恋姫†無双/外伝 ~天の子~   作:でるもんてくえすと

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拉致と陰謀

「馬超ちゃ~ん、今晩あたり飯でも行こうよ~!」

「うっさい!どっかいけ!」

 

金城で行われた騎馬隊の定例会議。そこではいつものように翠に声をかけては邪険にされる龐徳の姿があった。この男、なかなかめげないタイプだ。最後には蹴り飛ばされて終わるのだが、それはこの日も同じようだ。

 

「ふふふっ、龐徳さまは面白い方ですね。」

「…そうね。」

 

その姿を微笑みながら見つめているのは張繍。警備隊の天水地区を新たに任されることとなった彼女は、この日は何故か金城に視察へ訪れていた。

 

「…。」

 

韓遂はそんな彼女に警戒心をあらわにする。

 

「…韓遂さま、そう警戒しないでくださいまし。私はしがない代官ですから。」

 

その言葉が嘘であることくらいは分かる。韓遂は既に絆されてしまっている警備隊の連中とは違い、独自の情報網をもって彼女を調べ上げたのだ。

調べでは涼州出身であること、そして都にて尚書令を務めていたことは本当のようだ。しかしこちらへ転属してきた理由までは探れなかった。とてもじゃないが体が弱いなどという理由を鵜呑みにするわけにはいかない。あの女には必ず裏がある。

 

「おう李、おめぇあの女から目ぇ離すなよ。」

 

馬騰の野生の勘はよく当たる。珍しく真名で呼んだ彼女がそう言うだけでも警戒を強める理由になるのだ。

 

「勿論好きにはさせないわ。」

 

韓遂は僅かだが自由にできる手勢を持っている。今は出来うる限り敵情を知り、いずれ来るであろう混乱に備えることとするのだった。

一方その頃、ある女が涼州の西方へと赴いていた。そこは羌族が住まう漢から言わば異民の地。普段から漢との領土争いに熱を帯びる敵地だ。自らを鄒と名乗るその女は、帯刀すらせずに族長との面会を迫り、半ば捕らえられるようにして謁見の間へと通された。

 

「…女、漢の雌が何用か。」

 

低く響く声が女に突き刺さる。勇猛な羌賊を一人で束ねるその男の威圧は凄まじく、なるほど涼州の騎馬民族と言えど苦戦するわけだと鄒は思った。この世界では珍しく男が長である事にも納得せざるを得ないほどの器だ。

 

「私めは言伝と提案に参りました。どうかお聞き届けくださりませんか?」

 

鄒は恭しく首を垂れた。

これまで漢の人間からこうも低頭にされた記憶のない族長はそんな様子に興味を持ったのか、先を促す。

 

「私めの主よりの言伝は一つ。こちらの合図に乗じて決起せよとのお達しです。」

 

族長は見え見えの罠だと鼻で笑う。

 

「ここからは提案です。こちらを承諾していただければ、向こう十年の食事情は私どもが支援いたします。決起の際の軍馬も武具もこちらで用意いたしましょう。」

 

謁見の間に居た羌族たちは驚きを隠せない。羌族の食事情は芳しくなく、場所によっては飢餓もある。それを十年も工面するという。しかもそれだけでなく戦準備まで面倒を見るというのだ。

これには族長も顎髭を撫でながら考え込んだ。これが罠であるとしても、食事情が解決するのなら悪くない。罠であれば食い破れば済むことだ。しかしこれをただ鵜呑みにするだけにはいかない。それを示すために、いくつかの条件を出すことにした。

前金として食糧の提供や軍馬の手配など条件は多々あれど、要するに保証を寄こせという事だ。

 

「承知いたしました。」

 

女はそれすらもにこやかに飲んだ。族長は笑みを隠し切れない。漢の考えは読めないが、タダ同然で漢の地を蹂躙できるのだ。

 

「それと…保険というわけではありませぬが、私めを族長様の配下にお加えください。」

「ほう…漢の雌ともなればここではいい扱いは受けぬぞ?」

「構いませぬ。私は武の心得こそありませぬが、容姿には自信があるのですよ。」

 

