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『レン』
昔々、あるところに、猟師のおじいさんがいたそうな。
それは雪の吹きすさむ夜のこと。老人は狩りによって調達した肉を町に卸し、すっかり日暮れとなった山へ帰路についていた。妻に先立たれ、老い先を指折り数えるだけの日々に嫌気がさすも空腹には勝てない。この日は木の実の粥と干し肉にしようかなどと寒さに忘れるべく空想を膨らませる。
そんな時だった。一頭の大きな熊が老人の前に立ちふさがった。老人は死を覚悟した。ところが、その熊は一向に襲い掛かろうとはしなかった。それどころかまるで、「ついてこい」とでも言う様に、背を向けて歩き出す。暫くついて行ってみると、赤子の鳴き声が聞こえてきた。老人の足は自然と急いでいた。やがてそこへたどり着くと、それはそこに居た。
何重にも布にくるまれ、竹籠に寝かされた一歳にも満たなそうな赤子だった。赤子を冷やさないためなのか、虎の子が一頭赤子に寄り添うように寝ていた。これはいけないと、老人は熊に礼を言うと赤子を抱え山小屋へ急ぐ。手早く火をおこし、お湯を張り、なんとか赤子を温めようとする。布地には「呂布」の文字。これはこの子の名前だろうか。
「…こんなものしかないが…」
老人はさらに細かくした木の実の粥を匙ですくって赤子の口の中へ。きっとお腹が減っていたのだろう。ぴたりと愚図るのをやめて一人前をきれいに平らげてしまった。
「お前の名前は何て言うんだ?え?」
老人の顔にきゃっきゃと嬉しそうに手を伸ばす赤子にそう語りかける。もちろん、言葉なんてわかるわけがない。
「ぇん…ぇ~ん!」
「なに?エン?フェン?」
露骨に嫌な顔をした。
「だったら…レンか?」
笑顔が咲く。それは冬に咲いた向日葵のようだった。それ以来、老人と赤子との奇妙な生活が始まった。いつしか老人は老い先を数えるのをやめていた。
ところが、寿命というのは誰にでも訪れる。老人もまた、それには抗えなかった。日に日に弱っていく己の体。この子を残して逝かねばならない悔しさ。床の間で最後の眠りにつく直前、それは訪れた。レンと出会ったときに現れたあの大熊である。
大熊は器用に戸を開けると、老人に寄り添った。それはまるで、あとは任せなさいとでも言っているように感じた。
「レン…達者で…な…」
それが老人の最後の言葉だった。これはレンがまだ五歳のことであった。
それから二年の月日が経った。物心ついたレンは大熊とまだ子供の虎といった摩訶不思議な相手と暮らしを共にしていた。一緒に遊び、一緒に寝て、時には兄妹のように接してきた虎と喧嘩もした。
「な、なんだ此奴?!こんなデカブツが居るなんて聞いてねぇぞ!!」
「ずらかれ!!」
時折、山小屋を根城にしようと小規模な賊がやってくることがあった。そんな時は決まって動物たちが蹴散らした。その頃、この山小屋を訪れた一人の男が居た。賊かと襲い掛かる熊だったが、この男には通用しなかった。力をいなす不思議な技で熊を手玉に取ったのだ。しかしその男は言った。
「ほほっ、良い友を持ったのう。」
「…とも…?」
「なんじゃ、言葉を知らんのか。まあ無理もない。」
それは九歳を迎える天の子を私塾へ入学させようと、自ら推薦状を届けに行く途中の水鏡だった。
「…どれ、わしも忙しい身ゆえ中々来れやせんが、ちと学を授けよう。」
こうして、少しだけだが言葉というものを覚えるのだが、男はこの少女に中途半端に介入すべきではないと感じた。少女には師でなく、親や兄妹といった家族が必要なのだ。だがそう呼ぶには自分は聊か歳を取り過ぎた。人をあたっても良いが、それでは必ずどこかで歪みが生じる。
「…お主に良き出会いがあらんことを。」
男がそう言い残し、パタリと来なくなってから数年。少女は十歳を迎えたある日、空腹に倒れた少女の目に映るのは、粽を差し出しながら柔らかい笑顔を浮かべる少年。それは男が願った、良き出会いとなるのだった。
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『レン』END
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李儒こと玲らと途中で別れた一刀とレンは、天水までたどり着いていた。城門をくぐると、市場から様々な人が声をかけてくる。
「おっ!董白じゃないか!帰ったのかい?」
「あら董白ちゃん!ほれ肉まん持ってきな!お友達の分もあげるから!」
「やだ、ちょっと見ないうちに背が伸びたんじゃないかい?若いっていいわね~!」
