まだまだ平和な日常が続きますが、どうぞ温かい目でお付き合いください。
武威の城下町。
そこには、いつものように棒切れを片手に走り回る一刀と、幼馴染の翠、たんぽぽの姿があった。
三人を遠巻きに見ながら、庭の芝生にぺたんと座って月は釣り目の少女とおままごとをしている。
「詠ちゃん、はい、おべんとう!」
「ありがとー月!」
一刀がこの世界に降りてきてから、すでに五年の月日が経とうとしていた。
今や涼州は騎馬連合と警備隊、そして夕陽をはじめとした頭脳役の活躍で、武威を中心とした立派な街へと変貌しており、天の子と呼ばれた少年も、もう十歳。普段は父の警備隊や母の仕事の手伝いなどをそつなく熟すようになっていた。まだ七歳のころ蘭の腰に翠と縛り付けられ、戦場を経験したのはやりすぎだったが。どうやら黙って連れて行ったのか、そのあと蘭は夕陽に正座させられ一日中説教をされて涙目になっていたのも今となってはいい思い出だ。
何はともあれ、少年は町の成長とともに着実に力をつけていった。そこで夕陽らは、伝手をあたって遠方の私塾に入れることにした。
“水鏡塾”
かつて一刀をモデルに本を書き、瞬く間に大ヒットしたあの水鏡の私塾。そこは住み込みの寮があり、これから五年間はそこで学を修めることとなったのだ。
今日は明日にも出発する一刀に精一杯遊んでもらおうと、こうしてお手伝いを禁止にして友を招いている一幕である。
「ほらお姉さまっ、ぐずぐずしてたらまた一日中かけっこしたり戦いごっこして終わっちゃうよ?なかなか会えなくなるんだからその前にちゃんと伝えないと!」
「Δ×ω〇Σμ▼?!!!
ば、ばばば馬っ鹿!たんぽぽ、しぃ~!!あ、あいつに聞こえちゃうだろ?!」
「…聞こえちゃうって何が?」
「な、なんでもない!!なんでもないから!!」
幼馴染の変な様子に一刀は首をかしげる。聞こえていなかったことにホッとした様子の翠と、それをジト目で見つめるたんぽぽ。
そう、翠は今日、離れ離れになる一刀に想いを伝えようと何ヵ月も前から決意していた。
「…お姉さま?」
「だ、だってあたし昨日の夜考えたんだよ…。こんな可愛くもない女にす、すす、…すき、とか言われても困るんじゃないかって。
あたし馬鹿だしガサツだし、その…あいつも困ると思うから。」
二人がひそひそ声で話す間、一刀はおままごと中の月と詠に手を振っている。その横顔を見て落ち込んだ表情が一変、頬が赤く染まりポ~っとしてしまう翠。
出会ってからこれまでまるで兄弟のように仲のいい友達として遊んできたが、いつからかそれは恋心と変わっていった。
「月~、ただいま~!」
「おかえりなさい、あなた!」
おままごとをしている月の元へ、夫役の一刀が向かい頭をなでる。
「へぅ~、あなた、ご飯にします?お風呂にします?それとも…わたし?」
「月~最後のわたしってなに~?」
「ん~、お母さまがいつもお父さまに言ってるの。」
「へ~!」
月と詠はそんな会話をしており、一刀はにこにこと二人を眺めている。あんな笑顔とは当分お別れ。いつの間にか翠の目から流れ出た涙に、心配そうに寄り添ってくれるたんぽぽ。
翠は袖でぐしぐし目をぬぐうと一度自分の顔をたたいた。泣いたことへの戒めなのか、それとも最後の日にこんな顔をしていたら彼に申し訳ないということか、はたまたただの強がりだったのかもしれない。
「一刀!行くぞ!」
そう言って翠は身長より長い大きな枝で一刀へ突きを放った。一刀は驚きながらもそれを棒で受ける。回避をしないのはこれまでずっと二人のやりあいは“どつき合い”。喧嘩も、稽古も。
縁側で遊び疲れて寝てしまった蒼を抱きながら、蘭は「あいつ…馬っ鹿だなぁ」と独り言ちる。
上段から打ち込まれた鋭い薙ぎをしっかり受けた一刀は返す刀で胴を狙う。翠は反射的に距離を詰め、体をぶつけることでそれを無力化した。お互いに子供とは思えない身のこなしでどつき合いは続いていく。
これまでの戦績は一刀の百九十七勝、翠百九十六勝、二十二引き分け。稽古だけでなく、狩り、駆けっこ、身長から早食いまで様々。
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another story 翠
『あたしの初恋』
あいつは…最初は、一緒いると楽しい奴そんな印象だった。あたしの体力についてこられて、何より一緒にいるのが楽しかったのを今でもしっかり覚えてる。
出会いは語るほどでもない。親に連れられて行った先にあいつが居た。ただそれだけの話さ。それからはどこに行くのも一緒だったよ。野山を走ったり、川遊びしたり…お、おおおお風呂、だって…あの頃は一緒に入ってたんだぞ?
