All I Need is Something Real 作:作図
>5/1(火) ー放課後ー
あんなに咲き誇っていた桜が、いつの間にか今や見る影もなくなったように、あっという間に四月も終わった。
一般に五月と聞けば、上旬にある大型連休であるゴールデンウィークがまず思い浮かぶであろう。残念ながら今年の連休は四日ほどしかないため、できるならばもう少し休みが欲しい…。そう思ってしまう人も多いと思う。
かくいう俺はゴールデンウィークは稲羽の仲間達と過ごすと随分前から決めていた。明日は午前授業であるため、午後からあちらに向かうつもりだ。
そんな事を考えていると、ふと、比企谷と由比ヶ浜の盛り上がった声が耳に入ってくる。そのまま聞き耳をたてていると、何やらクイズのような事をしているらしいと分かった。
「いくぞ由比ヶ浜。…第二問、打ち身でできてしまう内出血のことを何という?」
「青なじみ!」
「くっ!正解だ。まさか千葉の方言まで押さえているとはな…。では、第三問。給食のお供といえば?」
「みそピー!」
「ほう、どうやら本当に千葉生まれのようだな…」
「だからそう言ってんじゃん」
腰に腕をあてて「こいつ何言ってんの?」といった表情で由比ヶ浜は小首を傾げる。その横では雪ノ下が机に肘をついて、ため息をついていた。
「…ねぇ、今のやり取りに意味はあるのかしら?」
「もちろん意味なんてない。ただの千葉県横断ウルトラクイズだ。具体的には松戸―銚子間を横断する」
「距離みじかっ!」
「んだよ、じゃあ佐原―館山間にすればいいのか?」
「縦断してるじゃない…」
…なにやら会話の千葉県IQが高い。比企谷は千葉県好きを公表しているだけあって流石だという感じだが、他の二人もなかなかのものだと思う。
「あ、松戸っていえばさー、ゆきのん、なんかあの辺ラーメン屋さんがたくさんあるんだって。今度行こーよ」
「ラーメン…。あまり食べたことがないからよくわからないのだけれど」
「だいじょぶ! あたしもあんま食べたことがないから!」
「…え? それって何が大丈夫なのかしら? ちょっと説明してもらってもいい?」
そしていつの間にか話題はクイズからラーメンへと流れていく。比企谷はまだ問題を考えていたようだったが…。そっとしておこう。
しかし、こういう風に話題に挙がると、無性にラーメンが食べたくなってくるというもの。奉仕部のメンバーで外食というのもそういえばなかったはずだ。ここは、皆で一緒にラーメンを食べに行くのもいいかもしれない。
「それなら今日、奉仕部でラーメンでも食べに行かないか? …話聞いてたらお腹空いてきたし、どうだ?」
「いいですねっ! それっ! もちろんゆきのんも来るよねっ!?」
何の気なしにした提案ではあったが、由比ヶ浜は何やら大はしゃぎだ。テンションをさらに上げて、ぐいぐいと雪ノ下に詰め寄る。
「そんな、いきなりすぎないかしら…」
「いいじゃんいいじゃんっ! 行こうよゆきのーん!」
「由比ヶ浜さん近い…近いわ。……はぁ…。分かったわ、いくから、いくから離れてちょうだい」
雪ノ下は渋っていたが、由比ヶ浜に体を密着されると渋々OKを出した。一緒に部活をしてきて分かったことだが、彼女はなかなか押しに弱い。煽られた時も、すぐに乗っかってしまう辺り、意外と単純な一面もあるのかもしれない。
「ヒッキーも来るでしょ?」
「いや、今日は用事があるから無理だ」
「何を言っているの? あなたに用事なんてあるわけないでしょう?」
「失礼なやつだな本当…。それに俺にだってな、家でゲームするとかラブリーン見るとか色々やることあんだよ」
「つまり暇ってことじゃない…」
呆れたように雪ノ下が頬杖をついて首を揺らした。比企谷もラブリーン見るんだな…。と、俺はこの場違いな感想を抱きつつも、説得を試みる。
「用事があるなら無理は言わないが…。もしよければ来てくれないか?」