鄒はしなを作るように妖艶にほほ笑む。

絶世の美女とも過言ではない女にそうも言われれば、男と言えど悪い気はしないのだろう。それを好き放題扱えるのであれば尚更、今までの鬱憤も晴らせるというものだ。

 

「漢の雌に閨など期待せぬが、そうまで言うのであれば壊れるまでこき使ってやろう。」

 

羌族の女たちは露骨に嫌な顔をしたが、鄒にとってはどうでも良い。むしろこの時点で彼女の思惑は全て成しえたと言える。あとは主上からの合図を待つ間耐えればいいだけの事。

柔らかな笑顔の下に隠されているものを羌族の者が気付くことはなかった。

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

「う~ん…何かしら…」

 

幽州は南皮。豪勢を極めた部屋の真ん中で、袁紹は頭をひねって歩き回っていた。そんな様子を卒業後は近衛兵の一員となった顔良らが首をかしげて見守っている。

いつもなら机にかじりついて政務二、手紙八の割合で励んでいるのだがこの日はずっとその調子なのだ。

 

「姫~、どうかしたんすか~?」

「いえ、なんだか胸騒ぎがして…もしかして一刀さんに何かあったのでは…?!こうしちゃいられませんわ!猪々子さん、馬を出して!」

「ちょ、ちょっと姫落ち着いて!」

 

こう見えて極稀に勘の鋭いところがある袁紹がそう言うのだから何か感じているのだろうとは思うが、ここから水鏡塾まではかなりの距離がある。道中の安全や宿の手配、旅支度などを考慮すると少なくとも馬を出しての一言で済む話ではないのだ。

 

「こうしている間にも一刀さんに何かあったらと思うと、わたくし居てもたってもいられませんわ!」

 

騒ぐ袁紹と宥める顔良らを横目に、田豊だけは全く別のことを考えていた。

それは先日の式典の事。河北の雄である袁紹の母、その娘である袁紹は卒業と同時にまだ下級なれど官位を賜った。式典は南皮で行われ、洛陽からの使者を招いたのだが気になることを話していたのだ。

 

『ところで…ここ幽州での話ではないのだが、近頃漢の転覆を企む輩がいると小耳にはさんでな。何か心当たりは?』

『なんですって?!それは一大事ですわ…!!』

『その様子だと知らぬようだな。何か気になることがあれば逐一報告を頼む。』

『ええ!もちろんですとも!この三公を輩出した名門袁家が必ずやお力になってみせますわ!!』

 

漢の転覆とは穏やかではない。しかし、そこまでの事を成せる勢力など知る限りでは一度官軍に討ち勝った涼州の騎馬連合や益州荊州に封ぜられている劉性の者たちくらい。前者は不戦の条約が結ばれておりその後の関係も良好と聞くし、後者はそもそも覇権争いなど考えもしない日和主義の者。では賊や異民族かとも考えるが、流石にそこまでの力は持っていないだろう。主の胸騒ぎと何か関係があるのだろうか…。田豊は幽州一とも評される頭を最稼働させて考え込むのだった。

 

「さあ、行きますわよ!」

「駄目ですってば姫!」

 

袁紹は戦準備さながらの甲冑を着込んで準備万端と言った様子だ。言い出したら聞かない性格だと知っている顔良らは諦めかけるが、そこへ袁紹の母が何の騒ぎかと顔を出した。なんとか止めてもらおうと事情を話すと…

 

「ぬぁんですってぇ?!未来の息子の危機?!こうしちゃ居られませんわ…!一個大隊で事に当たりなさい!」

「話す人間違えた?!」

 

ところ変わって水鏡塾は五年生の教室。そこでは鼻の下をだらしなく伸ばした牛輔が一刀の肩に顎を乗せてしなだれかかっていた。

 