…
でも、野犬退治に行ったときは傑作だったな~。なんでか知らないけど二人とも妙に懐かれて怪我の一つも覚悟していったのに帰るころにはヨダレでべっとべと。「小川で洗ってきなさい!」って夕陽さんに叱られたっけ。
あとはいつも競い合ってたな。対等に渡り合えたのって、あの頃はあいつしか居なかったから…。もちろん喧嘩もしたし、言い合いなんてしょっちゅうだったよ。でも次に会ったらもう仲直り。ふふっ
え?それでいつからあいつを好きになったのって?ば、馬っ鹿!恥ずかしいこと聞くなよ!
…本当に誰にも言わないか?
…
あれは…あたしらが七才くらいの時かなあ。
そのころってさ、なんというか…二人が居れば無敵!って感じだったから…年上の悪ガキどもに目をつけられてさ。あたしが一人の時を見計らって、十人くらいの悪ガキどもに囲まれたんだよ。勝てない相手じゃなかったけど、その時悪ガキの一人が言ったんだ。
「や~いこのブス!」
って。それからブスだのガサツ女だのの悪口で大合唱。あたしも自分のことは可愛くないと思ってたし、なんか言い返せなくなっちゃって…。
そこにあいつが来たんだ。かばう様にあたしの前に立ってさ、「僕の友達にひどいこと言うな!」って。
「なんだよかっこつけんなよ!あ、ひょっとしてお前このブスのこと好きなのか?」
「「ぎゃはははっ!」」
その時、なんだか不思議だったんだ。自分のことを悪く言われてることよりも、自分のせいであいつが馬鹿にされるのたまらなく嫌で…悔しくて涙が浮かんできて。
そこであいつが言ったんだ。
「翠はブスなんかじゃないし、僕は翠が大好きだ!文句あるか!」
ってさ。
あたし、思いっきり泣いちゃった。嫌な気持ちとか、悔しさとかすっ飛ばして、あいつがそう言ってくれたことが嬉しくて大泣き。あいつは悲しくて泣いてると勘違いして十人相手に大立ち回り。
傷だらけで帰ってきたと思ったら頭なんて撫でながら「翠は可愛い!だから泣かないで!」って…なんでかあいつも泣きながらそう言ってくれてさ。
…その時からかな。あいつといるとドキドキするようになったの。
し、仕方ないだろ!あんなことされたら誰だって…!ああもうっ茶化すなよ!
ったく、喋るんじゃなかった!
…
…あいつ、今頃どうしてるのかな。
…会いたいな。
another story 翠
『あたしの初恋』END
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打ち合うこと、そろそろ一刻ほど。
ついに勝負が決した。のど元に棒を突きつけているのは翠だった。
「くっそ~!また並ばれた~!」
負けたのに嬉しそうに笑う一刀。これで戦績は一刀の百九十七勝、翠百九十七勝、二十二引き分け。
「次…」
「??」
何か言いたそうな翠が気になり、そちらを向く一刀。
「次会ったとき、決着だからな!あたし以外に絶対負けるなよ!!」
目に涙をいっぱいにためて、翠はそう叫んだ。一刀はニコッと笑うと、「ああ!」と答えた。
約束の日、それがいつになるのかは誰もわからない。
読んでくれてありがとうございます!二次創作は初めてで…読み辛い点とか、こうしてほしいな~とかご要望があればご指南ください!
次は一話丸々another storyになります!次回もお楽しみに!皆さんのご感想・ご意見お待ちしております!