恋姫†無双/外伝 ~天の子~   作:でるもんてくえすと

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李儒の秘密、王の見立て

another story 李儒

『李儒の秘密』

 

僕には誰にも知られたくない秘密がある。

 

「李儒~そろそろお風呂行こ~?」

「え?!お、お風呂?!

あ、あはは~…ぼ、僕はまだいいかな~…さ、先に董白が行ってきなよ!」

「そう?でももう入浴の時間終わっちゃうよ?」

「えっと…そ、そう!最後に誰も居ないお風呂でゆっくりしたいんだ!うん!」

 

そう言うと、少し寂しそうな顔で部屋を出ていく董白。そんな表情を見せられてしまうと胸が痛くなってしまうが、でもこればかりは仕方がない。

 

---体を見せるわけにはいかないから…。

 

生まれたときから家族(主に父)の意向で、僕は男として育てられた。父は医者をしていて、母は賊の討伐を生業にしている所謂傭兵だ。子供のころに何度か「なんで僕は女の子の体なのに男の子のふりをしなきゃいけないんですか?」と父に問い詰めたこともあるが、明確な回答は得られなかった。とにかく幼少期は勉学を勧められ、事あるごとに「母のようになるな」と言われていた。しかし二人の仲が悪いかというとそうではなく、だからこそ不思議に思っていたのを覚えている。おかげで運動音痴だけど勉強は得意な父に似て僕もその通りの育ち方をしている。侍従科を希望したのも、『薬学』や『医学』の授業がどちらもあるのは侍従科だけだったからだ。

ところが最近困ったことに、体の方は徐々に母のそれに近付いてきてしまった。母は背丈こそ小柄だが、胸は平均よりは大きくしっかりと女性の体つきをしている。そのせいで育ちつつある胸を押さえつけるためにサラシを巻いているのだが、いつまでこれで誤魔化せるのかは甚だ疑問だった。いっぱい食べて太ったということにしようかとも思ったが、それはなんとなく嫌だった。

 

「…はぁ。今日もお風呂屋さん、行こ。」

 

ため息をつくと僕はいつもの銭湯へ向かう。ここは私塾とは少し歩いて距離があるところにあり、生徒とは誰にも会う心配がないから時折利用する。もちろん女湯だ。

 

---だって僕は、女なのだから。

 

以前、たまたま皇甫嵩先生と出くわしてしまったこともあったが、メガネをかけていないせいかバレずに済んだことがある。油断はできないが、女としてゆっくりできる時間であることにはかわりはない。

 

「ふ~…極楽極楽~…」

 

体を洗い終えた僕は湯船で足を延ばしてくつろぐ。そうしていつも思い返すのは決まって董白のことだった。

初めてできた本当の友達。彼はいつでも真っ直ぐで、素直で、何より裏表のない人。念氣により嫌なものを見て疲れた僕の心を癒してくれる唯一の存在。…だったハズなんだけど、最近の僕は妙な感情にとらわれていた。最初は他の子たちが董白の周りにたくさん来るようになって、なんだかソワソワした気持ちだった。彼と一番仲良しは僕なのに~って。我ながらバカだと思うけど…。ただこの時は、それくらいでギリギリ保てていたんだ。

でもそれがある日一気に崩れた。きっかけは、なんてことはない談話室での男子同士の会話。「夏侯淵先輩キレイだよね~!」とか「一年生の曹純ちゃんも可愛くない?」とかそんな話が繰り広げられていた矢先、ある男子が「董白くんは好きな人いるの?」と聞いた。彼は少し天然なところがあり、質問の意味を勘違いしたのだろうけど、あろうことか「李儒!」と答えたのだ。みんなは「いやいやそういう事じゃなくて!」と笑っていたが、とても私は笑っていられなかった。頭の中は真っ白なのに顔は耳の先まで真っ赤になってしまって、誤魔化すのがもう大変。でもあんなこと言われちゃったら女の子なら誰だってこうなるに決まってる。

結局その日は寝る時もそれを思い出しては枕に顔をうずめて足をバタバタ。夢にまで出てきちゃって何度も飛び起きた。だって夢ではこ、ここ、恋人同士になって、手をつないで逢引…とか、してたし!

