血界戦線 ~Documentary hypothesis~ 作:完全怠惰宣言
嫌いな方は読まれなくても話が分かるようには作っていくつもりですのでご容赦ください。
限られた存在にしか明かしていない術式的に隠匿された場所。
一月に一度、彼らの約定に従い行われる殺し合い一歩手前の一対一の訓練。
互いに思うところがあるし納得もしていないがこれが人類が”かの存在”に対して行える悪あがきの一つであることは互いに承知していた。
だが、頭で理解することができても心が納得することはなかった。
だからこそ、一月に一回と決めてこの馬鹿げた”訓練”を執り行うことを渋々承諾した。
拳闘師と弓兵
「クミュ?」
朝、顔をペチペチと叩かれる感触で目を覚ました。
先週から我が家にきた桃色の魔獣、名前は「モジュ」である。
うちの後輩が「こんなの桃饅頭で十分ですわ」といってジャグリングよろしく投げていたら頭にきたらしく口の部分に魔法陣を展開し後輩を原子分解しようとした事件があったが、それ以来なぜかうちの彼女と意気投合してしまい、家で飼うことを許可された。
普段は水槽に入れているのだが朝目が覚めるとよじ登って自分とチェインを起こしに来てくれるようになった。
余談だが原子分解されかけた後輩”ザップ”を玩具として認識してしまい、出会い頭に原子分解するふりをしてビビる姿を見て楽しむようになってしまった。
そんなモジュに起こされ、いつも通りに3人分の朝食を準備する。
準備が終わると頭にモジュを乗せたチェインがフラフラとした足取りで現れた。
そして、お決まりの如く抱き着いて顔をこすりつけてくる。
その際、モジュもオレの頭に飛び移り頬ずりしてくるようになった。
「今日は用事で帰りが遅くなるから、悪いけどモジュと一緒に夕食は済ましちゃってよ」
そう言うといつもは気だるげにしているチェインの目に嫌な光が宿る。
それもほんの数秒で消え去り、嫌々ながらも納得しましたというような雰囲気を漂わせ始める。
「別に気にしないで、今日は人狼局の女子会だからモジュも連れて行ってあげるわ」
そう言って自分の体の数倍はある厚切りベーコンに嚙り付いているモジュの頭を撫でるチェイン。
なんだかんだでモジュのことを気に入ってくれているようでモジュもチェインとクラウスの頭の上で昼寝をするらしい。
そしてモジュもチェインに撫でられているのを意識すると嬉しそうにその手に体を擦り付けてた。
モジュも一緒に本日は出勤することとなり朝食の跡片付けを終えるといつもの準備に取り掛かる。
「それじゃ、いきますか」
いつもはあまり着ない紫のワイシャツにダークスーツを身に纏いスティーブンから貰った靴を履き目的の場所へと”繋げる”。
「遅くなったかな”クラウス”」
「いや、時間通りだよ”悠月”」
今日二人は血闘を執り行う。
「何度も何度も何度でも言わせてもらうけど、あたしは、あ・た・しは納得してないんだからね」
そう言って目を釣りあげて隣に座る存在を威嚇しているのは我らが姐御カッコイイ女の代表である“K・K”だった。
そんな彼女の迫力に押されているのか苦笑いをしながらも応対するスカーフェイス。
「だから、何度も言うけどボクらも納得している訳じゃないからね。“奴ら”に対抗するためにはクラウスに今以上に経験を積んでもらわなくちゃならない。その相手として最適なのが悠月だったんだ。だから、この事は最小人数しか知らないし、後に引きそうな怪我はルシアナ先生を5人も派遣してもらって治療する手はずになっったんだから君もいい加減に落としどころを見つけてくれよ」
「「「「「即死以外なら必ず生かすから安心して死にかけてね」」」」」
10歳児ほどの女子サイズとなった緊急対応特化の”ルシアナ・エステヴェス”が今回から参加するとあり、当人たちは「多少の無茶は許される」と判断してしまい今まで以上に闘争心が溢れ出している。
戦闘の素人である者が多いこの場においてクラウスと悠月が放つ闘気は心身ともに影響させてしまっうようで、この場をセットしてくれたLHOSきっての実力者たちも疲労を軽減させるのに必死だった。
「いつもすまない悠月、君には迷惑ばかりかけてしまう」
