授業参観も終わり、校庭では保護者を交えて家族同士が交流を深めていた。因みに、一刀の真実を知った一部の生徒により『董白くんを見守る会』なる謎の勢力が発足したのだが当の本人たちは知る由もない。それはやがて一年生の『曹純親衛隊』と対を成す“守ってあげ隊”二大派閥になるのだが、また別のお話。
「ねぇねぇ一刀ちゃん、今日は私たちとお宿に泊まれるのよね?もちろんそうよね?」
「へぅ!お兄ちゃん、いっしょに寝よ?」
「それじゃあ、月ちゃんは左で私が右、あなたは私をギュってしながら腕枕ね?はい、決まり~!」
「あの、それなんだけど…」
意気揚々と手を合わせる母娘を前に、一刀は言いにくそうに伝える。寮の規則により外泊は認められていないのだ。
それを聞いた夕陽は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になる。
「そう…じゃあちょっと私、水鏡先生と“お話をつけに”言ってくるわ。うふふ…うふふふふふ~…」
そう言って背後にどす黒い氣をまといその場を後にした。
ちょうどその時、一刀の方へ歩いてくる親子の姿があった。孫堅とその娘、孫権だ。
「おう、お前が董白だな?ちょっとよく面を見せな。」
孫堅は娘が止めるのも構わず一刀の顎に手を当てまじまじと見つめる。あまりの迫力に、後ろにいた月は泣きそうな顔で一刀の足にしがみついた。玄は何事かと止めに入ろうとしたが、害意を感じなかったため見守ることにした。
「…ほう、お前、オレが怖くねぇのか?」
「うん。」
「なるほど、良い肝してら。まあ翆玲あたりが好みそうな面だが顔立ちも悪くねぇし…将来に期待といったとこだな。」
そこまで言うと、孫堅は一度ニヤリと笑みを浮かべる。
「どうだ董白、うちの娘の婿にならねぇか?」
衝撃的な一言に一同は度肝を抜かれる。中でも一番慌てていたのが娘の孫権だった。
「ちょ、ちょっと母様!?急に何言って…!」
「あん?そりゃお前、若ぇうちからいい男にツバつけといた方が何かと楽だろうが。それに雪蓮から聞いたぞ、最近やけにこの孺子と仲良さげにしてるってな。」
「姉さまから…?!違、違います!仲は…悪くないと思いますけど、あくまでも同じ学年の同じ学科というだけです!」
「なんだ、夫は此奴じゃ不満か?グダグダ言ってると祭みてぇに行き遅れちまうぞ。」
「ふ、不満ということは…ないですけど…で、でも急にそんな…」
孫権が恥ずかしそうに真っ赤な顔でもごもごしていると、今度は金髪の親子が割り込んでくる。曹親子だ。
「ちょっとお待ちなさい。その子はうちの華琳が目を付けた子よ。」
「…母様、目を付けたってそういう意味じゃなかったのだけど?」
「いい華琳?こういう子は敵に回すより近くにいおいた方がいいのよ。聞けばあなたを討論で二度も黙らせたらしいじゃない?そんなこと、もう私にもできないわ。
それにね…将来性ありそうだし、子飼いにして可愛がるも良し。側近につけて自分好みに育てるも良し。楽しみ方は色々よ?」
そこまで言われると、曹操は顎に手を当てて真剣に考え込んでいるようだ。そして内心、悪くないとも思ってしまった。
「という事でお父様、娘と董白くんの“先を見据えた”お付き合いをと考えているのだけれどどうかしら?」
「はいい?!」
先ほどから全くついて行けていなかった玄は驚きを隠せない。少なくとも翠らが自身の息子に懸想しているのも知っていたから、モテるのだろうと思っていたが予想を超える現状に目を白黒させてしまう玄。一刀も然りで完全に鳩が豆鉄砲を食ったような顔だ。
するとそこへまた新たな親子が現れた。三人ともふんわりしたような笑顔を浮かべた劉備一家だった。
「おやおや、董白くんは僕らの娘の面倒をみてくれるのだと思っていたのだけど…桃香も彼に懐いているようだし。」
「そうね~…うちの子って~、ぼ~んやりしてるところがあるでしょ~?だ・か・ら~、末永く娘をお願いします~!」
劉備はどんな話をされているかわかっていないようで、いつものようににへらと笑っている。
いずれ大陸をかけて争うことになるかもしれない三人。その親たちが一人の少年をめぐって睨み合う姿は、ある意味で三国志に突入したと言えるかもしれない。ところがそれだけでは終わらなかった。
娘から色々と聞きつけたのだろう袁紹の母は、人を押しのけて「ボク、何か欲しいものはなぁい?」と物で釣る作戦をとり、公孫瓚の母は「目立たない娘にイケイケな彼氏を!」と奮起する。先ほどの作文を聞いて「あんな息子が欲しい!」と思わせたのだろう、それこそたくさんの保護者が詰めかけた。中には「息子とずっと友達でいてね!」「将来はうちに仕官を!」と叫ぶ親やまで出てちょっとした騒動となっていた。手紙一つでこうまで人の心を掴むのだから、以前曹操が思った“体から媚薬でも出している”説が濃厚になった瞬間だ。
「じゅ、順番に!順番に話を聞きますから!」
自身の子故に、何が息子にこうも興味を示すのかわからない玄は保護者たちを制して、一刀を背中に隠す。月はもう目を回してしまっていた。
よもや自分の息子にここまで人誑しの才能があるとは思いもしなかったのだ。だがこれにはこの私塾の体制にも一因はあった。水鏡塾自体が水鏡の私財だけでなく各豪族の融資などにより運営が成されており、よってその子息女が多く通っている。袁紹を見ればわかる通り、そういった人間にとって一刀のような清純な子は大好物なのだ。体術をはじめ成績も優秀ときたから尚のことであった。
「一刀ちゃ~ん!塾長シメて…じゃなかった、お話つけてきたわよ~!」
ついぞ袁紹の母が手持ちの金品で釣ろうとし始めた時、夕陽がニコニコ顔で帰ってきた。夕陽はちょっと目を離したすきに起きていた騒動に驚いたが、母は強し。
「うちの子は誰にもあげません!」
と言い放ち一刀らを連れて宿へと向かうのだった。
因みに、この一件により孫権らによる一刀への意識が少しずつ変わっていくのだが、一刀がそれに気付くわけもなく、やきもきする人間がただ増えることとなっただけだった。無論、一番やきもきしていたのが李儒だったのは言うまでもない。
今回もお付き合いいただきありがとうございます!相変わらず人誑しな一刀でした。徐々にですがどんな世界でどういった私塾なのかが見えてきたかなと思います。次回は少し月日が飛んで夏休み直前、バーベキューに行こう!的なお話です!
それでは皆さんのご感想お待ちしております!