恋姫†無双/外伝 ~天の子~   作:でるもんてくえすと

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another story 月

『お兄ちゃん』

 

都の喧騒を、私は見下ろしている。

遠巻きに、あれは兄妹だろうか、活発そうな男の子に連れられた幼い少女の姿があった。女の子が転んだりはぐれたりしないように、その手はしっかりと握られているように見える。

 

「ふふっ」

 

なんだか懐かしくなって、私は笑みを漏らした。

きっとあの女の子にとってはあの手、あの背中が世界のすべてだろう。私がそうであるように。

 

「へぅ。わたし、おにいちゃんとけっこんするの!」

「あらあら…月、あなたは本当にお兄ちゃんが好きね。」

 

今思うと顔から火が出るほど恥ずかしい。実の兄に懸想してしまうなんてまるで変態のそれだ。きっとお兄ちゃんも気味悪がってたかな、なんて思って自己嫌悪。それでも、お兄ちゃんにぎゅっとされながら眠る夜は幸せだったし、つないだ手の温かさ、肩車されて見たワクワク。子供ながらに、ああ…私はこの人と両親のような関係になるんだ、なんて本気で思っていたのもまた事実。

私は人より寂しがり屋なのかもしれない。お兄ちゃんの姿が見えなくなっただけで泣いちゃったし、お兄ちゃんがお手伝いしてるのも構わずお膝の上に乗せてもらったりしていた。警備のお仕事にはついて行けなかったけど、その時は必ず詠ちゃんと一緒だった。

 

「お、お兄ちゃんはわたしの~!」

「ゆ、月ばっかりズルい!ぼ、ぼくだって…!うぅ~」

 

この頃から詠ちゃんは素直じゃなかったな~。詠ちゃんはお父さんがいなくて一人っ子だったから、お母さんが仕事に行ってしまうと一人ぼっち。たまたま私のお母さんと詠ちゃんのお母さんが一緒の仕事だったから、お兄ちゃんが二人の面倒を見てくれていた。きっと詠ちゃんもあの頃から…絶対口に出して言いませんけどね、ふふっ。だって初めてお兄ちゃんのお膝の上に乗せてもらったとき、とても隠し切れないほど目が輝いてたもん。毎年夏祭りの時に書く願い事も、お兄ちゃんのことばっかり。…それは…私も人のことは言えないけど。

私も詠ちゃんも、私塾に行ってしまったお兄ちゃんに手紙を書くために一生懸命字のお勉強したな~。

 

「詠ちゃん、あかちゃんつくるってどうかくの?」

「月なにを書くつもりなの?!」

 

へぅ…恥ずかしい…。

と、とにかく、定期的に届くお手紙は今でも大切な宝物。詠ちゃんなんか表面に蝋を塗って全部大事に仕舞ってある。…本人はバレてないと思ってるけど。

夏と冬に休暇で帰ってくると、翠さん、たんぽぽさん、それに鶸ちゃんに蒼ちゃんとお兄ちゃんの奪い合いが恒例行事。その度、お兄ちゃんがどんどん“男の人”って感じになって凄くドキドキしてた。特に翠さんなんか最初の二、三日は目も合わせられなくてお兄ちゃんが「僕は嫌われたんじゃないか」なんて勘違いしちゃうのも毎年のことだった。だって翠さんったらお手紙の返事を丸々一年も悩んで、結局帰ってきたお兄ちゃんに手渡しになるんだもん。なんだか恋文を渡すみたいでそっちの方が恥ずかしい気がします。

詠ちゃんは褒められるのが大好きで、「この本を読めるようになった!」「こんなことを出来ます!」とか必死に訴えて遠回しなおねだり。たんぽぽさんも悪戯っぽくオトナな感じで誘ってた。鶸ちゃんはお兄ちゃんにおんぶされながら寝るのが大好きで、蒼ちゃんはいつもお馬さんごっこをねだってた。

私は…いつもわがままを言って困らせてばかりだったな…。

 

「やだっ!お兄ちゃんとお風呂入るのっ!」

 

 

「…へぅ~、お兄ちゃんと一緒のお布団で寝る~zzz」

 

 

「お兄ちゃん!」「お兄ちゃん?」「お兄ちゃ~ん」「お兄ちゃんっ」

 

…へぅ~…

 

 

another story 月

 

『お兄ちゃん』END

 

~~~

 

another story 詠

『兄さんの字』

 

夜、仕事を終えて部屋に帰ると、ぼふっと布団に突っ伏す。毎日の仕事に神経がすり減っていくのを感じる。

あっちを見てはこっちが立たずの繰り返し。だからって弱音を吐いたりしてはいられない。ボクが頑張らないと、月を助けてあげられないもの。気をしっかり持たなきゃ!

そんな時は、そっと洋服箪笥に近付く。右を見て、左を見て、後ろを見て…よし。自分の部屋だからそこまで気にすることもないけど、念のため。

箪笥の奥、洋服に隠れた木箱の…さらに二重底の下。こっそりとっておいた兄さんからの手紙。こうして一枚一枚蝋を塗って保存してあるのは、誰も知らないボクだけの秘密。これを眺めるのがボクの日課であり癒しの時間だ。

 

「くふっ…」

 

…少しだらしない顔になっても、ここにはボクしかいないから大丈夫。

蝋のわずかな明かりに照らされて文字が浮かぶのに合わせて、思い出も鮮明によみがえる。まあ、こんなことしてるからどんどん目が悪くなっているのだけど、これだけは止められない。

 

「むっ」

 

時折、同じ私塾の…多分女の子の名前が出てくるところは飛ばす。「詠に会いたいな」とかそういう部分を重点的に…。

あ゛~…兄さんの手紙キメるの気持ちいい~…っていけないいけない!これじゃただの変態よ!でも今日は頑張ったし少しだけ…いやダメダメ!!昨日シたばかりでしょ!!ん、でも少しだけなら…

 

 

「…ふぅ」

 

ボクにとって、血の繋がりのないあの人。父代わりのようで兄のようで…いつからかあの人を“兄さん”と呼ぶようになった。自分のことを“ボク”と言ってしまうのも、きっとあの人の影響だ。

頑張ると褒めてくれて、ボクはいつもそれが欲しくて必死だった。そして夏と冬に私塾から帰ってくるたびに、“好きの意味”が変わっていったのを覚えている。意味が変わると、あとは溢れ出す一方。子供のころは、よく月と取り合いをしたっけ。結局いつも月は右、ボクは左の膝の上におさまった。兄さんはいつも困ったように笑いながら、そうしてボクたちを包んでくれていた。

 

ひらり

 

一枚の手紙が、手元から零れ落ちた。

この手紙だけは蝋が塗られていない。…これは、ボクが書いた手紙だから。これだけは自分の手で渡そうと書いた、一枚の恋文。あの人が卒業して帰ってきたときに渡そうと思っていたもの。どうしてそれがまだ手元にあるのかは、察してほしい。

ため息を、ひとつ。

これを渡せていたら…。

 

「どう、なってたんだろう。」

 

もしかしたら…こ、恋人同士になって…その…ごにょごにょ、とか、ごにょごにょ…してたのかな。それとももっと…?!

うぅ…まただ。ダメなのに想像で二回戦。

 

 

「…ふぅ」

 

こうして、兄さんの字に包まれて私は眠る。

明日も…頑張るぞ…zzz

 

 

another story 詠

 

『兄さんの字』END

 

~~~




今回も読んでくれてありがとうございます!次回は一刀が私塾へ入学するところから始まります!
それでは皆さんのアドバイスやご感想お待ちしております!
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