恋姫†無双/外伝 ~天の子~   作:でるもんてくえすと

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李儒はゆずれない

運動会が近くなるにつれ、水鏡塾はその活気を増していた。各軍の積極的なスカウティングにより組み分けもほぼ終わり、その情勢も明確になってくる。

まず、豪族の子息女が多いこの私塾においてやはり袁家の影響力は凄まじく、全学年百六十名に対し四十名もの生徒が参戦する袁紹軍。そして普段から付き従う親族はいずれも能力が高く、まさに精鋭といった曹操軍。この二つは優勝候補と目されていた。そして自身の姉妹と軍を別つ孫家は妹孫権がやや押され加減で、苦しい立場になっているようだ。劉備軍はトップの劉備がその広い交友関係で人数、質ともに良好で大会の大穴を開けるのではと専らの噂だ。

しかしここで問題なのは董白軍だった。李儒をはじめとした涼州出身で仲の良い連中と、『董白くんを見守る会』会員の数名が参戦し軍としての体裁は整ったものの、やはり入塾して半年ほどの一刀にとっては顔の広さがモノを言うスカウティングは苦戦を強いられていた。

 

「悪ぃ董白、入ってやりたいのは山々なんだけど…親の都合で、な。ほんとスマン!」

 

「董白くんの頼みなら聞いてあげたいけど、ごめんね?どうしても袁紹さんのところじゃなきゃ駄目みたいなの…」

 

「ごっめ~ん!親が曹操さんのところで務めててさ~…他の事なら何でもするから!本当に何でも、ね?本っ当~に、何でもするから…ちょっ李儒くん何を」

 

声をかけるとみんな話は聞いてくれるものの、親同士の繋がりなどには勝てず。結局、全軍最少の十五名に留まってしまった。

 

「はぁ~…」

「もうっ、元気出してよ一刀!僕らが居るじゃん!」

「そうだぞ。そう気を落とすな。」

 

珍しく落ち込んだ様子の一刀に寄り添う涼州出身の仲間たち。だが一刀にとっては負けることによりも、それで皆の将来が左右されてしまうかもしれないことが気がかりだった。もちろん負けるのは嫌いだし、負けと決まったわけではないが、幸先は良いとは言えない現状にため息をつく。

しかしそんな時、一人の少女が近寄ってきた。

 

「董白様、こちらにいらっしゃいましたか。」

「あなたは…孫乾さん?」

 

いつものようにメイド服を着て背筋を伸ばした孫乾が、学食で机を囲んだ一刀らのもとへやってきたのだ。

 

「早速ではございますが、私を董白様の軍に加えてくださりませんか?」

 

聞き耳を立てていた食堂の全員を驚きが包む。侍従の種目では負けなしの最強すぎる侍女こと孫乾が参戦を求めてきたのだからそれも仕方がないだろう。驚いたのは一刀らも同じだった。

 

「ほ、本当に?!本当に入ってくれるんですか?!」

「はい、宜しければ。」

「ぜひお願いします!でも、どうしてですか?孫乾さんならたくさんお誘いがあると思うのですが…」

 

嬉しいのはもちろんだったが、一刀が気になったのはその理由だ。侍従科選手権には不出場とはいえ引く手あまたであろうことは想像に難しくない孫乾が、なぜ最下位候補である董白軍に加わりたがるのか、それが疑問だった。

 

「董白様のことが気になっていましたから。」

 

それはまごう事なき本心だった。一刀が入塾した日、孫乾は彼に何かを見、感じ取ったのだ。それは水鏡も同じであり、それ以来、水鏡の命で彼を影で観察するようになった。

見ていると面白い、そして何より彼には二心が無い。楽しいときは笑い、悲しいときは悲しむ。それがどれだけ難しいことか彼女はよく知っている。だからこそ気になったのだ。彼女はこの機に董白というその人を近くで見てみたいと思った。

突然の爆弾宣言に食堂が今度は阿鼻叫喚に包まれる。

 

「私の董白くんが…!」

「あ、あの氷の女王が?!こうしちゃ居られねぇ!」

 

反応は様々だったが、中でも李儒に与えた打撃は相当なものだった。

 

「き、き、気になってるって…?!気になってるってどういうこと?!ねぇどういうこと?!」

 

