空は晴天、まさに参観日和。
水鏡塾はいつもと違い、たくさんの保護者であふれていた。
「あら華琳ちゃんのお母様~?相変わらず親子揃ってちっぱいですわね~!お~っほっほっほ!」
「…そちらは親子揃って脳に栄養が行かなかったのかしら?」
「母様、馬鹿は遺伝するのよ。」
「んん?何かおっしゃいまして?」
「「…なんでもないわよ。」」
時には険悪に。
「あら~!桃香ちゃんじゃないの~!久しぶりね~!」
「あ~!白蓮ちゃんのお母さん!」
「うちの子どう?みんなと仲良くやれてるかしら?」
「え、白蓮ちゃんて私塾にいたの?」
「居るよ?!私いつも一緒に昼飯食べてるだろ?!」
「え、だって一度も出てきてないし…」
「出てきてないって何だよ!私だって生きてんだよ!いい加減泣くぞ?!」
時には涙し。
「華侖も柳琳もちょっと見ない間に大きくなった気がするわね~!ね、あなた?」
「ああ、二人ともちゃんと勉強はしてるかい?」
「もうっ、あなたったら今はそんなことどうだって良いじゃない!
…だからとりあえず、脱ごっか♪」
「わ~い!」
「ちょ、お母さんどうして?!って姉さんも脱ごうとしないで!」
時には慌て。
「おら雪蓮てめぇ!!こっそり授業抜け出すたあどういう了見だ、ああん!?」
「げ…かあ様!?」
「そのせいであのクソ爺に小言言われたじゃねぇか!オレにめんどくせぇことさせんじゃねぇよ馬鹿野郎!」
「怒ってる理由そっち?!」
時には怒られ。
「…喜雨、お友達とはうまくやれてる?」
「お母さん…来たんだ。」
「洛陽での仕事の帰りに、ちょっとね。」
「…そんなことだろうと思った。」
複雑な家庭もあり。
いつも以上に賑やかな校舎の中、きょろきょろと一刀を探す三人が居た。董夫妻と娘の月だ。
夕陽はこの日のためにあつらえたオトナな印象の上下でビシッと決め、えらい気合の入りようだった。
「おい、それにしてもそこまでお洒落しなくても良かったんじゃねぇか?」
「あなた何言ってるのよ!ダサダサな恰好で来て、もし一刀が『や~い!お前の母ちゃん出~べそ!』なんて言われたら大変じゃない!」
「そ、そうか…?」
そんな問答をしていた時、後ろから我が子の声が聞こえた。いや、訂正しよう。聞こえたのは夕陽だけで、それこそ遠くからほんの微かな笑い声を拾ったのだ。
「…居る!一刀ちゃんが…あっちに!」
「お前時折人間辞めるなよ?!」
人込みを掻き分け辿り着いた教室、そこには本当に保護者と談笑している一刀の姿があった。
「一刀ちゃ~~~~~ん!!!」
「へぶっ」
まるで城門をぶち破る破城槌のごとく突進し抱きつく夕陽。続いて玄の抱っこから抜け出した月が「お兄ちゃん!」と、トテテと駆けより一緒にしがみつく。突然のことに一刀は目を回していたが、「よ、元気してたか?」と玄に助け起こされた。
「一刀ちゃん、一刀ちゃん、一刀ちゃん!あ~、一刀ちゃんだわ…本物の一刀ちゃん…!お母さんね、ず~~~~~っと一刀ちゃん会いたかったの~!」
「お、おい夕陽、みんな見てるぞ。ちょっとは落ち着け。」
「あ、あらいけない…!こほん…一刀、元気に…ってやっぱ無理~~~~!!一刀ちゃ~~~~ん!!」
あれほど完璧に自己管理していた公私の切り替えが、今日に限っては全く使えていないようだ。だがそれは無理もない。夕陽はこの時をどれほど(比喩ではなく)夢に見たことか。それを知っている玄は邪魔しないようにため息をつくだけで無理に正そうとしなかった。それに娘の月も足にしがみついて嬉しそうにしているから尚更だ。
「あ、あはは…すごい愛されようだね…」
そんな様子をすぐそばで見ていたのは李儒とその両親だった。李儒の母は李儒をそのまま日焼けさせたような見た目だったが、大きくへそを出した大胆な服装で二本の斧を背負っているまさに傭兵といった格好。そして何故か窓枠で懸垂をしている。対して、家族の様子にもらい泣きしている父はいかにも真面目そうで、黒縁メガネがよく似合う伊達男といった感じだ。
「なんかすんません、うちの家内が…」
「いや、良いんだ。さきほど少し話しただけだが、こんな好いお子さんなんだ。気持ちはよくわかる…!」
メガネを眉の方へずらし、目をぬぐう李儒父。母は自由奔放な性格なのか、今度は突然腕立て伏せをはじめている。
「それに引き換えお前というヤツは…!」
「え?!」
いきなり矛先が向いた李儒は驚く。父も怒り心頭といった様子で詰め寄った。
「あれほど言っただろう!母さんには似るなと!」
「…そ、そんなこと言われたって…。」
「これ以上似ないよう、いい機会だから教えてやる!