「なあなあ一刀~、一年生の教室行こうぜ~。別に他意はないけどな。でもとりあえず行こうぜ~?」

「準、一年生に知り合いでもいるの?」

「馬鹿、それを作りに行くんだろ?友達は多いに越したことはない!そう思わんかねキミ!」

「なるほど…うん、いいよ!」

「良くない!!!」

「んだよ李儒!邪魔すんじゃねぇ!!」

 

言わずもがな、李儒の鍼によって串刺しにされるもこの頃になると既に耐性がついてビクともしない牛輔。驚くことにあまりに日常から攻撃にさらされ続けた彼はあらゆる毒や裂傷が効かなくなっていた。今も常人なら正気でいられない程に針鼠状態なのだがピンピンしているのだ。

 

「くっ…!こいつ…熊でも倒れる痺れ毒が効かないなんて…!」

「まず、だ…んなもん気安く人に使うんじゃねぇ!!」

 

またいつものように言い合いを続ける二人に、苦笑いの一刀。大抵はこんな隙にひっそりと孫権が一刀を連れ出してまたひと騒動へと繋がるのだが、この日は違った。

校庭の方へ目を向けると、孫権が数名の教師陣に連れられて校舎を出る様子が見えた。

 

「孫権さん、どうしたんだろ?」

 

ポツリと呟くと、そこへ珍しく息を切らした孫乾が訪れた。彼女は卒業後もここ水鏡塾に残り、私塾の侍従者として働いている。彼女にとってはここが最も経験が積める場なのだろう。

 

「…董白さま、少々よろしいでしょうか?」

「はい、どうしました?」

「実は…以前に孫権さまが何者かに拉致されそうになったのを覚えておいでですか?」

「それはもちろん。」

「先ほど、私塾内で不審な人影がいくつか発見されました。今は警戒線を引いて警護に当たっています。どうか皆様お一人での行動を控えてくださいませ。」

 

それだけを伝えると孫乾は足早に去っていく。きっと狙われそうな者たちに伝えに走ったのだろう。

話を聞いた牛輔らは咄嗟に一刀を囲むようにして陣形を作った。一刀からすれば見慣れない生徒もいたが、彼女らは見守る会の会員たちだ。

 

「えっと…僕は狙われないと思うんだけど…」

「馬鹿言え、お前は俺たち涼州組の大将だろ?」

「そうだよ!牛輔の命に代えてでも一刀だけは守るんだ!」

「オイ、そこはてめぇの命にしろや。」

「「「牛輔の命に代えてでも!」」」

「おめぇらは何なんだよ?!」

 

鍛えられすぎな会員たちを他所に、曹操の周りにも夏侯姉妹らが控え万全の体制を整えていた。そこにはもちろん曹純の“あなたを守り隊”が詰める。劉備の周りにも同様に関羽をはじめとした友人らが警戒に当たっているようだ。

まさにそんな時、窓から数名の女が乗り込んできた。黒ずくめのその女たちは手近な生徒を引っ張り込むと首筋に刃を突き立てた。

 

「子供たち、そう怖がることはない。」

「…怖がってはいないわよ。あなたたちの目的はなにかしら?」

 

教室を数度冷え込ませるほどの覇気が周囲を包む。曹操が冷ややかな目線を長と思わしき女に浴びせて対峙したのだ。

 

「さすがにここの生徒たちは威勢が良いわね。」

「隊長~、ここの坊やたち食べちゃってもいいかしら?」

「…後にしろ。」

 

遠くからも悲鳴が響くところを見ると他の教室にも同様に侵入者が居るのだろう。

創立からこうした事態は初めてのことで、少なくとも洛陽の目と鼻の先にあるこの私塾に賊が目をつけても旨味などは薄く、リスクを考えればそうそう起こりえないことだ。もちろん、孫家の姫である孫権を攫おうとしたりと身代金目当ての拉致は考えられるが、ここまで堂々侵入して何を得たいのかが分からなかった。ただ惨殺したい異常者ならこんなに悠長に話してはいないだろう。

 

「ここに劉性の者はいるかしら?」

 