比企谷はラーメンが好きだと言っていたから、是非とも一緒に行ってみたいものだ。ただ、やはり来てはもらえないだろうか?…とも思った時、俺の予感とは裏腹に、すぐにいい返事が帰ってきた。
「…分かりました。行きますよ」
「えっ、ヒッキー…。なんかあたしが誘った時と態度違くない?」
「う、うっせー! …まぁラーメンは俺も好きだしな。たまにはいいかなって思ったんだよ。それに…、何か断れる気が全くしねぇんだよなぁ…」
この時、比企谷は無意識ながらも、鳴上から感じる菩薩のような、それでいてオカンのような、言葉には形容し難いスゴ味を感じ取っていた。比企谷自身でも不思議だったが、断るという選択肢はどうしても選びようがなかったのである。
その当の鳴上本人は、比企谷がそういった考えに陥っていたことなど気付くはずもなく…。『途中から聞き取れなかったけれど、とりあえず比企谷もラーメンに来てくれるんだな、やったぜ!』位にしか考えてなかった。
「でも先輩。どこのラーメン屋行くんすか」
それについてはもう決めてあった。実は千葉にきてからというもの、俺はあるラーメン屋に通いつめているのだ。もしかしたら皆も知っているお店かも知れないが、それでも自分の好きな店の味を、奉仕部の面々にも紹介したかった。
「皆行きたい所が無いなら、俺の知ってるラーメン屋でもいいか? ここからもそこまで遠くないしな。『はがくれ』っていうお店なんだけど」
鍋島ラーメン『はがくれ』*1。俺は修学旅行先の
「え、そんなラーメン屋ありましたっけ? 割とこの辺のラーメンは俺行ったんすけど…」
「あたしも知らない。新しく出来たのかな?」
「多分そうだと思う。二号店らしいし、割と最近出来たみたいだ」
「なら、そこでいいんじゃないかしら。今日は依頼者も来ないことだし、早めに解散にして行きましょうか」
我らが部長の声で早々に部活を切り上げて、俺達は目的の『はがくれ』に足を運んだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
はがくれの店内に足を運ぶと、美味しそうな豊かでコクのある香りが漂ってくる。外でポツポツと雨が降り始めているからか、店内の客の数はいつもより少ない。空いていたカウンター席に横並びで座り、他の三人にささっとメニューを手渡す。
ちなみにここ、はがくれはラーメンだけでなく
他の三人がメニューを決めるまでしばし待っていると、俺は厨房で働いている店員の中に、去年稲羽で知りあった一人の人物を発見する。仕事中の彼女の邪魔にならないように声をかけた。
「もしかしてあいか、か?」
「あれ、鳴上くん。ひさーしぶり」
青い顔に白いエプロンを纏った女の子。彼女は『中村あいか』。前に住んでいた稲羽の名店、中華料理屋『愛屋』の出前娘として有名だ。
「もしかして、ここも知り合いのお店なのか?」
「その通り。今日も今日とで修行中ー」
「そうか。流石だな」
あいかのフットワークの軽さには本当に驚かされるな…。稲羽でも、彼女はどんな時にどんな場所にいても、必ず出前を届けてくれることで評判だった。
それは本当に文字通りの意味で、ジュネスの店内(しかも二階)の中に出前を届けた事もあれば、学校のマラソン大会の最中に走者に水分補給用のペットボトルを支給したり、夏祭りの会場にありったけの氷を運んできた事すらもある。あの林間学校の時も彼女の出前が無ければ飯抜きになっていたところだ。
「ん? この子先輩の知り合い?」
「ああ。前の学校の友達で、中華料理屋の娘なんだ。あいかは相変わらず仕事熱心だな」
「……ありがと。今日は雨の日だから、私考案の新メニュー、『雨の日限定のスペシャルチャーシューメン』があるよ。大盛メニューだから注意ね。完食すれば無料だから、挑戦、待ってる」
「なるほど、じゃあ俺はそれで」
雨の日のスペシャルチャーシューメンか…。これもスペシャル肉丼と同じようにとてつもない量なんだろうか…?