一刀は一人一人と笑顔で言葉を交わしていく。隣のレンは最初こそ慣れない人込みと語りかけてくる人たちに警戒こそしたものの、一刀が笑顔でいるから害はないと判断したのだろう。市場を通り過ぎたころにはすっかり安心しているようだ。因みに、動物たちは山の方がいいという事で、元の住処の山小屋に残してきている。
市場を通り過ぎると町の中心部に差し掛かり、そこにはたくさんの飲食店などが並ぶ商店街。そこを左に曲がり、住宅地の方へ入ったところに一刀の家があった。
「ただいま~!!」
玄関を開けて元気にそう言うと、いつからそうしていたのか待ち構えていた夕陽が一刀に飛びつく。
「おかえりなさ~~~い!!!あぁ~、一刀ちゃん、一刀ちゃん、一刀ちゃ~ん!」
「母さん、く、くるしい…!」
「あらごめんなさいっ!…あら?こちらはどなた?」
元々表情に乏しいレンだったが、この時ばかりは誰が見てもわかるほど硬い表情をしていた。さもありなん、一人で森に棲んでいたレンにとって家庭というものを間近で見た経験が浅いのだ。特に母親の記憶というものは持っておらず、どんな態度をとればいいかも彼女はわからない。
「紹介するよ。僕の友達の呂布っていうんだ。」
中々上がってこないのにしびれを切らして玄と月が玄関まで来ると、レンの事情について一刀は語った。玄と夕陽は真剣な表情でそれを聞き、やがてお互い頷き合う様にするとレンに微笑みかけた。
「…私、三人も子が持てるなんて思いもしなかったわ!」
急に向けられた感じたことのないような、それでいてどこか懐かしいような視線に戸惑い、一刀の後ろに隠れてしまうレン。
「そうだな。
…ほら、上がってきなさい。今日からここは君の家…俺たちは家族だ。」
玄が差し出す手を見て、一刀を見て、夕陽を見る。そして再びその手を見ると、おずおずと手を伸ばした。
「私は夕陽よ。今日からさっそく“お母さん”って呼んでね!」
「俺は玄だ。まあなんだ…君の父親だ。」
伸ばした手を二人に取られると、そのまま強く抱きしめられるレン。ところがその瞬間、バッと距離を取ったかと思うと顔を片手でゴシゴシ拭いながら慌てたように一刀にしがみついた。
「ど、どうしたの?」
「…レン?」
「目が、へん!鼻が、ちくちく、した!」
それを聞くと、皆が笑った。それは涙って言うんだよ、と。
レンは自分が涙を流すことなんて記憶になく、それどころかここまで感情を揺さぶられた経験が少ない。だからそんな自分を襲った可笑しな現象に驚いたのだ。
「それじゃ、晩御飯にしましょ?月ちゃん、お皿を配るの手伝ってね?」
「へぅ!」
こうして、新たな家族を迎えた最初の団欒が始まった。その時も目が変になったとレンは騒いだが、夕陽と玄は温かい目でそれを見ていたのだった。
翌朝、いつもより一つ多い布団が敷かれた寝室に朝が訪れた。最初は背中がふかふかで驚いたレンだったが、ちゃんと寝付けたようだ。みんなと一緒に顔を洗い、朝ごはんを食べ、歯を磨く。レンにとっては新鮮すぎる朝の光景だった。
そうして午前はのんびり過ごすと、馬の嘶く声が聞こえてきた。馬一家の到着だ。翠らに会えるのを楽しみにしていた一刀は玄関に走った。
「おっす坊主、元気にしてたか~?」
「一刀さん、ひっさしぶり~!」
「蘭さん!たんぽぽ!」
およそ五ヶ月ぶりの再会。蘭はまだ小さい蒼と鶸を抱えて馬に乗っていたようで、疲れた肩をほぐすようにぐるぐると回している。たんぽぽは相変わらず元気で、馬から飛び降りると一目散に駆けて一刀にとびついた。
「ほら、お姉さま!」
そして問題は翠。会ったらまずこうしようとしていたことが一目見ただけで全て吹っ飛んでしまったようで、片足のつま先で地面に字を書くようにしながら俯いていた。一刀が近付いて真正面に立っても、目が泳いでなかなか目を合わせられずにいる。
「翠、久しぶり!」
「あ、えっと…その…」
目を合わせてくれず、それどころか返事をしようとしない翠を不思議に思ったのか、一刀は首をかしげる。そんな時だ、久しぶりに顔を合わせた時のレンの行動を思い出した。たしかレンは仲の良い友達とはこうすると言っていた。
「ぺろ」
「Δ×ω〇Σμ▼?!!!」
慣れていないので軽くだった故に、翠は口づけをされたと思い一瞬で耳まで真っ赤に染まり頭から湯気を吹き出した。
「お、お、おま、お前、今…?!」
「ただいま、翠!」
「…くち、くち…!………きゅぅ~」
そうして、沸点を大きく超えた翠はへたり込むのだった。
今回もお付き合いありがとうございます!今回は恋パートでした。次回は翠が…?お楽しみに!
それでは皆さんのご感想お待ちしております!