世界の性別の概念が分からなくなりそうなんだが…。しかも白鐘って言ったら、あの有名な『探偵王子』だよな? 探偵にアイドルって……。先輩、どこで知り合ったんですか?」
「まぁ、同じ学校だったからな」
「なんちゅう濃いメンツすか、それ…」
なんだそら、と比企谷は言いたげだ。しかし、比企谷の納得のいくような答えを俺は持ち合わせていない。まさかテレビの事を言う訳にはいかないからである。
「まぁ気にするな」
だから俺は、ひたすらにその主張を突き通した。
* * * * * * * * * * * * * * *
「それより、比企谷達はどうしてここに? いやなんとなく予想はついてるけど…」
「まぁ、その予想通りで依頼っすよ。でもなきゃ俺、絶対こんな所来ないっす」
「うーん……えーと奉仕部だっけ? 先輩からもちょっと聞いたけど、それって部活でしょ? こんな高級ホテルに来なきゃいけないような依頼が来るものなの?」
「それは俺も気になってたんだ。比企谷から聞いた限りだと、今の依頼は『川崎さんの捜索』なんだろ? ただでさえここは高校生が入りにくいような場所だ。本当に川崎さんがいるのか?」
不思議そうに尋ねたりせに、被せるような形で俺も言った。彼らとは昨日もメイド喫茶で遭遇しているが、その会う場所が高級ホテルというのはどうなんだ……? あまりにも偏りすぎている。
「川崎さんの捜索…。まぁ、間違ってはいないけれど、なんというかすごい大雑把ですね。比企谷君の説明不足と言ったところかしら…。一度、改めて説明しますと――」
雪ノ下はそう言うと、川崎沙希という女子生徒が最近帰りが遅い事、彼女は深夜の時間まで働いており、年齢を詐称している可能性が高いこと、名前に『エンジェル』がついたお店で働いている可能性があることなど、事件のあらましを簡潔に教えてくれた。
「なるほどな。それで昨日は『えんじぇるている』に来たって訳か」
「流れで僕達まで聞いてしまいましたが、部活動にしてはなかなかに深刻な相談が来るんですね…。年齢詐称の可能性まであるなんて…」
「結衣ちゃん結衣ちゃん。その川崎さんって人の特徴とかって分かるかな? 私達、さっきバーから出てきたばかりだし、もしかしたら参考になるかも」
りせがそう尋ねると、由比ヶ浜がうーんと唸りながらも川崎さんの特徴を挙げていく。由比ヶ浜曰く、彼女は身長が高く、クールな印象を持ち、かつ髪の毛が長い女性だそうだ。
「髪の毛が長い…。それなら一人、心辺りがありますね」
「本当か? 直斗」
「ええ。バーで働いていた女性は確か二人。そのうち、髪の毛を結んでいたのは一人だけでした。彼女はクールで背の高いという条件にも当てはまっていますし、まずはバーカウンターの方を確かめてみるといいかもしれません」
「うわ…。直斗くんさっすが…」
「流石に確証までは持てないですけどね…。それと、雪ノ下さんにこれを」
直斗は懐から財布を取り出すと、先ほども使った優待券を一枚差し出した。
「上のバーに立ち寄るのなら使って下さい。この一枚しか残って無いんですけど…」
「え、いやそんな、受け取れないですよ…」
「遠慮しないでください。それに、僕が持っていても使う機会がありませんから」
「………では、そうさせて頂きます。何から何までありがとうございます。情報も得られた事だし、そろそろ上に行きましょうか」
「分かった。でもゆきのん! もうちょっとだけ待って!」
由比ヶ浜は雪ノ下に待ったをかけると、バタバタと自身の鞄の中からペンの付いたメモ帳を取り出し、白紙のページを開いてりせに見せた。
「りせちゃん! 今日は色々と話してくれてありがとうっ! 最後にサインを貰ってもいい?」
「もっちろん! また、色々と先輩の話を聞かせてね?」
りせがそのメモ帳を受けとると、慣れた手先でペンを動かし始める。その手の動きが止まるとメモ帳をパタンと閉じ持ち主に返した。由比ヶ浜は心から嬉しそうだった。
「りせちゃん……! ありがとう! 宝物にする……!」
「ありがとっ! これからも応援してくれると嬉しいな」
「もちろんっ! もちろんだよっ!」
「本当なら俺も手伝いたいところだが、時間が時間だ。俺はりせと直斗を送っていく。比企谷、雪ノ下と由比ヶ浜の見送りは任せた」
「うす」
その時、ちょうどエレベーターがこのフロアにやってくる。人がいなくなり空になったそのエレベーターに、比企谷、雪ノ下、由比ヶ浜の三人は乗り込んだ。
「あと、依頼がどうなったのか、落ち着いたら連絡してくれると嬉しい。ただ、明日は学校もあるから遅くならないようにな」
「もちろんです。久慈川さんも白鐘さんも…ありがとうございます」
「いえいえ。
「……え、ええ。ではまた」
雪ノ下が中にある閉ボタンを押すと、扉が音も無く俺達のいる空間を分断し、比企谷達三人の姿は見えなくなった。
to be continued
タイトル日本語訳
『運命的な出会い』
ちなみに久慈川りせのアルカナは『恋愛』
白鐘直斗のアルカナは『運命』です。
(まぁ原作通りではありますが…)