「あたしは大盛は食べられそうにないなぁ…。他におすすめとかありますか?」
「女の子は、はがくれ特製ラーメンか、はがくれ丼が、おすすめ」
「そっか! ならあたしは特製ラーメンっ!」
「…私ははがくれ丼にしようかしら…。ラーメンはあんまり食べたことなくて…。それと、少なめでお願いします」
「まーいどー!」
「俺は先輩に倣ってスペシャルチャーシューメンで。大盛系も割と食べてるんで」
「大丈夫か? いや、俺も頼むのは初めてだけど、多分、いやかなり…。相当多いと思うぞ」
スペシャル肉丼の時のような量なら、完食は普通の人ではまず出来ないだろう。現に、肉丼の時は俺以外では里中しか完食していない。比企谷はラーメンをよく食べに行くと聞いているし、もし本当に大食いに慣れてるなら大丈夫だとは思うが…。
「でも雨の日限定なんですよね…? 俺、雨の日とか絶対外出しないんで、実質今日しか食えないんすよ」
「なるほど」
「スペシャルチャーシューメン二人前、まーいどー!」
あいかの家系ラーメン店らしい掛け声に、厨房のスタッフさんが「あいよっ!」と反応する。麺の茹でる音と匂いに食欲をそそられながら、メニューが到着するのを待った。
* * * * * * * * * * * * * * *
そして待ち続けること十分ほどか。
「おまーちどー!」
俺と比企谷が注文した、スペシャルチャーシューメンが届いた。とんこつ主体のこってりとしたスープに細いストレートな麺。柔らかそうな厚いチャーシューに、端に添えてあるほうれん草。山のように盛られたもやしもインパクト抜群だ。だがこのスペシャルチャーシューメンの真髄はそんなところにはあらず。
「せ、先輩…。何すかこのラーメンの量…」
「あ、あはは…。先輩もヒッキーも頑張って…」
「とても一人前の量ではないわね…。三人前位は優にあるのではないかしら…」
俺も、比企谷も、既に注文が届きそれぞれ食べ始めていた二人も、皆一様にスペシャルチャーシューメンの圧倒的な量と迫力に衝撃を受けていた。この瞬間に誰もが理解したであろう。このスペシャルチャーシューメンの真髄を。
まさしくこれは、全てを受け入れる『寛容さ』、正しくペース配分する『知識』、溢れるスープに突っ込む『勇気』、食べ続ける『根気』、それら全てがなければ完食できないであろうスペシャルチャーシューメンなのだ。
しかし安心してくれ。俺はかの『愛屋』のスペシャル肉丼も既に攻略している。今の俺にもはや敵はない。チャーシューメンも必ず乗り越えてみせるっ!
「比企谷、俺達ならきっと辿り着けるさ。このチャーシューメンの真実にっ!」
「なんでそんなに滾ってるんすか先輩…」
俺は対戦相手に決闘を申し込むように「いただきます」と一言。そしてひたすらに麺を啜った。比企谷も覚悟を決めたのか、鎮座するような麺の大海に飛び込む。
うん。美味い。特にほうれん草がいい味出している。量が多いので色々な食べ方を研究してみたが、麺やスープとほうれん草を共に絡み付けるように食べると、これまた格別なのだ。
「そうそう、鳴上くん。夏休みにはこっち戻ってくるの?」
「ああ、そのつもりだ。ゴールデンウィークにもそっちに行く」
「…そっか。ゴールデンウィークは私は修行でこっちにいるからいないけど…。夏休みは、また、出前手伝ってくれると、嬉しい*3。皆、鳴上くんが帰ってきたら、きっと喜ぶ」
「ああ、ぜひ手伝わせてくれ」
そして、ひたすら、ひたすら無言で麺を綴り続けて、俺はなんとか完食できた。底には『完食おめでとうございます』と行書体で書かれており、俺は大きな達成感に浸る。
「ご馳走さまでした」
「うそっ、もう完食したの!?」
「得るものの大きい戦いだった…」
「フードファイターか何かなんすか…。俺…もうしんどいんすけど…」
「なら俺も少し貰おう。あ、でも…。あいか、これって手伝っても大丈夫なのか?」