若さ故か、反応してしまう生徒たち。関羽は薙刀を握り締めた。

 

「…ここが当たりね。」

 

女はニヤリと笑うと教室を見回した。

 

「さて、どの子が劉性の子かしら?」

 

警戒を強める関羽の後ろでは、劉備が微かに震えて身を縮めていた。どうしてこうなったのかも分からないのに、自らを探している暴力的な者たちが目の前に居るだけでもその恐怖は計り知れない。

 

「…出てこないのなら一人ずつ首を刎ねていくだけよ?こんな風に…」

「ひっ…!」

 

刃を当てられていた生徒に剣が振り下ろされる刹那、劉備が口をひらこうとした。

 

「わ、」

「僕が劉性です!」

「一刀?!」

 

あろうことか、彼女をかばう様に自分が劉性の者だと宣言し前に歩み出た一刀。“妹を守れるような強い人間になりたい”と願う一刀にとってはじっとして居られなかったのだろう。

賊らしき者たちは一斉に目を向けた。そして品定めするようにいやらしく観察する。

 

「…へ~、こいつは楽しめそうね。」

「おほっ、可愛い子じゃないすか!犯っちゃいましょうよ頭!」

「引っ込んでなさい!…私が先よ。」

 

賊たちはその言葉を聞いて歓喜した。つまりは後になってもこの少年と犯れるということだ。李儒はひっそりと鍼を手に取り牛輔らも前に出て守ろうとするも、手練れだと見て取れる彼女らに敵うかどうかは定かではない。特に頭と思われる女は只者じゃない氣を感じる。それが分かっているからこそ、腕自慢の生徒たちも手出しを躊躇っているのだ。

教室の端では劉備を護衛する関羽が悔しさを滲ませながら目で謝意を示す。

 

「でもおかしいわね。ここに通う劉性の者は随分甘ったれだと聞いていたのだけど…あなた本当に劉性?」

「はい。僕は劉…白です。」

 

こんな事態にもかかわらず、「お兄ちゃんができたみたい」と端に居る劉備はまんざらでもないような表情を一瞬浮かべたが、すぐに居住まいをただした。

 

「そう…、でもあなたしっかりしてそうじゃない。甘ったれには見えないわ。」

 

訝しむ女を見て、曹操は一刀にひっそりと耳打ちした。

 

(ほら、成り済ますなら真似くらいなさい!)

(あ!そうか!)

 

「え、えっと…ふ、ふぇぇ~、口に餡子ついちゃった~!拭いて~!」

「ぶっ…!!」「ぐはっ…!」

 

(あれ~私そんなんかな?!)

 

モノマネをされた劉備はあからさまにショックを受けるも、彼女を知っている者たちは肩を震わせて笑いをこらえているようだ。あの関羽までも顔の端が奇妙にヒクついている。

しかし甘えん坊バージョンの一刀がツボにハマったのか、李儒は鼻血を吹き出して口元を手で押さえていた。賊の女たちも胸を撃ち抜かれて無意識化に手ぬぐいを取り出して我先に彼の口を拭ってあげようとしている。

 

「ふ、ふむ…悪くない。どれ、私が拭いてやるからこっちに来なさい。あ、それと何か食べたいものあるかしら?それとも服でも仕立てて…」

「頭、何言ってんすか!…あっしも混ぜてください。」

 

恐るべきは一刀の女殺しか。あっという間に賊たちは骨抜きにされていた。話は変わるが、正史においても傾国の美女は何人も存在する。貂蝉然り‎妲己然り、いつの世も綺麗、可愛いは理性を狂わせる猛毒なのだ。かの正史における曹孟徳も幾人の女に溺れかけた。

閑話休題。

ひとまず頭を撫でたり膝枕したりで満足したのか妙にツヤツヤした女たちは咳ばらいをすると当初の任務に戻った。ニヤケ顔が治っていないのは致し方ないだろう。

 

「この少年は貰っていく。あとは貴様らに用はない。死にたくなければ大人しくしていることだな。」

「彼をどうする気?」

 