 

「ああ、思い出したらまた恥ずかしくなってきた…!」

 

湯船に口まで浸かってブクブク…。

それからは董白の顔を見るたび大変だった。ちょっと触れただけでドキドキするし、彼が他の子と仲良くしていると無性にイライラした。董白ってば何につけても元気でよく擦り傷とか作ってくるから、練習ついでに僕が部屋で治療してあげてるけど…なんかその度に胸がキュンとしちゃって…。

意識しちゃってるのは完全に僕だけなのはわかってる。だって董白は僕を男だと思っているわけだし…。だからあの言葉に勘違いしちゃいけない、気をしっかり持たないと。

 

「…そろそろ出よ。」

 

のぼせそうになった僕はいそいそと湯船から出て、脱衣所で体を拭く。その時、着替えの横に置かれた焼き菓子が目に入った。それはいつも子供が来た時だけ番台のおばちゃんがくれるものだ。

そういえば、彼に侍従科の授業で作ったお菓子をあげた時、すごく喜んでくれたっけ。

 

『ねえ、それ美味しい?』

『…もぐもぐ…うん、おいしい~!…もぐもぐ』

 

にこにこと本当に美味しそうに食べている姿に嬉しくなって、なんだか胸の中がぽわ~っとしちゃった。

一つ勝手に摘まんだ牛輔が「美味ぇなコレ」と言ってもなんでもなかったのに…もちろんそのあと激痛のツボに針をぶっ刺してあげた。董白のために作ったものだったからちょっとムカッとしてやっちゃったけど、あそこまでする必要はなかったかもとちょっと反省。

それにしても…裏表がない彼だからアレは破壊力抜群だったな~。

 

「…また、作ってあげようかな。」

 

思わず口に出してしまい、慌てて首を振る。ダメだダメだ!しっかりしろ僕!ちょっと褒められたくらいで舞い上がっちゃうなんて…これじゃまるで恥ずかしい奴じゃんか!

 

「…僕は男の子僕は男の子僕は男の子…!」

 

小声で何度もそうつぶやく。火照った身を引き締めるようにしっかりサラシを巻いて、いつもの服に着替え姿見で確認する。顔が赤いのはお風呂のせいで、彼のことを考えていたからじゃない。

でも、ひょっとして僕は…と思いかけて水で顔を洗う。

よし、これでいつもの僕だ。これは絶対恋なんかじゃないし、僕が勝手に勘違いしてのぼせちゃってるだけ。僕は男友達の李儒、ただそれだけ!

 

「っ…」

 

不思議な痛みが胸を刺す。きっとお風呂に浸かりすぎたせいだ。

僕はお風呂上がりの火照りを夜風で冷まし、寮への帰路へ着いた。帰ったら僕は僕じゃなきゃいけない。

僕は男の子。少なくとも、この私塾にいる間は。

 

「ふ~…。」

 

帰ったらいつもつけてる日記を書こう。あの中なら、僕じゃなくてもいいんだから。

いつの間にか董白一色となっている日記に、この時の僕は気付いていなかった。そしてそれが思いもよらない事態を招くなんて予想できなかったのだ。

だから僕がこの感情を理解して一歩を踏み出したのは、だいぶ後になってからだった。

 