念氣を使えば簡単なのだが、怖くてそれさえできずに牛輔の胸倉をつかんでガクガク揺らす李儒。

 

「俺に聞かないで本人に聞けよ?!」

「違うよね?!そういう意味じゃないよね?!」

 

半狂乱になって取り乱す李儒にされるがままになっている牛輔だったが、当の一刀は意味が分からなかったようで首をかしげる。その反応を見てクスリと薄く微笑むと、孫乾は「それではよろしくお願いいたします」と一度丁寧に頭を下げ学食を後にするのだった。

こうして、運動会の組み分けが大方出揃った。やはり勝ち馬に乗りたい生徒たちから袁紹軍の人気は高く、多くの生徒が集まる。張郃も袁紹軍に入ろうと考えていたが、先日の一件により良いからかい相手とみて孫権軍に参戦を決めたようだ。

大まかな組み分けは以下の通りとなった。

 

◇袁紹軍 四十名

主な将:田豊、顔良、文醜

 

◇曹操軍 二十八名

主な将:夏侯惇、夏侯淵、曹仁、曹純、曹洪、陳登

 

◇孫策軍 二十五名

主な将:周瑜、太史慈

 

◇孫権軍 二十一名

主な将:張郃

 

◇劉備軍 二十八名

主な将:関羽、公孫瓚、趙雲

 

◇董白軍 十六名

主な将:李儒、牛輔、李傕、郭汜、孫乾

 

この大会を制するのはどの軍か、一足早い群雄割拠が巻き起ころうとしていた。

 