先ほどの感じを見ると殺すことはないだろうが、何をされるかわかったものじゃない。曹操としても自らの認める男を易々とくれてやるつもりもなく、それは夏侯惇らも同じようで徹底抗戦する構えのようだ。

 

「皆、大丈夫!きっと話せばわかってくれると思うから!」

 

殺気立つ皆を心配してそう言う一刀だが、事はそれだけで済む話ではない。同じ学び舎で過ごす友人をみすみす連れ去られては彼女らの矜持が許さないのだ。

 

「私が居るこの私塾に手を出したのが間違いなのよ。誰に喧嘩を売ったのか…わからせてあげないとね。」

 

不敵に笑う曹操はゆらりと大鎌を手に取ると賊の眼前まで歩を進めた。その両脇には夏侯姉妹を始めとした兵学科の生徒たち。目の前の賊は決して雑兵ではない。それどころか歴戦の兵のように感じる。それでも彼女らの腕をもってすれば勝負になる。戦士の気配に賊たちは真剣な表情を取り戻し得物を握り締めた。

 

「…まだまだ餓鬼ね。なんの策もなしに飛び込んだと思ってるの?」

 

賊は一斉に頭巾を被ると、地面に何かを叩きつけた。その瞬間、教室を煙が包み視界が奪われた。

 

「煙幕?!」

「糞!!小癪な真似を…!!」

「春蘭、やめなさい!!」

 

こんな狭いところで視界も保てないまま彼女に剣を振るわれてはこちらの身も危うい。扉を開け放ち冷静に煙が薄まるのを待って、曹操は窓に駆け寄った。彼を背負っているのだからそう遠くには行けないはずと、目を凝らして辺りを見渡すとやはりそれはあった。少年一人を背負っているのだから当然色濃く足跡はつくし、それは注意深く見ればわかる。

 

「皆の者聞け!!今は慌てずに侍従科の者は直ちに他の教室を見て回って残党が居ないか、怪我人は出ていないかを調べなさい!軍学科の者は教師たちと連携を取って出来ることをなさい!兵学科の者は私と共に追撃に移るわよ!我らの学友を取り戻したくば冷静に事を運びなさい!」

「「はっ!!」」

 

流石に王学科で最優秀な成績を残す曹操。周囲にそつなく指示を飛ばすと、教室の混乱はピタリと治まる。他の教室に侵入した賊たちも一様に撤退したようで、数名の教師陣は対処に追われていた。

そして塾長室では頭を抱えた水鏡の姿があった。

 

「…やられたのう。」

 

孫家の姫を囮に使われ、各教室に一斉に飛び込む計画性の高さ。自身の部屋にもまた数名の賊が押し寄せた。この分だと職員室にも囮役が牽制のために飛び込んでいるだろう。しかしそうまでして何をもっていきたかったのか…。

 

「塾長…!ご無事で!」

「うむ、被害報告は如何ほどじゃ?」

「全貌は確認中ですが、五年生の董白が攫われたそうです!」

「なんじゃと?!」

 

こうして、私塾を挙げた一斉捜索が始まるのだった。

一方、一刀は縛られ担がれたまま、東の森へと連れ去られていた。百戦錬磨の教師陣指導による追撃部隊も迫ってきてはいるが、こうも鬱蒼とした森の中では捜索も困難を極める。ただ無事を祈って馬を駆る曹操らも焦りの色を浮かべていた。一刀の愛馬である白亜に跨る孫権もまた沈痛な面持ちだ。

 

「無事でいなさいよね…。」

 

一人呟く曹操。周りには夏侯姉妹をはじめとする兵学科の有志たちや一部の教師陣、そして李儒や孫権までも血眼になって痕跡を探っていた。ああいった連中に攫われた男子などどんな目に合っているか想像するだけで辛い。慰み者にされているか、悪ければ殺されているかもしれない。しかし彼女らもあきらめるわけにはいかないのだ。

 

「董白殿…!必ず助け出してみせます!」

 