そう言うとクラウスは片腕を「盾」に、もう片腕を「槍」に見立てた、スパルタの重装歩兵ような構えを取る。
「気にしなさんなって、それなりに高い金貰ってるんだから」
悠月もまた、笑顔のまま左手に弓を出現させ瞬時に弦を引き分ける。
「ブレングリード流血闘術」
ここから先は言葉は不要。
「吼漸百罫血仙兵装弓式」
ただ互いに死力を尽くしあい
「推して参る」「穿ち貫く」
互いを鍛え上げるのみ。
障害物・遮蔽物を巧みに利用して悠月に近づくため高速で駆け抜けるクラウス。
その様は重戦車を思わせる。
片や障害物・遮蔽物を巧みに利用して矢を放ち続ける悠月。
絶え間なく放たれる矢はまるで嵐の中に吹き荒れる豪雨のようにクラウスを狙い撃つ。
「・・・・いつ見ても嫌になるわ、この二人の戦闘はもう私たち”人類”の範疇を超えちゃってるんだもの」
順当にボロボロになっていく二人から目を離そうとせず、かといってその様を辛そうに見守るK・K。
「だが、”奴ら”を確実に滅殺することのできない我々にとってクラウスは希望の光なんだ。そして、現状クラウスに食らいつける技術と力を持っているのは悠月だけというのもまた事実なんだ」
二人の会話が続く中、クラウスの両腕に数本の矢が突き刺さり彼を足止めするが、その顔には野獣を思わせる凶悪な笑みが浮かんでいた。
その射線上を追うと攻撃手段である両腕が真面に機能しそうにないほどのダメージが見て取れるが、戦場ではありえない人を馬鹿にしたような顔をした悠月が立っていた。
互いの目が合うのと同時に二人は駆け出し互いの腕がぶつかり合うその瞬間だった。
二人の眉間にK・Kが発射した超絶麻酔弾がヒットしたのは。
牙狩りの戦闘員は”血”を用いた戦闘方法を習得している者が少なからず存在する。
この戦闘方法は現在確認されている中で唯一”奴ら”にダメージを与えられる手段として多くの戦闘員に習得が望まれている。
一方でこの”血”を用いた戦闘方法には重大な欠点が存在する。
それは長時間の戦闘を行った場合、高確率で”血”に酔ってしまうことだ。
この場合の「”血”に酔う」とは戦闘にのめりこみ、戦闘行為を最適化していき、戦闘にしか思考が割けなくなる状態を示すらしい。
我がライブラにおいて顕著なのがオレとクラウスなのだが、それに比例して戦闘力と普段の人間性の優れかたが高いらしい。
クラウスは人類の切り札だ、そんな彼が戦闘マシーンのようになってしまわないようにこの訓練を提案したのは実はオレだったりする。
最初こそ反対されたが、”口”でオレにクラウスが勝てるはずもなく丸め込んだ。
仮にその現場にスティーブンがいたら結果は違っただろうが、”奴ら”に対抗するためには必要なことだ。
そして、オレは自分が血に酔い墜ちることはないと確信している。
「ただいま」
あの血闘から数日後、あの日が嘘であるかのように悠月は日常を謳歌していた。
おいしいタルトが食べたいと駄々をこね始めた一人と一匹(最近ますます似てきた)のために悠月は買い出しに行かされていた。
両腕はルシアナ医師により治療をされたが二日後の再診療まで戦闘行為禁止令が出されているため大人しく茶屋の店主を営んでいた。
一方でクラウスは治療された当日から戦闘許可が出されていたので悠月は格の違いを見せつけられた気分であった。
そんな昼下がり、悠月の帰宅を感知するとものすごい速さで玄関に現れるチェインとモジュが今日はお出迎えが無かった。
不思議そうに居間に向かうとベランダに干してあった悠月の布団に一緒に包まってお昼寝をしていた。
そんな光景を見てこの当たり前の景色を守るために今の自分を受け入れたことを誇らしげに思いながら近づいていく。
そして、寝ているのを確認して悠月はある行動に出た。
眠っているモジュを愛おしそうに抱え上げると眠っているチェインへと近寄り。
その額へキスをした。
「いつも、ありがとうチェイン」
そう言うとキッチンへとモジュを抱えたまま向かった。
愛しい彼女のために飛び切り美味しいタルトを焼き上げるために。
「起きてるっつーのバカ」
彼女の狸寝入りに気付かぬまま。
なんだか自分でも難解なモノが出来上がってしまいましたが、私の中でライブラ最強はクラウスさんであることは揺るぎませんので悪しからず。