「鳴上君はスペシャルを完食してるからOK。ただ、他の二人は手伝っちゃ駄目ね」
「心配しなくとも、私はこのはがくれ丼だけでもうお腹いっぱいよ…。まったく、一体どんな胃袋をしているのかしら…」
あいかから小皿を貰い、比企谷からスープと麺を頂く。彼の残りの量は四分の一といったところか…。初めてでここまで食べているのはかなり凄いのではないだろうか。これならぎりぎり、二人がかりでなんとか完食出来そうだ…。
* * * * * * * * * * * * * * *
「ご…、ご馳走さまでした」
「お粗末様でしたー。完食おめでとー。まいどありー」
俺も比企谷も満身創痍だ。食べていただけなのに、とても疲れた気がしてくる…。
「ここのラーメン美味しかったねっ!ゆきのんの頼んだ肉丼も食べてみたかったなー」
「そうね。またこうして、皆でくるのもいいかもしれないわね」
「確かにすごい美味しかったっすけど…。でも今度は、絶対普通のサイズを頼むわ。先輩、マジで助かりました…」
「困った時はお互い様だ」
各々このお店には満足してもらえたらしい。俺と比企谷は完食に苦労したが、それでも自分の好きなお店を他の人にも気にいってもらえるのは、やっぱりいいものだな。
会計を済ませて外に出ると、陽は落ちきってすっかりと暗くなっていた。俺は雪ノ下を、比企谷は由比ヶ浜をそれぞれ家まで送り届けて、今日は解散となった。
…ところで、完食して無料になったからいいものの、ここのスペシャルチャーシューメンの値段っていくらだったんだろうか?
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>5/2(水) ー夕方ー
ゴールデンウィーク直前のこの日。空は生憎の薄曇りだが、相変わらず景色はのどかそのものだ。
今日は奉仕部の活動を休み、去年一年間を過ごした田舎町である稲羽市に再び帰って来た。駅まで見送りにきてくれた特別捜査隊のみんなと別れたあの日から約二ヶ月。持ってきた皆の分のお土産でバックの中はパンパンだ。
「よし、皆の分のお土産はあるなっと…。しかし…どうしたものかな…」
今日中にこっちへ来ることは堂島さんに伝えてはいるが、急な仕事で迎えには来られなくなっていた。『堂島遼太郎』さん…。彼は去年、俺の引き取り手になってくれていた親戚の叔父さんだ。職業は現職の刑事で、小学生になる娘の菜々子を男手ひとつで養っている。
皆の分のお土産が入っているからか、バックはなかなかの重さだ…。路上バスかタクシーを使おうか思案していると、懐かしい声が耳元に入ってきた。
「お兄ちゃん!」
「ん…菜々子? 一人で迎えに来てくれたのか?」
たった今、はつらつと声をかけてきた彼女は『堂島菜々子』。叔父である堂島さんの娘であり、俺とは従妹の関係にある。母親を早くに亡くし、堂島家では、刑事の仕事で忙しい父に代わって家事を担っている。
「うん! バスのお金も貰ったよ! お父さん仕事で来れないっていうから、代わりに奈々子が迎えに来たんだ!」
ああ…すごいな。子供の成長は早いというけれど、二ヶ月の間にまたひとつ奈々子が大きくなっているような気がする。
「…お兄ちゃんお帰りなさい! 菜々子、ずっと待ってたよ!」
菜々子は朗らかな、愛しい笑顔で俺に笑いかけてくれる。ああ、ただただ嬉しい。この笑顔を一日早く見れたというだけでも、早く来た甲斐があるというものだ。
「そうか、ありがとう。俺も奈々子に会えて嬉しいよ」
そして俺と菜々子は、そうするのがごく普通で自然であるように、ぎゅっと手を繋いで歩きだした。懐かしい…俺のもう一つの家族の家に向かって…。
家では菜々子の希望で、二人一緒に料理を作った。そして丁度出来上がった頃に、堂島さんが上のつく寿司を持って帰ってくる。久しぶりに食卓に三人が揃った。こうしていると、二ヶ月の空白を何も感じない。二人にそれぞれ買っておいた土産を渡して、長い間家族の会話を楽しんだ。