 

~~~

another story 玲

『そこはゆずれない!』

 

去年行われた侍従科選手権は、正直よく覚えていない。というより、よくわからないまま終わってしまったと言ってもいいかもしれない。

あのころの僕は目についてしまう色が気になって、とてもじゃないけど行事を楽しむ気になれなかった。初戦の料理対決で当たった孫乾さんは、それはもう鮮やかな手つきで美味しそうな料理をいくつも作り、僕と言えば普通の炒飯をやっと作れただけ。実食するまでもなく惨敗だった。でもその時はこれで部屋に帰れると喜んでいたんだ。

 

「今年は…」

 

絶対に優勝する!だって優勝したら一刀の専属になれるんだから!

 

「よし、やるぞ~!」

 

寮にある食堂の厨房で先日からこっそり始めた特訓のために、ビシッと前掛けをつける。でもなんで僕はこんなに頑張っているんだろう?一刀とはいつも一緒にいるし、真名も交換し合って既にかなり仲がいいのは確かだ。だからわざわざ専属なんかにならなくても…。

 

『董白様のことが気になっていましたから。』

「っ…!」

 

孫乾さんのあの言葉が頭をよぎってズキリと胸が痛む。また、この感じだ。

近頃こういうことがあると決まって僕の胸は酷く痛くなる。自分でも制御できない焦燥感に駆られて我を失ってしまうんだ。

 

『董白様のことが気になっていましたから。』

 

あれはどういう意味だったんだろう。やっぱりそういう意味だったんだろうか。だからと言って気にする必要は全くないはずなのに、何でこうまで複雑な気持ちになるんだろう。

呂布と出会ったときも、幼馴染の話を聞いているときも、孫権さんと彼が仲良く話しているときも、僕は決まってこうだ。本当にどうしてしまったんだろう。

 

「浮かない顔ですね。」

 

突然、背後から声をかけられる。そこに立っていたのは孫乾さんだった。

 

「えっ?!ちょ、ど、どうして?!ここは男子寮ですよ?!」

「忍び込みました。」

 

あっけらかんと言い放つ彼女に、唖然としてしまった。

 

「では私もこう言いましょうか。どうして?ここは男子寮ですよ?」

 

息をのむ。

 

「どうしてわかった…などの確認は不要です。そして心配も無用です。口外する気はございませんから。」

 

念氣を使って探っても、それが本心であることはわかるが不気味なまでに相手の意図が読めない。

 

「近頃李儒の左手には料理人がよく作るマメができていましたから、練習しているのだろうと思いこちらに伺いました。しかしどうやらあまり捗っていないようですね。」

「う…」

 

その通りだった。だってさっきみたいにどうしても一刀のことが頭をよぎってイマイチ集中できないから…。こんなことではいけないと気を張ってみても、それは変わらなかった。それに、いくら作り方通りに作っても、なんだか物足りなさが残る。ちゃんと計って入れてるのに、美味しいとは感じられなかった。

 

「では私から少し助言を…」

「助言?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()に作ってみてはいかがでしょうか?」

「なっ?!ど、どどど、どうして一刀が?!」

「だって、お好きなのでしょう?」

 

---好き。

幾度も自分の心の中で反芻してみては、違う、違う、と思っていた感情。こんな気持ちは一刀の一言で舞い上がって勘違いしただけで、男として育った僕が男の子に恋なんかしているはずがない。だってそれじゃあまさに変態のそれだ。

 

「べ、別に…好きとかそういうんじゃ…。」

「ふむ…」

 

孫乾さんは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「因みに…専属になれば×××(ピー)▲▲▲(ピー)して◇◇◇(ピー)なこともできるかもしれませんね。もしくは★★★(ピー)なども…」

「…!!」

 

えっ?!か、一刀とそんなことを…?!しかも★★★(ピー)なんて凄いのを…!でも一刀が相手ならそれも悪くないというか、むしろアリ!!大いにアリ!!だって★★★(ピー)だよ★★★(ピー)?!ああでも◇◇◇(ピー)も捨てがたい…!!って違う違う!!

 

「そ、そそそ、そんなの、どどどどどどーってことないし…!」

「随分目が泳いでいらっしゃいますね?おまけに腰をクネクネされて…本当に興味ありませんか?」

「…ない。」

「でしたら、私が董白様の専属に立候補しても」

「それはダメ!!」

 

僕はつい大声を出してしまう。理由を促す孫乾さんに、何と言っていいかわからず頭を最稼働させる。

 

「えっと、その、一刀にそういうのは早すぎるっていうか、初めては譲れない…じゃなくて!えっと、えっとね?だから…!」

「殿方の初めてをいただくのは女の浪漫ですからね。」

「だから違うってば?!」

 

理由をいくつもあげようとするも、自分でもわかるほど支離滅裂。孫乾さんは見透かすように笑みを浮かべていて、もう恥ずかしくて声も小さくなってきてしまう。真っ赤な顔をなんとか誤魔化そうと俯き、手持無沙汰な両手の人差し指を突き合わせてそれでも何とか言葉にしようとしたが、どんどん泥沼にハマっていく気がした。

 

「あ、あの…どうして急に一刀のことを?」

 

なんとか冷静さを取り戻したのはそれから少し経ってからだった。そこで僕は彼女に気になったことを聞いてみた。僕が知る限り、一刀と孫乾さんが接しているところを見たことがない。なのになぜ今になって…。

 

「董白様とは入塾初日にお会いしてから観察していたのです。」

 

観察?それってどういうことだろう…。確かに見ているだけで癒されるし、可愛いなと思うこともって違う違う。でも袁紹さんのように遮二無二可愛がっている様子もないから意図が分からない。

 

「だから一刀の軍に…?」

 

すると薄く微笑み、

 

「あの方はああ見えて負けるのがお嫌いでしょう?」

 

と言った。確かに彼は負けず嫌いなところがあるけど、僕がした質問とは少しズレている気がする。運動会には侍従科の種目があるから孫乾さんが居ればそれだけ勝利には近付くけど、なぜだかそれだけとは思えなくて…。

 

「董白()()が負けて落ち込んでいるところを見たくありませんから。…そこを慰めて差し上げるのも一興ですが。」

 

怪しくふふっと笑って、孫乾さんは食堂を後にする。残された僕は茫然とするしかなかった。

だって侍従科以外の生徒には必ず様付けして呼んでいるのに、いま董白くんって…それに慰める?!慰めるってナニを…じゃなかった、どこを?!ってこれじゃ意味が変わらない!

 

「ひょっとしてあの人…」

 

新たな強敵出現の可能性に、僕は乾いた笑いを漏らしながら茫然とするのだった。

 




今回もお付き合いくださりありがとうございます!次回の舞台は道場に移ります。
それでは皆さんのご感想お待ちしております!
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