another story 李儒

『李儒の秘密』END

 

~~~

 

another story 曹操

『王の見立て』

 

「そう、あなたにも素敵な幼馴染が居るのね。」

「うん!だから長期休暇に入ったら会いに行くんだ~!」

「ふふっ、私も会いに行こうかしら。思春…元気にやっているといいけれど。」

 

休み時間、教室の隅で談笑を続ける二人をそっと観察する。董白…あのぼんやりした見た目に騙されてはいけない。少なくともこの私を二度もやり込めたのだから評価に値する。劉備に近いものを感じるが、アレほど甘ちゃんではない。隙だらけのように見えてそれは隙ではなく、警戒してみればそれはやっぱり隙だったという無限回廊のような食えないヤツ。

いつしか私はこの男を注視するようになっていた。

 

「ねぇねぇ董白くん、どうやったら曹操さんと仲良くできるのかな?」

「ん~…あきらめずに何度もぶつかればいいんじゃないかな。」

「そっか~。よ~し!曹操さんと仲良くなるぞ~!お~!

ほら、董白くんも一緒に!お~!」

「えぇ?!…お、お~!」

 

私はすぐ目の前にいるのだけれど…。恥ずかしいからおやめなさい。

それにしても、あの孫権までほだされてしまうなんて大した人間だわ。麗羽なんかはもう首ったけみたいだし、華侖や柳琳も妙に懐いている。基本的に劉備としか接しない関羽も奴となら少しは話すようだ。…スケコマシの才能でもあるのではないかしら。それでないなら体から媚薬でも垂れ流しているのではなくて?

 

「なあ董白、一年生の教室行こうぜ?いや深い意味はないぞ、ただこう…癒しを求めてだな」

「ハンッ、三次元になんの癒しがあると言うのだ!…それよりも董白クン、私とこの絵について大いに語ろうではないか」

「董白、お前は筋肉が足らんように見えるぞ。フンッ、フンッヌ!俺と一緒に筋肉を思う存分鍛えようじゃないか!フンッヌ!」

 

…まあ、友達の選び方は考え直した方がいいようだけれど。と思った矢先、三人の悲鳴が轟く。どうやら何かをされたらしい悪の根源たちが倒れるのを見て理解する。

李儒が何かしたようね。

 

「勝負だ董白!!!」

 

その時、大きな音を立てて扉が開け放たれた。夏侯姉妹の粗野な方、夏侯惇こと従妹の春蘭だ。先日の王学科と兵学科の合同授業で行われた体育の時間、彼に徒競走で負けたのがよほど悔しかったのだろう。それに私の前で土をつけられたのだから尚のことだ。

 

「華林様!見ていてください!今度こそこやつのそっ首、華琳様の御前に差し出して見せます!」

 

…それはもう勝負というより戦よ、と私はため息をつく。

とはいえ、先日の徒競走は見ものだった。あの春蘭が体育で負けるなんてそうそうあることではない。武の才は足運びでなんとなく感じていたが、あの脚力は見事というほかない。きっと故郷に良い競い相手が居たのだろう。それに何本走っても息が乱れず、春蘭が先に膝をつくなど信じられなかった。

ただ、一度打ち合いになると回避はからっきしで、戦い方は性格とまるで違う“どつき合い”。それでもあの関羽相手に強烈な一本をもらったのに、へらへらしながら立ち上がったのは驚いた。関羽だって信じられないものを見た表情をしていたから手応えはあったのでしょうし。見た目こそただの少年だが、その体力は天賦の才と言える。

 

「夏侯惇さん!いい加減にしてください!」

「ぬぅ?!」

 

おや、と私は思った。鬼の形相で董白に詰め寄る春蘭の目の前に、李儒が立ちふさがったのだ。あの小さな体で胸を張って腕を組み、行かせまいと仁王立ち。さすがに恐怖心はあるのか、微かに足が震えているが一歩たりとも引く気はない様子だ。

 

「この前だってそうやって勝負を吹っかけて、結局董白が転ばされて膝を擦りむいたんですよ?」

「あ、あれはこやつが中々先に行かせんから…というかそんなもの、唾でもつけておけば平気だろう!」

 

ふむ…李儒か。アレが本当は女だという事を私は知っている。ちょっと観察すればわかるものだ。サラシでも巻いているのだろうけど、胸のふくらみを僅かに誤魔化しきれなくなってきているし、足の運び、仕草、それにある周期で変化するあの子の体調。

きっと何か事情があるのでしょうから公にするつもりはないけれど…それにしても少し過保護過ぎじゃないかしら。

 

「大丈夫だよ、李儒!じゃあ夏侯惇さん、今日は何で勝負しますか?駆けっこ…はもうやったから、今度は縄跳び?」

「フハハ!潔いではないか!それで構わん!よし、ついてまいれ!」

「もう董白ったら、ケガしても手当してあげないからねっ!」

「あ、じゃあじゃあ~、私がしてあげるよ~!」

「ずるいっ!私も~!」

 

なまじ見た目が良い董白だから、近くにいた女子生徒がそんな声をあげる。

 

「そ、それはダメ!董白は僕が治療するの!その…れ、練習も兼ねて!」

 

何かしら…なんだか甘酸っぱいものを見せられている気がするのだけど…ああでもなるほど、そういう事ね。それにしても李儒、あなた自分の立場の複雑さに加えてとんでもない者に懸想したものね…。私の見立てでは彼、その辺の感情には超鈍感な類の人間よ。まずは自分の気持ちをちゃんと整理しないと振り向かせるのは無理なんじゃないかしら。

私はつい笑みを零した。

そして私は、李儒とは違いこう彼を評価する。

 

「秋蘭、私はあの男を将来必ず降らせるわ。」

「はっ、ご随意のままに。」

 

いつの間にか後ろに控えていた夏侯姉妹の妹、夏侯淵こと秋蘭に、私はそんな宣言をしたのだった。あの男は必ず覇道を歩む私の前に立ちふさがる。それが王としてか将としてかはわからないし、今はまだ予感程度のものだけれど、それでもそうなってほしいとも思った。

あなたを倒すのは私。そうならなければ面白くない。だからそのために力をつけよう。この私塾を出た後も、その歩みを止めることなく。

 

another story 曹操

『王の見立て』END

 




今回もお付き合いいただきありがとうございます!李儒と曹操のanotherstoryでした!そして次回はとうとう授業参観です!
それでは、皆さんのご感想お待ちしております!
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