恋姫†無双/外伝 ~天の子~   作:でるもんてくえすと

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目指せ定位置!

一刀が私塾へ戻ってから数日、玄は頭を悩ませていた。悩みの種は一刀を手元から失った夕陽の嘆き…ではなく、レンの事だった。数日観察してわかったのだが、彼女の運動能力は並ではない。いや、敢えてこういう言い方をすると、規格外なのだ。ただ腕力が強い、体力がある、跳躍力が良いという程度ではない。全てにおいて人のそれを凌駕している。

 

「もきゅもきゅ…」

 

こうして肉まんを頬張る姿からは想像もつかないが、とにかく天賦の才だけでは言い表せない凄さがある。ある時、一刀と同じように稽古をつけようと木刀を持たせて打ち込みをさせたが一合打ち合っただけで異常さを痛感した。

 

「化け物だなこりゃ。」

 

とは、玄から話を聞いて指南役を買って出た蘭のセリフである。

ここで玄はいくつかの選択肢を思い浮かべた。一つは、蘭の騎馬隊に預けること。しかしこれは自分たち家族から離れてしまうからレンにとっては良くないだろう。そして何より夕陽が嫌がる。

もう一つが自らが率いる警備隊に入れること。これならば家族のそばを離れないし、自らの手で育てられる。ただこの場合問題なのは、自分では教えられることが限られてくることだった。

そして最後、蘭と共通の知人である韓遂の道場に通わせること。これならばここからそう遠くなく、距離も無理はない。若く活きが良い門下生も多いと聞く。唯一の問題は彼女が相当変わり者ということだけだ。

涼州騎馬連合きっての才女ではあるのだが、正直者過ぎて朝廷から追い出された経歴を持つ。

曰く、

 

「天子がその調子では漢は転覆する。」

 

こう真正面から言い放ったのだから追放もやむを得ない。性格は実直で一本気なのだが、気に入らないことは歯に衣どころかオリハルコン装備で噛みつくから十常侍にとって邪魔以外になかった。涼州に戻ってきた彼女は騎馬連合の参謀を務める傍ら、強く正しい若者をと武威の近隣で道場を開いている。

 

「夕陽に相談してみるか。」

 

そう独り言ちて、玄は見回りを再開するのだった。

ところ変わって水鏡塾。そこでは二学期初日にひと騒動が起こっていた。その発端は他でもない、李儒だ。教室に入って早々、自慢げに一刀の真名を呼んで会話して皆を驚愕させた。

 

「ねぇ一刀~?」

「どうしたの玲?」

「ん~、呼んでみただけ~」

 

この調子で、真名を呼んでは呼ばれ、ただそれだけをひたすら楽しんでいた。男子(と皆は思っている)だからと一時は落ち着いたのだが、内心メラメラモヤモヤした者が居ることに念氣が使える李儒だけは気付いている。

その筆頭は孫権だった。因みに孫権は帰郷の時に母を問い詰めたが、結局婚約の話ははぐらかされてしまっていた。

 

「…ふんっ、真名が何よ。私だってあの話が本当ならそのうち…で、でも本当なのよね…?べ、別に本当であってほしいなんて思ってないけど…うぅ~、この気持ちは何なのよもうっ!せめて席が近ければもっと話したりして確かめられるのに…!」

 

ブツブツ呟く孫権だったが、そんな姿を曹操がニヤニヤ見つめていることなど知る由もなかった。

ところが、その好機はすぐに訪れた。

 

「それでは、新学期も始まったことですので今日は席替えをしたいと思います!」

 

教卓に立った皇甫嵩が宣言すると教室が沸いた。因みに今の席順は以下の通りだ。…席番のみの箇所は察して頂きたい。

 

      教卓

㊱公孫瓚  ㉖㉑  郭汜⑪  ⑥①

劉備㉜  関羽㉒   ⑰⑫  ⑦②

㊳㉝    ㉘㉓  趙雲張郃 ⑧孫権

牛輔㉞   ㉙李傕  ⑲⑭  ⑨④

董白李儒  ㉚㉕  曹操⑮  ⑩⑤

 

「それじゃ、男子から先にクジを引いてくださいね~!」

 

その合図で順番にクジを引いていく。

 

「一刀の隣一刀の隣一刀の隣一刀の隣一刀の隣一刀の隣一刀の隣…」

 

呪詛を唱えながら李儒が引き、続いて一刀の番。一刀が引いた番号は四十、つまり今と変わらない場所だった。ちなみに、李儒は見事一番を引いている。一刀の番号を見ると地面に両手をつきまさにこんな→orz姿。

男子が引き終わると次は女子の番だ。

 

「三十五をひくのよ私…天運を導くのは今この時をもって他に…ないっ!!」

 

手元の番号は六番だった。李儒と同じように崩れ落ちる孫権。

その後も順々に引いていき、教室を喜怒哀楽が包む。そしてついに…

 

「おや、三十五だ。」

 

その番号を手にしたのは公孫瓚と同郷で仲の良い趙雲だった。兵学科のため一刀とはあまり接点はなかったが、いつも飄々としていてそのかっこよさから女子から人気の高い生徒だ。文武において成績優秀だが、特に武においては同学年の関羽に引けを取らない実力者であり、その点からも羨望を集めている。