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>5/2(水) ー夜ー
堂島家の二階に用意された見慣れた自分の部屋。俺が住んでいた頃と何も変わらない、懐かしい部屋。名残惜しさを感じながらドアを閉めたあの時のままだ。
叔父の心遣いに感謝しながらソファーに腰を下ろすと、流石に長旅で疲れからか、ため息が一つこぼれた。夜に雨が降っていると、ついつい時刻を確認してしまう。時計の針は丁度、今日という日を跨ごうとしているらしかった。
雨の日の午前零時、消えているテレビを覗くと、運命の相手が映るとされていた『マヨナカテレビ』
最初の殺人事件があったとき、その被害者が『マヨナカテレビ』にあらかじめ映りこんでいる事が分かってから、俺達の長い戦いは始まった。そして俺達は、最終的には犯人を捕らえ、真実を覆い隠そうとする深い霧を晴らして、『マヨナカテレビ』は映らなくなった。
しかし、今夜の深夜零時。もう映ることなどないと思っていた『マヨナカテレビ』が、零時を告げる時計の針の音と共に再び復活を遂げる――。
『ライバル。それは…。"強敵"と書いて"友"と読む!―――』
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5/3(木) ー深夜ー
「なんだ…これは…。鋼の…シスコン番長…?」
今のは…俺!? 格闘大会の説明のような映像が流れたかと思えば、俺達『特捜隊』の面々がその大会の参加者のように取り上げられ、しかも変なキャッチコピーまでつけられている。短いワードの中に誤解を招く表現がいくつも散りばめられていて逆に感心した。
しかし、今のは間違いなく『マヨナカテレビ』だった。内容こそ格闘番組なんていう馬鹿なものではあったが、考えてみれば、今までの『マヨナカテレビ』も内容は実にふざけていた。
携帯電話を取り出し俺は一番の相棒……『花村陽介』に素早く電話をかける。皆は気付いているのだろうか?またマヨナカテレビが放送され、俺達が映っていることに。陽介とはすぐに電話が繋がった。
「陽介、マヨナカテレビは見たか?」
「…へっ?」
「クマから聞いてないのか? 明日早いから、今日こっちに来ることにしたんだ。俺がマヨナカテレビを見たこと、気付かないと思ったから先に電話した」
「う…だって…。お前コッチいないと思ったし…。頼ったら悪いかなーとか」
「お前らしいけどな。で? 放っとくつもりじゃないだろ? キャプテン・ルサンチマンとしては」*4
「覚えてんじゃねーよ!! お前こそシスコン番長とか言われてんぞ!?」
「まぁ俺のはそんなに悪くないけど」
「悪くないのぉ!?」
もちろん、他の面々に比べたらの話ではあるが。特に里中に至っては『女を捨てた肉食獣』だ。いくらなんでも酷すぎる…。
「あ、つーかさ。変なのはこの番組だけじゃねーんだ。クマも、りせも、完二もいない。…いなくなった」
すぐに言葉が出なかった。『マヨナカテレビ』の再開だけじゃなく、仲間の三人とも連絡が途絶えている?
「わかった。ともかく、明日みんなで集まろう」
「ああ。ジュネスのフードコートで。…おかえり、相棒」
陽介の言葉に、そういえば挨拶もしてなかったと気が付いた。ようやく少しだけ余裕が生まれて、俺は微笑んで答えた。
「ただいま、陽介」
この時俺は、ようやく自分がここに帰ってこれたんだと、本当の意味で実感できた気がする。せっかくの再開にドタバタしてしまっているが、仲間が何かの事件に巻き込まれているかもしれないんだ。それだけで俺達のするべきことはもう決まっている。
そうして、このゴールデンウィーク中。『鳴上悠』は再開した特別捜査隊と、新たに出会う別のペルソナ使いと、世界の存亡をかけた戦いに身を投じることになるのだが、それはまた別の話…。*5
to be continued
タイトル日本語訳
『真夜中に再び。』