劉備を庇って自ら歩み出た董白を思う関羽は悔しさをあらわにする。あの時、刺し違えてでもあのような連中を仕留めておくべきだった。連れ去られた後、劉備が泣きじゃくりながら助けてあげてと乞う姿が頭から離れない。

実際、頭と思われる女性を除けば何とか勝負にはなったはずなのだ。しかしあの女性の立ち振る舞いは並の相手ではない。だからこそ夏侯惇とて曹操のそばを離れようとしなかった。

すぐそばでは今にも死にそうなほど憔悴しきった李儒の姿。彼女もまた心から彼の無事を願う一人だ。専属従者にもかかわらずみすみす主を連れ去られてしまったのだからその心地は死んだ方がましだと言うほどに沈痛なものだった。

 

「一刀…ごめん、ごめんね…!」

 

もう何度目かもわからない謝罪の言葉を口にする李儒。

その頃一刀はと言うと…

 

「わ~!これも似合う~!」

「次!次はこれ着てっす!」

「うほっ、これはたまらん…!」

 

皆の心配も他所に着せ替えごっこの玩具にされていた。どこから取り出したのか医師のような白衣やら迷彩服やらを代わる代わる着せられては歓声を浴びるという、不思議な状況になっている。

 

「ほら、のど乾いたでしょ?お水飲みなさい。」

「あ!頭ずりぃ!それあっしがやりたいっす!」

「お待ちなさい!…今なら母乳出る気がするわ。ふん…!」

「息めば出るものじゃないからね?!」

 

虜囚どころか完全にちやほやされて、これではむしろどっちが虜か分からない状況だ。

 

「みんな男日照りだもんね…。ね、ね、次はこれ着てみてくれないかな?かな?」

 

五十人ばかりの隠密家業を生業とした、女だけで成り立っているこの謎の部隊にとって、若い男と触れ合えるまたとない機会なのだろう。完全に舞い上がっていた。

 

「それより、僕皆さんのことが知りたいです。どうしてこんなことをしたんですか?」

「「「う゛…」」」

 

一様に目をそらす女性たち。その中でひと際バツが悪そうに真っ赤な髪をぼりぼり掻きながら頭は話し出した。

 

「し、仕事なんだよ…。私らは傭兵やってるんだけどさ、ちょっと金に困って今回の話に飛びついたんだけど…。」

「仕事って?」

「…私塾に居る劉性の生徒を攫って、情報を引き出したら殺せって。なあ君、本当に帝を殺して自分が成り代わろうなんて考えてたんか?なんだかそんな大それたこと言いそうにないんだけど。」

「へ?み、帝を殺すって、そんな事考える子じゃ…じゃなかった、そんな事考えるわけないよ!」

「だよな~…完全に担がれたよな~私ら。」

「あの依頼者、やけに羽振り良かったっすもんね。あっしは怪しいと思ってたんすよ?」

「嘘こけ!目が金になって飛びついてたじゃねぇか!」

 

どうやらある依頼者によって事を起こしたようで、暗殺の嫌疑がかかる劉性の生徒を攫って来いとの依頼だったようだ。しかし攫ってみれば人違いではあるのだが、そもそもそんな事を考えもしなさそうな人畜無害な生徒が一人。

 

「あっしらは焔陣営っていう傭兵集団なんすよ。斥候、戦闘何でもござれの正義の味方!…だったんすけど」

「…どう考えてもこれ正義じゃないよな~…はぁ~」

「と言っても連れて帰らなきゃお金も貰えないし…」

「「「はぁ~…」」」

 

焔陣営と名乗った彼女らはため息をつくのだった。




今回もお付き合いくださりありがとうございます!
近頃更新ペースが落ちてきてしまってすみません。普段の仕事はスマホゲームやPCゲームなどにおけるシナリオライターをしているのですが、来年度に向けて駆け込みの依頼が増えてきてしまいました…。(特にスマホ許すまじ)
次回は焔陣営が…お楽しみに!
それでは皆さんのご意見ご感想お待ちしております!
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