 

「アタシは三十九ね。」

 

ひらひらと揺らしながら紙を手にするのは張郃。彼女は侍従科であり、同年代とは思えないほど色っぽい肢体の持ち主で、紫が入った艶やかな髪としっかり目の化粧が特徴的。実はこの女子生徒、李儒が最も警戒を強める人間だった。李儒曰く、一刀を見る目が怪しいとのことだが実際のところはわからない。ともかくその容姿から男子からの好意を惹きやすいのは確かであり、男子生徒のみならずあらゆる男性から好意を向けられている。

 

「…ふ~ん、董白くんの前か…これは面白くなりそう!」

「張郃殿、ほどほどにな。」

「あらどうして?」

 

聞き返すと、趙雲はある方向へ顎をしゃくる。そこには…

 

「「あ゛ぁ~…」」

 

魂の抜けたような顔で張郃と趙雲の持つ紙を見つめる二人の姿があった。言わずもがな、席を移動し終えた李儒と孫権だ。因みに、席替えを終えた席順は以下のようになった。

 

        教卓

郭汜㉛  ㉖㉑   ⑯⑪  孫権李儒

㊲㉜   ㉗㉒   ⑰⑫  牛輔②

㊳㉝  公孫瓚劉備 ⑱⑬   ⑧③

張郃㉞  ㉙㉔   ⑲⑭   ⑨④

董白趙雲 ㉚㉕  李傕⑮  関羽曹操

 

遠くから眺める二人の少女を見ると、張郃は笑みを浮かべ自慢げに紙を掲げるとその豊満な胸に挟めて一刀に向き直る。そしてその胸ごと強調するように少し屈んで、「よろしくね、董白くん♪」と声をかけた。

 

「うん、よろしくね!」

「…んっと…アハハ~、君は相変わらずね…」

 

特にブランド志向の強い張郃は、女子生徒から人気のある男子を手に入れることに無上の喜びを感じる人間だった。そこで董白に目を付け時折こうして試みていたが、いつもこうしてさわやかな笑みで返され逆に戸惑うばかり。容姿には絶対の自信があるし、これまでこうして何人も恋に落としてきた張郃にとって、こんなある意味での無関心は初めての事だった。その上、常に李儒の目が光っているものだから隙をつくのも容易ではない。

 

「「あ゛ぁぁぁぁー…!!」」

「先生!!命の危機があるので席を変えてもらえ…って孫権、剣刺さってるゥー!良い子は絶対真似しちゃいけないことになってるゥー!」

 

むしろ違う意味で痛手を負っていたのは遠くの席の三人だった。死んだような目で牛輔に刃を向けひたすら刺しまくっているようだ。皇甫嵩は自分の手に余ると感じてか、見て見ぬふりを決め込んだ。

 

「うんうん、みんな仲良くて結構!」

「一瞬チラッとこっち見たよね?!間違いなく惨劇起こってるよね?!」

「それじゃあ、二学期も始まったことですし今学期の行事を説明するわね~!」

「ちょっとは人の話聞かんかい!!」

 

完璧に無視を決め込んだ皇甫嵩は続ける。なぜなら孫権から溢れ出る闘気が江東の虎にそっくりだったからだ。アレに触れてはならないと、皇甫嵩のゴーストがささやいている。

それはさておき、行事についての説明。二学期は行事が多く、中でも秋に行われる運動会は目玉だった。王学科の生徒が率いる軍団に分かれ、あらゆる種目をこなし頂点を目指す言わば模擬戦のような催しだ。どの軍団に入るかは生徒次第で、王学科の生徒にとっては求心力が試される。そしてその中で必ず行われる『私塾一武道会』と『侍従科選手権』は特に異様な熱気に包まれる。参加者にとっては、うまく行けば観戦に来る父兄や豪族に名が売れて就職が有利になるし、何より誉れでもある。

だがこれには他の特典があり、兵学科であれば優勝者は洛陽で開かれる『天下一武道会』への参加権を得られ、侍従科にとっては原則的に王学科の生徒であれば専属の侍従となれる特権がある。因みに、王学科の誰も現在は専属が居ない理由は、入学以来三年連続で四年生の孫乾が連覇しており、その孫乾も希望しなかったためだ。ところが今年はその最強すぎる侍女が不参加を表明したため、今が好機という機運が高まっていた。

 

「…専属の、侍従者!」

 

李儒は今の今まで忘れていた。なぜなら去年は初戦で孫乾と当たってしまい敗退となったため印象が薄かったのだろう。しかし今年は違う。何より確固たる目標がある。

 

「優勝すれば一刀の…!」

 

今この瞬間、李儒は優勝へ向け猛特訓を決意するのだった。




今後ともお付き合いいただきありがとうございます!新キャラが三人ほど出ました。とりあえず私塾の方は、現在のところ通っている主要なキャラは全員出揃ったと思います。後日どこかでステータス等をまとめたキャラ紹介をアップしますので、そちらもご参考にお楽しみください。
それでは、皆様のご感想お待ちしております!
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