恋姫†無双/外伝 ~天の子~   作:でるもんてくえすと

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出立

門出、晴天。

いよいよ、一刀が私塾へと出立する日。水鏡塾は洛陽から南に程なく行ったところにあり、武威からは馬で二日ちょっとの距離だ。

荷造りも終えいざ出発といったなか、家族、友人らも駆けつけて見送りに来ていた。大泣きしてしがみつく月の頭をなでて宥め、一人一人と言葉を交わす一刀だったがそろそろ潮時。見れば父である玄も必死に涙をこらえているようだった。そこで、夕陽が意味ありげにひとつ咳払いをした。

 

「…あなた?」

「っ、そ、そうだった!…一刀、ちょっと待て。」

「どうしたの、父さん。」

 

玄は指で輪を作り指笛を鳴らす。すると、一頭の芦毛馬が軽快に駆けてきた。

馬の首筋あたりを撫でながら玄が言う。

 

「この馬はまだ二歳くらいの子供だが大人しくて利発でな。名前は白亜…お前への餞別だ。」

「と、父さん…!い、いいのっ?!」

 

つい目を輝かせる一刀。いかに騎馬が豊富な涼州とはいえ、馬一頭というのはかなり高価だ。

白亜と呼ばれた馬は何を言われたのか分かっているかのように、一刀の元へ歩み寄って鼻を寄せた。一刀も嬉しそうに馬の首を抱く。

 

「聞くところによると、夏と冬にはまとまった休暇があるんだろ?そいつに乗っていけば二日そこらで着く。だから…顔くらいその度見せに来い。わかったか?」

「…うん!絶対に!」

 

真剣な顔でうなずくと、ゴツンと拳を合わせた。約束をするとき、二人は必ずこうしてきたから。

 

「それと…ほれ、俺のお古だが鍛え直しといた剣だ。まだ体の小さいお前でも取り回しやすいだろ。」

 

そう言って、鞘を腰紐に括り付けた。そしてバシッと気合を入れるように背中を叩き、「行ってこい!」と一声。

一刀は頷くと足元の荷物を肩にかけ、胸元できゅっと結ぶ。最後にみんなの顔を見渡し、

 

「…行ってきます!」

 

そう言ってついに背を向けた。

ところが…。

 

「っ…一刀!!」

「母さん?」

 

たまらず後ろから一刀を抱きしめる夕陽。一刀からは見えないが、目から大粒の涙がこぼれていた。

母に、どれほどの感情があるのだろう。医師からも匙を投げられるほど子に恵まれず、そこへ天より自らの元へ落ちてきてくれた大切な“我が子”。いつの間にか大きくなり、背丈ももう自分より大きくなった。可愛い子には旅をさせよというが、そこにどれだけ筆舌に尽くしがたい想いがあったのか。それでも、感じるのだ。親馬鹿でも構わない、この子はきっと占いの中の天の御使いなんかよりもっと凄いことを成し遂げると。だからこそ、きちんと学を修めさせようと。

どのくらいそうしていただろうか。母はすっと体を離して目をぬぐった。

 

「…行ってらしゃい。」

「うん!母さ…」

 

そこで言葉を切る。そして…

 

「…かか様、とと様…行ってきます!」

 

一刀は勢いよく白亜にまたがる。白亜は気持ちよさそうに一声嘶くと、駆けだした。

後ろからはみんなの声が聞こえる。重なりすぎて聞き取りにくいが、一刀はすべての声をしっかりと受け止められた。「好きだー!」は誰が言ったのかわからなかったが、きっとたんぽぽあたりのいつもの冗談かな?と苦笑する。…哀れなり錦馬超。

するとそこで、武威からとてつもない大きな音、戦場の喧騒かと違えるほどのたくさんの声が響いた。

一刀は何事かと馬を止め振り向く。そこには…

 

「董白~~~!!!達者でな~~~!!」

「いつでも帰ってくるんだよ~~~!!」

「今度は腹いっぱい肉まん食わしてやるからな~~~!!」

「天の子、董白ばんざ~~~い!!!」

 

町中の人が仕事を放り出して出てきているのだろう。街を囲う壁の外には人、人、人。

 

漢の中心、洛陽には天子様か居る。だからこそ、一刀がこの地に降りてきたとき、噂を聞きつけて官軍が洛陽から大挙した。一刀は知らされていないが、撃退した蘭をはじめとする騎馬連合や涼州の人々は、あれが討伐軍だと知っている。天の名を騙る不届きな輩、それが一刀。しかし、天から降りてきた彼がこの地に何をもたらしたのか、この地の発展を知る涼州の人々はわかっていた。できることなら祭り上げたいものだが、その点、夕陽らは強かだった。撃退ののち、それ故の警備隊。

天の子など知らぬ存ぜぬ。涼州の人々は皆が皆口をそろえた。一刀は、涼州全土に守られてきたのである。

そんなことを知る由もなく、ただ嬉しさのみで一刀はこの日初めて涙した。

 

「…て…きます。…行って、きます!!!」

 

馬上から大きく手を振る。そうして、歓声を背に一刀は一路洛陽へ向かったのだった。

 

「…行っちまったな。」

「ええ。」

 

頭をポリポリ掻きながら蘭は夕陽の方に手を置いた。

 

「あのガキ…んとにデカくなりやがって。」

「ほんとにねぇ。まだまだ子供だと思ってたのに…。」

 

夕陽はまだ泣き止まない月を抱き上げながら答える。

 

「さてと、そろそろアタイも旦那の仕事手伝うか。」

「え、あなた旦那いたの?」

「居たよ?!いなかったらこいつらどうやって生まれたんだよ?!」

「じゃあ今旦那さまはどこに?」

「ん?北方で異民族と(いくさ)中。」

「早く行ってあげなさい!!!」

 

こうして、一刀は武威を離れた。この先彼を待ち受けるのはどんな出会いなのか。

その行く先は誰も知らない。




今回もお付き合いいただきありがとうございます!次回、私塾入学まで行ければ…!長すぎて分割してしまったらすみません!
みなさんのご感想お待ちしております!
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