…あれはまだ私が駆け出しの医師だったころだ…」
すると遠い目をした父が語る。
ある時、李儒の父の元に全身血だらけの女が駆け込んできた。夜中で看護師たちももう帰宅し、自身も診療所を閉めようとしていたが、その女の容態を見て父は診察室に招き入れた。どうやら賞金稼ぎでヘマをしたらしく、特に背中の裂傷は早く治療しなければ命は助からないほどの重症だった。結局寝ずに治療を施し、疲れ果てた父は待合室の長椅子で仮眠をとることにした。
そして目が覚めると、女は裸で自分の上に跨り腰を振っていたのだ。何を言っているのかわからないと思うが、父も何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。無理矢理だとか「くっ殺」だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない。 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったようだ。ストックホルムでナイチンゲールがランデブー。つまりはそういう事である。
そしてその時身籠ったのが、李儒だった。
真面目な父は子ができたことで結婚を決意。母も「体の相性抜群だった」という理由でそれを受け入れ、めでたく(?)二人は結ばれ今に至る。そんな人生を味わった父だからこそ、こんな母の血が入っている娘が他所様のご子息を自分のような被害者にしてしまわぬよう、もう何が何でも男として育てようと決意したのだった。
「な…な…な…!」
あまりに衝撃的な出生の事実に、思考が追い付かない李儒。玄は込み入った話だろうといつの間にか席を外している。
「だから…母さんのような淫乱にはなるな!男を無理矢理襲ってモノにするなんて言語道断!」
「し、しないよそんなこと!!」
「口答えをするな!!大体お前、董白くんをぱっくんちょする気じゃないだろうな!父さん許さないからな!あんな好い子を手籠めにするなんて絶対に許さん!ちゃんと手順を踏んで交換日記からはじめなさい!」
「ちょ?!僕、そんな…!彼とはそ、そそそんなんじゃ…!」
「ほれ見ろ顔が赤いじゃないか!許さん!絶対に、許さ~ん!!」
顔を真っ赤にして力説していた父の肩に背後からガシッと手がめり込む。その瞬間、血圧が心配になるほどさっと血の気が引く父。恐る恐る振り返ると、笑顔だがこめかみをヒクヒクさせた母の姿がそこにあった。
「随分面白ぇ話してんじゃねぇか…なあ、旦那様?」
「ひっ…!!」
「二人目こさえたるから厠来いやオラァ!!!」
そのままずるずる引きずられて行く父。
「ま、待って!もうすぐ授業が…!」
「んなもん知るか!玉ン中からっぽになって血が出るほど絞ってやんよ!」
「イヤーーー!!ばっくんちょはやめて!!アレだけは…アレだけはらめーーーー!!」
教室の出口に手をかけて抵抗するが、到底力ではかなわない母に連れ去られていく。だんだん遠くなっていく悲鳴に、我が家の暗部を知ってしまった李儒は乾いた笑いを漏らすだけだった。そして、無性に海が見たくなっていた。
「あら?お父様とお母様はどちらに?一刀がお世話になってるからご挨拶したかったんだけど…」
その時、一刀を愛でていた夕陽が李儒の元へ近づいてきた。頭はまだ混乱しているが、李儒はとっさに背筋を伸ばす。
「ところで、あなたが李儒くんね?」
「は、はい!
「一刀からのお手紙でも書いてあったけど、いつも仲良くしてくれてありがとう。」
「い、いえ!とんでもないです!」
夕陽と対面する李儒はもうカチコチといった様子で、一瞬とんでもないことを言いかけたがなんとか持ち直した。
「これからも息子をよろしくお願いしますね?」
「母親公認…!?えっとそれはその…!ふ、不束者ですがどうか末永くよろしくお願いいたします!」
…まだ持ち直せてはいなかったようだ。完全に取り違って三つ指を手てて頭を下げる李儒に、「あらあら丁寧な子ね~!」とおかしそうに笑う夕陽。
すると今度はそこへ牛輔が走ってきて妹の頭を撫でていた一刀に跪く。びっくりしてしまった月はサッと一刀の背中に隠れる。
「義兄様に生涯の忠誠を捧げます!!」
「へ?ど、どうしたの牛輔いきなり…」
「なんだなんだ董白きゅ~ん、水臭いじゃんか~。」
わけがわからないことを宣言したと思ったら、今度は一刀にしなだれかかり猫なで声を出し始める。
「なあなあ、妹さん名前なんていうの?どんな遊びが好きなの?好きなお菓子は?それからそれから…」
段々と鼻息が荒くなっていく牛輔。見かねた李儒は頭痛・眩暈・下痢・吐き気のツボに針を刺す。牛輔は悲鳴を上げたかと思うと自分の体のどこを押さえたらいいのかわからない様子で、厠の方へ走っていくのだった。それと入れ替わるように担任の皇甫嵩が入ってくる。皇甫嵩も少し緊張した面持ちで、心なしかいつもより化粧が濃いようだ。
「あ、ヤバ…!今厠には…ま、いいかどうでも。」
少しグレ加減の李儒はそのまま放っておくことにし、席に座るのだった。
今回もお付き合いいただきありがとうございます!授業参観前編をお送りしました。今回は色々な人が出てきましたね…え、いたの?とか思う人が居ても絶対に口にしちゃいけません。かわいそうです。
次回は授業参観(中編)です!それでは、皆さんのご感想お待ちしております!
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